マンションのシーリング工事とは?費用・工法・注意点まで解説

マンションの外壁や窓まわりに見られる細い隙間――そこに施されている「シーリング材」は、建物を水や空気から守る重要なバリアです。このシーリング材が劣化すると、雨水が内部に侵入し、構造の腐食やカビの原因になりかねません。特に高層階のある建物では、強風や雨の影響を受けやすく、早期の対策が求められます。

そこで本記事では、マンションにおけるシーリング工事の必要性や打ち替え・打ち増しといった施工方法の違い・費用相場・注意点・信頼できる業者の選び方まで詳しく解説していきます。管理組合の担当者や居住者の方が安心して工事を任せられるよう、専門用語もかみ砕いて解説していますので、初めての方もぜひ最後までご覧ください。

目次

マンションのシーリング工事とは?基本概要と役割

マンションのシーリング工事とは、建物の目地(継ぎ目)やサッシの周囲などに充填された「シーリング材(シール材)」を補修・交換する工事です。建物の防水性・気密性・伸縮性を確保するうえで、非常に重要な役割を担っています。

雨風や温度変化に対応する柔軟性

シーリング材は、建物の膨張・収縮による動きに追従する柔軟性が求められます。外壁パネルやコンクリート・タイルの目地部分などに使われており、目に見えない場所でも重要な働きをしています。

放置すれば雨漏り・劣化の原因に

劣化したシーリング材は、ひび割れや痩せ・剥がれといった症状が進行します。これを放置してしまうと、雨水が内部に浸入し、鉄筋の腐食や内装のカビ・シミ・断熱性の低下を招きます。防水機能が失われることで、建物全体の寿命を縮めるリスクもあるのです。

シーリング工事とコーキング工事の違いとは?

「シーリング工事」と「コーキング工事」という言葉が混在して使われることがありますが、結論から言えばほぼ同義です。地域や職人の呼び方の違いによって、使い分けがされているに過ぎません。

現場ではほぼ同じ意味で使われている

もともと「コーキング」は英語のcaulkingから来ており、船の継ぎ目をふさぐ作業を指す言葉です。一方「シーリング」はsealingから来ており、より広い意味での密閉というニュアンスを含みます。しかし、建築の現場ではどちらも「隙間を埋めて防水・気密する工事」として同じように使われています。

呼び名よりも施工内容が大事

施主や管理組合が気にすべきなのは、呼び名よりも「どこを」「どのような材料で」「どの工法で」施工するのかという内容です。見積書に「コーキング工事」と書かれていても問題はありませんが、念のため施工内容を明記してもらうようにすると安心です。

マンションで使用されるシーリング材の種類と用途別の特徴

マンションのシーリング工事では、使用する材料の種類によって耐久性や施工性が大きく異なります。施工箇所や目的に応じて適切なシーリング材を選定することが、建物の長寿命化につながります。

主なシーリング材の比較と特徴

以下は代表的なシーリング材の種類と、その特性をまとめた表です。

シーリング材の種類特徴・用途塗装可否
シリコン系耐水性・耐熱性に優れる。水回りに多用。不可
変成シリコン系耐候性・密着性に優れ、外壁・サッシに最適。
ウレタン系密着性が高く密封力あり。紫外線に弱い。要塗装
ポリサルファイド系耐油性・耐候性が高いが柔軟性は低め。
アクリル系湿った面にも施工可能。コスト安だが耐久性は低い。

施工部位別の最適な選定例

  • 外壁の目地:変成シリコン系
  • 窓やサッシまわり:変成シリコン系またはシリコン系(非塗装前提)
  • 屋上・屋根:ウレタン系(塗膜で保護)
  • 水回り:シリコン系(浴室・キッチン)

正しい材料選定がされていないと、想定より早く劣化が進むため、業者選びの際には「使用予定のシーリング材の種類とメーカー名」を必ず確認しましょう。

マンションにおけるシーリング工事の種類と施工手順

シーリング工事には大きく分けて2つの工法があります。「打ち替え工事」と「打ち増し工事」です。劣化の進行具合や施工箇所に応じて、適切な方法を選ぶ必要があります。

【打ち替え工事の概要と施工フロー】

打ち替え工事とは、既存の劣化したシーリング材を完全に撤去し、新たなシーリング材を打ち直す工法です。

一般的な工程

  1. カッターなどで旧シーリング材を除去
  2. 清掃・プライマー塗布
  3. 新しいシーリング材を充填
  4. ヘラで均し仕上げ
  5. 養生テープを剥がして完成

打ち替え工事はもっとも耐久性が高く、10年以上の耐用年数が期待できます。

打ち増し工事の特徴と活用ケース

打ち増し工事は、既存のシーリング材を撤去せず、上から新たなシーリング材を重ね打ちする工法です。コストを抑えられる反面、耐久性は劣ります。

主な用途

  • 軽度のひび割れに対する応急処置
  • 撤去が困難なサッシまわりの補修
  • 短期的な延命措置

標準的な工期と作業の流れ

1日あたりの施工面積は職人1人で30~50㎡程度が目安です。小規模修繕であれば1〜2日で完了する場合もありますが、外壁全面を対象とする大規模修繕では数週間かかることもあります。

マンションにおけるシーリング工事の実施タイミングと劣化症状の見極め方

マンションのシーリング工事を適切な時期に行うことは、建物全体の寿命や住環境の快適さを保つうえで欠かせない重要ポイントです。劣化を放置すれば、外壁のひび割れや雨漏り、さらには構造の腐食へと被害が広がるおそれがあります。ここでは、シーリング工事を実施する適切なタイミングの目安と、劣化のサインを見分ける具体的な方法について詳しく解説します。

施工タイミングの目安は「5〜10年ごと」

一般的に、シーリング材の寿命は約5〜10年とされていますが、この期間はあくまでも参考値です。実際の劣化スピードは、使用している材料の品質や施工精度、そして建物の立地環境や気候条件によって大きく変わります。

たとえば以下のような条件では、より短いサイクルでの点検・工事が必要となります。

  • 直射日光が強く当たる南面・西面の外壁
  • 塩害のリスクがある海沿いの建物
  • 降雨量・積雪量が多い地域
  • 強風や台風の影響を受けやすい高層階

このような環境では、5年を過ぎたあたりから劣化が進行する可能性が高まります。新築や前回の施工から10年を経過している場合は、すでに目に見える形での劣化が始まっている可能性があり、専門業者による点検を検討すべきタイミングです。

また、マンションの管理組合にとっては、定期的な建物診断の中にシーリング材の点検を組み込むことで、計画的なメンテナンスと予算配分が可能になります。予防的な補修を行えば、大規模な外壁改修や防水工事に発展する前に対応でき、結果としてコスト削減にもつながります。

こんな症状が出たら要注意

シーリング材の劣化は、外見からある程度判断することが可能です。以下のような症状を発見したら、なるべく早めに専門業者へ相談することをおすすめします。

  • ひび割れ(クラック)
    細い線状の亀裂が入っている状態です。一見すると問題がないように見えても、そこから水分が侵入すると内部の断熱材や鉄筋が傷み、建物の耐久性が大きく損なわれます。
  • 肉やせ(痩せ)
    シーリング材が硬化・収縮し、厚みがなくなって目地に隙間が生じている状態です。防水性や気密性が低下し、外壁材の膨れや剥がれにつながる可能性があります。
  • 剥離(浮き・はがれ)
    シーリング材が目地の側面から浮き上がったり、完全に剥がれている状態です。防水性はほぼ失われており、早急な打ち替えが必要です。
  • 黒ずみ・カビの発生
    劣化により水を含みやすくなったシーリング材にカビや汚れが付着する現象です。見た目の問題だけでなく、アレルギーやカビ臭など住環境の悪化を招く原因にもなります。

これらの症状を放置してしまうと、シーリング材だけでなく、その周囲の外壁材や内部構造にも水分が浸透し、被害が拡大するリスクがあります。たとえば、目地の隙間から雨水が侵入し、鉄筋コンクリートの中性化を促進してしまうと、構造体の寿命自体が短くなる可能性もあります。

また、点検作業は高所で行われることが多く、素人の目視だけでは判断が難しいケースもあります。安全性と正確性の観点からも、外装点検を含むプロの建物診断サービスの活用を強くおすすめします。

マンションにおけるシーリング工事の費用相場

シーリング工事を検討する際、多くの方がまず気になるのが「費用」です。特に管理組合やオーナーの場合、予算計画を立てるうえで適正な価格帯を把握しておくことは非常に重要です。ここでは、工法別の費用相場や価格に影響する要素について解説します。

打ち替え工事と打ち増し工事の費用の違い

シーリング工事には「打ち替え」と「打ち増し」の2種類がありますが、費用には明確な差があります。

工事の種類単価の目安(1m²あたり)特徴
打ち替え工事約900〜1,200円既存のシーリング材を除去して新たに充填。耐久性が高い。
打ち増し工事約500〜900円既存材の上から充填。コストは低いが耐久性はやや劣る。

打ち替え工事は手間がかかるためやや高額ですが、長期的な効果を考えるとトータルコストはむしろ抑えられることもあります。

費用を左右する主な要因とは?

実際の費用は、以下のような条件によっても大きく変動します。

  • 施工範囲の広さ(全面か部分補修か)
  • 施工箇所の高さ・足場の有無
  • 使用するシーリング材のグレード
  • 下地処理の必要性の有無

特に「足場費用」は見積もり金額の中でも大きな割合を占めるため、他の工事と同時に施工するなどして、コストを分散させる工夫が重要です。

相見積もりで価格と内容を比較しよう

費用を適正に把握し、トラブルを防ぐためには、複数社から相見積もりを取得することが不可欠です。単に金額を比べるのではなく、以下の点も確認しましょう。

  • 「打ち替え」か「打ち増し」かの明記
  • 材料のメーカー名や製品名が記載されているか
  • 足場・養生などの諸経費が明記されているか

見積書に「一式」の記載が多い業者や、価格が極端に安い場合は注意が必要です。説明の丁寧さや過去の実績も踏まえ、総合的に信頼できる業者を選ぶことが大切です。

マンションのシーリング工事中に注意したい4つのポイント

シーリング工事は屋外で行われるとはいえ、住民や近隣に対して少なからず影響があります。工事前に知っておくべき注意点を整理しておくことで、スムーズな進行とトラブル防止につながります。

騒音・においが発生する

旧シーリング材の撤去や新しい材の充填作業において、工具の音や溶剤のにおいが発生します。作業時間中は窓を開けられない・洗濯物が干せないなどの不便も予想されるため、事前の周知と対応策が必要です。

天候の影響を受けやすい

シーリング工事は乾いた下地に施工する必要があるため、雨天や強風時には中止されることがあります。工期の予備日を設けておくと安心です。

打ち増し工事の短所に注意

打ち増し工事は費用面でのメリットがありますが、既存材の劣化状態によっては早期の剥離や水漏れにつながるリスクもあります。特に築年数が10年以上経っている場合は、原則として打ち替え工事が望ましいといえるでしょう。

施工の仕上がりは職人の技術に左右される

シーリング工事は職人の手作業が多いため、技術レベルの差が仕上がりの品質に直結します。たとえば、目地がまっすぐでなかったり、表面にムラがあるなど、見た目にも大きな差が出ます。施工業者選びでは、過去の実績や写真付きの施工事例も確認しましょう。

マンションのシーリング工事業者選びで後悔しないためのチェックポイント

シーリング工事は施工箇所が多く、建物全体の耐久性にも直結するため、業者選びを誤ると大きなトラブルに発展する可能性があります。ここでは、信頼できる施工会社を見極めるための具体的なチェックポイントをご紹介します。

見積書で確認すべき内容

見積書は業者の誠実さと専門性を見極めるための大切な資料です。以下の項目がきちんと記載されているかを確認しましょう。

  • 施工範囲・部位ごとの面積
    「外壁目地 〇〇m²」「サッシ廻り 〇〇m」など、詳細な数量が明記されているかどうか。
  • 工法の記載(打ち替え/打ち増し)
    「一式工事」のような曖昧な表現ではなく、採用される工法が明示されているか確認が必要です。
  • 材料名・メーカー名
    シーリング材には安価なものから高耐久品まで種類があるため、使用する製品名まで確認しましょう。無記載の見積書は要注意です。
  • 足場費・諸経費の内訳
    総額だけでなく、仮設足場・養生・清掃などの諸経費も細かく書かれているかを確認しましょう。

見積書は「価格の比較」だけでなく「施工内容の透明性」を測る資料です。不明点は遠慮なく業者に質問し、丁寧に説明してくれる対応力もチェックポイントとなります。

信頼できる業者を見極めるために

金額が安いからといって安易に業者を決めてしまうのは危険です。以下の点も併せて確認しておくと、失敗のリスクを大きく減らすことができます。

  • 防水施工技能士や建築士などの資格保有者が在籍している
  • 過去にマンションのシーリング工事を行った実績が豊富である
  • 建設業許可番号が明記されている

また、公式ホームページやGoogleマップの口コミなども参考になりますが、あまりにも高評価のみが並んでいる場合は「やらせレビュー」ではないか慎重に見極めることが重要です。

施工写真や報告書を事前に確認しよう

工事完了後の報告体制についても、業者を選ぶうえで重要な判断材料になります。特にマンションなど大規模修繕の現場では、以下のような対応があると安心です。

  • 施工前・施工後のビフォーアフター写真の提出
  • 使用したシーリング材や施工方法の記録
  • 報告書のPDF形式での提出や印刷物による納品対応

こうした記録を残しておけば、数年後に再び工事を検討する際の資料としても活用できますし、管理組合での共有・保存にも適しています。口約束だけではなく、契約段階で報告書の有無を確認しておくことで、トラブルの回避につながります。

マンションのシーリング工事に関するよくある質問(FAQ)

Q1. シーリング工事中に家にいる必要はありますか?

基本的に外部での作業になるため、在宅の必要はありません。ただし、窓まわりの作業中は騒音やにおいの影響があるため、室内での生活に配慮が必要です。

Q2. 雨の日でも作業は行われますか?

シーリング材は乾いた下地にしか施工できないため、雨天・強風時は中止になります。工事日程には予備日が設けられるのが一般的です。

Q3. 工事の期間はどれくらいかかりますか?

施工範囲や天候によりますが、一般的な外壁のシーリング打ち替え工事は7日〜14日程度が目安です。大規模修繕と並行して行う場合は1カ月以上かかることもあります。

Q4. においが心配ですが対策はありますか?

変成シリコン系など臭いが少ない材料を使用することも可能です。気になる場合は事前に業者へ相談し、水性・低臭タイプを提案してもらいましょう。

まとめ|マンションのシーリング工事で建物の寿命と快適性を守る

マンションのシーリング工事は、建物の防水性と耐久性を保つために欠かせない作業です。ひび割れや剥離を放置すれば、雨漏りや構造部の腐食など、目に見えない深刻なダメージへと発展するおそれがあります。

適切な時期に適切な工法で、信頼できる業者に依頼することが、トラブルを未然に防ぎ、将来的な補修コストを抑えるための鍵となります。

費用面においても、単価だけでなく「使用材料」「工法」「報告体制」「保証内容」まで含めて検討することで、より安心して工事を任せることができるでしょう。

大切なマンションを長く快適に保つためにも、計画的なメンテナンスを心がけましょう。