撤去工法とは?屋上防水の改修方法とその必要性を徹底解説

建物の屋上は、日々強い日差しや風雨にさらされているため、防水層の劣化が進みやすい場所です。そのまま放置すると、雨漏りや構造部へのダメージにつながり、建物全体の寿命を縮めるおそれがあります。

こうしたリスクを防ぐために行われるのが「屋上防水の改修工事」です。中でも、既存の防水層をすべて取り除き、下地から新たに防水層をつくり直す「撤去工法」は、根本的な改善を目指す方法として注目されています。

この記事では、撤去工法の基本的な仕組みや他の工法との違い・メリット・デメリット・施工が適しているケースなどをわかりやすく解説します。

目次

撤去工法とは?屋上防水における基本知識と仕組み

撤去工法とは、既存の防水層をすべて剥がし、下地を清掃・補修したうえで、新たに防水層を施工する改修方法です。
まるで新築時のように、ゼロから防水層を再構築できるのが特徴で、下地や既存層の劣化を根本から解消できます。

一般的な屋上防水工事の中でも、もっとも確実性と長期耐久性に優れており「根本からやり直したい」「何度も補修しても雨漏りが再発する」というケースで選ばれることが多い工法です。

「かぶせ工法」との違いと使い分け

かぶせ工法(被せ工法)は、既存の防水層の上に新たな防水層を重ねて施工する方法で、工期が短く費用も抑えられる反面、下地の状態を確認できないなどのリスクがあります。

比較項目撤去工法かぶせ工法
防水性能高い(下地処理可)既存層の状態に依存
耐用年数長いやや短め
費用高い安価
工期長い短い
騒音・振動発生あり少ない
美観新設同様の仕上がり下地により差あり

それぞれの建物状態や改修目的に応じて、最適な工法を選択することが重要です。

撤去工法のメリットと安心できるポイント

撤去工法には、費用や工期の長さというハードルがある一方で、他の工法にはない多くの利点があります。
ここでは、撤去工法ならではの安心感や、選ばれる理由について解説します。

防水層を一新できる安心感

既存の防水層をすべて除去するため、経年劣化や施工不良による不具合を根本から解消できます。
これにより、雨漏りリスクを大幅に低減し、今後10年〜20年の長期にわたり安心して建物を利用できます。

また、下地の状態に合わせて最適な防水材を選べるため「長寿命型の防水層を設けたい」「遮熱性能も確保したい」といった要望にも柔軟に対応可能です。

下地の状態を確認できる

かぶせ工法では確認できない下地のひび割れや腐食・排水口の詰まりといった劣化症状も、撤去工法なら目視で確認し、適切に対処できます。

下地補修を適切に行ったうえで防水層を設けることで、雨水の侵入を未然に防ぎ、将来的な補修コストも抑えられます。

排水性が向上し雨漏りリスクが減少

既存の層を撤去して新たに勾配調整することで、屋上の排水性能が大きく改善します。
水たまりができにくくなり、排水口もクリアになるため、雨漏りのリスクを限りなくゼロに近づけることができます。

勾配不良による水たまりや排水口周りのごみ詰まりなど、見えにくい問題も撤去工法なら一掃可能です。

美観の維持と仕上がりの精度

撤去工法では、古い層が残らないため施工後の仕上がりが非常に美しく、建物の外観価値を損ねることがありません。
特に高層ビルやデザイン性の高い建物において、美観を保つことは資産価値の維持にも直結します。

撤去工法のデメリットと注意すべきポイント

撤去工法には多くのメリットがありますが、当然ながらデメリットも存在します。工法選定の際は、このような注意点も十分に理解しておくことが重要です。

工期が長く施工中の配慮が必要

撤去工法は、既存の防水層を完全に取り除いてから新たに施工するため、どうしても工期が長くなります。
一般的なかぶせ工法と比較して、1.5〜2倍ほど時間がかかるケースもあります。

特に以下のような要素が工期を長引かせる要因となります。

  • 防水層の撤去作業に時間を要する
  • 下地補修や清掃などの処理工程が多い
  • 天候の影響を受けやすく、雨天での作業が制限される

マンションやビルの屋上工事では、居住者やテナントへの配慮が求められるため、事前に工期と工程を明確にし、理解を得ておくことが求められます。

費用が高くなりやすい理由

撤去工法は、防水層の撤去・廃材処理・下地処理などの工程が加わるため、かぶせ工法に比べて費用が高くなる傾向があります。
また、下地の劣化が激しい場合は、補修費用も加算され、想定よりも高額になることがあります。

【主なコスト要素】

  • 既存防水層の解体・撤去作業費
  • 廃材の運搬・処理費用
  • 下地補修・処理工事費
  • 新たな防水層の材料費・施工費

費用面で不安がある場合は、複数業者から見積もりを取得し、内訳をしっかり比較検討することが大切です。

騒音や振動が近隣に与える影響

撤去作業では、重機やハツリ機(コンクリートを削る機械)などを使用するため、大きな騒音や振動が発生します。
これにより、近隣住民や同一建物の入居者にストレスを与えるリスクが高まります。

特に以下のような建物では注意が必要です。

  • 住宅密集地にある建物
  • 病院・福祉施設・保育園など静寂を必要とする建物
  • 地震や老朽化で構造が不安定な建物

防音対策や作業時間帯の配慮、事前の周知徹底がトラブル防止の鍵となります。

下地処理の難易度と業者依存度

撤去工法では、下地が完全に露出するため、その状態に応じて適切な処理が求められます。
しかし、下地処理の善し悪しは施工業者の技術力に大きく左右されるため、業者選びを誤ると施工不良や防水性能の低下につながります。

下地処理に関する工程例

  • 高圧洗浄による汚れ除去
  • クラック補修やモルタル埋め
  • ケレン作業(表面を粗くして密着性を高める)
  • プライマー塗布による接着力の強化

これらの処理が不十分だと、どれだけ高性能な防水材を使っても期待する性能は発揮されません。

撤去工法が適さないケースとは?

いかに高性能な工法であっても、すべての建物に撤去工法が適しているわけではありません。
以下のようなケースでは、かえって別の工法を選んだ方が安全かつ合理的です。

既存の防水層がアスファルト防水で撤去困難

アスファルト防水は厚みがあり、粘着性が強いため撤去時に下地を傷めやすいという特性があります。
また、撤去時にアスファルトのにおいや煙が発生しやすく、周囲への影響も大きいため、特別な配慮が必要です。

そのため、アスファルト防水を採用している屋上では、状況によってかぶせ工法のほうが適する場合があります。

下地が脆弱で撤去に耐えられない

建物の老朽化が進んでいる場合や、もともとの下地が薄い・劣化している場合には、撤去時の衝撃に耐えきれず破損してしまうリスクがあります。

このような状態で無理に撤去工法を採用すると、かえって建物全体の安全性を損なうことにもなりかねません。

建物全体の耐荷重や耐震性が懸念される場合

撤去工法には解体や振動を伴う工程があるため、建物が耐えられないと判断された場合には、より軽微な改修方法が選ばれることもあります。
また、マンションやテナントビルなどでは、管理組合や所有者の合意形成が難しいケースもあります。

撤去工法を選ぶべき判断基準

撤去工法は、決して「万能」な工法ではありません。
しかし、次のような状況に該当する場合には、確実な防水改修として最も効果を発揮します。

かぶせ工法では対応しきれない劣化がある

以下のような劣化症状が見られる場合は、撤去工法が有効です。

  • 既存防水層の浮きや剥がれが広範囲に見られる
  • ひび割れや膨れが繰り返し発生している
  • 排水不良により水たまりが慢性化している

かぶせ工法では表面だけを覆うため、これらの問題を根本的に解決することは困難です。

建物の資産価値や長期耐久性を重視する

賃貸マンション・オフィスビル・商業施設など、長期間の安定運用を目指す建物では、メンテナンスコストの削減と資産価値維持の観点から、撤去工法の導入が効果的です。

短期的な費用よりも「長く安心して使える防水層を確保したい」というニーズには、撤去工法が最適といえます。

撤去工法の施工フローと期間の目安

撤去工法は工程が多いため、事前にスケジュール感を掴んでおくことが重要です。工期に余裕をもった計画を立てることで、トラブルを防ぎ、スムーズに施工を進めることができます。

撤去工法の基本的な工程

  1. 施工計画と現地調査
     ・既存防水層の劣化状況・排水経路・下地状態を確認
     ・最適な施工方法とスケジュールを策定
  2. 既存防水層の撤去
     ・専用機器で古い防水層を丁寧に除去
     ・廃材は法令に則って処理
  3. 下地処理・補修作業
     ・ひび割れ・浮き・不陸調整
     ・高圧洗浄やプライマー塗布も実施
  4. 新しい防水層の施工
     ・ウレタン・シート・アスファルト防水などを選定し施工
  5. 仕上げと最終点検
     ・防水性能・排水確認・最終清掃など

建物規模別の工期目安

建物規模撤去作業期間全体工期目安
小規模(〜100㎡)1〜3日2週間〜1ヶ月
中規模(100〜500㎡)3〜5日1〜2ヶ月
大規模(500㎡以上)5〜10日以上2〜3ヶ月以上

天候や季節によっても影響を受けるため、余裕のあるスケジュールが理想です。

撤去工法とかぶせ工法の違いを比較

撤去工法を選ぶかどうかの判断材料として、かぶせ工法との比較は不可欠です。

比較項目撤去工法かぶせ工法
費用相場高め(撤去・補修含む)安価(既存層活用)
耐用年数長い(15〜20年)中程度(8〜12年)
施工性工程が多く工期長め短期間で施工可能
防水性能高い(下地処理可)状態により低下あり
美観新設同様旧層が影響することも

長期的な視点で「再施工頻度を減らす」という目的であれば、撤去工法に軍配が上がります。

撤去工法にかかる費用とコストダウンの工夫

費用相場(1㎡あたり)

項目費用目安(円)
既存防水層の撤去2,000〜5,000円
下地補修・処理1,000〜3,000円
新規防水施工3,000〜10,000円
合計6,000〜15,000円前後

建物の構造や防水材の種類により変動しますが、100㎡程度の屋上で60万円〜150万円が一つの目安です。

費用を抑えるポイント

  • 相見積もりの取得
     最低でも3社以上から取り、単価だけでなく「作業内容」も比較しましょう。
  • 補助金・助成金の活用
     自治体によっては、耐震・省エネ・長寿命化を目的とした補助制度が利用可能です。
  • 劣化初期での対策
     大規模な撤去が必要になる前に、早期の点検・部分補修でコストを軽減できます。

撤去工法を依頼する業者選びのポイント

撤去工法は、経験と専門技術が求められる工法です。業者の選定を誤ると、施工不良や保証トラブルにつながりかねません。

業者選びで見るべきポイント

  • 防水専門業者かどうか(外注ではなく自社施工体制)
  • 施工実績が豊富かどうか
  • 保証内容が明確か
  • 施工前調査の丁寧さ
  • 見積書が詳細で分かりやすいか

不明点は遠慮なく質問し、曖昧な対応をする業者は避けた方が無難です。

撤去工法に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 撤去工法の耐用年数はどれくらい?

防水材によりますが、ウレタン防水で15〜20年、シート防水で12〜18年が目安です。

Q2. 工事中は建物を使えなくなる?

原則として通常通り利用可能ですが、屋上周辺や騒音がある時間帯の一部制限がかかることがあります。

Q3. 雨天時はどうなる?

基本的に施工は中止となり、工期が延長する可能性があります。天候を加味した余裕ある日程が重要です。

Q4. 工事費用に補助金は使える?

自治体によっては長寿命化、防災・省エネ対策として助成対象になることもあります。事前に調べましょう。

Q5. かぶせ工法との費用差はどの程度?

100㎡の屋上で、かぶせ工法が50万円程度に対し、撤去工法では80万円〜120万円程度が相場です。

まとめ|撤去工法は「防水のやり直し」に最も適した選択肢

撤去工法は、防水層を根本からやり直し、長期的に高い性能を発揮できる優れた工法です。
工期や費用面でのハードルはありますが、それを補って余りある信頼性と安心感があります。

撤去工法が向いている方の特徴

  • 雨漏りを確実に止めたい
  • 防水層がすでに限界に達している
  • 資産価値を維持したい
  • これから10年、20年と安心して使いたい

大切な建物を守るためには、ただ安く早く済ませるのではなく「どれだけ長く、しっかり守れるか」を重視した選択が求められます。

まずは専門業者に現地調査を依頼し、最適な工法を提案してもらいましょう。
防水層を一新することで、建物の寿命を大きく延ばすことが可能になります。