2025.06.10
介護施設における大規模修繕の補助金とは?申請方法や注意点について解説
介護施設を運営している方にとって避けられない課題となるのが、時間の経過とともに建物や設備の経年劣化です。
特に築年数の経った施設では、利用者の安全と快適な環境を維持するために、定期的な大規模修繕が欠かせません。
しかし、こうした大規模修繕には多額の費用がかかるため、施設の運営にとって大きな財政的負担となることもあります。
このような場面で負担を大きく軽減する有効な手段となるのが、国や地方公共団体・民間団体が提供する補助金や助成金制度です。
この記事では、介護施設が大規模修繕を行う際に活用できるさまざまな補助金・助成金制度の概要を詳しく解説します。
さらに、これらの制度を上手に活用するための申請のポイントや、申請時に注意すべき点についても深掘りしますので、ぜひご覧ください。
介護施設における大規模修繕の重要性と背景
介護施設において大規模修繕は、単なる建物の維持管理に留まらず、入居者の安全かつ快適な環境を維持し、設備の機能維持と建物の構造強化を図るうえで最優先の課題とされています。
では、介護施設で大規模修繕が必要とされる具体的な理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
安全性・快適性の維持と機能強化
定期的な修繕を行うことで、建物の機能維持や構造が強化されるため、利用者の安全を確保できます。
また、安全性が高まるだけではなく、居住環境の快適性にも効果的です。
例えば、入浴介助における介護従事者の身体的負担軽減のためにリフトなどの入浴支援機器を導入することは、従業員の負担を軽減し、結果的に介護サービスの質の向上と利用者の快適性につながります。
これは、施設の機能強化の一例と言えるでしょう。
経年劣化に伴うリスクの低減
大規模修繕は、外壁のひび割れやタイル剥離による雨漏りリスク・給排水管の老朽化による漏水事故・エレベーターや空調設備など機械設備の故障といった、経年劣化に伴うさまざまな問題を未然に防ぐために不可欠です。
これらの問題は単に施設の機能停止に留まらず、利用者の健康被害や転倒事故など、重大な安全リスクに直結する可能性があります。
例えば、老朽化した給湯器や厨房機器・高圧機器・自家発電機などは約20年で修繕もしくは入れ替えるのが目安とされています。
これらの機器の故障は、日々の生活に大きな影響を与えかねません。
大規模修繕を通じてこれらのリスクを低減することで、施設の安全性が向上し、予期せぬトラブルによる負担も軽減できるでしょう。
耐震性やバリアフリー基準の見直し
高齢者や介護職員の安全を守るうえで、耐震性やバリアフリー基準の見直しは大規模修繕が必要となる重要な理由の一つです。
特に日本は地震が多い国であり、施設の耐震性の確保は災害時における利用者の命を守るために極めて重要な条件と言えます。
また、高齢化の進展や身体機能の変化に対応するため、段差の解消・手すりの設置・スロープの設置など、より高度なバリアフリー化が求められています。
これらの改修により、災害時における安全性の確保や移動の円滑化が図られ、利用者の安心にもつながるのです。
また介護施設では、特別な設備として特殊浴槽・空調・換気設備・ナースコールなどを備えており、これらも入所者にとってなくてはならない設備として挙げられます。
それぞれ定期的な点検・修繕が必要で、古くなれば改修や更新を計画的に行わなければなりません。
かつて一か所で制御する中央方式が多かった空調や給湯器も、修繕費がかさむため、個別方式への切り替えを検討するなど、将来のメンテナンスのしやすさまで考慮に入れた大規模修繕計画が求められます。
経営視点から見た大規模修繕の意義
経営視点から見ると、大規模修繕は単なる建物の修繕に留まりません。
施設の魅力を高め、安定的な経営基盤を築くことで、さまざまな目的を果たせるようになります。
利用者獲得と満足度向上への寄与
大規模修繕において居室の洋室化や洗面所・浴室の設置など、居住環境の向上を目指した改修は、利用者の確保に役立ちます。
施設の清潔さや明るさは、入所を決める時の重要なポイントであり、利用者の満足度向上に直結します。
古い施設に入所している家族を持つ人が、見舞いに行くことが憂鬱になるという例も示されており、施設の見た目や快適性が利用者の心情に与える影響は大きいと言えます。
明るくきれいな施設は、入所を検討する際の重要な要素の一つとなるでしょう。
職員の働きやすさ向上と定着率改善
介護者の確保が重要課題であり、離職率も高い現状において、ケアの動線を考慮した設備配置や休憩室の確保など、職員の働きやすさを追求することも経営課題の一つです。
例えば、入浴設備やトイレなどの配置を見直し、介護者の身体的負担を軽減するノーリフトケアの考え方を取り入れることも、この目的を達成するうえで非常に有効です。
大規模修繕を通じてこれらを実現することは、職員の定着率改善やサービスの質向上につながります。
時代やニーズに合わせたサービス提供の実現
ユニット型への改修・看取り対応のための家族宿泊場所・地域交流スペースの確保など、社会のニーズに即したサービスを提供するための改修は、利用者の確保に効果的です。
魅力的な設備やサービス提供が叶う環境が整うことで、より多くの利用者から選ばれる施設となるでしょう。
大規模修繕にかかる費用とその負担
大規模修繕の費用は施設の規模や築年数・改修内容により大きく異なるものの、数百万円から数千万円に及ぶことが一般的とされています。
医療福祉研究協会による「社会福祉法人における事業継続に必要な建設費と大規模修繕に関する調査研究」の調査では、築40年を超える施設で累積約63,099円/㎡(約21万円/坪)の大規模修繕費用が必要とされています。
例えば、500坪の建物であれば、実に1億500万円もの大規模修繕費用が累積で必要になる計算です。
仮に10年ごとに修繕を行ったとしても、1回あたりの修繕で2,500万円以上が必要となることになります。
また、介護保険サービスを提供している施設では、利用者の安心・安全を守るため、通常よりも厳しい基準が求められることがあり、その分大規模修繕にかかるコストが増大する傾向にあります。
これは、居室の広さやバリアフリー設備・消防設備など、法令や指導要綱で定められた基準を満たすための改修が必要となるためです。
これにより、運営法人の財政的な負担が大きな課題となることがあります。
参考:一般社団法人日本医療福祉建築協会 社会福祉法人における事業継続に必要な建設費と大規模修繕に関する調査研究報告書
長期的な費用計画の必要性
不具合があった都度対処するだけでは効率が悪く、費用も割高になりがちです。
事業継続のためにも、長期的な展望をもって修繕計画や資金計画を立てる必要があります。
例えば、外壁・屋根は約15年、電気・空調・給排水設備は約20年、防災・昇降設備は約25年といった目安で修繕が必要となるため、これらのサイクルを考慮に入れた計画が重要です。
継続的に収益を得て修繕費用を積み立てることで、将来的な高額な修繕費用に対応できます。
自己資金のほか、融資や補助金も活用することで、負担を軽減しながら施設の安全性・快適性を保てるでしょう。
大規模修繕に活用できる主な補助金・助成金制度
介護施設の大規模修繕には、国や地方公共団体・民間団体から支出される原則返済不要の助成金や補助金制度が活用できます。
これらの制度は、多額の修繕費用を軽減し、施設の持続的な運営を支援することを目的としています。
助成金と補助金の違い
助成金と補助金は、原則返済不要という共通点を持つ一方で、その特性には違いがあります。
- 助成金…受給するための要件が明確に決まっており、要件を満たしていればほぼ支給されるが、あらかじめ設定されている金額を達成すると期間中でも打ち切られる場合もある
- 補助金…予算と最大件数が決まっており、募集方法によっては抽選や早い者勝ちになるため、申請しても受給できないことがある
助成金・補助金を活用する前に知っておきたい重要なポイント
助成金・補助金を活用する際には、以下のようなポイントに留意することが重要です。
- 「買う前」に申請…補助金の対象とするには、工事や機器の購入を始める前の申請が必要
- 必要な申請手続きは2回…交付申請と支給申請の2段階が必要なため、それぞれ申請期限を忘れないよう事前に確認しておく
- 申請から支給までの期間は異なる…補助金はすぐには支給されないため、費用は一時的に事業者が立て替える必要がある点に注意が必要
- 一つの機器で使える助成金は原則一つ…1つの機器に複数の補助金を併用することは原則できません
介護施設の大規模修繕に特化した補助金
介護施設の大規模修繕、特に設備の導入や改修に特化した補助金や、介護業界の働き方改革などを支援する補助金は多岐にわたります。
以下に、主要な制度を紹介します。
補助金名 | 概要 | 対象となる修繕・設備 | 補助対象 | 留意点 |
介護施設におけるテクノロジー導入支援事業 | ICTや介護ロボットの導入費用を支援 | ICT設備・センサー機器・見守りシステム等 | 特養・老健・グループホーム・通所介護など | 建物修繕そのものは対象外。 設備導入が主軸 |
地域医療介護総合確保基金(介護分) | インフラ整備や施設改修など、地域に必要な介護基盤強化のための費用を補助 | 耐震補強・バリアフリー化・老朽化改修など | 都道府県が認めた介護施設 | 都道府県ごとの事業内容や予算配分による差異あり |
エイジフレンドリー補助金(厚労省) | 高齢者が働きやすい職場づくりを支援 | 滑りにくい床材・段差解消・トイレ改修・照明改善など | 中小企業・小規模事業者(法人格問わず) | 建物自体の大規模修繕も該当する可能性あり。年度ごとの公募要確認 |
働き方改革推進支援助成金(職場環境改善コース) | 働きやすい職場環境への設備投資費用を補助 | 空調改善・休憩室整備・トイレ改修など | 介護施設を含む中小事業者全般 | 介護職員の労働環境改善を主目的とすること |
介護サービス施設等整備交付金(厚生労働省)※一部自治体経由 | サービス基盤の確保・拡充のための整備支援 | 耐震改修・空調・給排水設備更新・防火設備整備など | 地方自治体の実施する補助メニュー | 各自治体で交付内容が異なるため確認が必要 |
バリアフリー化改修支援(高齢者・障害者施設向け) | 高齢者や障害者の安全な施設利用を促進する目的での支援 | 段差解消・手すり設置・廊下幅拡張・エレベーター設置など | 社会福祉法人・NPO法人等 | 国・都道府県・市町村の支援が併用されるケースあり |
地球温暖化対策設備導入支援(自治体) | 省エネ設備への更新を支援 | 断熱改修・LED照明・太陽光発電・蓄電池・節水設備など | 自治体によって異なる(介護施設対象の制度あり) | 省エネ診断や事前申請が必須のことが多い |
補助金申請の流れとポイント
補助金を活用するには、所定の手続きを計画的に進めることが成功の鍵となります。
以下は一般的な申請の流れとそれぞれの段階でのポイントです。
- STEP
補助金制度の情報収集
まずは、国・都道府県・市区町村のホームページなどで制度情報を収集します。
それぞれの制度ごとに要件や対象工事が異なるため、自施設の修繕内容に合った補助金を見つけることが重要です。
介護入浴支援機器の導入や浴室改修など、具体的なニーズから情報を探すことも有効です。
- STEP
計画立案と見積書作成
申請したい補助金が決まったら、建築士や施工会社と連携して、修繕計画と工事内容を明確化します。
補助金の対象となる工事項目の精査が非常に重要であり、見積書には詳細な内訳を記載してもらうように依頼します。
- STEP
申請書類の提出
施設の概要・工事内容・見積書・図面などを添付して、指定された窓口へ申請書類を提出します。
自治体によっては、申請前に事前協議や説明会への出席が義務付けられている場合もあります。
- STEP
審査・交付決定
提出された申請書類は審査され、要件を満たしていれば補助金交付が決定されます。
この際、申請が採択されたとしても、すぐに補助金が支給されるわけではない点に注意が必要です。
支給申請の時期や期間は担当機関から通知されない場合があるため、事業者が自ら把握しておく必要があります。
- STEP
工事実施・完了報告
交付決定後、実際の工事を実施します。
補助金は原則「事前着工NG」であるため、交付決定前に工事を始めてしまうと対象外となることがほとんどです。
工事完了後には、実績報告書や領収書・写真などを添えて、速やかに完了報告を行います。
- STEP
補助金の受け取り
提出された完了報告書類が審査され、問題がなければ補助金が振り込まれます。
支給時期は助成金ごとに異なるため、事前に担当機関に確認しておくことが推奨されます。
補助金活用時の注意点
補助金を有効活用するためには、いくつかの重要な注意点があります。
これらを把握しておくことで、スムーズな申請と確実な受給につながります。
補助金対象外の工事もある
補助金は、あくまで施設の機能向上や安全確保などを目的とした改修が対象となるため、装飾目的の改修など、直接的な機能改善につながらない工事は対象外となることがあります。
また、基準に適合しない設備なども対象外となる場合があります。
事前着工はNGの場合が多い
ほとんどの補助金制度では、申請前に工事を始めてしまうと支給対象外となります。
必ず交付決定を待ってから、工事を開始するようにしましょう。
年度ごとの募集枠が限られている
補助金には予算枠と最大件数が決まっており、年度ごとの募集枠が限られていることがほとんどです。
そのため、検討している補助金が見つかったら早めに情報収集し、計画的な申請を行うことが重要です。
募集期間が短い場合もあるため、事前の準備入念に行っておきましょう。
自治体独自の条件がある
国の制度をベースにした補助金であっても、自治体ごとに限度額や対象施設・要件が異なる場合があります。
そのため同じ名称の制度でも、必ず地元自治体の福祉・建築・住宅課などに確認し、独自の条件を把握しておきましょう。
補助金活用の相談先・サポート機関
補助金に関する情報収集や申請支援については、以下の機関で相談が可能です。
複雑な手続きを円滑に進めるためにも、専門家の支援を受けながら進めましょう。
- 地方自治体の福祉・建築・住宅課…地域に密着した補助金制度の情報提供や申請手続きの相談ができる最も基本的な窓口
- 社会福祉協議会…社会福祉法人の運営に関する助言を行っており、補助金の活用方法についても相談できる場合がある
- 地域包括支援センター…高齢者支援の窓口として、施設運営や補助制度に関する情報提供や適切な相談先の紹介が受けられる
- 建築士事務所や施工業者…補助金申請に適合する修繕計画の立案や書類作成の支援が可能
状況や求める内容によって相談先を選ぶことが、スムーズな手続きの第一歩となります。
よくある質問Q&A
Q
補助金は新設工事よりも修繕工事の方が対象になりやすいって本当?
A
はい。
多くの補助制度では「既存施設の維持・改善」を目的としており、新設よりも改修や機能向上の工事に対して採択されやすい傾向があります。
特に、安全性やバリアフリー化を目的とした修繕は優先度が高くなります。
Q
補助金は1つの事業に対して1つしか使えないの?
A
制度によっては、複数の補助金を組み合わせて使える場合もあります。
例えば「福祉施設のバリアフリー化」と「地域防災力向上」を目的とした工事が重なる場合、それぞれの制度を併用できることがあります。
重複不可の規定がないかの、事前確認が重要です。
Q
設計段階で補助金を意識しないと、もらえないことがある?
A
あります。
補助金には「工事前に申請が必要」「特定の基準を満たす設計内容が必要」などの要件がつきものです。
計画初期から補助金制度に合った設計を進めることで、無駄なやり直しを防げます。
Q
民間の施工業者が補助金申請のサポートをしてくれるって本当?
A
はい。
近年は、補助金の制度に詳しい建設業者や建築士事務所が増えており、書類作成や申請手続きまで支援するサービスを提供しています。
専門家のサポートは、採択率向上にもつながります。
Q
地方ごとの補助制度はどうやって探すの?
A
地方自治体の公式サイトや、各都道府県の社会福祉協議会が有力な情報源です。
施設がある市町村名で絞って検索すると、地域限定の補助制度が見つかることもあります。
また、自治体窓口への直接相談し情報を得ることも可能です。
まとめ
介護施設の大規模修繕は、入居者の安全性や快適性の確保、そして職員の働きやすさや定着率向上にもつながる極めて重要な取り組みです。
しかし、その費用負担は運営法人にとって大きな課題となります。
その負担を軽減する手段として、国や自治体の補助金・助成金制度は非常に有効です。
補助金は、その時のニーズの高い設備等の導入を進めるために、国や地方自治体が補助を決定します。
そのため、時代に合わせた施設への改修を費用負担を軽減しながら進めるのに有効です。
ただし、補助金には申請時期や要件・必要書類の整備など、細かなルールが存在します。
重要な注意点や制度を正しく把握し、適切なタイミングで申請することで、スムーズに補助金を活用することが可能になるでしょう。
煩雑な申請手続きは必要ですが、その労力は施設の未来への投資として、大きなリターンをもたらします。
今後の修繕計画を立てる際には、ぜひ補助金制度の活用も視野に入れ、経営的な負担を軽減しつつ、より良い介護環境の実現を目指しましょう。
安全性・快適性が確保された施設にすることで、利用者に選ばれる施設になるだけではなく、従業員にとっての幸せにもつながります。