【賃貸経営】「修繕費をケチるか売却するか」で迷ったときに陥りやすい3つの勘違い
2026/01/23
一棟の賃貸物件を持っているオーナーであれば、いずれ必ず直面するのが「この修繕にここまでお金をかけるべきか」「修繕費を抑えて、いっそ売却も視野に入れるべきか」という悩みです。
外壁や屋上防水、共用部、設備の老朽化が目に見えて進み、管理会社や施工会社から「そろそろ修繕を検討した方がいい」と言われ始める。同時に、不動産会社から「今ならこのくらいの価格で売れますよ」という話が入ってくる。
「修繕費をケチるか、売却するか」。
この二択で頭がいっぱいになると、どうしても極端な判断に振れがちです。しかし、本来このテーマは「ケチるか売るか」という話ではなく、「何にどこまでお金をかけるか」「いつどの状態で出口を迎えるか」という話です。
この記事では、一棟の賃貸物件(アパート・マンション・小規模ビルなど)を所有している個人オーナーが、「修繕費をケチるか、売却するか」で迷ったときに陥りやすい3つの勘違いを整理します。
目次
なぜ「修繕費をケチるか売却するか」で迷いが深くなるのか
修繕の話が出たとき、多くのオーナーはまず「いくらかかるのか」に意識が向きます。
・外壁の塗装やタイル補修で数百万円〜数千万円
・屋上防水の更新で数百万円
・共用部や設備の更新を含めると、かなりの金額になる
こうした見積りを目の前にすると、
「ここまで払うくらいなら売った方が良いのではないか」
「でも、この状態で売却しても値引きされるだろうし…」
といった迷いが一気にふくらみます。
問題は、「修繕費が高い」ことそのものではありません。本当に厄介なのは、
・修繕にお金をかけた場合のメリットとデメリット
・売却した場合のメリットとデメリット
・何もしなかった場合に起きるリスク
これらを具体的に整理する前に、「ケチるか、売るか」という結論だけを出そうとしてしまうことです。
その結果、次のような勘違いに陥りやすくなります。
① 「修繕費を減らす=節約」と思い込んでしまう
② 「売るなら直さない方が得」と決めつけてしまう
③ 「今の感覚」だけで判断してしまう
順番に見ていきます。
① 「修繕費を減らす=節約」と思い込んでしまう
見積書を見た瞬間、多くのオーナーは「どこまで削れるか」に意識が向きます。
・この工事、本当に必要なのか
・仕様を落として、少しでも安くできないか
・別の業者に相見積りを取れば、もっと安くなるのではないか
こうした視点自体は間違っていません。むしろ、業者任せにせず、自分でも内容をチェックすることは大切です。
しかし、「金額を下げること」だけを目的にしてしまうと、本来必要な性能や耐久性まで削ってしまう危険があります。
例えば、
・安価な塗料や仕様に変更した結果、数年で再度塗り替えが必要になった
・防水の仕様を落としたせいで、数年後に雨漏りが再発した
・配管や設備の更新を先送りしたことで、トラブル対応に追われるようになった
このようなケースでは、「修繕費をケチったつもり」が、
・再工事のコスト
・入居者からのクレーム対応
・空室や賃料下落への影響
といった形で、長期的にはむしろ損になってしまいます。
大切なのは、「修繕費を減らすこと=節約」ではなく、
・どこにいくらかければ、何年持たせられるのか
・その結果として、家賃と入居率にどう影響しそうか
・トータルで見たときに、どの選択が一番得か
という視点で考えることです。
「とにかく安く」ではなく、「一番ムダが少ない修繕」を選ぶことが、本当の意味での節約につながります。
② 「売るなら直さない方が得」と決めつけてしまう
次に多いのが、「どうせ売るなら、もう修繕はしなくていいのではないか」という考え方です。
確かに、売却前に大きな修繕をしても、その金額がそのまま売却価格に上乗せされるとは限りません。
・2000万円かけて外壁をきれいにしても、売却価格が2000万円上がるとは限らない
・場合によっては、「きれいになった分」しか評価されないこともある
こうした話を聞くと、「売るなら直さない方が得だ」と感じるのは自然なことです。
しかし、ここには大きな勘違いが潜んでいます。
売却前に考えるべきなのは、
・直した方が良い修繕
・直さなくても良い修繕
ではなく、
・直さないと売却にマイナス影響が大きい部分
・直しても売却にはあまり関係ない部分
の見極めです。
例えば、
・明らかな雨漏り
・構造や安全性に関わる劣化
・買主や金融機関が特に気にするポイント(防水・屋根・外壁・配管など)
といった部分を放置して売却しようとすると、
・購入希望者がそもそも現れにくい
・現れても、大きな値引きを前提に話をされる
・金融機関の評価が伸びず、買主側の融資付けが難しくなる
といった形で、売却条件に大きく影響します。
一方で、
・見た目には気になるが、売却時にはそこまで大きく評価されない箇所のグレードアップ
・入居者向けの細かな設備追加
などは、売却までの期間や戦略によっては「今やるべきではない」ケースもあります。
つまり、「売るから直さない」か「持ち続けるから直すか」の二択ではなく、
・売るとしても直しておいた方が良い部分
・持ち続けるなら、しっかり直しておくべき部分
・どちらにしても、今は様子見で良い部分
を切り分けることが重要なのです。
③ 「今の感覚」だけで判断してしまう
三つ目の勘違いは、「今の感覚」だけで判断してしまうことです。
・今はまだ家賃も入っているし、大きなトラブルもない
・今この金額を出すのは重い
・売却の話を聞くと、何となく「もったいない」気がする
こうした感覚はとてもリアルですが、判断は「今」だけでなく、
・5年後、10年後にどうなっているか
・その時点で、どんな選択肢が残っていそうか
をイメージしたうえで行う必要があります。
例えば、
・今の家賃と空室率が、このまま5年続くとは限らない
・設備や外装の劣化が進めば、急な大規模修繕が避けられないかもしれない
・金利や税制、市場環境の変化で、今と同じ売却条件が続くとは限らない
にもかかわらず、「今はまだ困っていない」「今はお金を出したくない」という感覚だけで先送りを続けてしまうと、
・本来なら選べたはずの売却タイミングを逃す
・もっと良い条件で修繕や見直しができたタイミングを逃す
・結果的に、選択肢が少ない中で厳しい決断を迫られる
という状況になりがちです。
判断すべきなのは、「今どうしたいか」ではなく、
・数年先まで見据えたときに、どのタイミングで何をするのが一番納得できるか
です。
修繕と売却を比べるための、実務的な整理の手順
ここまでの3つの勘違いを踏まえたうえで、「修繕費をケチるか、売却するか」で迷ったときに、実務としてどう整理すべきかを簡単なステップに分解します。
ステップ1:建物の状態を「売却と修繕」の両方の視点で棚卸しする
・自分の目で、外壁・屋上・共用部・設備を一通り見て、気になる箇所を書き出す。
・過去の修繕履歴(いつ・どこを・いくらで工事したか)を一覧にする。
・「売却前に直しておかないとマイナスになりそうな部分」と、「持ち続けるならしっかり直しておきたい部分」を分けてみる。
ステップ2:収支と修繕・売却の数字をざっくり並べる
・年間の収支(家賃 − 経費 − ローン返済)をA4一枚でまとめる。
・今後5~10年のあいだに想定される大きめの修繕項目と、その概算費用を書き出す。
・不動産会社などからおおよその売却価格感を聞き、「今売った場合の手取り」を概算する。
・「修繕して5年持つ場合」と「売却する場合」で、ざっくりどのくらいの差になりそうかを比較する。
ステップ3:自分と家族のライフプランを確認する
・自分は何歳くらいまで賃貸経営の判断に関わるつもりなのかを書き出す。
・家族と「この物件をどうしたいか」(引き継ぐのか、売って資金に変えたいのか)を話してみる。
・「あと何年この物件を持ちたいのか」を仮決めし、その期間に見合った修繕・売却戦略を考える。
この三つのステップを踏むことで、
・修繕費を本当にケチるべきところ
・売却前でも最低限は整えておくべきところ
・今はあえて何もしない選択もあり得るところ
といった線引きがしやすくなります。
まとめ|「ケチるか売るか」ではなく、「どこにどうお金を使うか」を決める
「修繕費をケチるか、売却するか」で迷うとき、
・修繕費を減らすことだけが節約だと思い込んでしまう
・売るなら直さない方が得だと決めつけてしまう
・今の感覚だけで判断してしまう
この3つの勘違いが、判断をさらに難しくします。
本来、賃貸経営で考えるべきなのは、「ケチるか売るか」ではなく、
・この物件をいつまで持つ前提で考えるのか
・その前提の中で、どの部分にどれくらいお金をかけるのが一番ムダが少ないのか
・売却という選択肢も含めて、自分と家族にとって一番納得できる形は何か
ということです。
そのためには、建物の状態と数字、そしてライフプランを一度整理してみることが不可欠です。
それができれば、「修繕費をケチるか売却するか」という苦しい二択から、「いくつかの選択肢を比べて決める」という、ずっと楽な状態に変えていくことができます。