【賃貸経営】「修繕を前提に考えるか」「売却を前提に考えるか」で頭が止まる理由
2026/01/26
賃貸経営を続けていると、あるタイミングで必ず浮かんでくるのが「この物件は修繕してでも持ち続けるべきか」「それとも売却を前提に見直すべきか」という問いです。
どちらの選択肢にもメリットとリスクがあることは分かっているのに、実際に決めようとすると「どちらの前提で考えるのが正解なのか分からない」と感じ、結局どちらにも踏み切れないまま数年が過ぎてしまう──そんな状態にハマっているオーナーは少なくありません。
特に、築20年・30年と年数を重ねた一棟マンションやアパート、小規模ビルでは、外壁や屋上防水、共用部、配管や設備の更新など、大きな修繕のテーマが一気に押し寄せてきます。
一方で、「ローン完済まであと何年か」「相続や世代交代をいつ頃に迎えるのか」「自分の仕事やライフプランをこの物件にどれだけ紐づけるのか」といった長期的な視点も絡んできて、「修繕前提」と「売却前提」の間で堂々巡りになりやすい局面です。
この記事では、「修繕を前提に考えるか」「売却を前提に考えるか」という二つの前提の間で迷うとき、なぜ頭が止まりやすいのかを整理します。
そのうえで、どちらか一方を“正解”として探すのではなく、「自分にとって納得できる前提」を選びやすくするための考え方の順番をお伝えします。
目次
なぜ「前提」を決めないまま検討を始めると迷子になるのか
多くのオーナーがやってしまいがちなのは、「修繕前提」と「売却前提」の両方を、はじめから同じテーブルに載せて一度に比べようとすることです。
一見すると公平な検討のように思えますが、実際にはこれが“思考停止”の入り口になっているケースが少なくありません。
頭の中では、こんな往復が繰り返されています。
- 修繕して持ち続ければ、当面の家賃収入は残るし、ローン完済後も収益源として期待できる
- でも、大規模修繕や設備更新に大きなお金が必要になるなら、その分を差し引くと「思ったほど手元に残らないのでは」と不安になる
- 一方で、今売却してしまえばローン残債を整理できて、手元資金を別の不動産や事業、老後資金に振り向けることができる
- ただ、ここまで維持してきた物件を手放してしまうのは惜しく、将来の家賃収入という“ストック”を自分から手放すことにもつながる
どちらの選択肢にも「こうなったら良い」という期待と、「こうなったら困る」という不安がセットで存在します。
そのため、片方に寄せて考えようとすると、必ずもう片方の“もったいなさ”や“怖さ”が頭をもたげ、「やっぱり今決める必要はないのでは」と感じやすくなります。
ここで見落とされやすいのは、「修繕前提」と「売却前提」が、それぞれまったく違う物差しと時間軸で物事を見ているという点です。
違う物差しで評価すべきものを、同じ基準で一気に比べようとするため、いくら情報を集めても、どれだけ数字を並べても、「結局どちらがいいのか分からない」という感覚だけが残ってしまいます。
例えば、次のようなケースをイメージしてみてください。
- 築27年・RC造一棟マンション
- 戸数:20戸、現在の入居率は9割前後
- 毎月の家賃収入:120万円前後、ローン返済や管理費・修繕費を差し引いた手残りは月40万円程度
このオーナーが、「修繕前提」と「売却前提」を同時に考えると、
- 10年持てば、単純計算で家賃収入は総額1億4,000万円。ここから修繕費・空室・税金などを引いても、それなりのプラスは残りそう
- でも、大規模修繕で2,000万〜3,000万円クラスが必要になるなら、その分を差し引いたときの“実質の残り”がどの程度か分からない
- 一方で、今5,000万円台後半〜6,000万円台で売れるとしたら、ローン残債を返して2,000万円弱が手元に残るかもしれない
- ただ、その2,000万円をどう使うのか、今の時点で具体的なイメージを持てていない
というように、どちらも「ありそう」で「怖い」未来が同時に存在してしまい、どちらにも決め手を見いだせないまま立ち止まってしまいます。
「修繕前提」と「売却前提」は、時間軸とゴールがそもそも違う
「修繕前提で考える」というのは、“この物件と今後も付き合っていく”という前提に立つことです。
一方、「売却前提で考える」というのは、“近い将来でこの物件の役割に区切りをつける”という前提に立つことです。
それぞれ、見ているポイントはかなり違います。
【修繕前提で見たときの主な視点】
- 今後10〜20年スパンで見て、家賃収入からローン返済・修繕費・税金などを差し引いても、トータルでどれくらいプラスが残りそうか
- 空室リスクや賃料下落、追加の修繕といった“ブレ”を織り込んだうえで、「それでも持ち続けたい」と思えるだけの価値があるか
- 将来の相続・承継や、次の世代への引き継ぎまで含めて、「持ち資産」として残す意義があるかどうか
【売却前提で見たときの主な視点】
- 今売却した場合に、ローン残債・諸費用・税金を差し引いたうえで、実際に手元にいくら残るか
- その手元資金を、「別の不動産」「自分の事業」「金融資産」「老後資金」などに振り向けた場合、自分にとってどの選択がいちばん納得感があるか
- 売却を数年先送りしたとき、「築年数」「市場環境」「融資環境」の変化が、売却価格や売りやすさにどう影響しそうか
つまり、
- 修繕前提:長めの時間軸で、「毎年の収支」と「資産としての育て方」を見ている
- 売却前提:比較的短めの時間軸で、「一度きりの手取り」と「次の一手」を見ている
という、まったく別のフレームで物事を捉えています。
それにもかかわらず、
- 修繕して10年間持ち続けた場合に残る利益(=長期の収支+将来の資産価値)
- 今売却した場合の手取り(=短期のキャッシュ+次の投資機会)
を、頭の中だけで同時に比較しようとすると、「どちらも一長一短に見えて、結局どちらが良いのか分からない」という状態になりがちです。
このとき本当に必要なのは、「どちらが金額的に得か」を先に決めることではなく、「自分は今、どちらの物差しでこの物件を見たいのか」を一度はっきりさせることです。
例えば、
- 60代手前でローン残債が少なくなってきているオーナーであれば、「老後の安定収入源」として修繕前提で考える方がしっくりくるかもしれません。
- 一方で、40代で複数棟を保有し、次の物件への組み替えや事業拡大を考えているオーナーであれば、「今の物件に資金を固定するより、一度資金を解放して次の一手に回したい」という発想から、売却前提で見る方が現実的な場合もあります。
このように、「どちらが正解か」ではなく、「自分の年齢・資産背景・家族構成・事業の状況を踏まえたとき、どちらの時間軸とゴールがしっくりくるか」を軸に前提を選ぶことが重要になります。
「とりあえず保留」のまま数年過ぎないための考え方
前提が決まらないまま「とりあえず様子を見よう」としているうちに、物件と環境は少しずつ変化していきます。
- 築年数がさらに進み、建物の見た目や設備の古さがよりはっきりしてくる
- 近隣に新築やリノベ済み物件が増え、比較の中で“古さ”が目立ちやすくなる
- 金利や融資姿勢の変化により、買い手側の融資条件が変わり、「売りやすさ」や「買い手層」が変動する
1年単位では小さな変化に見えても、5年・10年というスパンで振り返ると、「あのとき決めておけば選べた選択肢」が少しずつ失われていくこともあります。
「今は決めない」という選択は、一見すると“安全側”の判断のように感じられますが、実際には「選べる選択肢を少しずつ減らす側」に転がる場合も少なくありません。
ここで意識しておきたいのは、
- “今、どちらかの前提を一度選んでみる”ことのメリット
- “何も決めないまま待つ”ことのコスト
の両方です。
前提を一度決めれば、修繕にしても売却にしても、「具体的に何をすればいいのか」が見えやすくなります。
例えば、
- 修繕前提と決めるなら、「今後10年で避けられない修繕は何か」「どのタイミングで、どの順番で手を入れるか」を整理できます。
- 売却前提と決めるなら、「現状のまま売るのか」「最低限の是正をしたうえで売るのか」「ある程度テコ入れをしてから売るのか」といった“売り方の選択肢”を具体的に比較できるようになります。
逆に、前提を決めないまま時間だけが経つと、数字も状況も少しずつ変化し、「何となく動きづらい」という感覚だけが強くなっていきます。
完璧な答えを出す必要はありません。
まずは、
- 「今の自分にとって、どちらの物差しがしっくりくるか」
- 「この物件と、あとどれくらいの期間付き合うつもりか」
という“自分側の条件”から前提を選んでみることが、迷子にならないための第一歩になります。
まとめ|「どちらの前提で見るか」を自分で決めることがスタートライン
「修繕を前提に考えるか」「売却を前提に考えるか」で頭が止まってしまう背景には、
- それぞれ違う時間軸とゴールを持つ選択肢を、一度に比べようとしていること
- どちらにも“良いところ”と“不安なところ”があり、片方を選ぶと片方を失う怖さがあること
- 「今は決めない」という選択のコストが、目に見える形で意識されていないことが隠れています。
重要なのは、「どちらが絶対に正しいか」を探すことではなく、「今の自分は、どちらの前提でこの物件と向き合いたいのか」を一度決めてみることです。
一度決めた前提は、状況が変われば後から修正しても構いません。
「修繕を前提に考えるのか」「売却を前提に考えるのか」。
この二つを、同じテーブルで延々と行き来させるのではなく、「今はまずこちらの物差しで見てみる」と自分で宣言してみること。
その小さな一歩が、「とりあえず保留」の状態から抜け出し、賃貸経営の次の一手を選びやすくするための出発点になっていきます。