【ビル経営】中小オフィスビルを「賃料を下げて埋めるか・売却して入れ替えるか」で迷ったときの判断軸
2026/01/23
中小規模のオフィスビルを所有していると、ある時期から必ず気になってくるのが「空室」と「賃料水準」の問題です。
・以前よりテナントの入れ替わりが増えた
・空室が長引くフロアが出てきた
・仲介会社から「賃料を下げれば決まる可能性があります」と言われている
こうした状況の中で、
「賃料を下げてでも満室を目指すべきか」
「改装や設備更新で価値を上げるべきか」
「いっそ一棟売却して、別の資産に入れ替えるべきか」
で迷うオーナーは少なくありません。
この記事では、中小オフィスビル(おおむね延床数百〜数千平米クラス)を所有している個人・法人オーナーが、「賃料を下げて埋めるか・売却して入れ替えるか」を判断するときに、最初に整理しておきたい軸を3つに絞ってお伝えします。
目次
なぜ中小オフィスビルの判断は難しくなるのか
中小オフィスビルは、大型ビルと比べてテナントとの距離が近く、長期入居が続けば安定した賃料収入を得やすいという特徴があります。
一方で、
・周辺に新しいビルやセットアップオフィスが増えてくる
・テレワークや働き方の変化で、オフィス面積を縮小する企業が出てくる
・築年数が進み、設備や外観の古さが目立ち始める
といった要因が重なってくると、「以前と同じ条件では決まりにくくなる」という状況に陥りがちです。
このとき、
・賃料を下げれば決まりそうだが、収益が落ちる
・改装すれば決まりそうだが、投資額が大きくて踏み切れない
・売却すればスッキリするが、本当に今が売り時なのか自信が持てない
という三重苦のような迷いが生まれます。
さらに厄介なのは、賃料を安易に下げることが、
・将来の収益性
・ビルの評価額(収益還元価値)
・出口としての売却条件
に直結してしまう点です。
家賃を下げることは、「一時的に空室を埋める」だけでなく、「将来の売却価格を下げる」ことにもつながるため、「とりあえず値下げで埋めておこう」という発想は、オフィスビル経営では特に慎重であるべきだと指摘されています。
では、どう判断すればいいのか。
重要なのは、次の3つの視点から整理することです。
① 賃料を下げた場合の「収益と資産価値への影響」
② 改装・設備更新をした場合の「投資回収と競争力の変化」
③ 売却した場合の「手取り」「再投資先」「タイミング」
順番に見ていきます。
① 賃料を下げた場合の「収益と資産価値への影響」を見えているか
まず押さえておきたいのは、「賃料を下げることの本当のコスト」です。
賃料を下げると、当然ながら毎月の家賃収入は下がります。しかし、それだけではありません。収益還元法で評価される収益不動産においては、賃料の減額はそのまま資産価値の低下につながります。
例えば、
・月額賃料を1坪あたり1,000円下げた
・対象面積が50坪のフロアであれば、月5万円の減収
・年間では60万円の減収となる
これを、収益還元価値の目安である「年間賃料収入の○倍」という感覚で見ると、
・年間60万円の減収 × 15〜20倍(利回り5〜6.7%想定)
→ 資産価値としては900万円〜1,200万円減少するイメージになる
といったように、賃料の数万円の減額が、売却時の価格に大きく影響し得ることがわかります。
また、日本の賃貸慣行には「継続賃料」という概念があり、一度下げた賃料を元に戻すことは簡単ではないと指摘されています。
・テナントとの信頼関係
・市場の賃料水準
・契約内容の変更交渉
など、さまざまな要素が絡むため、「下げるのは簡単だが、上げるのは難しい」というのが実態です。
このため、賃料値下げは
・最後の手段
・他の施策(条件面・フリーレント・内装工事など)を試してもなお埋まらない場合
に行うべきだとされることが多いのです。
つまり、「とりあえず賃料を下げて埋めておく」という判断は、
・短期的には空室が埋まり、安心感が得られるかもしれない
・中長期的には収益と資産価値を下げ、売却時の選択肢を狭める可能性がある
という点を踏まえたうえで検討すべきということです。
② 改装・設備更新をした場合の「投資回収と競争力の変化」を比較できているか
賃料を下げる以外の選択肢として出てくるのが、「改装・設備更新」です。
・エントランスや共用部のリニューアル
・トイレや給湯スペースの更新
・照明をLEDに変更し、デザイン性と省エネ性を高める
・フロアを小割りにして小規模オフィス需要を取り込む
こうした取り組みは、築古オフィスビルの競争力を高める手段として有効だとされています。
例えば、最近では、
・大きなフロアを複数の小規模区画に分割して、スタートアップや小規模オフィスのニーズを取り込む
・内装付き・家具付きの「セットアップオフィス」として、入居初期コストを抑えたいテナントに訴求する
といった再生事例も増えています。
しかし、改装・設備更新にはそれなりのコストがかかるため、「いくら投資して、どれくらいの期間で回収できるのか」を見極める必要があります。
例えば、
・フロア改装費:1フロアあたり1,000万円
・改装後の賃料アップ:1坪あたり2,000円アップ
・対象面積:50坪
とすると、
・月の増収:2,000円 × 50坪=10万円
・年間の増収:120万円
単純計算では、約8〜9年で投資を回収するイメージになります。
これを、
・自分がそのビルをあと何年持つつもりなのか
・エリアのオフィス需要が今後どうなりそうか
と照らし合わせて考える必要があります。
もし、
・あと10年以上はビル経営を続けるつもり
・エリアとしてもオフィス需要が底堅い
というのであれば、投資回収期間8〜9年の改装は選択肢になり得ます。
一方で、
・あと5年〜7年の間に売却も視野に入れている
・周辺に競合ビルが増えており、将来の賃料維持に不安がある
という場合、投資回収期間の長い改装はリスクが高くなります。
大事なのは、「賃料を下げる」ことと「改装・設備更新」による「賃料アップ・成約率アップ」を、
・投資金額
・投資回収期間
・資産価値への影響
の軸で比較することです。
③ 売却した場合の「手取り」「再投資先」「タイミング」をイメージできているか
三つ目の視点は、「売却」という選択肢です。
オフィスビルは、立地や規模、用途によっては、比較的売却しやすい資産とされています。
・安定したテナントが入っている
・一定の収益性が維持されている
・エリアとしての需要が見込める
こうした条件が揃っていれば、「売りたいときに売れる」可能性は十分あります。
一方で、
・空室が増え、賃料も下げざるを得ない状態
・設備や外観の老朽化が進み、収益性が落ちている状態
になってから売ろうとすると、
・売却価格が想定よりも低くなる
・買主の融資付けが難しくなり、成約まで時間がかかる
といったリスクが高まります。
したがって、「賃料を下げるか」「改装するか」と同時に、
・今売った場合に、実際に手元にどれくらい残るのか
・売却資金をどこに再投資するのか、あるいは事業やライフプランにどう使うのか
・売却を先送りすることで、どのようなリスクが増えていきそうか
を一度イメージしておくことが重要です。
例えば、
・現在の満室想定賃料と空室率から、現状の収益を整理する
・賃料を下げるシナリオ、改装して賃料を上げるシナリオ、それぞれで数年後の収益をざっくり比較する
・不動産会社や専門家に相談して、現時点での売却価格の目安を把握する
といったステップを踏むと、
・「もう少し手を入れてから売った方が良い」のか
・「条件が悪化する前に早めに売った方が良い」のか
の判断材料が揃ってきます。
中小オフィスビルオーナーのための実務ステップ
ここまでの3つの視点を踏まえて、「賃料を下げて埋めるか・売却して入れ替えるか」で迷っている中小オフィスビルのオーナーが、実際に取るべきステップを整理してみます。
ステップ1:現在の賃料と空室の状況を棚卸しする
・各フロア・各区画の賃料単価、共益費、契約面積を一覧にする。
・満室想定賃料と、現在の実際の賃料収入(空室を含めた賃料収入)を比較する。
・ここ1〜2年の解約理由や、内見数・申込み率などを管理会社や仲介会社から聞き出す。
ステップ2:値下げ以外の空室対策を検討する
・家賃を下げずに済む方法(フリーレント・敷金礼金の調整・成約時のインセンティブなど)を整理する。
・内装付き・セットアップオフィス、小割り化など、ビルの構造を活かした提案の可能性を検討する。
・それぞれの施策のコストと期待効果(賃料アップ・成約率アップ・空室期間短縮)をざっくり数字にしてみる。
ステップ3:賃料を下げた場合の影響を試算する
・「現状より○%賃料を下げた場合」の年間減収額を計算する。
・収益還元価値への影響(年間減収額 × 想定利回りの逆数)を概算する。
・「空室が埋まることでのメリット」と「賃料・資産価値が下がるデメリット」を比較してみる。
ステップ4:改装・設備更新の投資回収を試算する
・検討している改装・設備更新の内容と概算費用をリストアップする。
・改装後に見込める賃料アップと空室短縮効果を整理する。
・「投資額 ÷ 年間の増収」で投資回収年数をざっくり算出し、自分の保有期間と照らし合わせる。
ステップ5:売却した場合のシナリオを作る
・現時点での売却価格の目安を、不動産会社や査定サービスなどを通じて把握する。
・ローン残債や税金、諸経費を差し引いた「実際の手取り」を概算する。
・売却資金の使い道(別の不動産への再投資、事業資金、借入返済、老後資金など)を家族や関係者と話し合う。
ステップ6:三つのシナリオを比較する
・シナリオA:賃料を下げてでも空室を埋め、しばらく保有を続ける。
・シナリオB:改装・設備更新を行い、賃料と競争力を高めたうえで保有を続ける。
・シナリオC:条件が大きく悪化する前に、売却して次の一手に切り替える。
それぞれのシナリオについて、
・5年〜10年スパンで見たときの手残りのイメージ
・自分と家族のライフプランや事業方針との整合性
・リスクと手間をどこまで許容できるか
を比較してみることで、「何となく賃料を下げる」「何となく売却を先送りする」という状態から抜け出しやすくなります。
まとめ|「賃料を下げて埋めるか・売却して入れ替えるか」は同じテーブルで比較する
中小オフィスビルのオーナーにとって、「賃料を下げて埋めるか・売却して入れ替えるか」というテーマは、避けて通れない判断です。
ただし、
・空室が続いて不安だから賃料を下げる
・今すぐ売る理由はないから、とりあえず保有を続ける
といった感覚ベースの判断だけでは、長期的な収益と資産価値を守るのは難しくなります。
・賃料を下げることで、収益と資産価値にどんな影響が出るのか
・改装・設備更新によって、どれくらいの投資でどれくらいの効果が見込めるのか
・売却した場合の手取りと再投資先、そしてタイミング
これらを同じテーブルに並べて比較することで、
・「賃料調整で粘るべき局面」なのか
・「改装・再生に踏み切るべき局面」なのか
・「売却して次の一手に資源を移すべき局面」なのか
が、徐々に見えてきます。
賃料を下げる前に、一度立ち止まって、ここまでの視点とステップを使って自分のビルの状況を整理してみてください。それが、後悔の少ないオフィスビル経営と、納得のいく「次の一手」につながっていきます。