コラム    

マンション大規模修繕の時期はいつが適切?工事周期タイミングを徹底解説

マンションにお住まいの方や管理組合の皆様にとって、大規模修繕工事の時期は重要な関心事の一つです。
建物の資産価値を維持し、安全で快適な住環境を保つためには、適切なタイミングでの修繕が欠かせません。

本記事では、マンション大規模修繕の最適な時期について、国土交通省のガイドラインや建築基準法の観点から詳しく解説します。
従来の12年周期から最近注目される15年・18年周期への変化、そして実際の実施時期を決める際のポイントまで、マンションにお住まいの方や管理組合の皆様が知っておくべき情報をお伝えします。

マンション大規模修繕の行う時期について

マンションの大規模修繕工事は、12年周期で実施されることが一般的です。
この12年という周期は、以下の3つの要因によって定着しました。

国土交通省の修繕周期のガイドラインの影響

平成20年に公開された国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、大規模修繕工事の周期として12年程度を例示していました。
多くの分譲会社や管理会社がこのガイドラインを参考に長期修繕計画を策定したため、12年周期が広く普及することになりました。

建材の耐用年数との関係

外壁塗装や防水材などの建材は、一般的に10~12年程度で劣化の兆候が現れ始めます。
コンクリート躯体を保護する役割を持つこれらの材料の性能維持を考慮すると、12年程度での更新が理にかなっているといえます。

特定建築物定期調査との連動

平成20年4月1日の建築基準法改正により、竣工または外壁改修後10年を経過した建物では、全面打診調査の実施が義務付けられました。
この調査には足場が必要となるため、大規模修繕工事と同時に実施することで費用効率を図る管理組合が多くなっています。

ただし、令和3年(2021年)9月に改訂された最新の長期修繕計画作成ガイドラインでは、大規模修繕工事の周期について「一般的に12年~15年程度」と表記が変更されました。
この変更により、従来の12年という固定的な考え方から、より柔軟な周期設定が可能であることが明確になり、計画期間についても「30年以上かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上」とされ、より長期的な視点での計画策定が推奨されています。

参考:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン

マンション大規模修繕工事の対象となる部分とは?

マンション大規模修繕工事の周期は、一般的に約12年周期で計画されることが多く、建物の劣化状況や立地環境によって多少前後する場合があります。
以下に、1回目(築12年前後)・2回目(築24年前後)・3回目(築36年前後)の大規模修繕工事について、主な対象部位と実施される工事内容を一覧表にまとめました。

マンション大規模修繕工事の時期・周期別|工事内容一覧表

修繕時期主な対象部位主な工事内容
1回目
(築12年前後)
外壁、屋上防水、鉄部、共用廊下など外壁の補修・塗装
屋上・バルコニー防水の改修
鉄部(手すり・扉等)の塗装
シーリングの打ち替え
廊下・階段の床シート張り替え
2回目
(築24年前後)
前回対象の部位+給排水設備、建具など外壁再塗装とタイル補修の強化
屋上・バルコニー防水の再改修
給排水管(共用部)の更新・更生
サッシ・玄関扉の劣化補修または交換
鉄部再塗装
3回目
(築36年前後)
給排水設備の全面更新、設備機器の交換など給排水設備(共用・専有部)の本格的な更新
玄関扉やサッシの全面交換
インターホンや照明など共用設備の更新
エレベーターの更新や改修
バリアフリー化の対応(必要に応じて)

いずれの工事もマンションの共有部分に対して行われますが、工事内容によっては専有部分への影響がある場合もあります。
特に2回目・3回目の大規模修繕工事では、給排水設備の更新やベランダの防水工事など、毎日の生活に影響を及ぼす可能性が高い工事が行われます。
安全かつ安心できる住環境整備のためにも、大規模修繕工事スケジュールの共有やトラブルへの対応などを綿密に行うことが大切です。

マンション大規模修繕の時期を延長する理由とは

近年、これまで12年周期としてきた大規模修繕工事を、15年や18年周期に延長する提案を行う管理会社が増えています。
その理由には、以下のようなものが挙げられます。

マンション大規模修繕の時期を延長する理由1.コスト削減効果

60年間での修繕回数を比較すると、12年周期では5回、15年周期では4回、18年周期では3~4回となります。
1回の工事費用が数千万円から億単位となる大規模修繕工事では、この回数の違いが大きなコスト削減につながります。

マンション大規模修繕の時期を延長する理由2.技術の進歩による高耐久化

建材や工法の進歩により、従来よりも耐久性の高い材料が開発されています。
高性能塗料や優れた防水材を使用することで、次回の修繕時期まで十分な性能を維持できるようになりました。

マンション大規模修繕の時期を延長する理由3.大手管理会社による商品化

大手管理会社では、高耐久仕様による長期保証商品を展開し、18年周期での大規模修繕を実現する取り組みを進めています。
長期にわたる安心感をアピールすることで、他者との差別化をはかりながら、環境負荷や住民への負担を減らすものとしても注目されています。

マンション大規模修繕工事の時期は早めてもいい?

マンションの大規模修繕工事は、通常12〜15年を目安に実施されますが、「劣化が気になる」「見た目を改善したい」といった理由で、予定より早めに着手したいという声も少なくありません。では、修繕時期を前倒ししても問題はないのでしょうか?

結論から言えば、必要があれば早めの修繕は可能かつ有効です。ただし、前倒しが適切かどうかは、建物の状態や修繕積立金の状況、管理組合の合意形成の有無など、複数の要因を慎重に見極める必要があります。

たとえば、以下のようなケースでは前倒しの判断が検討されます。

  • 外壁タイルの剥落や漏水など、安全面に関わる劣化が見られる
  • 大規模な改修工事と合わせて実施する方が効率的
  • 住民の高齢化により、将来的な実施が難しくなる懸念がある

一方で、劣化状況が軽微であるにも関わらず工事を早めすぎると、修繕費用の無駄や積立金の不足を招く恐れもあります。

そのため、まずは専門業者による建物調査(劣化診断)を受け、科学的な根拠に基づいて判断することが大切です。また、修繕周期の前倒しによる資金計画の見直しや、総会での合意形成にも注意が必要です。

マンション大規模修繕工事の時期を延長する際の注意点

周期を延長する場合には、以下の点に注意が必要です。

マンション大規模修繕工事の時期を延長する際の注意点|高耐久仕様による初期費用の増加

長期間の性能維持を実現するため、一般的な仕様よりも高品質な材料や工法を採用する必要があります。
そのため、1回当たりの工事費用は通常よりも高くなる傾向があります。

マンション大規模修繕工事の時期を延長する際の注意点|定期的なメンテナンスの重要性

周期を延長する場合でも、足場を必要としない軽微な修繕や点検は定期的に実施する必要があります。
適切なメンテナンスを怠ると、かえって劣化が進行し、将来的により大きな費用負担となる可能性があります。

マンション大規模修繕の時期を決める要因とタイミング

大規模修繕工事の実施時期は、一律に12年や15年で決めるのではなく、建物の実際の劣化状況に基づいて判断することが重要です。
そのため、同じ築年数のマンションでも、以下の要因により劣化の進行度は大きく異なります。

  • 立地環境:海岸近くの塩害、都市部の排気ガス、日当たりや風通しの条件
  • 建物の構造:建物の形状、使用されている建材の種類
  • 管理状況:日常的なメンテナンスの実施状況

マンション大規模修繕の時期を決める要因:建物診断による科学的な判断

修繕時期の決定には、専門家による建物診断を実施することが推奨されます。
建物診断では、以下に挙げる項目を詳細に調査します。

  • 外壁のひび割れ、塗膜の剥離状況
  • タイルの浮きや欠損の有無
  • 防水層の劣化状況
  • 鉄部の錆や腐食の進行度
  • 建物全体の構造的な問題

診断結果に基づいて、緊急性の高い箇所から優先順位を決め、最適な工事時期を決定することができます。

マンション大規模修繕の時期を決める要因:修繕積立金の状況との調整

大規模修繕工事の時期は、修繕積立金の蓄積状況とも密接に関係します。
工事費用が不足している場合は、以下の対応が考えられます。

  • 工事内容の優先順位付けによる分割実施
  • 修繕積立金の増額
  • 一時金の徴収
  • 工事時期の調整

大規模修繕工事を実施する際、予算の制約や居住者の合意形成の状況によって、すべての工事を一度に行うことが難しいケースもあります。
そのような場合には、建物診断の結果などをもとに工事内容の優先順位を明確にし、緊急性の高い部分から段階的に分割して修繕を行うという選択肢があります。
また、修繕積立金の増額を検討することで将来的な工事資金を確保する一方、差し迫った費用に対応するためには一時金の徴収を行うこともあります。
さらに、資金状況や建物の劣化状態、工法の選定状況などに応じて、工事の時期を調整する柔軟な対応も求められます。
これらの方法を組み合わせることで、財政面や住民の負担を考慮しながら、計画的かつ持続可能な大規模修繕の実施が可能となります。

長期修繕計画は5年程度ごとに見直しを行い、積立金の状況と建物の劣化進行を照らし合わせながら、最適な実施時期を調整することが重要です。

マンション大規模修繕の時期における季節的な要因

大規模修繕工事の実施時期を決める際には、季節的な要因も重要な考慮事項となります。
工事が長期間にわたり行われることや、不測の事態による遅延なども考慮し、安全性を第一としたスケジュールを立てる必要があります。

マンション大規模修繕工事の時期として多い季節の特徴

春(3~5月)

春は大規模修繕工事にとって最適な季節とされています。
気温や湿度が安定しており、外壁塗装や防水工事などの「湿式工法」に適した環境が整いやすいためです。
また、新年度の始まりとともに工事をスタートすることで、居住者への影響を最小限に抑えることができます。

秋(9~11月)

秋も春と同様に、気温と湿度が安定した工事に適した季節です。
夏の猛暑が過ぎ、冬の寒さが本格化する前の期間であり、作業効率が高く、工事品質の確保もしやすくなります。

マンション大規模修繕工事において注意すべき季節とその理由

大規模修繕工事は、どの季節であっても施工自体は可能です。
ただし、以下の季節に工事を進める場合には注意点を踏まえた計画を立てましょう。

夏季(7月~8月)

猛暑の時期は作業者の安全面での配慮が必要となり、工事効率の低下が懸念されます。
また、居住者にとっても窓の開閉制限による室内環境の悪化や冷房の使用制限により、特に高齢者や小さなお子様のいる家庭では健康リスクが高まる可能性もあるでしょう。
作業時間や施工開始のタイミングに配慮することで、これらの不安を回避できます。

冬季(12月~2月)

施工が行われる地域によっては、低温や積雪により塗装工事や防水工事の品質に影響を与える可能性があります。
また乾燥時間の延長により、工期が長期化するリスクもあります。
計画段階で、地域性を踏まえたスケジュールにしておくことが重要です。

マンション大規模修繕の時期計画において準備すべきこと

大規模修繕工事を成功させるためには、十分な準備期間を確保することが重要です。
一般的には、工事実施の1~2年前から準備を開始することが推奨されています。
準備期間中に実施すべき主な項目は、以下の通りです。

修繕委員会の設置

大規模修繕工事を円滑に進めるには、専門的な視点から検討を行う「修繕委員会」の設置が欠かせません。
修繕委員会は、理事会や管理会社だけでは対応しきれない細かな内容について議論し、住民の意見を反映させながら工事計画を具体化していく役割を担います。
メンバーは理事や有志の居住者から構成され、設計者・施工業者の選定、建物診断の結果の確認、工事内容や予算の妥当性についても意見を交わします。
透明性を保ちつつ、より納得感のある意思決定を行うためにも、修繕委員会の早期設置が重要です。

建物診断の実施

大規模修繕工事の第一歩は、建物の現状を正確に把握することです。
これには、外壁・屋上・鉄部・給排水管など共用部分全般を対象とした、専門業者による詳細な建物診断が必要です。
診断では、目視調査や打診調査、場合によっては赤外線カメラやコア抜き検査などを用いて劣化状況を評価します。
これにより、修繕が必要な箇所とその劣化レベル、緊急性の高い対応が必要な部分を明確にし、優先順位をつけた修繕計画の策定が可能になります。
診断結果は、その後の設計・見積もりの基礎資料としても重要です。

設計・監理業者の選定

建物診断の結果をもとに、具体的な修繕計画を立て、施工を監理する設計・監理業者を選定します。
設計業務では、修繕範囲・工法・使用材料・安全対策などの詳細を定めた設計図書を作成することで、施工業者への見積依頼や工事比較がしやすくなり、適正な工事内容と価格の確保が叶うでしょう。
また監理業務では、工事中に設計通りに施工が進んでいるかを第三者の立場で確認し、品質と安全の確保を図ります。
公正な視点でアドバイスを受けられるため、管理組合にとって非常に心強い存在です。

施工業者の選定

設計図書が完成したら、それをもとに複数の施工業者へ見積もりを依頼します。
この際、単純な価格比較だけでなく、過去の実績・技術力・対応力・アフターサービスの体制なども総合的に評価することが重要です。
価格が安いだけの業者を選んでしまうと、工事品質が低下したり追加費用が発生したりなどのリスクもあります。
修繕委員会や設計監理者の助言を受けながら、入札形式やプレゼンテーションを通じて適正な業者を慎重に選定し、透明性のあるプロセスを経ることで、住民からの信頼も得やすくなるでしょう。

マンション大規模修繕でなぜ長期修繕計画の定期的な見直しが必要?

国土交通省のガイドラインでは、5年程度ごとに調査を実施し、その結果に基づいておおむね1年から2年の間に見直しを行うことが推奨されています。
見直しを行うべきポイントは、以下の通りです。

  • 建物の劣化状況の変化
  • 修繕工法や材料の技術革新
  • 修繕積立金の蓄積状況
  • 居住者のニーズの変化
  • 法規制の変更

マンションの大規模修繕工事の時期を決定する際には、築年数だけではなく、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。

時間の経過とともに建物は確実に老朽化していくため、定期的な建物診断を通じて、どの程度の修繕が必要か、どの部位を優先すべきかを見極めましょう。
また、修繕工法や使用材料も日々進化しており、過去には難しかった補修が可能になったり、耐久性の高い新素材が登場したりなど、技術革新の影響も大きくなっていることで、従来の修繕周期を見直す必要が出てくるケースもあります。

さらに、修繕積立金の蓄積状況も無視できません。
必要な資金が十分に確保されていない場合、計画自体の見直しや工事範囲の調整が求められ、最適なタイミングで工事を実施できないこともあります。
このような事態とならないよう、早期からの資金計画と住民への情報共有が欠かせません。

加えて、近年では居住者のニーズも多様化し、バリアフリー対応・セキュリティの強化・省エネ設備の導入など、単なる修繕にとどまらず、暮らしの快適性向上を求める声も高まっています。
これらの要望をどの程度工事に組み込むかも、時期や内容の検討に影響します。

最後に、法規制の変更にも注意が必要です。
耐震基準やアスベスト規制・バリアフリー法など、災害や人的被害による法改正によって新たな対応が求められることがあります。
適切に対応するためにも、最新の情報を踏まえた時期設定が重要です。

このように、大規模修繕工事の時期は一律に決められるものではなく、建物の状態や技術の進化・財政状況・住民の意識・法制度の変化といった複数の視点をもとに、慎重に判断する必要があります。
管理組合は専門家と連携しながら、柔軟かつ的確な対応を図ることが求められます。

マンション大規模修繕工事の時期を決める際によくある質問

Q

築12年より前に大規模修繕を行っても問題はないのでしょうか?

A

計画より早く工事を行うことに問題はありません。
建物の劣化状況や立地環境(海に近い、交通量が多いなど)によっては、12年を待たずに修繕が必要になるケースもあります。
特に雨漏りや外壁タイルの剥落といった安全に関わる不具合が出た場合は、早期対応が求められます。
大規模修繕は“年数ありき”ではなく、実際の状態に基づいた判断が重要です。
ただし、大規模修繕計画の修正や修繕積立金に関する問題はクリアにしておく必要があります。

Q

大規模修繕の時期を延ばすとコスト削減になりますか?

A

一見すると修繕を先延ばしにすることで短期的なコストは抑えられますが、劣化が進むと補修範囲が広がり、結果的に修繕費が増加する可能性があります。
また、建物の資産価値低下や安全性への影響も避けられません。
最適な時期に適切な工事を行うことで、長期的に見ればコスト削減や資産保全につながるため、安易な先延ばしは避けるべきです。

Q

他のマンションと比較して、修繕時期を早めたり遅らせたりしても問題ないですか?

A

他のマンションの状況を参考にする程度であれば、問題ありません。
ただし、マンションの立地・施工当時の品質・維持管理状況によって、劣化の進行具合は異なります。
他の物件と同じ築年数でも、海に近い・交通量が多い・日当たりが悪いといった環境条件によって劣化スピードは変化します。
そのため、他のマンションと比較するよりも、自身のマンションの状態を正確に把握し、建物診断などのデータをもとに適切な時期を判断することが重要です。

Q

大規模修繕の時期が近づいているのに合意形成が進まない場合、どうすればいいですか?

A

修繕の必要性について、理解を深めてもらうことが重要です。
まずは修繕委員会を中心に、建物診断の結果や修繕の目的、実施しない場合のリスクなどをわかりやすく説明する機会を設けましょう。
理事会や総会・住民説明会などを活用し、複数回にわたって丁寧に情報共有することで、住民の不安や疑問を解消しやすくなります。
また、専門家(設計・監理業者など)を交えて中立的な立場から説明してもらうことで、信頼性も高まり合意形成も進みやすくなるでしょう。

まとめ

マンション大規模修繕の時期については、従来の12年周期にとらわれることなく、建物の実際の状況や技術の進歩を踏まえた柔軟な判断が重要です。

令和3年の国土交通省ガイドライン改訂により、12年~15年という幅のある周期設定が示され、近年では18年周期への延長も現実的な選択肢となっています。

最適な修繕時期を決定するためには、専門家による建物診断を実施し、修繕積立金の状況や季節的な要因も考慮した総合的な判断が必要です。
また、十分な準備期間を確保し、長期修繕計画の定期的な見直しを行うことで、建物の資産価値を維持し、居住者の安全で快適な住環境を確保することができます。

本記事の情報を参考に、お住まいのマンションに最適な大規模修繕の時期を検討しましょう。

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