コラム    

なぜ大規模修繕では1年点検が必要なのか?その目的と重要性を解説

大規模修繕工事は、建物の資産価値を維持するための重要な取り組みですが、工事が完了すればそれで終わりではありません。
施工から約1年後に実施される「1年点検」は、工事の成果を確認し、不具合の有無を早期に把握する大切な機会です。
特に外壁や防水・設備まわりなどは、時間の経過とともに初期不良が表面化することもあるため、見逃さずにチェックすることが求められます。
本記事では、1年点検の目的やその重要性について詳しく解説します。

1年点検の目的とは?

1年点検とは、大規模修繕工事完了から約1年後に行う定期点検であり、工事の品質維持と建物の長期保全に欠かせない重要なプロセスです。
主な目的を以下に分けて解説します。

施工の仕上がり確認

工事完了直後では、見えなかった不具合や施工ミスを早期に発見するために実施します。
外壁のひび割れや塗装の浮き・防水の不具合など、時間経過で表面化する問題を目視や簡易検査で点検します。

住民や管理組合の安心確保

1年点検を通じて、管理組合や住民が建物の現状を把握できるため、安心して住み続けられる環境を作ることができます。
疑問や不安があれば早期に解消することで、信頼関係の維持にもつながるでしょう。

このように、大規模修繕後の1年点検は単なる確認作業ではなく、建物の品質保証と長期的な資産価値の保持に直結する重要な意義を持っています。

1年点検で確認される主な内容

大規模修繕の1年点検では、多岐にわたる箇所を詳細にチェックし、初期不具合の早期発見と対応を目指します。主に以下の項目が確認されます。

外壁の塗装・シーリングの劣化や浮き

外壁の塗装は紫外線や風雨にさらされるため、剥がれや色あせ・ひび割れが起こりやすい部分です。
また、建物の隙間を埋めるシーリング材は、劣化や剥離により雨水の浸入を招く恐れがあります。
1年点検ではこれらの状態を丁寧に観察し、補修が必要かどうかを判断します。

屋上・バルコニーの防水層の状態

屋上やバルコニーの防水層は、建物内部への雨水浸入を防ぐ重要な役割を担います。
防水層のひび割れ・剥離・膨れなどの不具合がないかを重点的に確認し、問題があれば早期補修を行います。
防水不良は雨漏りの原因となるため、特に注意が必要です。

給排水設備や共用部分の動作確認

給排水管やバルブ・排水口などの設備は、目に見えない部分でトラブルが発生しやすい箇所です。
水漏れや詰まりがないか、排水が正常に行われているかを動作を通じてチェックします。
また、共用部分の照明や非常用設備の動作に不具合がないかも確認します。

金物・手すり・タイルの不具合

階段の手すりや外壁のタイル、門扉やフェンスなどの金物部分は、安全性に直結するため欠陥がないか細かく調べます。
緩みや腐食・破損があれば住民の安全を守るため、速やかな補修を行います。

設備の異常有無

共用部の照明器具やインターホン・エレベーターの表示板など、日常生活に欠かせない設備についても不具合の有無を点検します。
故障があれば早期に修理し、快適な居住環境を維持することが大切です。

これらの項目を総合的に点検することで、大規模修繕工事の品質を確認し、不具合を見逃さずに住民の安全・快適な生活を支える体制を整えます。
1年点検は単なるチェック作業ではなく、建物の長寿命化と資産価値の維持に欠かせない重要なステップです。

1年点検における不具合の例

部位・箇所不具合の例概要・説明
外壁ひび割れ、塗装の浮き・剥がれコンクリートや塗装面にクラックが入ったり、塗膜が剥がれている状態
シーリング(目地)破断、ひび割れ、剥がれゴム状のシールが切れたり縮んで隙間ができることで、防水性が低下
屋上・バルコニー防水層の膨れ・剥がれ、雨漏り防水材の密着不良や施工ミスで、水が侵入するおそれがある
鉄部(手すりなど)錆、塗装の劣化鉄部分の塗装がはがれ、サビが発生して強度や美観に悪影響を及ぼす
給排水管水漏れ、詰まり配管のつなぎ目や経年劣化による水漏れ、排水不良など
共用廊下・階段タイルの浮き、床のひび割れ表面材の剥がれやひび割れにより、転倒などのリスクがある
天井・壁シミ、変色、クロスの剥がれ雨漏りや結露による湿気が原因で、室内側に異常が現れることがある
建具・設備ドアの閉まり不良、手すりのぐらつき取り付け不良や経年によるゆるみで、使用に支障が出る

管理組合としてのチェックポイント

大規模修繕の1年点検を有効に活用するためには、管理組合が主体的に準備・対応することが不可欠です。
以下のポイントを押さえることで点検の質を高め、不具合の見逃しを防ぐことができます。

事前に工事時の図面や記録を確認

過去の工事図面や施工記録・仕様書を把握しておくことで、どの部分に重点を置くかや、チェックすべき箇所の目安がわかります。
また、施工会社が提示する報告内容と照らし合わせやすくなるため、客観的に評価しやすくなるでしょう。

居住者からの不具合報告を集約しておく

点検前に住民からの不具合や気になる点の声を集めておくと、実際の点検時に重点的に確認できます。
住民の声は現場の実態を知る貴重な情報源であり、管理組合がまとめて伝えることで対応漏れを防止できます。

点検結果報告書を精査し、不具合箇所は写真付きで確認

施工会社や点検業者から提出される報告書は詳細に読み込みましょう。
特に不具合の指摘箇所は写真付きで具体的に示されているかをチェックし、必要に応じて説明を求めることが大切です。

必要に応じて第三者の専門家の同席を検討

点検結果の評価や補修の要否判断に不安がある場合は、建築士や専門のコンサルタントなど第三者の専門家に同席してもらうことも検討しましょう。
客観的な視点で問題点の見落としを防ぎ、適切な補修提案を受けることが可能です。

これらのチェックポイントを踏まえ、管理組合は1年点検を通じて建物の状態を正確に把握し、適切な補修計画の策定や住民対応に役立てることができます。

大規模修繕後の1年点検の流れ

大規模修繕工事後の1年点検は、建物の仕上がりを確認し、潜在的な不具合を早期に発見・対応するための大切なプロセスです。
中長期的に建物の安全性や資産価値を維持するためにも欠かせません。
ここでは、一般的な1年点検の流れを段階ごとにわかりやすく解説します。

  1. STEP

    点検時期の調整・通知

    施工会社や管理会社から管理組合に対して、点検実施の案内が届きます。
    これを受けて管理組合は施工会社と日程調整を行い、居住者にも早めに点検日程を周知します。
    特にバルコニーや専有部分への立ち入りが必要な場合は、居住者の協力が欠かせません。
    事前に案内を丁寧に行い、スムーズな点検実施を目指します。

  2. STEP

    事前準備・不具合情報の収集

    点検に備えて管理組合は、工事記録書や施工図面・仕様書などの資料を再度確認し、どの部分に注意が必要か把握します。
    また、住民からの不具合報告をアンケートや口頭で収集し、リスト化して点検時に重点的に確認できるよう準備しておきましょう。
    管理人や理事が問題箇所を共有し、点検体制を整えることが重要です。

  3. STEP

    点検の実施

    当日は施工会社や設計監理者が中心となり点検を実施しますが、管理組合担当者も立ち会います。
    主に外壁の塗装状態・屋上やバルコニーの防水層・金物や手すりの緩みや破損など、目視・触診・打診を行い丁寧にチェックします。
    必要に応じて居住者の専有部分バルコニーや照明・インターホンといった設備の点検も行い、総合的に建物の状態を把握します。

  4. STEP

    点検報告書の受領・内容確認

    点検終了後、施工会社や点検業者から詳細な報告書が提出されます。
    報告書には不具合箇所の写真や状況説明が含まれ、管理組合はこれを精査します。
    不具合の有無やその範囲を把握し、必要に応じて第三者の専門家を交えたセカンドオピニオンを取得することも効果的です。
    これにより、より客観的な判断が可能となります。

  5. STEP

    不具合の補修・再確認

    点検で補修が必要と判断された箇所については、施工会社と補修方法やスケジュールを協議します。
    瑕疵が認定された場合には、保証期間内での無償補修が基本となるでしょう。
    補修完了後は再点検を実施し、問題が確実に解消されたかを確認して、その記録を保管します。
    補修対応の透明性を保つことが、居住者の安心にもつながります。

  6. STEP

    記録の保管と次回点検への備え

    点検報告書や補修履歴・写真などの資料は理事会で共有し、大切に保管します。
    これらの記録は、今後の2年点検や5年点検など、将来の定期点検に向けた重要な情報にもなります。
    継続的に建物の状態を把握し、計画的な維持管理を進めるための土台となるため、忘れずに整理・保存することが求められます。

このように段階的かつ計画的に進めることで、大規模修繕後の1年点検は単なる形式的な確認にとどまらず、建物の長寿命化と快適な居住環境の維持に直結する重要な機会となります。
管理組合が中心となり、関係者全員で連携しながら確実に実施していくことが大切です。

不具合が見つかった場合は?

大規模修繕工事の完了から約1年後に実施される「1年点検」は、工事後の建物に不具合がないかを確認する重要な機会です。
もし不具合が見つかった場合、どのような対応がされるのでしょうか。

補修内容の協議  

施工会社は点検中に見つかった不具合を記録し、写真や図面付きの「点検報告書」としてまとめます。
管理組合や修繕委員会と施工会社は、報告書をもとに話し合いを行います。
不具合の内容に応じて、どのような方法で補修するのが最適か、工事の時期や日程・住民への影響などを検討します。
補修にあたって一時的な立ち入りや設備停止が必要な場合もあるため、調整が重要です。

保証内容の確認 

発見された不具合が、契約時に定められた「工事保証」の対象であるかを確認します。
一般的には、外壁塗装や防水処理などは数年の保証が設けられていることが多く、1年点検時点ではほとんどの工事が保証期間内です。
ただし、保証外と判断された場合は、有償での補修提案が行われるケースもあります。

補修工事の実施

協議で合意した内容に基づき、施工会社が補修工事を行います。
住民への告知(掲示板や回覧など)や、安全対策を徹底した上で進められます。
補修が小規模であれば、短期間で完了する場合もありますが、居住中の工事となるため、騒音や通行規制への配慮が求められます。
補修が完了した後は、再度の確認作業を行います。

保証の対象外となるケースもある

すべての不具合が保証対象になるとは限りません。
以下のようなケースでは対象外となることがあります。

  • 台風や地震など自然災害による損傷
  • 管理不十分による劣化(例:排水口の詰まり放置など)
  • 住民の使用方法による破損

そのため、契約時に保証内容と対象範囲をしっかり確認しておくことが重要です。

1年点検をスムーズに進めるために

1年点検は大規模修繕工事の品質を確認する大切な機会です。
スムーズに進めるためには、事前の準備や関係者の協力が欠かせません。

スケジュール調整と事前周知の重要性

1年点検は多くの居住者や施工関係者が関わるため、スケジュール調整が非常に重要です。施工会社や管理会社からの点検案内を受けたら、管理組合が中心となって日程を早めに確定し、居住者へも十分な事前通知を行いましょう。
周知が行き届くことで居住者の協力を得やすくなり、点検当日のトラブルや遅延を防ぐことができます。

点検当日の立ち会い体制を明確に

点検当日は施工会社の担当者だけでなく、管理組合の理事や管理人、必要に応じて専門家も立ち会うことが望ましいです。
誰がどの部分を確認し、どのような役割を持つかを事前に決めておくことで、効率的かつ的確な点検が可能になります。
また、記録の取り方や報告の方法についても共通認識を持つことが重要です。

居住者への協力依頼

点検ではバルコニーや住戸周辺の確認が必要な場合も多いため、居住者の協力が欠かせません。
点検の趣旨や具体的な作業内容・立ち入りが必要な範囲について事前に丁寧に説明し、協力をお願いしましょう。
特に鍵の預かりや点検日時の調整など、居住者の不安や疑問を解消しておくことで、スムーズな点検進行につながります。

このように、事前準備から当日の運営までしっかり体制を整えることで、1年点検を円滑かつ効果的に進めることができます。

1年点検を怠るリスクとは?

大規模修繕工事から1年後に実施される「1年点検」は、施工後の初期不具合や仕上がりの確認が目的となる極めて重要なタイミングです。
この点検を怠ると、建物の維持管理において重大な不利益を被る可能性があります。

初期不良・施工ミスを見逃すリスク

1年以内は、塗装の剥がれ・シーリングの浮き・防水層の膨れ・タイルの浮きといった初期不良が顕在化しやすい時期です。
この段階で発見されれば無償で補修される可能性が高く、点検を行わず見逃してしまうと、保証期間外となり修繕費を管理組合が負担する事態に陥ります。

住民の不満やトラブルに発展

1年点検は、居住者が日常で感じた不具合を施工会社に伝える数少ない公式な機会です。
点検が実施されなかったり、形式的に終わってしまったりすると「不具合が放置された」「報告が活かされていない」といった不信感が、住民間トラブルの火種になることもあります。

将来的な修繕コストが増大

1年点検のタイミングで補修しておけば負担の少なかった不具合を、そのまま放置することで劣化が進み、修繕コストが増大するケースもあります。
点検は将来への備えでもあるため、怠らないことが大切です。

施工会社との信頼関係を損なう

点検の実施は施工会社の責任でもありますが、管理組合が協力しない・記録を整えていないと、点検の質が落ちたり実施自体が曖昧になったりします。
その結果、施工会社との関係性が希薄になり、補修交渉や保証対応に支障が出る可能性もあるでしょう。

1年点検以外のアフター点検の実施時期と目的

大規模修繕工事後、建物を長く良好な状態に保つためには、定期的なアフター点検が欠かせません。
1年点検で初期の不具合を把握した後も、経年劣化や設備の状態変化を見逃さないよう、3年目・5年目・10年目などのタイミングで継続的な点検を実施することが重要です。
それぞれの点検には異なる役割と意味があり、管理組合としてはその目的を把握し、計画的に取り組む必要があります。

3年点検

3年目の点検は、1年点検以降の経過観察の意味合いがあり「大きな劣化が進んでいないか」「補修箇所の再劣化がないか」などを重点的にチェックします。
特に、外壁塗装やシーリングの変色・ひび割れ、防水層の浮きや排水不良など、劣化の初期兆候を見逃さないことがポイントです。
この時期に見つかる不具合は、早期に対応することで費用や手間を最小限に抑えることが可能です。

5年点検

5年目は、建物の経年変化がより顕在化しやすい時期です。
ここでは、安全性に関わる項目を重点的に確認する必要があります。
また、10年後を目安に次回の大規模修繕を検討する場合、この5年点検が計画立案の基礎資料にもなります。
劣化状況を把握し、資金計画や修繕積立金の見直しにつなげることが望まれます。

10年点検

10年目の点検は、再び大規模修繕の実施を視野に入れた重要なタイミングです。
防水層の耐用年数や設備機器の老朽化状況を含め、建物全体を総合的に調査することが求められます。
ここでの点検結果をもとに、次期大規模修繕の範囲・時期・予算などを本格的に検討するため、設計事務所や診断専門業者に依頼して精度の高い建物調査を行うことも推奨されます。

よくある質問(FAQ)

大規模修繕工事の1年点検は、建物の維持管理にとって重要な工程です。
よくある質問とその回答をまとめてご紹介します。

Q

1年点検は法的に義務づけられているのですか?

A

1年点検自体は法律で義務付けられているわけではありませんが、多くの大規模修繕工事では契約時に定められた「アフターサービス」の一環として実施されます。
実施の有無や内容は、工事請負契約や瑕疵保証契約書に記載されていることが一般的です。

Q

1年点検の結果、不具合が見つかったら必ず無償で直してもらえるの?

A

基本的には施工会社に「瑕疵担保責任」がある期間内であれば、施工不良と判断されたものについては無償で対応されることが多いです。
ただし、経年劣化や居住者の使用による損耗は対象外になる場合もあります。

Q

住民のベランダや専有部も点検されますか?

A

基本的には共用部(外壁・屋上・共用廊下など)が対象ですが、バルコニーの防水やサッシまわりなど、専有部に近い範囲に不具合が見られる場合は確認対象になることがあります。
そのため、事前に居住者の協力を得ることが大切です。

Q

1年点検以外にも定期点検は行われますか?

A

多くの場合、引き渡し後の定期点検として「3年点検」「5年点検」などが設定されていることがあります。
ただし、内容や時期は契約によって異なるため、修繕計画や契約書を確認しておくことが重要です。

まとめ

大規模修繕工事から1年後に実施される「1年点検」は、施工後の状態を確認し、必要に応じて手直しを行うための重要な機会です。
工事の不具合や不備・経年劣化による変化を早期に発見することで、建物の資産価値を維持し、住民の安心・安全な暮らしを守ることができます。
また、点検結果をもとに管理組合が適切に対応することで、施工業者との信頼関係の構築にもつながります。

点検を行う際は、事前にチェック項目や当日の流れを把握しておき、住民からの声も反映させることが、より精度の高い点検と今後の維持管理に役立ちます。
1年点検は単なる「確認作業」ではなく、修繕工事の「締めくくり」として重要な意味を持つ工程です。
長期的な視点で建物を守る第一歩として、積極的に活用しましょう。

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