【賃貸経営】「修繕して持つか、売却するか」で迷ったときの優先順位
2026/01/27
外壁や屋上防水、共用部、設備の老朽化が目に見えて進み、管理会社からも「そろそろ大規模修繕を検討した方がいい」と言われ始める。
同時に、「このタイミングで一棟売却して、別の資産に切り替えた方が良いのではないか」という考えも浮かんでくる──まさに「修繕して持つか、売却するか」で頭が止まる瞬間です。
多くのオーナーが、
- 修繕が必要なら、いっそ売った方が楽なのではないか。
- とはいえ、この状態のまま売ってしまって良いのか。
- 修繕費をかけてまで賃貸経営を続ける意味があるのか。
といった考えの間を行き来し、結論が出ないまま時間だけが過ぎてしまいます。
この記事では、「修繕か売却か」で迷ったときに、どの順番で何を整理していくべきか──優先順位の付け方を3つのステップに分けてお伝えします。
目次
優先①:建物の状態を「修繕目線」と「売却目線」の両方で棚卸しする
最初にやるべきことは、「この建物はいま、どんな状態にあるのか」を、修繕と売却の両方の視点で棚卸しすることです。
ここをあいまいなまま、「修繕費が高いから売るべき」「どうせ売るなら直さなくていい」と感覚で決めようとすると、あとで数字と現実が合わなくなります。
確認したいのは、例えば次のようなポイントです。
- 外壁・屋上・バルコニー
- ひび割れ・浮き・漏水跡など、目に見える劣化の有無。
- 前回の大規模修繕から何年経っているか、工事履歴が分かるか。
- 共用部
- 廊下・階段の防水、手すり、照明、ポスト、インターホンなどの状態。
- 見学時の第一印象として、「古いが清潔」なのか、「古くて傷んでいる」のか。
- 設備・配管
- 給水・排水設備、電気設備、給湯器などの更新履歴。
- ここ数年、設備トラブルや漏水事故がどの程度起きているか。
この棚卸しは、
- 修繕の優先度と概算規模を把握するため。
- 買主(将来の購入者)がどう見そうかを想像するため。
の両方に効いてきます。
劣化診断や建物調査を専門会社に依頼すれば、より精度の高い情報が得られますが、まずは自分の目で一通り見て、「気になる箇所」を書き出すことからで十分です。
ここを飛ばして「修繕費の見積り」だけを先に取ると、金額だけが一人歩きして、「高い/安い」の感覚論で迷いが深くなってしまいます。
優先②:修繕して持つ場合と、今売る場合の“ざっくり収支”を並べる
建物の状態がある程度見えたら、「修繕して持つ」場合と「今売る」場合のざっくり収支を並べてみます。
ここで求めたいのは、1円単位の正確な数字ではなく、「どちらのシナリオにどのくらいの厚みがありそうか」という感覚です。
【2-1. 修繕して持つ場合】
例えば、今後5〜10年をイメージして、次のような項目をざっくり書き出します。
- 想定する年間家賃収入(賃料の下落や空室率も少し保守的に見る)。
- 管理費・修繕費・固定資産税・ローン返済など、毎年かかるコスト。
- 先ほど棚卸しした修繕のうち、「この期間に実施すると想定するもの」と、その概算費用。
これをもとに、
- 「修繕をしたうえで、5〜10年持った場合に、手残りはいくらくらいになりそうか」。
- 「修繕を最低限に抑えた場合、入居率や賃料にどんな影響が出そうか」。
を、2パターンくらいでざっくりイメージします。
【2-2. 今売る場合】
一方、「今売却した場合」の数字もシンプルに整理します。
- 不動産会社などから聞いた、想定売却価格(幅があってもよい)。
- 現在のローン残債。
- 売却にかかる諸費用(仲介手数料・税金など)の概算。
これらを並べることで、
- 「今売った場合の手取り」がどのくらいか。
- 「修繕して持つ場合の5〜10年分の手残り」と比べて、どの程度の差がありそうか。
が見えてきます。
ここで大事なのは、「修繕して持つ」と「今売る」のどちらが1円でも得か、を完璧に決めようとしないことです。
不確実な要素(将来の賃料・金利・修繕単価など)が多い以上、「条件次第で変わる」のは当然であり、必要なのは
- どちらのシナリオにも、それなりのメリットとリスクがある。
- 自分がどの程度のリスクと手間を許容できるか。
を、数字を眺めながら確認することです。
優先③:「売る・持つ」の前に、“どこまで直しておくか”を分けて考える
「修繕か売却か」で迷いが深くなる理由の一つは、「売るなら直さない」「持つなら直す」という二択で考えてしまうことです。
実務的には、
- 売るとしても、最低限ここまでは整えておいた方が良い部分。
- 持ち続けるなら、しっかり修繕しておくべき部分。
- どちらにしても、今は様子見でよい部分。
を切り分けて考える必要があります。
【3-1. 売るとしても、直しておいた方が良い部分】
売却前の修繕は、「やれば必ず高く売れる」というものではありません。
しかし、次のような部分は、最低限整えておいた方が、売却活動がスムーズになりやすいとされています。
- 明らかな漏水・雨漏り箇所の応急処置や原因特定。
- 安全面に関わる箇所(手すり・階段・共用部照明など)の不具合。
- 空室住戸の原状回復(賃貸募集が全くできないひどい状態は避ける)。
これらを何もせずに売却に出すと、
- 購入検討者が内見で強い不安を感じる。
- 想定以上の値引き要請を受ける。
- 売却期間が長期化し、そのあいだの空室リスクや維持費が増える。
といった形で、結局オーナー側の負担が大きくなりがちです。
【3-2. 持ち続けるなら、腰を入れて修繕すべき部分】
「当面は持ち続ける」という前提なら、賃貸としての安全性・快適性に直結する部分は、ある程度腰を入れて修繕しておく必要があります。
- 外壁・屋上防水・バルコニーなど、建物全体の保護に関わる部分。
- 給排水設備・電気設備など、トラブル時の影響が大きいインフラ部分。
- エントランス・共用部の劣化が入居率や賃料に直結している場合。
このあたりを放置すると、
- 入居者からのクレーム増加。
- 退去の増加と賃料下落。
- 将来売却する際の評価低下。
という形で、“見えないコスト”として返ってきます。
【3-3. 今は様子見でもよい部分】
一方で、「どちらにしても今は様子見でよい」部分もあります。
- デザイン性のためのリフォーム(高級仕様へのグレードアップなど)。
- 現時点で入居者からほとんど要望が出ていない設備の追加。
- 売却前提なら、買主側で好みに合わせてリフォームできる部分。
こうした箇所は、売却時に「現状有姿」で引き渡しつつ、その分価格に反映させる(値引き要素として織り込む)という形も取り得ます。
つまり、「売るから直さない/持つから直す」という二択ではなく、
- 売るにしても直す。
- 持つならしっかり直す。
- どちらでも今は直さない。
という三つに分けて整理すると、「修繕費をケチるか、売るか」という発想から抜け出しやすくなります。
まとめ|「ケチるか売るか」ではなく、「前提を決めてから順番に考える」
「修繕して持つか、売却するか」で迷ったとき、
- 修繕費の金額だけを見て、「高い/安い」で判断しようとする。
- 「売るなら直さない方が得だろう」と決めつける。
- いつまで持つつもりなのか、自分の出口の前提を決めない。
といった状態のままだと、考えれば考えるほど判断が難しくなっていきます。
大切なのは、「ケチるか売るか」という二択ではなく、
- 優先①:建物の状態を、修繕目線と売却目線の両方で棚卸しする。
- 優先②:修繕して持つ場合と今売る場合の“ざっくり収支”を並べてみる。
- 優先③:「売る・持つ」の前に、“どこまで直しておくか”を三つに分けて考える。
という順番で整理することです。
そのうえで、
- 「あと何年この物件を持つつもりか」。
- 「その期間、自分はどの程度の手間とリスクを許容できるか」。
を自分なりに言葉にしてみると、「修繕して持つ」「一定期間持ってから売る」「早めに売る」といった選択肢の中から、自分にとって納得感のある答えを選びやすくなります。