2025.07.07
マンションの大規模修繕に必要な予算とは?費用相場・内訳・準備の進め方まで解説
マンションの大規模修繕工事は、建物の資産価値を維持し、快適な居住環境を守るために欠かせない取り組みです。しかし、工事費用は数千万円単位になることも多く、予算の立て方に悩む管理組合も少なくありません。本記事では、大規模修繕の予算に関する基本知識から費用の内訳、予算不足への対策などをわかりやすく解説します。
目次
大規模修繕にかかる予算の基本とは?
大規模修繕工事において、予算計画は工事の成否を左右する非常に重要な要素です。無計画な支出は、住民の生活に影響を及ぼすだけでなく、建物全体の安全性や美観の維持にも悪影響を及ぼします。ここでは、予算を考えるうえで押さえておくべき基礎知識を、より詳しく紹介していきます。
そもそも大規模修繕とは何か
大規模修繕とは、外壁の塗装、防水層の更新、鉄部の補修など、マンションの共用部分に対して周期的に行う修繕工事のことです。共用部の経年劣化を放置してしまうと、雨漏りや剥落事故、腐食による構造劣化などのリスクが高まるため、計画的に対処する必要があります。一般的には築12〜15年程度で1回目が行われ、その後も12年〜15年ごとの周期で実施されます。
なぜ予算計画が重要なのか?
大規模修繕は一度に大きな費用がかかるため、予算が不足していると工事の品質に影響が出たり、緊急での一時金徴収が必要になったりと、住民トラブルの火種になりかねません。資材費の高騰や、想定外の劣化箇所が見つかった場合など、想定より費用が増えることも多いため、余裕をもった計画と管理が求められます。早期から計画的に資金を確保することが重要です。
予算を立てるタイミングとスケジュール
予算計画は、長期修繕計画と連動して策定されます。基本的な流れは以下の通りです:
- 築5年目程度から長期修繕計画を策定し、修繕の時期と予算を試算
- 築10年以降に劣化診断を実施して、実際の修繕範囲や優先順位を判断
- 診断結果をもとに予算案・修繕範囲を調整し、必要な積立金水準を再確認
- 修繕2〜3年前から設計監理者の選定や業者選定を進め、予算案を固めて総会決議
これらの準備を段階的に進めることで、トラブルを防ぎ、住民の理解と協力を得ながら工事を進行させることができます。
大規模修繕の費用相場と主な内訳
予算を検討するには、まず大規模修繕の費用相場とその内訳を把握しておくことが欠かせません。費用の妥当性を判断するためには、一般的な単価だけでなく、自身のマンションの規模・構造・立地も考慮する必要があります。
一般的な費用相場(㎡単価・戸数別目安)
大規模修繕にかかる費用は、マンション1戸あたりで80万〜120万円程度が相場です。30戸の中規模マンションであれば、概算で2,400万〜3,600万円ほどが目安になります。規模が大きくなるほどスケールメリットが働くこともあり、単価がやや抑えられる傾向にあります。
戸数 | 予算目安 |
---|---|
10戸 | 約1,000万〜1,200万円 |
30戸 | 約2,500万〜3,600万円 |
100戸 | 約8,000万〜1.2億円 |
費用内訳の具体例(足場、外壁、防水、共用部など)
費用は多岐にわたる工事項目によって構成されており、それぞれの項目について適正な価格と工法の選定が求められます。
工事項目 | 単価(目安) | 備考 |
---|---|---|
仮設足場 | 約1,000〜2,000円/㎡ | 安全確保・全体工事の前提。高層階は高額になりがち |
外壁補修・塗装 | 約3,000〜6,000円/㎡ | クラック補修、タイル貼り替え、再塗装など含む |
屋上防水 | 約5,000〜9,000円/㎡ | ウレタン・シートなど工法により変動あり |
鉄部塗装 | 約1,500〜3,000円/m | 手すり、配管、機械室の鉄扉などに施工 |
給排水設備更新 | 約20万〜50万円/系統 | 屋上給水タンクやポンプ、排水管など含む |
共用照明・インターホン更新 | 約10万〜30万円/戸 | LED化・セキュリティ強化も目的となる |
1回目・2回目で費用がどう変わるか
1回目の大規模修繕は主に外装や防水などが中心ですが、2回目以降は給排水設備や電気設備、機械式駐車場の修理などが加わり、費用が1.5倍〜2倍近くになるケースもあります。また、建築時に省かれていた修繕仕様(バルコニー裏の塗装など)を追加することもあり、より精緻な積算と見積もりの読み解き力が必要となります。
予算が不足しているときの対策
予定していた積立金だけでは工事費が足りない場合、さまざまな対策を検討する必要があります。ここでは、主な対応策について具体的に解説します。
長期修繕計画とのズレにどう対応するか
工事費が予想を超えてしまう背景には、資材高騰や工事内容の追加などがあります。こうした場合は計画自体を見直し、次回工事と分割するなどの調整が必要です。また、計画に余裕を持たせていたか、定期的に計画を更新していたかどうかも大きな影響を与えます。
修繕積立金の見直し・一時金徴収
積立金が慢性的に不足している場合は、修繕積立金の引き上げや、一時金の徴収を検討することになります。住民説明会などで合意形成を丁寧に行うことが不可欠です。特に世帯数の多いマンションでは、意見の集約に時間がかかるため、早期の情報提供と透明性が求められます。
修繕ローンの利用方法と注意点
都市銀行や信用金庫では、マンション管理組合向けの修繕ローンを提供しています。借入金利は金融機関によって異なるため、複数社から提案を受け、総会で承認を得る流れが一般的です。審査には時間がかかるため、早期相談が鍵です。返済計画の明確化と、住民の理解を得ることが重要です。
助成金・補助金の活用例(自治体制度など)
各自治体によっては、省エネ改修や耐震化を伴う修繕に対して補助制度を設けている場合があります。補助対象となる条件(築年数、用途地域、省エネ性能など)は地域ごとに異なるため、早めに自治体窓口や専門業者へ相談しましょう。
例:
- 東京都:環境性能向上改修に対する補助制度(ZEH化や高効率照明更新)
- 横浜市:マンション改良工事助成(耐震・高齢者配慮改修、バリアフリー対応など)
補助金を活用することで、管理組合・住民双方の負担軽減につながるだけでなく、次回修繕に向けた積立の再構築もしやすくなります。
予算を適正に見積もるためのポイント
大規模修繕の予算を適正に見積もるには、単に過去の実績や概算値に頼るのではなく、建物ごとの現況や住民のニーズを反映させた精緻な調整が求められます。ここでは、見積もりを適正に行うために必要な視点とポイントを解説します。
建物診断と劣化調査の重要性
正確な見積もりの第一歩は「建物診断」です。外壁、屋上、鉄部、共用設備などの状態を把握するための劣化調査を専門業者に依頼し、その診断結果をベースに修繕対象と工事範囲を決定します。見えない部分の劣化が進んでいた場合、想定より大幅な修繕が必要になることもあります。調査結果を根拠として予算案を策定することで、見積もりの精度が格段に向上します。
修繕範囲と仕様を明確化する
予算の精度を高めるためには、工事の範囲と仕様を明確にしておくことが重要です。「どこを、どのレベルまで修繕するのか」「使用する材料はどのグレードか」などを曖昧なままにしてしまうと、業者ごとの見積もり金額にばらつきが生じ、比較・検討が難しくなります。特に外壁塗料や防水材などは価格差が大きいため、仕様書を丁寧に作成することが不可欠です。
見積書のチェックポイント
提出された見積書は、総額だけを見るのではなく、各工事項目の単価・数量・施工範囲・材料名などを細かく確認する必要があります。また、共通仮設費や諸経費などの割合も比較対象です。不明点がある場合は遠慮せずに質問し、納得できる説明を得ることがトラブル回避につながります。
相見積もりで適正価格を見極める
1社の見積もりだけでは、価格が妥当かどうか判断できません。複数業者(理想は3〜5社)から見積もりを取得する「相見積もり」によって、費用の適正性や提案内容の違いが明らかになります。同一仕様で比較するためにも、あらかじめ設計図書や仕様書を統一しておくことが大切です。
予算トラブルを防ぐために知っておきたいこと
大規模修繕の予算では、計画時と実際の工事で費用が乖離することがあります。こうしたトラブルは、事前の備えと情報共有で防ぐことが可能です。ここでは、よくある予算トラブルの原因とその対策を解説します。
予算オーバーの主な原因
予算を超過する要因には、資材価格の急騰、仕様変更、未把握の劣化箇所の発見、設計変更などが挙げられます。特に外壁タイルの剥離や防水層の深刻な劣化などは、仮設後に判明することも多く、追加費用の発生につながります。
また、住民の要望で設備グレードを上げたり、バリアフリー化を追加したりすることもコスト上昇の一因になります。予備費(全体予算の5〜10%)を初めから見込んでおくことが賢明です。
見積もりと実行額の乖離を減らす方法
乖離を減らすには、設計段階での情報精度を高め、施工業者と綿密な打ち合わせを重ねることが重要です。施工途中での仕様変更は極力避け、明確な目的と根拠をもって修繕項目を決定しましょう。また、工事監理者(設計監理の専門家)を第三者として入れることで、中立的な監視体制を確保できます。
管理会社・設計監理者との役割分担
予算管理においては、管理会社と設計監理者との役割分担も大切です。管理会社は主に日常業務の延長として契約や会計を管理し、設計監理者は専門的視点で工事内容と予算の妥当性を監督します。役割を混同せず、両者の意見を適切に使い分けることが成功のカギです。
予算の立て方と管理方法
適切な予算を組み、工事完了まで管理するためには、実際の運用事例を参考にしながら、準備と運用をセットで考えることが重要です。
例:30戸・50戸・100戸のマンション別予算の立て方と管理方法
規模 | 想定費用 | 予備費 | 修繕積立金からの充当 | その他資金手段 |
---|---|---|---|---|
30戸 | 約3,000万円 | 約300万円 | 約2,200万円 | 一時金+助成金 |
50戸 | 約5,000万円 | 約500万円 | 約3,500万円 | 修繕ローン活用 |
100戸 | 約1億円 | 約1,000万円 | 約8,000万円 | 一時金+積立増額 |
上記のように、戸数や築年数によって財政状況が異なるため、無理のない負担配分と資金調達方法を組み合わせることが大切です。
予算案は、理事会での検討を経て、総会での決議によって正式に確定されます。そのため、資料の精度と説明力が求められます。議事録の残し方や、反対意見への対応記録なども後々のトラブル回避に役立ちます。
実録!7階建てマンションの大規模修繕工事の流れと費用・施工事例
東京都墨田区にある7階建てマンションにて、ワンオーナー物件の大規模修繕工事を新東亜工業が対応しました。外壁の塗装やシーリングの補修、防水工事の必要性、見積比較の不安など、オーナー様の悩みに対しどのような提案と判断を行ったのか——その一連の流れを、実際の会話を交えながらご紹介します。
お問い合わせ〜現地調査|過去施工の確認と細部の劣化診断
工事のきっかけは「前回の色選びに失敗した」「屋上防水は5年前に済ませたが今回も必要か不安」といったメール相談でした。
お客様とのやり取り
お客様:「屋上の防水は5年前にやってるんですけど、それでもやるべきですか?」
新東亜工業:「一度状態を拝見してから判断しましょう。無理にやる必要がなければ省く判断もできます」
現地では図面をもとにバルコニーや外壁、庇などを細かく確認。シーリングの劣化が目立ったため、全撤去と打ち替えの提案を行いました。

お客様とのやり取り
新東亜工業:「ここのシーリング、かなりひび割れてます。全て打ち替えですね」
お客様:「これ全部やるとなると…かなりの距離ですよね?」
新東亜工業:「ざっと見ても1000mは超えてきます」
見積り提示|屋上防水の有無で2プラン提案+実数精算の説明
調査後は「屋上防水あり・なし」2パターンの見積を作成。各項目の違いと予算の幅をわかりやすく提示しました。
お客様とのやり取り
新東亜工業:「下地補修は“実数精算”になります。今見えてない部分も足場を組んでから補修範囲を確定します」
お客様:「100万円とか一気に増えることもありますか?」
新東亜工業:「状態は悪くないので10〜20万円程度の上下です。むしろ減る可能性もありますよ」
他社と比較されることも想定し、工事項目の説明や「新規打設」のリスクも正直に伝えました。
契約成立|「新規打設」との違いを丁寧に解説し信頼獲得
価格では他社より若干高めだったものの、工法や保証内容の丁寧な説明でご納得いただきました。
お客様とのやり取り
お客様:「他社には“新規打設”って書いてあります」
新東亜工業:「それは既存シールを撤去せず上からかぶせる方法で、密着不良やひび割れの原因になります。当社では必ず撤去・打ち替えを行います」
結果、「屋上防水なしプラン(852万円)」でご契約いただきました。
着工前の打ち合わせ|色決め・足場・近隣への配慮も徹底
工事前の打ち合わせでは、オーナー様が特に重視されたのが「色の選定」。過去2回の失敗を経て、今回は慎重に。
お客様とのやり取り
新東亜工業:「今回は色のイメージをどうされたいですか?」
お客様:「前の2回、どちらもイメージと違って…。今回は絶対に失敗したくない!」
色見本板を用意し、納得のいく色を選定。中学校敷地への足場越境や1階テナントのバイク駐輪スペース確保など、周辺環境への配慮も抜かりなく実施しました。
工事中の対応|トラブルの早期発見と柔軟な対応で信頼感
施工中には、前回業者が「増し打ち」を行っていた痕跡を確認。
お客様とのやり取り
新東亜工業:「やはり前回は増し打ちでしたね。しっかり撤去してから打ち換えますのでご安心ください」
お客様:「やっぱり!最初に“それはダメ”って言ってもらえて良かったです」
さらにバルコニー防水ではガス配管の位置により仕上げ調整を行うなど、現場での判断力も発揮。仕上がりにはご満足いただけました。
お客様とのやり取り
お客様:「本当にイメージ通りの外壁色で嬉しいです。母も喜んでました!」
引き渡しと今後の対応|最終確認と事務手続きまで丁寧に対応


完工後は外回りも含めた最終チェックを実施。仕上がりの満足度は非常に高く、保証書や請求書もスムーズに手配されました。
お客様とのやり取り
新東亜工業:「この庇も塗装・防水完了済みです」
お客様:「本当にきれいになってよかった。ありがとうございました!」
工事概要まとめ
- 契約金額:852万円(屋上防水なしプラン)
- 施工期間:約50日間
本事例を通じて、オーナー様の不安や悩みに寄り添いながら、適切な判断と施工を提供することの重要性が見えてきます。
「前回の修繕に不満がある」「見積内容が適正か判断できない」とお感じの方は、ぜひ一度ご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q
大規模修繕の予算はどうやって決める?
A
長期修繕計画、劣化診断結果、相見積もりなどを総合して、理事会と設計監理者が中心になって決定します。住民の意見も反映される形で総会決議が行われます。
Q
修繕積立金だけで足りますか?
A
築年数や過去の積立状況によりますが、足りない場合は一時金や修繕ローン、助成金の活用が検討されます。
Q
助成金をもらうにはどうすればいい?
A
自治体の制度を事前に調査し、申請要件や締切を確認のうえ、着工前に申請します。専門業者が申請代行してくれる場合もあります。
Q
業者によって見積もりがバラバラなのはなぜ?
A
提示している仕様や工法が違うことが多いためです。仕様書を統一したうえで比較し、施工実績や信頼性も加味して選定しましょう。
まとめ|大規模修繕の予算は「長期計画と柔軟性」が鍵
マンションの大規模修繕における予算づくりは、長期的な視点と柔軟な対応力が求められます。劣化診断をもとに適切な工事項目を選び、仕様を明確化したうえで複数業者から相見積もりを取得し、予算の妥当性を検討しましょう。
さらに、積立金だけで足りない場合の資金対策や、補助金制度の活用も視野に入れることで、住民にとって無理のない修繕が実現できます。管理組合が主体的に動き、透明性をもって予算を管理することが、安心できる住環境づくりの第一歩です。
大規模修繕工事・防水工事・外壁塗装・外壁補修参引用、参考サイト
国土交通省
特定非営利活動法人集合住宅管理組合センター
公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会
一般社団協会マンション管理業協会
一般社団法人日本防水協会
日本ペイント
独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)
一般社団法人 マンション大規模修繕協議会
日本ウレタン建材工業会
FRP防水材工業会
株式会社ダイフレックス(シーカ・ジャパン株式会社)