【賃貸経営】修繕費が読めないせいで「いくらなら売ってもいいか」が決められない理由
2026/01/26
賃貸経営を続けていると、「この物件を、いくらなら売ってもいいのか」を一度は考えるタイミングが訪れます。
ところが実際に数字の話になると、「この先どれくらい修繕にお金がかかりそうか分からないから、売るべきかどうか判断しきれない」と感じ、結局「今はまだ動かなくていいか」と先送りしてしまうオーナーは少なくありません。
特に、築20年前後を超えた一棟マンション・アパート・小規模ビルでは、外壁や屋上防水、共用部、配管や設備の更新など、まとまったコストがかかりそうな要素が一気に目につくようになります。
「修繕費が読めない」ことで、売却価格の提案を聞いてもピンとこない、ローン残債を返して手元にいくら残るのかイメージできない──その結果、「いくらなら売ってもいいか」という肝心なラインが決められないまま、時間だけが過ぎていきます。
この記事では、修繕費が読めないことが、なぜ売却ライン(いくらなら売るか)を決められない原因になるのかを整理します。
そのうえで、「修繕費を完璧に読み切る」のではなく、「売却と保有を比べるために必要な粗さ」でイメージを持つための考え方をお伝えします。
目次
なぜ修繕費が読めないと「売却の数字」が固まらないのか
売却ラインを決めるとき、多くのオーナーは頭の中で次のような計算をしています。
・今売ったら、ローン残債を返していくら残るのか
・税金や諸費用を払ったあと、手元に残るお金はいくらになりそうか
・売らずに持ち続けた場合と比べて、どちらが“トータルで得”と言えそうか
ここに「これからかかる修繕費」が絡んでくると、一気に話がややこしくなります。
例えば、こんな会話になりがちです。
- 仲介会社から「今なら○○○○万円前後で売れそうです」と言われる
- それを聞いても、「でも、この先の大規模修繕を考えると、今売るべきなのか、持っていた方がいいのか分からない」と感じる
- 「もし数年後に大きな修繕が発生するなら、今売った方が良かったことになるかもしれない」
- 逆に「今そこまで費用をかけずに済むなら、もう少し持っていてもいいのかもしれない」
どちらの可能性も頭に浮かぶのに、肝心な「修繕にどれくらいかかりそうか」が分からないため、売却後の手取りと比較して判断することができません。
その結果、「今の売却価格が高いのか安いのか」「今が売り時なのか、もう少し待った方がいいのか」という、一番知りたいラインが決められないままになってしまいます。
もう少し具体的なイメージで見てみます。
- ローン残債:3,000万円
- 想定売却価格:5,000万円と言われている
- 売却諸費用や税金をざっくり差し引いて、手元に2,000万円弱は残りそう
ここで、頭の中に「でも、これから大規模修繕で1,000万円クラスがかかるなら、今売っておいた方がいいのでは?」という不安と、
「とはいえ、そこまでかからないなら、あと数年持って家賃収入を得ながら様子を見てもいいのでは?」という期待が、同時に浮かびます。
このとき、「修繕にだいたいこのくらいかかりそうだ」というイメージがゼロだと、
- 今売却したときの“実質のメリット(手元に残るお金)”
- 今売らずに持ち続けたときの“実質のメリット(家賃収入から修繕費を差し引いた残り)”
を比較することができません。
比較ができないと、最終的には「数字で判断できないから、今は決めない」という結論に流れやすくなり、「売るか・続けるか」の判断が先延ばしされていきます。
「売る前に全部直す前提」が、判断をさらに曇らせる
売却ラインを決められなくする、もう一つの大きな要因が「売るなら、先に一通り直しておかないといけないのでは」という思い込みです。
築年数が進んだ物件を持っているオーナーほど、次のような心配を口にします。
- 外壁や屋上防水に年数相応の傷みが出てきている
- 共用部やエントランス、設備に古さが見えてきている
- 室内の原状回復費も、以前よりかさむようになってきた
こうした要素がいくつも重なって頭の中に並ぶと、「このまま売るのは買主に申し訳ない」「あとで修繕のことで何か言われるのが怖い」と感じやすくなります。
すると、考えはこう進みがちです。
・売るにしても、この状態をある程度きれいにしてからの方が良さそうだ
・でも、そのためにいくらかかるかが分からない
・だから、いくらで売れば納得できるのかも決められない
・結果として、「今はまだ売るタイミングではない」と自分を説得してしまう
実務の世界では、売却のやり方にはいくつかのパターンがあります。
- 現状有姿(現状のまま)で売却し、その分価格や条件で調整する
- 最低限、指摘されやすい部分だけを是正したうえで売却する
- ある程度テコ入れをして、賃料や見栄えを整えてから売却する
ところが「売るなら、まず全部直してから」という前提で考えてしまうと、修繕費が読めないことがそのまま「売却の話を出せない理由」に変わってしまいます。
本来は、
- どこまで整える前提で売るのか
- 現状のまま売るなら、どの程度の価格調整・条件提示でバランスを取るのか
といった、売り方の選択肢を検討できるはずです。
それにもかかわらず、「全部直すか、売らないか」の二択に自分を追い込み、結果として「今はまだいいか」という結論に落ち着いてしまう──これが、売却ラインがいつまでも決まらない一因になっています。
ざっくりでも「修繕+売却」のイメージを持つための考え方
では、どうすれば「修繕費が読めないから決められない」という状態から一歩前に進めるでしょうか。
ポイントは、「完璧に読み切る」のではなく、「売却と保有を比べるために必要な粗さ」でイメージを持つことです。
考え方の一例として、次のようなステップがあります。
- この先10年前後で避けられなさそうな“大きめの修繕”だけを拾う
外壁、屋上・バルコニー防水、共用部、配管や主要設備など、「ここが一度も手を入れていない」「前回からかなり時間が経っている」と感じる部分に絞って洗い出します。
細かい修繕や室内の原状回復は、一旦“日常的に発生するもの”として脇に置き、まずはまとまった金額になりそうなものだけを見ていきます。 - 金額は“幅”でイメージする
一つひとつの工事を正確に積算するのではなく、「この規模の工事をいくつかまとめてやるとしたら、最低でもこのくらい、多くてこのくらい」という“レンジ”で考えます。
例えば、「ざっくり数百万円台で済みそうか」「1,000万円を超える規模になりそうか」といった、感覚的な区切り方でも問題ありません。 - そのレンジを、「自分はどこまで許容できるか」という目線で見る
「この物件のために、今後10年で○○○万円くらいまでなら、自分は出してもいいと思えるかどうか」という、自分自身の許容ラインと照らし合わせてみます。
ここで「正直、そこまで出すくらいなら売ってしまいたい」と感じるのか、「そのくらいなら、家賃収入と合わせてまだ十分メリットがある」と感じるのかで、見え方が変わります。 - 修繕を含めたうえで、「いくらなら売ってもいいか」を仮決めする
ある程度の修繕イメージが持てたら、「このくらいの修繕を含めて考えるなら、○○○○万円以上で売れるなら手放す、そこまで届かないなら持ち続ける」といった“仮の基準”を一度言葉にしてみます。
ここで大事なのは、「仮でいい」と割り切ることです。あとで情報が増えたり、売却価格の目安が変わったりすれば、その都度修正すれば構いません。
こうしたステップを踏むと、「修繕費が読めないから、売る・売らないを決められない」という状態から、「完全ではないが、自分なりの物差しは持てている」という状態に近づきます。
その物差しができて初めて、不動産会社から提示された売却価格や、管理会社から聞いた修繕の目安が、「高い・安い」「やる・やらない」の判断材料として機能し始めます。
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まとめ|「決められない理由」を言語化するところから始める
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「修繕費が読めないから、いくらなら売ってもいいか決められない」という状態は、慎重さの裏側に“判断を止めてしまう要因”が隠れています。
その要因は、
・将来の修繕コストがまったくイメージできないこと
・売るなら全部直さないといけない、という前提を無意識に置いてしまうこと
・修繕と売却を、同じテーブルの上で比べるための“粗い数字”を持てていないこと
といったところにあります。
すべてを一気に解決する必要はありません。
まずは、
・「この物件のために、今後どのくらいまでなら修繕費を出してもいいと思えるか」
・「その前提で、いくら以上なら売ってもいいと言えるか」
という二つの問いを、自分の言葉でノートに書き出してみるところから始めてみてください。
その小さな整理が、「何となく決められない」という状態から抜け出し、賃貸経営の次の一手を自分で選べる土台づくりにつながっていきます。