コラム    

病院の大規模修繕について|修繕工事の進め方や費用・注意点とは

病院は、医療を提供する社会インフラであり、常に高い安全性と衛生環境が求められます。そのため、大規模修繕の進め方も一般の建物とは大きく異なります。設備の老朽化や耐震性の確保、感染対策など、多岐にわたる要素を慎重に検討しながら、診療を継続しつつ進行させなければなりません。

本記事では、病院における大規模修繕の目的や流れ、注意点、費用の目安、そして信頼できる業者選定のポイントまで、わかりやすく解説します。

病院施設における大規模修繕の定義と目的

病院の大規模修繕とは、診療業務を維持しながら、老朽化した建物や設備の機能を更新・回復させるための長期的かつ計画的な修繕工事を指します。通常の建物に比べて、医療施設では人命に関わる医療機器や設備が常時稼働しているため、その更新作業はより慎重かつ段階的に行う必要があります。

主な目的は以下の3点です

  • 建物の耐震性・防火性の向上:災害時でも診療継続が可能な強固な施設を目指す
  • 感染症対策の強化:ゾーニングや換気システムの見直し、陰圧処理の導入などによる院内感染リスクの低減
  • エネルギー効率の向上と設備更新:老朽化した空調・電気・給排水設備を更新し、ランニングコストの削減と快適性向上を図る

これらの目的を達成することで、安心・安全な医療提供体制の維持と、地域医療への貢献が可能となります。また、患者満足度の向上や医療スタッフの働きやすい環境づくりにも寄与します。

病院の大規模修繕に必要な工程と流れ

病院の大規模修繕では、建物の構造や運用状況に合わせた綿密な工程設計が求められます。一般的な建築物とは異なり、工事中も診療を継続するため、スケジューリングやゾーニング設計には特に高い専門性が要求されます。以下は代表的な流れです。

基本調査・劣化診断

建物の現況を把握するために、外壁・屋上・設備機器の状態を詳細に調査します。この段階では、耐震性評価や各種インフラ設備の劣化度合いなども評価され、修繕の優先順位が明確になります。

また、建物内外の動線、安全対策、消防設備、非常用発電機の機能確認など、命に関わる設備については特に入念な点検が求められます。

修繕計画と資金計画の策定

診療機能を止めずに工事を進めるためには、段階的・長期的な修繕スケジュールが重要です。医療現場のスケジュールと調整しながら、無理のない資金繰り計画を並行して作成します。補助金や助成金の申請時期も視野に入れる必要があります。

修繕範囲の優先順位を明確にすること、また突発的な設備不良への対応予備費を確保しておくことも重要です。

設計・発注方式の選定

設計監理方式やコンストラクション・マネジメント(CM)方式など、病院の規模やニーズに応じた発注方式を選定します。設計段階での医療従事者からのヒアリングや意見の反映も、実際の使いやすさを左右する重要なポイントです。

また、機能分離によるフロア単位の修繕や、夜間工事を前提としたプランも含めて、柔軟に検討する必要があります。

段階的施工と病棟移転計画

患者・職員の安全を守りながら診療を継続するために、病棟や診療エリアを段階的に移動させながら工事を進めます。代替診療エリアの確保や、入院患者の一時転院も視野に入れた綿密な調整が必要です。

特に、ICUや手術室などの高度管理区域は、施工時期や方法を慎重に検討しなければなりません。スタッフや患者への周知、看板・導線表示の工夫も重要です

病院特有の大規模修繕における注意点

病院の大規模修繕では、医療機能を維持したまま工事を行うという特殊な条件のもと、多岐にわたるリスクや制約に対応しなければなりません。以下では、とくに重要とされる注意点を解説します。

騒音・振動・粉塵への配慮

手術室や集中治療室など、静粛さが求められるエリアにおいては、騒音・振動・粉塵が医療行為に直接影響を与える可能性があります。工事時間帯の調整、防音仮囲いの設置、集塵機の使用といった対策を講じることで、患者やスタッフのストレスを軽減し、診療環境の維持に努める必要があります。

感染対策とゾーニング施工

院内感染を防ぐため、施工エリアは「汚染区域」と「清潔区域」に明確に区分するゾーニングが必須です。空調換気のルートや陽圧・陰圧のコントロールを通じて、病原体の拡散を防止する設計が求められます。また、感染対策の観点から、施工資材や作業員の出入りルートにも配慮が必要です。

安全導線の確保と利用者対応

病院内には患者・職員・来訪者・工事関係者が同時に存在します。それぞれの導線を分離する設計を行い、混雑や接触による事故のリスクを回避することが重要です。加えて、工事にともなう動線変更については、案内掲示やスタッフによる誘導など、利用者目線での対応が求められます。

病院の大規模修繕にかかる費用と助成制度

病院の大規模修繕には、建物の規模や構造、老朽化の程度、対象となる設備範囲などに応じて多様な費用が発生します。以下は、病院における修繕費用の概算目安です。

病院規模修繕対象費用目安(税抜)
小規模(〜500㎡)外壁・屋上・配管等約1,000万〜3,000万円
中規模(〜2,000㎡)設備更新含む全面修繕約5,000万〜1.5億円
大規模(2,000㎡〜)長期分割修繕約2億円〜

これらの費用は目安であり、個別の診断や工法によって大きく前後します。また、修繕の範囲が空調・電気・給排水といった医療設備に及ぶ場合には、より高度な設計・施工が求められるため、費用も高額化する傾向にあります。

利用可能な助成制度・補助金

病院の大規模修繕にあたっては、以下のような補助金制度の活用が検討可能です。

  • 地方自治体の耐震・防災関連補助金:地震対策や防火設備更新に対する補助
  • 高齢者医療施設向け補助:療養型病床や介護医療院の設備改修に対する支援
  • 国土交通省・厚生労働省の施設整備補助:感染症対策やバリアフリー化に関する補助金

各制度は申請条件や時期が異なるため、早期に情報収集を行い、修繕計画に組み込むことが重要です。

大規模修繕を成功させるための業者選定ポイント

病院の大規模修繕は、高度な安全管理と医療環境への理解を求められる特殊な工事です。そのため、信頼できる業者の選定が、プロジェクト全体の成否を左右します。

医療施設での実績と専門知識の有無

病院特有の事情に対応できるかどうかは、業者の実績を見ればある程度判断できます。たとえば、「診療を継続しながら工事を進めた実績」や「手術室・ICUの工事経験」があるかを確認しましょう。また、感染対策やゾーニングに関するノウハウも必要不可欠です。

工程管理と柔軟な対応力

緊急搬送や急患対応など、予期せぬ診療スケジュール変更にも迅速に対応できる柔軟さが求められます。仮設計画や夜間工事への対応力、突発的な修繕にも対応できる体制を持つ業者を選定しましょう。

総合評価型入札やCM方式の活用

病院の大規模修繕では、単に価格だけで業者を決めるのはリスクが高いとされます。設計力・技術力・安全対策・工程調整能力などを総合的に評価できる「総合評価型入札」や、施工全体をマネジメントする「CM方式(コンストラクション・マネジメント)」の導入も有効です。

よくある質問(FAQ)

Q

工事期間中も診療は続けられますか?

A

段階的な施工計画と病棟移転の調整を行うことで、診療を継続しながら修繕を進めることが可能です。ただし、高度管理区域については事前に工事スケジュールとの調整が必要です。

Q

助成金の申請はどうすればよい?

A

各自治体や国の補助制度は条件が異なるため、事前に公的機関や専門のコンサルタントに相談し、申請書類の準備と申請スケジュールを計画的に進めましょう。

Q

どのくらい前から計画を始めるべきですか?

A

一般的には2〜3年前から調査・診断を行い、設計や資金計画を立てることが推奨されます。補助金の申請準備や医療機関内の調整にも十分な時間が必要です。

まとめ|病院の大規模修繕は「専門性」「安全性」「継続性」で計画的に

病院の大規模修繕は、一般建築とは比較にならないほど高度な配慮と専門性が求められます。診療を止めずに進行させるという条件の中で、安全性や衛生環境、患者・職員の安心感を確保するためには、事前の調査・計画が不可欠です。

そのうえで、医療施設に精通した業者を選び、感染症対策や導線分離、騒音対策を徹底した工事を行うことで、施設機能を損なうことなく高品質な修繕が可能となります。

将来的な診療体制の維持と医療サービスの質の向上を実現するためにも、長期的な視野での大規模修繕を計画的に進めていきましょう。

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