コラム    

マンション大規模修繕の予算はどのくらい?無理なく計画を立てるには

大規模修繕とは、マンションの外壁・屋上防水・配管・共用設備など、建物全体の経年劣化に対して行う大掛かりな工事を指します。
おおよそ12~15年ごとに実施されるのが一般的で、建物の安全性や快適性、そして資産価値を維持するために不可欠な作業です。
費用は規模にもよりますが、数千万円から数億円に達するケースも珍しくありません。
そのため、長期的な視点に立った予算計画が求められます。
この記事では、大規模修繕に必要な費用の目安や予算に関する基本的な知識・不足時の対応などを解説します。

大規模修繕にかかる費用の目安

大規模修繕の費用は、建物の規模や築年数・設備状況に加え、工事回数によっても変動します。
国土交通省の調査によると、工事回数ごとに費用の傾向が異なり、以下のようなパターンが多く見られます。

工事回数工事金額の目安(万円)備考
1回目の修繕4,000万~6,000万円初回の大規模修繕。劣化箇所の多さで金額幅あり
2回目の修繕6,000万~8,000万円範囲拡大や追加工事で費用がやや増加
3回目以上の修繕6,000万~15,000万円経年劣化で大規模な工事が必要となり高額になることも

参考:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査

工事回数別に費用が変わる理由

  • 1回目の修繕:築年数が経過し、劣化が初めて本格化するため、必要最低限の補修を中心に行うことが多い
  • 2回目の修繕:前回の修繕からの追加劣化や未修繕箇所の対応が増え、工事範囲が広がるため費用が増加しやすい
  • 3回目以降の修繕:建物全体の劣化が進み、全面的な改修や設備更新が必要となるケースも多く、費用が大幅にかさむ場合もある

修繕工事費における割合の内訳

大規模修繕を計画する際には、どの項目にどれくらいの費用がかかるのかを把握しておくことは重要です。
以下の表は、国土交通省のガイドラインをもとに、一般的な大規模修繕にかかる費用の内訳とその割合をまとめたものです。
費用の構成を理解することで、予算計画の精度が高まり、効率的な修繕計画の立案に役立ちます。

費用項目割合(目安)
仮設工事費約9.0%
調査・設計・監理費約1.9%
長期修繕計画作成費約0.2%
その他(予備費など)約10.0%
屋根・床防水工事約12.2%
外壁塗装約13.6%
鉄部塗装約3.4%
建具・金物等約9.7%
共用内部修繕約1.1%
給水設備約8.1%
排水設備約5.8%
ガス設備約0.3%
空調・換気設備約0.7%
電灯設備約4.0%
情報・通信設備約4.1%
消防用設備約3.5%
昇降機設備約4.3%
立体駐車場設備約5.2%
外構・附帯施設約2.9%

参考:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン

間接費用の見落としに注意

多くの方が予算を考える際に見落としがちなのが「設計監理費」や「コンサルタント料」といった間接費用です。
これらは直接工事にかかる費用ではありませんが、適切な修繕を実施するために欠かせない費用になります。
これを予算に含めておかないと、工事開始後に資金不足に陥るリスクがあります。

大規模修繕における予算の立て方は?

大規模修繕の予算を適切に立てることは、建物の資産価値を維持し、居住者の安全・快適な暮らしを守るために非常に重要です。
予算が不足すると修繕が中途半端になったり、急な資金調達が必要になったりして、住民間のトラブルにつながる恐れがあります。
そのため、計画的かつ合理的に予算を立てることが大切です。
以下では、具体的な予算の立て方を詳しく解説します。

劣化診断を実施して修繕箇所を明確にする

劣化診断は、専門の建築士や診断業者によって建物の外壁や屋根・設備などの状態を詳しくチェックする工程です。
確認することで目に見える劣化だけでなく、内部や目に見えにくい部分の劣化状況も把握できます。
正確な劣化状況を知ることで、必要な工事内容や優先順位が明確になり、無駄のない予算配分が可能になるでしょう。

過去の修繕履歴や修繕積立金の状況を確認する

過去にどのような修繕を行ってきたのか、その費用や内容を管理組合の記録から確認しましょう。
また、現在の修繕積立金の残高やこれまでの積立状況も把握することで、どの程度の資金を今後使えるか、あるいは不足分をどのように補うかの見通しが立てられます。
修繕積立金が不足している場合は、住民間での増額交渉や一時的な特別徴収の検討が必要です。

複数の業者から見積もりを取得し比較する

実際の工事費用を把握するには、信頼できる複数の施工業者から見積もりを取得することが欠かせません。
見積もりは項目別で詳細に出してもらい、どの部分にどれだけの費用がかかるかを把握しましょう。
比較することで、過剰に高い項目や逆に安すぎて手抜きの恐れがある部分を見極められます。

工事項目ごとに予算を配分する

大規模修繕は、外壁塗装や屋上防水・設備更新・共用部分の修繕など、多くの工事項目があります。
各項目の優先度や必要性を踏まえ、予算配分を行いましょう。
予算が限られる場合は、修繕内容を段階的に分けるプランニングも検討します。

予備費を設定する

工事中には、予期しない追加工事や材料費の変動などが発生することがあります。
そのため、予備費を確保しておくことが重要です。
予備費があれば、急な費用増加にも対応しやすく、工事の質を落とすことなく進められます。

予算を決めるときのポイント

大規模修繕の予算を決める際は、ポイントを押さえておくことも重要です。

長期修繕計画に基づき積算し将来を見据える

大規模修繕は数年~数十年にわたる長期的な建物維持管理の一環です。
長期修繕計画書を参考に、これから必要な修繕項目と時期を洗い出し、概算費用を積み上げることが重要です。
計画的に積立金を運用し、修繕時期を調整することで急激な資金負担を避け、長期的に安定した修繕体制を作れます。

費用配分の公平性を考慮する

マンションの場合、戸数や専有面積などに応じて費用負担を公平に分配することが重要です。
例えば、専有面積の大きい住戸に多めの負担を求める方法や、一律負担と組み合わせる方法など、管理規約や住民合意に基づくルール設定が求められます。
公平性が担保されないとトラブルが起きやすく、修繕計画の進行に支障が出ます。

過去の実績や近隣事例を参考にする

地域や規模が似ているマンションがあれば、過去の修繕費用や工事内容を調査し、相場感を把握しましょう。
近隣事例を参考にすることで、計画が現実的かつ妥当なものかどうか判断しやすくなります。
また、管理会社やコンサルタントに相談して最新の相場情報を得るのも効果的です。

物価上昇や資材・人件費の高騰を考慮する

建設資材や労務費は、経済情勢や需給バランスにより変動しやすいものです。
計画時点では適正な価格でも、工事着手時に高騰しているケースもあります。
数年先の修繕費用を見積もる際は、物価上昇率や人件費の動向を加味し、余裕をもった予算設定を行うことが資金不足リスクの軽減につながります。

修繕積立金と予算の関係

修繕積立金は、大規模修繕の予算を確保するための重要な資金源です。
計画的な積立により、修繕時に必要な費用を無理なく賄うことができます。
積立金が不足すると、追加徴収や借入れが必要になり、住民の負担が増加する可能性が高まります。
適切な積立金設定と予算管理が、安定した修繕計画の実現に欠かせません。

予算が足りない場合の対応策

大規模修繕の予算が不足してしまった場合でも、適切な対応を取ることで無理なく修繕計画を進めることが可能です。
予算不足の状況は早期に把握し、住民や管理組合で共有したうえで、以下のような複数の対策を検討しましょう。

修繕の優先順位を見直す

全ての修繕工事を一度に実施するのではなく、工事項目ごとに「緊急性」や「重要度」を見極め、優先順位を付けて計画を分割する方法です。
例えば、屋上の防水補修・外壁の大きな亀裂補修など、緊急性が高い工事は早急に実施し、美観向上を目的とした緊急性が低い工事は次回以降に延期します。
こうした段階的な工事により、当面の予算負担を抑えつつ、建物の安全性は確保できます。

金融機関からの借入を検討する

修繕積立金だけでは足りない場合、金融機関のローンを活用する選択肢があります。
その場合は、借入期間や金利の条件を比較検討し、無理のない返済計画を立てることが重要です。
住民の負担増加が避けられないときは、丁寧な説明や合意形成を行いましょう。

補助金や助成金の活用

自治体によっては、建築物の耐震化や省エネ化・バリアフリー化などを目的とした補助金や助成金制度を設けている場合があります。
これらは大規模修繕の一部費用に充てられることがあるため、活用できるかどうか早めに確認することが大切です。
地域の役所や専門機関に問い合わせ、申請条件や期限を事前にチェックしておきましょう。

住民との情報共有と合意形成を重視する

どの対応策を取るにしても、住民間の情報共有は不可欠です。
予算不足の理由や今後の対策を明確に伝え、意見交換や説明会を開催して合意形成を進めることで、トラブルを未然に防げます。

予算オーバーの主な原因は?

さまざまなことが原因となり、予算オーバーが起こるケースも少なくありません。
主に、以下のような原因が考えられます。

長期修繕計画に基づくスケジュール管理の不備

大規模修繕は長期的な計画に基づいて段階的に進める必要がありますが、このスケジュール管理が適切でないと、修繕工事が一度に集中してしまうことがあります。
例えば、複数の重要な修繕項目が同じ時期に重なると、資金需要が急激に増加し、予定していた予算を大きく超えてしまうリスクが高まります。
長期修繕計画の定期的な見直しと、修繕時期の分散調整を行うことが予算オーバー防止には欠かせません。

積立金の見直しと合意形成の不足

修繕に必要な費用をカバーするためには、日頃から計画的に積立金を準備しておくことが重要です。
しかし、積立金の額が実際の修繕費用に見合っていなかったり、管理組合内での積立金に関する合意形成が不十分だと、資金不足に陥る可能性があります。
結果として、急な工事費用の増加に対応できず、追加で資金を集めなければならくなり、住民間でのトラブルや予算オーバーが起こることがあるため、定期的な見直しと住民説明が必須です。

工事仕様や材料のグレードの見直し不足

修繕に用いる工事仕様や材料の選定も、予算に大きく影響する要素です。
例えば、過剰な品質や高級な材料を選ぶことで、費用が膨らみやすくなります。
一方、コストを削減するために品質を下げすぎると、早期に再修繕が必要になり、長い目で見ると余計な費用がかさむこともあるでしょう。
適正なグレードを選ぶためには、専門家の意見を取り入れつつ、必要な性能と耐久性を考慮した仕様決定が重要です。

予備費の設定不足による予算超過

工事中には予期せぬ追加工事やトラブルが発生することも多く、これに備えて予備費を設定しておく必要があります。
予備費が十分に確保されていないと、追加費用が予算に組み込めず、結果として予算オーバーとなってしまいます。
一般的には、全体予算の5~10%程度を予備費として確保することが推奨されており、これにより突然の出費にも柔軟に対応できるでしょう。

管理組合の透明性や情報共有不足

修繕計画や予算に関する情報が住民に十分に共有されていなかったり、意思決定の過程が不透明だと、住民の理解が得られず合意形成が遅れることがあります。
これが原因で工事が遅延したり、急な追加費用を賄うために予定外の資金集めが必要になり、予算オーバーのリスクが高まります。
日頃から管理組合が透明性を保ち、積極的に情報発信を行うことが、スムーズな修繕と予算管理の鍵です。

大規模修繕費用を抑えるためのポイント

大規模修繕は建物の資産価値を守るために重要ですが、多額の費用がかかるため、無理なくコストを抑えつつ品質を保つ工夫が求められます。
以下のポイントを意識することで、費用の最適化が可能になるでしょう。

複数業者からの相見積もりで価格競争を促す

工事費用を抑えるためには、複数の施工業者から見積もりを取り比較することが重要です。
複数の見積もりを集めることで、工事内容に対する適正な価格を把握でき、不必要な工事項目や過剰な費用の洗い出しが可能になります。
また、業者間で価格競争が生まれることで、全体のコストを引き下げる効果も期待できるでしょう。

ただし、価格の安さだけでなく、業者の実績や信頼性も十分に考慮し、品質の低下を避けることが大切です。

設計監理方式を採用し中立的な立場で工事管理を行う

設計監理方式とは、建築士などの専門家が設計から工事監理までを一貫して担当し、中立的な立場で工事の品質やコスト管理を行う方法です。
この方式を採用することで、業者に依存しない公正な監督が行われるため、不要な工事や過剰請求を未然に防ぐことができます。
また、工事の進捗や品質の透明化が図られ、トラブルの予防にもつながるため、管理組合の負担も軽減されるのが特徴です。

不要な工事を洗い出し、優先順位を明確にする

修繕計画に含まれる全ての工事が同じ優先度ではありません。
専門家の劣化診断や意見を基に、緊急性の高い工事は早急に行い、将来的に実施可能な工事は後回しにするなど、優先順位を明確にすることが重要です。
これにより、現時点で不要な工事を省き、限られた予算を最も必要な箇所に集中させることができるため、全体の費用を抑えることが可能になるでしょう。

管理組合内での透明な意思決定と情報公開を徹底する

大規模修繕費用の適正化には、管理組合のメンバー間での情報共有と理解が欠かせません。
見積もりの内容や費用の内訳をわかりやすく共有し、意思決定の過程を透明にすることで、住民間の信頼関係が強まります。
さらに、住民からの意見や質問を積極的に取り入れることによって、合意形成が円滑に進み、無駄な対立や再度の見積もり取得などの手間を減らせるため、結果的にコスト削減につながります。

信頼できるコンサルタントを活用し、無駄を省く

経験豊富な専門のコンサルタントを起用することで、修繕計画の立案から施工管理まで全体を見通し、コストパフォーマンスの高い提案を受けることが可能です。
コンサルタントは業者選定や契約内容のチェックを第三者の視点で行うため、適正な価格の維持に寄与します。
また、不必要な工事項目の削減や効率的な工法の提案なども期待でき、無駄な費用を大幅に削減することができます。

大規模修繕の予算に関するよくある質問(FAQ)

大規模修繕の予算に関する疑問や不安を解消するため、よくある質問とその回答をまとめました。
ぜひ参考にしてみてください。

Q

大規模修繕の費用は1戸あたりどのくらいが目安ですか?

A

一般的には1戸あたり100万〜150万円程度が目安とされています。
建物の規模や劣化状況・修繕内容によって上下するため、正確な金額は専門家による診断と積算が必要です。

Q

修繕積立金が不足している場合はどうなりますか?

A

積立金が不足していると、一時金の徴収や借入によって対応するケースが多く、住民の負担が一時的に増す可能性があります。
長期修繕計画に基づき、早めに積立金の見直しを行うことが大切です。

Q

大規模修繕の予算は誰が決めるのですか?

A

管理組合(理事会)が中心となり、建築士やコンサルタントなどの専門家の助言を受けながら、総会で承認を得て決定します。
住民との情報共有と合意形成が欠かせません。

Q

工事費を抑える方法はありますか?

A

はい、複数業者から相見積もりを取る、設計監理方式を採用する、不要な工事項目を精査するなどの方法でコストを抑えることが可能です。

Q

長期修繕計画とは何ですか?

A

長期修繕計画とは、今後30年程度を見据えて、いつ・どのような修繕を行うかをあらかじめ計画するものです。
この計画に基づいて、修繕積立金の目安や予算を算出します。

Q

インフレや物価上昇で予算が足りなくなることはありますか?

A

はい。近年は建築資材や人件費の高騰により、計画当初の予算で工事がまかなえないケースもあります。
そのため、物価変動を見込んだ柔軟な予算設定と定期的な計画の見直しが重要です。

Q

補助金や助成金は利用できますか?

A

自治体によっては、省エネ改修やバリアフリー工事などに対して補助金制度を設けている場合があります。利用条件や対象工事が限られているため、事前に確認が必要です。

まとめ

マンションの大規模修繕工事は、築年数の経過とともに避けて通れない重要なイベントです。
仮設工事や外壁塗装・防水工事・設備の更新など多岐にわたる作業があり、それぞれにまとまった費用がかかります。
特に仮設工事は工事全体の土台となるため軽視できず、防水や塗装は建物の劣化を防ぐためにも欠かせません。
修繕費用の内訳を正しく理解し、優先順位や実施時期を見極めることで、無理のない予算計画が可能になります。
また、修繕積立金の不足が発覚してからでは遅いため、長期的な視点で資金計画を見直すことも大切です。
住民の安心と快適な暮らしを守るためにも、管理組合は定期的な情報共有と合意形成を意識し、計画的に対応していきましょう。


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