2025.04.11
マンションの大規模修繕工事におけるタイミングとは?周期や重要性を解説
マンションの快適な住環境を長期的に維持するためには、大規模修繕工事の実施が欠かせません。
しかし、修繕には高額な費用と長期的な計画が伴うため、タイミングを見極めることが重要です。
周期を誤ると建物の劣化が進行し、結果的にコストが増大するリスクがあります。
本記事では、大規模修繕工事が必要となる一般的な周期や、適切な実施時期の見極め方、さらに見逃せない修繕の重要性について詳しく解説していきます。
なぜマンションの大規模修繕のタイミングが重要なのか?
マンションは、私たちの暮らしを守る大切な住まいであると同時に、大切な資産でもあります。
しかし、建物は年月とともに必ず劣化していくものであり、その劣化を放置すれば資産価値の低下や居住者の生活に支障が生じるケースもあるでしょう。
また、マンションは経年劣化だけでなく、雨風に直接晒されるといった環境的な要因も劣化を加速させる原因につながります。
適切な時期に大規模修繕を実施することは、建物の寿命を延ばし、快適な住環境を維持するためにも不可欠です。
定期的な修繕は、マンションの資産価値を維持・向上させる上で非常に重要な役割を果たすでしょう。
大規模修繕のタイミングを見誤ることは、将来的に大きなトラブルや、より高額な修繕費用につながる可能性もあるため、適切な時期を見極めるための知識を身につけておくことが重要です。
大規模修繕とは?建物の劣化を防ぎ、資産価値を維持する重要な工事
大規模修繕とは、経年によって劣化したマンションの建物本体(躯体)や共用部分・設備に対して、定期的に行う修繕・改修工事のことです。
単に建物を維持するだけでなく、マンションの住宅としての暮らしやすさを守り、資産価値を維持・向上させるためにも行います。
普段実施することが難しい大がかりな工事であり、主に修繕工事と改修工事に分けられます。
修繕工事
修繕工事は、経年劣化や外的要因によって発生した不具合に対し、修理や部品の取り替えなどを行います。
本来の性能や、機能を回復させることを目的とした工事です。
改修工事
改修工事は、建物の性能を建築当初よりも向上させることを目的として行われます。
例えば、エントランスの改修でオートロックを設置したり、断熱性能の高い建材を使用したりするケースなどが該当します。
【大規模修繕の種類と内容】
- 外壁塗装工事…外壁の塗り替え、浮き・ひび割れの補修など
- 防水工事…屋上・バルコニーの防水層の更新
- シーリング工事…窓枠・外壁目地などのシーリング材の打ち替え
- 鉄部塗装工事…手すり・階段などの鉄部の錆止め・塗装
- タイル補修工事…剥離・浮きの補修・張り替え
- 給排水設備更新…給水管・排水管の更新、水回り設備の更新
- 共用設備改修…エレベーター・オートロック・防災設備など
- 外構・エントランス…エントランスホール・駐車場・駐輪場の改修
- 省エネ・バリアフリー…断熱性能向上・バリアフリー対応工事など
一般的なマンション大規模修繕の周期について
ここでは、マンション大規模修繕の周期について詳しく解説します。
多くの分譲マンションでは、12年ごとに大規模修繕を行う計画が一般的だとされています。
この12年という周期はあくまで目安であり、画一的な基準ではありません。
しかし、長年にわたる修繕事例や建築基準法の改正などによって、この周期が広まった背景があります。
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」でも、かつては竣工後12年での大規模修繕が例示されていましたが、近年では建物の多様性や劣化状況に応じた周期設定が推奨されています。
そのため、マンションによっては12年よりも短い周期で修繕が必要となる場合もあれば、15年や18年といった比較的長い周期で計画されるケースもあるでしょう。
築年数と大規模修繕のタイミング
新築マンションの場合、最初の長期修繕計画では約12年後に1回目の大規模修繕が行われることが多いです。
これは、建築基準法に基づく定期報告制度における外壁の全面打診調査の義務付けが、竣工または外壁改修後10年を経過してから最初の調査時に行われることと関連しています。
足場の設置が必要となる全面打診調査を、大規模修繕工事と同時に行うことでコスト効率を高めるという考え方があります。
一方、中古マンションの場合は、過去の修繕履歴や現在の劣化状況をより詳細に確認する必要があります。
以前の所有者や管理組合が適切な修繕を行ってこなかった場合、築年数の目安よりも早い段階で大規模な修繕が必要となることもあるでしょう。
また、1981年5月31日以前に竣工した旧耐震基準のマンションでは、耐震改修を大規模修繕のタイミングで検討する必要があるなど、新築マンションとは異なる考慮事項が存在します。
建物の種類と構造による周期の違い
分譲マンションの多くはRC(鉄筋コンクリート)造やSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造で建てられており、一般的な12年周期が目安となることが多いです。
しかし、木造や鉄骨造などの賃貸住宅の場合は、建物の構造や工法によって修繕サイクルが異なります。
例えば、木造アパートでは、5年ごとのベランダや廊下の鉄部塗装、10年ごとの外装・屋根の塗装・葺き替えが目安とされています。
RC造の高層マンションでは、給水ポンプや貯水槽・エレベーターなどの特別な共用設備があり、30年単位での更新時期を迎えると言われています。
このように、建物の種類や構造によって適切な修繕周期は異なるため、それぞれの建物に応じた長期修繕計画を策定することが重要です。
【建物構造別の修繕周期比較表】
構造種別 | 外壁塗装 | 屋上防水 | 給排水管 | 耐用年数 |
RC造(中低層) | 12~15年 | 12~15年 | 25~30年 | 60~65年 |
SRC造(高層) | 12~15年 | 12~15年 | 20~25年 | 65~70年 |
鉄骨造 | 7~10年 | 10~12年 | 20~25年 | 40~50年 |
木造 | 6~8年 | 10年 | 15~20年 | 30~35年 |
1回目の大規模修繕のタイミングと工事内容
新築マンションにおける1回目の大規模修繕は、一般的に築12年前後に行われることが多いです。
この時期は、外壁塗装の耐用年数(約10年)や屋上防水の耐用年数(約12年)が一つの目安となります。
マンションの規模にもよりますが、効率的に進行するために工事は並行して行われることも多く、全体の工期は一般的に3~6ヶ月程度です。
工事期間中は居住者の生活にさまざまな影響が出るため、事前の詳細な説明と定期的な進捗報告を行いましょう。
また、天候不順や想定外の劣化状況の発見などにより、工期が延長されることもあるため、余裕をもったスケジュール管理が必要です。
仮設工事
1回目の大規模修繕工事では、複数の工事項目が並行して進められ、足場や養生シート・工事用の電力・用水設備の設置などの仮設工事から始まります。
この工程は通常2~3週間ほどかかり、居住者にとっては日差しが遮られたり、プライバシーへの配慮が必要になったりする可能性があります。
下地補修工事
次に、外壁のひび割れや欠損部分の補修といった下地補修工事が行われます。
この工程にも2~3週間程度を要し、騒音が発生することもあるため注意が必要です。
コンクリートの状態によっては、補修範囲が予想より広がることもあるため、工期が延びる可能性もあります。
タイル補修工事
タイル補修工事では、浮きや剥がれが見られるタイルの補修と目地の修繕が行われます。
この作業も概ね2~3週間ほどかかり、打診や接着作業による騒音や振動が生じることもあるでしょう。
見た目に問題がないタイルでも、専門的な調査で浮きが発見されることがあるため、予想外の補修が必要になるケースもあります。
シーリング工事
シーリング工事は窓枠や外壁目地のシーリング材の打ち替えを行う工事で、3~4週間程度かかります。
この期間は、ベランダや窓の使用に制限が生じることがあり、シーリング材における特有の臭気が発生することがあります。
気象条件によっては作業が遅延することもあるため、余裕をもったスケジュール管理が必要です。
外壁塗装工事
外壁塗装工事は大規模修繕の中核となる工程で、下塗り・中塗り・上塗りの各工程を経て完成します。
通常4~6週間かかり、塗料の臭気や塗料の飛散に注意が必要です。
季節や天候によって乾燥時間が変わるため、工程に影響が出ることもあります。
最近では環境に配慮した低VOC塗料や、防汚性・耐候性に優れた高機能塗料の使用も増えています。
鉄部塗装工事
鉄部塗装工事では、手すりや階段などの錆を落とし、防錆処理を施した上で塗装します。
2~3週間程度の工期ですが、塗料の臭気が気になることがあり、また共用部の使用に一時的な制限が生じることがあります。
海岸に近い地域では塩害の影響で鉄部の劣化が早いこともあり、特に注意深い施工が求められるでしょう。
防水工事
最後に、屋上やバルコニーなどの防水層を更新する防水工事が行われます。
この工程は3~4週間ほどかかり、ベランダの使用制限や防水材における臭気の発生に注意が必要です。
防水工事は建物を雨水から守る最も重要な工事の一つであり、特に丁寧な施工が求められます。
2回目以降の大規模修繕のタイミング
2回目以降の大規模修繕では、一般的に1回目の大規模修繕から約12年後(築24年程度)に行われることが多いです。
しかし、建物の劣化具合は年々進行するため、2回目以降の修繕では1回目よりも踏み込んだ工事が必要となる傾向があります。
工事内容や基本的な流れは1回目と大きく変わりませんが、築24年ともなると紫外線や風雨による劣化がより顕著になっている可能性があるでしょう。
そのため同じ工事項目でも、より広範囲の補修や、場合によっては部材の交換が必要となることがあります。
また、3回目以降の大規模修繕を行う場合、排水管やサッシ・電気設備などの内部設備の工事や、バリアフリー設備の増設などが検討される可能性も出てきます。
これに伴い、工事期間や費用も1回目よりも長期化・高額化する傾向があります。
過去の修繕履歴や建物の状態を詳細に把握し、将来を見据えた計画を立てることが重要です。
【築年数別の大規模修繕工事内容の比較】
工事項目 | 1回目(築12年前後) | 2回目(築24年前後) | 3回目(築36年前後) |
外壁塗装 | 基本的な塗り替え | 下地の劣化が進行し広範囲の補修が必要 | 下地の大規模補修、場合によっては張替え |
防水工事 | 防水層の更新 | 下地含めた全面的な更新 | 防水層・下地の全面改修 |
給排水設備 | 点検・部分補修 | 給水管の更新を検討 | 給排水管の全面更新 |
窓・サッシ | 点検・調整 | シーリング更新、部分交換 | 全面交換を検討 |
エレベーター | 点検・調整 | 制御系の更新 | 全面更新を検討 |
電気設備 | 点検 | 分電盤・制御盤の更新 | 幹線・配線含めた全面更新 |
追加検討項目 | なし | 省エネ対策・バリアフリー化の検討 | 耐震改修・設備のデジタル化・EV充電設備・宅配ボックス等 |
15年・18年周期への延伸は可能?メリットやデメリット・注意点について
近年、技術の進歩や耐久性の高い建材の登場などにより、大規模修繕の周期を従来の12年よりも長く、15年や18年に延伸する動きも一部で見られます。
大手管理会社の中には、最長18年の長期保証付きの修繕工事を提供するケースも出てきています。
メリット
周期延伸のメリットとしては、大規模修繕の回数を減らすことができます。
そのため、居住者の負担や工事期間中の影響を軽減できる・長期的に見てライフサイクルコストを抑える効果が期待できるなどのメリットがあります。
デメリット
デメリットとしては周期が長くなる分、建物の劣化が進行する可能性が高まることや、万が一、周期内に大規模な修繕が必要になった場合の費用負担が大きくなることが考えられます。
また、周期を延伸するためには、耐久性の高い建材や工法を採用する必要があり、初期費用が高くなる場合もあるでしょう。
注意点
周期延伸の可能性を検討する際には、建物の構造や使用状況・過去のメンテナンス履歴などを十分に考慮し、専門家による詳細な建物診断を行った上で慎重に判断する必要があります。
周期を延伸した場合でも、その間に足場を必要としない軽微な補修をこまめに行うことが重要です。
大規模修繕を遅らせるリスクとは?
大規模修繕を適切な時期に行わないまま建物の劣化を放置すると、マンション全体の資産価値を下げる可能性があります。
外観の劣化や設備の老朽化は、マンションの魅力を損ない、売却時や賃貸に出す際の価格や家賃の低下にもつながります。
また、建物の劣化は居住環境の悪化にもつながるため、注意が必要です。
例えば、給排水設備の不備による断水や排水不良・雨漏りによる室内の損傷・エレベーターの故障などです。
居住者の日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、安全性に関わる重大な事故につながる可能性もあります。
さらに、劣化が進行した状態で大規模修繕を行う場合、修繕範囲が広がり、結果的に修繕費用が高額になる傾向があります。
適切な時期に予防的な修繕を行う方が、長期的に見てコストを抑えられるでしょう。
建物診断の実施が必要な理由
大規模修繕の適切な時期や必要な工事内容を判断するためには、専門家による建物診断の実施が不可欠です。
建物診断では、専門の調査員が実際に建物を訪問し、外壁・屋根・共用部分・設備など、あらゆる箇所を詳細に調査します。
目視による確認だけでなく、タイルなどの浮きを調べる打診調査やひび割れ調査・防水性能調査など、様々な調査方法を用いて、建物の劣化状況や不具合箇所・原因や緊急度などを特定します。
建物診断によって得られた結果は、大規模修繕工事の時期や工事内容を決定する上で最も重要な基礎情報となります。
劣化が進行している箇所を優先的に修繕計画に組み込み、状態の良い箇所は次回以降の修繕に回すなど、メリハリのついた予算配分を行うためにも正確な建物診断が必要です。
賃貸マンションにおける大規模修繕のタイミングや分譲との違い・注意点
賃貸マンションにおいても、分譲マンションと同様に12年周期を目安とした大規模修繕が望ましいとされています。
しかし、賃貸マンションには、分譲マンションとは異なる特有の考慮事項があります。
賃貸マンションのオーナーにとって重要なのは、入居率の維持です。
大規模修繕工事は騒音や工事車両の出入りなど、居住者に一定の不便を強いることになります。
そのため、工事期間中に入居者の退去が発生したり、工事後の空室期間が長期化したりするリスクを考慮する必要があるでしょう。
分譲マンション以上に、居住者への丁寧な事前説明を行い、工事への理解と協力を得ることが重要です。
また、大規模修繕に合わせて、入居者のニーズに合わせた設備更新やリノベーションを行うことで物件の魅力を高め、入居率の維持・向上を図ることも有効な手段です。
大規模修繕の費用とタイミングの関係は?早期実施の経済的メリット
大規模修繕には多額の費用がかかりますが、適切なタイミングで実施することにより、長期的な経済的メリットがあります。
建物の劣化を早期に発見し、軽微なうちに修繕を行うことで修繕範囲を小さく抑え、結果的に費用を抑えられる可能性につながります。
劣化が進行してから大規模修繕を行うと、修繕範囲が広がり、使用する材料や工法も大がかりになるため、工事費用が増大する傾向があるでしょう。
また、劣化が放置された期間が長くなるほど建物の資産価値は低下し、将来的な売却価格にも影響が出かねません。
計画的な修繕積立金の積み立てと、適切なタイミングでの大規模修繕の実施は、建物の長寿命化と資産価値の維持、そして長期的なコスト削減につながる賢明な選択と言えるでしょう。
このように、適切なタイミングで大規模修繕を実施することで、長期的には大幅なコスト削減が可能です。
大規模修繕のタイミングを見誤らないためには?管理組合の取り組みについて
大規模修繕の最適なタイミングを見極め、適切な時期に実施するためには、管理組合の主体的な取り組みが不可欠です。
管理組合は、長期修繕計画の策定・見直しを定期的に行い、専門家と連携しながら建物の状況を把握し、修繕の必要性を検討する必要があります。
そのためには、修繕委員会のような専門組織を設置し、組合員の中から意欲のあるメンバーや建築に関する知識を持つ人材に参加してもらうことも有効です。
また、過去に大規模修繕工事を経験した組合員にアドバイザーとして参画してもらうことも、貴重な経験やノウハウを活かす上で効果的な方法です。
管理組合は、単に管理会社やコンサルタントに任せるのではなく、自らが主体となって情報収集を行い、積極的に意思決定に関わっていく姿勢が求められます。
組合員全体の意識向上を図るための啓発活動や、大規模修繕に関する学習会などを開催するのも良いでしょう。
まとめ
マンションの大規模修繕は、建物の劣化を防ぎ、資産価値を維持するための重要な取り組みです。
多くの分譲マンションでは、12年ごとに大規模修繕を行う計画が一般的だとされていますが、この12年という周期はあくまで目安であり、画一的な基準ではありません。
その最適なタイミングは築年数だけで決めるのではなく、建物の構造・立地条件・現在の劣化状況を総合的に判断することが重要です。
また、2回目以降の大規模修繕では、一般的に1回目の大規模修繕から約12年後(築24年程度)に行われることが多いです。
しかし、建物の劣化具合は年々進行するため、2回目以降の修繕では1回目よりも踏み込んだ工事が必要となるでしょう。
建物の実際の状態を詳細に把握し、専門家の知見も活用しながら、それぞれのマンションに最適なタイミングで大規模修繕を実施することが大切です。
近年では、技術の進歩や耐久性の高い建材の登場などにより、大規模修繕の周期を従来の12年よりも長く、15年や18年に延伸する動きも一部で見られ、大手管理会社の中には最長18年の長期保証付きの修繕工事を提供するケースも出てきています。
周期延伸の可能性を検討する際は、建物の構造や使用状況・過去のメンテナンス履歴などを十分に考慮し、専門家による詳細な建物診断を行った上で慎重に判断しましょう。
マンションの価値を守り、快適な住環境を維持するためには、大規模修繕を「必要な出費」ではなく「大切な資産への投資」と考え、計画的に取り組んでいくことが重要です。