2025.06.10
マンション大規模修繕の金額はいくら?相場と内訳をわかりやすく解説
マンションの大規模修繕工事において「いったいいくらかかるのか」「その費用はどのように決まるのか」といった点が気になる方も多いのではないでしょうか。
大規模修繕の費用はマンションの規模や築年数・修繕内容によって大きく異なるため、一般的な相場や内訳を知っておくことで、将来の資金計画に役立てることができます。
本記事ではマンション大規模修繕の金額について、相場や修繕積立金が不足したときの対処法などをわかりやすく解説します。
マンション大規模修繕とは?
マンションに住んでいると、10数年ごとに「大規模修繕」の時期が訪れます。
工事期間が長く、費用も高額になるため、住民にとっては大きな負担に感じられるかもしれません。
しかし、経年による劣化を修復し、住まいの快適さやマンションの資産価値を維持するうえで、大規模修繕は欠かせない工事です。
まずは、この大規模修繕がどのような工事なのかを理解し、長期修繕計画を立てることが大切です。
また、費用が高額になる背景には、工事範囲の広さと専門性の高さが関係していることも把握しておきましょう。
大規模修繕の定義と目的
どのような建物でも、年月の経過とともに傷みや劣化が生じていきます。
適切なメンテナンスを怠ると、外観の美しさが損なわれるだけでなく、建物の機能自体も低下し、外壁タイルの剥落など安全面でのリスクが高まるおそれもあります。
こうした状態は、住民の安心・快適な生活を妨げるだけでなく、マンション全体の資産価値の低下にもつながるため注意が必要です。
大規模修繕は、建築基準法第2条第14号において「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕」と定義されています。
ここでいう「主要構造部」とは、壁・柱・床・はり・屋根・階段などを指します。
また「修繕」とは、もとの状態に戻すことを意味し、原則として同じ材料を用いてマイナスの状態をゼロに近い状態に戻す行為です。
大規模修繕の対象となるのは、外壁やバルコニー・屋上・住戸外の給排水管などの「共用部分」です。
建物全体を囲う足場を設置し、補修や塗装・防水工事・設備交換などが行われます。
また、必要に応じて、オートロックの新設や宅配ボックスの導入・インターホンのモニター付きタイプへの更新など、居住環境の向上を目的とした「改修」が同時に行われるケースもあります。
実施時期と長期修繕計画の関係
マンションの大規模修繕の平均修繕周期は、国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、1回目が15.6年、2回目が14.0年、3回目が12.9年、平均では15.2年となっています。
しかし、実施時期はマンションによって異なり、10〜12年で実施するマンションも多く存在します。
この大規模修繕は、一般的にマンションの長期修繕計画に沿って実施されます。
長期修繕計画は、マンションの将来的な修繕工事を見据え、計画的に資金を積み立てるための指針です。
国土交通省は令和3年9月に「長期修繕計画作成ガイドライン」を見直し、新築・中古関係なくマンションの長期修繕計画を「30年以上で大規模修繕工事が2回以上含まれる期間」としました。
そのため、マンションの建物寿命や運用期間を30年以上と想定した際、その間に最低でも2回以上の大規模修繕工事を計画・実施する必要があります。
参考:国土交通省
「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
「長期修繕計画作成ガイドライン」
中規模・小規模修繕との違い
「修繕」と「改修」は建築物を修理することを意味しますが、その内容は異なります。
- 修繕工事:建築物の機能や性能を建設当初の状態にまで回復させることを指します。
- 改修工事:建築物の機能や性能を元の状態に回復させるだけでなく、さらにグレードアップさせて、現在の基準やニーズに合った建物へと進化させることを指します。
時代とともにマンションにおける住環境の水準が上がっているため、ただ修繕するだけではマンションの価値が下がっていく可能性があります。
マンションの資産価値を保つためには定期的な修繕だけでなく、バリアフリー化や省エネ化など、時代に合わせた定期的な改修も検討することが重要です。
マンション大規模修繕で必要になるお金について
大規模修繕工事には多額の費用がかかりますが、その金額は建物の規模や工事内容によって大きく異なります。
ここでは、工事費用の全体像から内訳・修繕積立金との関係費用を抑える工夫まで、幅広く解説します。
大規模修繕の総額目安(戸数別・築年数別)
大規模修繕の総額は、戸数や築年数によって大きく異なります。
国交省の調査を基にした費用目安は、以下の通りです。
戸数 | 第1回(築12〜15年) | 第2回(築26〜30年) | 第3回以上(築40年超) |
20戸 | 2,250万円(112.5万/戸) | 1,875万円(93.75万/戸) | 1,500万円(75万/戸) |
30戸 | 3,375万円(112.5万/戸) | 2,813万円(93.75万/戸) | 2,250万円(75万/戸) |
50戸 | 5,625万円(112.5万/戸) | 4,688万円(93.75万/戸) | 3,750万円(75万/戸) |
- 第1回は「100~125万円/戸」の中心値112.5万円を採用
- 第2回は「75~100万円/戸」と「100~125万円/戸」が同程度のため、75〜100万の中間値93.75万円を採用
- 第3回以上は「75~100万円/戸」が多いため、下限75万円を採用
参考:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
主な工事項目
マンションの大規模修繕工事では、経年劣化に対処し建物の機能と資産価値を維持するために、さまざまな「建築系工事」が行われます。
ここでは主要な工事項目の内容と目的を項目別にご紹介します。
屋根防水
建物最上部(屋上)の防水性能を維持し、雨漏りや構造部の腐食を防ぐための工事です。
アスファルト防水やウレタン塗膜防水・シート防水などの方法で、既存の防水層の補修や全面更新を行います。
床防水(バルコニー等含む)
居住者が日常的に使用する、バルコニーや共用廊下・階段などの床面からの漏水を防止します。
防水層の塗替えや張替えにより、ひび割れや劣化部の補修・更新を行い、滑り止めや美観の向上も図ります。
外壁塗装
建物外観の美観回復および外壁材の保護を行い、風雨や紫外線による劣化を防ぎ、長寿命化を図ります。
高圧洗浄や下地補修の後、外壁に塗料を塗布し、使用塗料は耐候性・防カビ性などに優れたものを選定することが一般的です。
外壁タイル
タイルの浮きや剥離・ひび割れなどの補修を行い、落下事故の防止と外観維持を図ります。
打診調査による劣化箇所の特定、部分的な張替えや再接着を実施し、広範囲に及ぶ場合は全面張替えも検討されます。
シーリング工事
外壁の目地やサッシ廻りなどの隙間を充填し、防水性・気密性を確保します。
劣化した既存のシーリング材(コーキング)を撤去し、新たに打ち替える「打替え工法」が主流です。
鉄部等塗装
鉄製の手すりや階段・扉など、サビ防止や美観維持を目的に塗装を行うため、塗料の耐久性が重要です。
ケレン後は、下地処理・下塗り・上塗りと段階を踏んで作業します。
建具・金物等
ドアや面格子・手すりなどの可動部や装飾部品の不具合を修理し、安全性・機能性を維持します。
必要に応じて建具の調整や交換を行い、蝶番やクローザーの補修・鍵の交換・金物の再固定なども行います。
共用内部(廊下・階段等内装)
居住者が、日常的に使用する共用空間の美観と安全性を保つことを目的とした内装工事です。
廊下・階段の壁や天井の塗装、床材(長尺シートなど)の張替え、照明設備の更新などが含まれます。
主な工事項目と工事回数別構成割合(%)
以下は、主な工事項目と工事回数別の構成割合です。
工事項目 | 1回目 | 2回目 | 3回目以上 |
屋根防水 | 12.1% | 17.2% | 12.9% |
床防水(バルコニー等含む) | 20.9% | 17.9% | 15.7% |
外壁塗装 | 21.6% | 23.4% | 28.8% |
外壁タイル | 18.5% | 10.5% | 7.1% |
シーリング工事 | 14.5% | 11.4% | 9.1% |
鉄部等塗装 | 6.6% | 6.9% | 8.8% |
建具・金物等 | 1.9% | 7.2% | 15.3% |
共用内部(廊下・階段等内装) | 3.9% | 5.5% | 2.4% |
参考:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
修繕積立金で足りる?不足分の対処法
マンションを購入すると、毎月の住宅ローン返済のほかに、管理費や修繕積立金を支払います。
このうち、大規模修繕の費用に充てられるのが「修繕積立金」です。
修繕積立金は、次の大規模修繕に備えて計画的に積み立てていくものであり、金額は各住戸の専有面積に応じて決められます。
金額設定はマンションの状況によって異なり、必要に応じて再検討されるケースも少なくありません。
もし修繕積立金が足りず、必要な大規模修繕工事ができない場合は、以下のような対応が考えられます。
- 一時金を徴収する:修繕積立金の不足分を区分所有者から「一時金」として徴収する方法です。総会決議が必要で、金額によっては区分所有者に大きな負担を強いるため、反対多数で否決される可能性もあります。メリットは金利がかからないことと、手早く不足分を補えることです。
- 不足額を借り入れる:金融機関などから修繕積立金の不足分を借り入れる方法です。こちらも総会決議を要しますが、一時金徴収よりは議決が通りやすい現実的な方法です。ただし、金利がかかるため、返済のために修繕積立金の増額が必要になる可能性があります。
- 修繕積立金を値上げする:毎月の修繕積立金を増額する方法です。総会決議が必要ですが、一時金の徴収と同様に反対意見が出やすい傾向にあります。不足分を補填できるまでにはある程度の時間がかかるため、工事が差し迫っていないマンションに限られるでしょう。
- 大規模修繕を延期する:上記のいずれの方法も難しい場合、大規模修繕を延期せざるを得ません。しかし、修繕積立金が足りないという理由で先延ばしにするのは望ましくありません。劣化が進み、さらに工事費負担が増える可能性が高くなるため、積立金を確保し、計画的に適切な修繕を行うことが重要です。
見積もり金額は妥当か?チェックポイント
大規模修繕工事は多額の費用がかかるため、提示された見積もり金額が妥当であるかを判断することが重要です。
見積もりを確認する際の主なチェックポイントをわかりやすく解説します。
相見積もりを行う
複数の業者から見積もりを提出してもらうことで、おおよその相場を把握できます。
各項目の費用を比較検討することで、不透明な部分を見つけやすくなります。
ただし、業者間でつながりがある可能性もゼロではないため、注意が必要です。
項目精査・工事内容の過不足
見積書の内容を細かく確認し、工事項目に過不足がないか精査しましょう。
管理会社任せにせず、管理組合が主体的に施工会社を吟味することが費用を抑える上で重要です。
第三者の専門家への相談
管理会社から提出される予算書や見積書の妥当性を判断できない場合は、建築士事務所やコンサルティング会社など、第三者の専門家にアドバイスを求めるのも有効な方法です。
利害関係のない専門家は、客観的にベストな施工時期や費用を抑えられる工事方法について助言できます。
大規模修繕工事では、追加費用が発生する可能性もゼロではありません。
例えば、補修・交換するタイルの枚数が想定よりも多かったり、工事を始めてみたら想定よりも劣化が進んでいたりする場合です。
対策として、見積もりの5%から10%程度の予備費を用意しておくことが望ましいとされています。
費用を抑えるためにできること
大規模修繕工事の費用を抑えるためには、以下の方法が挙げられます。
アフターサービスを活用する
築10年目までのマンションであれば、新築から2年、5年、10年といった期限付きで利用できる保証サービス(アフターサービス)を活用できる可能性があります。
構造耐力上、主要な部分や雨水の浸入を防止する部分については10年間の保証が受けられるケースもあるでしょう。
保証期限が切れる前に点検し、不具合が見つかれば無償で補修してもらえる可能性があります。
助成金・補助金を利用する
大規模修繕工事の内容によっては、国や地方自治体から補助金や助成金が支給される場合があります。
バリアフリー化や省エネ化・防音工事などが対象となるケースが多いでしょう。
助成金は条件を満たせば基本的に受け取れますが、補助金は枠数が決まっているため、期限や枠数をしっかり確認しておくことが大切です。
自治体によって内容が異なるため、事前に確認することをおすすめします。
複数の業者から見積もりをする
上記「見積もり金額は妥当か?チェックポイント」でも述べた通り、複数の施工会社から見積もりを取得しましょう。
比較検討することは、費用を抑える上で有効な方法です。
管理会社任せにしない
管理会社に大規模修繕工事を任せきりにすると、工事コストが高くなったり、管理会社への紹介料が発生したりして費用が高額になるケースがあります。
そのため管理組合が主体的に、工事の進捗状況や費用の詳細を定期的に確認することが重要です。
管理組合がコスト削減に対する意識を強く持ち、見積もり依頼の段階から施工会社に相談する姿勢を見せると、費用を抑えるための工夫をしてもらいやすくなります。
時期の選定
大規模修繕の準備には約2年かかります。
準備不足で直前になって慌てると、工事内容や費用が不透明なまま進められトラブルになることもあります。
劣化状況によっては工事時期を遅らせることでコストを抑えられる場合もありますが、遅らせすぎると劣化が進み、より高額な費用がかかるリスクもあるため、第三者機関の劣化診断で工事の必要性を判断することが推奨されます。
よくある質問(FAQ)
大規模修繕や費用に関する、よくある質問をまとめました。
修繕計画や資金準備を進めるうえでの参考にぜひお役立てください。
Q
修繕積立金が不足していたらどうなる?
A
修繕積立金が不足している場合、大規模修繕工事の実施が困難になります。
その結果、マンションの劣化が進み、安全性の問題や資産価値の低下を招く可能性があります。
不足分を補うためには、区分所有者から一時金を徴収する、金融機関から借り入れる、毎月の修繕積立金を値上げする、大規模修繕を延期するといった対処法が考えられます。
ただし、いずれの方法も課題を伴うため、早期に管理組合で話し合い、専門家にも相談することが重要です。
Q
高すぎる見積もりを断るには?
A
高すぎる見積もりを断るためには、まず複数の業者から相見積もりを取ることが基本です。これにより適正な相場を把握し、提示された見積もりが妥当かどうかを判断できるようになります。
また、見積もりの各項目を詳細に精査し、不必要な工事が含まれていないか、過剰な内容になっていないかを確認しましょう。
専門知識を持つ人が修繕委員会にいない場合でも、性別や年代・家族構成などさまざまな立場の人からバランス良くメンバーを選出し、意見交換をすることが大切です。
もし管理組合内で意見がまとまらない、建築の専門知識がないなどの場合は、建物や大規模修繕に詳しい建築士事務所や大規模修繕のコンサルティング会社など、第三者の専門家から意見をもらうのも有効な方法です。
第三者は工事の受注や斡旋を行わないため、客観的な立場から見積もりの妥当性を判断し、費用を抑えるためのアドバイスを提供してくれます。
Q
築15年だけど本当に大規模修繕は必要?
A
国土交通省の調査によると、マンションの大規模修繕の平均修繕周期は1回目が15.6年、平均で15.2年となっていますが、10〜12年で実施するマンションも多くあります。
築15年であれば、一般的に大規模修繕の時期が到来していると言えるでしょう。
しかし、個々のマンションの劣化状況やメンテナンス状況によって、大規模修繕の必要性や工事内容は異なります。
例えば、1回目の大規模修繕の際、屋上の防水などの補修程度で済む項目があれば、その分コストが下がることもあります。
本当に大規模修繕が必要かどうか、またどのような内容の工事が必要かを確認するためには、専門家による劣化診断を受けることが推奨されます。
この診断によって、現時点での建物の状態を正確に把握し、必要な修繕箇所や工事の優先順位を判断することができます。
これにより、過剰な修繕を避け、限られた資金の中で最適な工事計画を立てることが可能になります。
まとめ
マンションの大規模修繕は、マンションの資産価値を維持し、居住者の安心・安全な生活を確保するために不可欠な工事です。
工事には多額の費用がかかりますが、その内訳は仮設工事・外壁補修・防水工事など多岐にわたります。
特に2回目以降の修繕は、1回目よりも高額になる傾向があるため、長期的な視点での資金計画が重要です。
大規模修繕の費用は、主に修繕積立金から賄われますが、不足する場合には一時金の徴収・金融機関からの借り入れ・修繕積立金の値上げ、あるいは工事の延期といった対処法が考えられます。
適正な費用で質の高い工事を行うためには、管理組合が主体的に取り組み、準備段階からパートナーとなる会社選びや見積もりの精査に時間をかけることが大切です。
複数の業者から見積もりを取得したり、国や自治体の補助金・助成金を活用したり、築年数の若いマンションではアフターサービスを利用したりするなど、費用を抑えるための工夫も積極的に検討しましょう。
また不明な点や不安がある場合は、第三者の専門家に相談することで、客観的なアドバイスを得ることができ、トラブルを未然に防げます。
安心できる大規模修繕を実現し、マンションの長期的な維持管理のためにも、計画的に進めていきましょう。