大規模修繕には仮設工事が不可欠!足場や共用仮設の内容と役割から費用について紹介
2025/07/31
マンションの大規模修繕工事を計画する際、建物本体の補修や改修に注目が集まりがちですが、それを支える「仮設工事」の存在を見落としてはなりません。
仮設工事とは、外壁の補修・防水工事・塗装などの本工事を安全かつスムーズに行うための「準備工事」です。
特に足場の設置や養生などは、作業員の安全確保と工事品質に直結する重要な工程であり、施工費用全体に占める割合も無視できません。
本記事では、大規模修繕における仮設工事の基本から、直接・共通仮設の違い、足場の種類別の特徴・メリット・デメリット、費用の目安や注意点、住民対応、工事期間の目安などを詳しく解説します。
目次
大規模修繕における仮設工事とは?
大規模修繕工事における仮設工事とは、建物の外装や屋上などの改修・補修を行うために必要な「一時的な設備や構造物」を設置する工事のことです。
工事の安全性や効率性を高めるだけでなく、周辺住民や環境への影響を抑える目的もあります。
仮設工事の定義と役割
仮設工事は、直接工事(塗装や防水などの本工事)を安全に進めるために欠かせない準備工程です。
仮囲いや足場・養生シート・仮設トイレ・仮設倉庫などを設置し、工事関係者の作業スペースや安全動線を確保します。
これらの仮設物があることで、現場の秩序が保たれ、作業効率が向上し、住民や通行人への危険を最小限に抑えることができます。
また、仮設工事は施工の工程管理にも関わっており、全体工期の中で最初に着手すべき要素であり、後工程の進行にも影響を与えます。
直接仮設工事と共通仮設工事の違い
仮設工事は「直接仮設工事」と「共通仮設工事」の2つに分類され、それぞれ異なる目的と機能を担っています。
| 種別 | 主な内容 | 目的 | 施工対象 |
|---|---|---|---|
| 直接仮設工事 | 足場・養生ネット・安全帯 | 作業を直接支えるため | 作業対象部位の周辺 |
| 共通仮設工事 | 仮設事務所・トイレ・通路 | 現場全体のインフラ整備 | 工事関係者全体・住民対応 |
直接仮設は、実際の補修作業のために設ける仮設設備で、足場や安全ネットなどが中心です。
一方、共通仮設は現場全体の作業環境を整えるための設備で、事務所やトイレ・倉庫といった生活・業務インフラの整備を指します。
仮設工事が必要な主な工種
大規模修繕工事では、以下のような工種において仮設工事が必要になります。
- 外壁補修工事:足場や養生ネットで作業空間を確保し、落下物や粉じんを防止。
- 屋上防水工事:屋上への安全なアクセスのために昇降設備を設置。
- 外壁塗装工事:塗料飛散を防ぐための全面ネットや仮囲い。
- タイル補修:高所作業用の足場が必須。
これらの工種は、高所での作業や飛散防止対策が求められるため、安全性と効率性を両立させる仮設工事が必須となります。
仮設の質が工事の成否を大きく左右することを理解しておくことが重要です。
大規模修繕における直接仮設工事の種類と特徴
直接仮設工事の中でも、特に「足場」の選定は大規模修繕の安全性・費用・住民対応に直結します。
ここでは代表的な足場を紹介し、それぞれの特徴や適用範囲について解説します。
枠組足場
枠組足場は、鉄パイプと鋼製のジャッキベースを組み合わせた最も一般的な足場の一つで、特に中高層マンションに多く採用されています。
部材の規格化が進んでおり、組立と解体の作業効率に優れ、強度が高いため安全性も確保できます。
また、水平・垂直の安定性に優れているため、作業者の移動もスムーズで、高所作業でも安心感があります。
一方で、材料が重いため搬入出や組立には多くの人手が必要となり、そのぶん費用が高めになるというデメリットもあります。
くさび式足場
くさび式足場は、ハンマー1本で組み立て可能な手軽さが特徴の足場です。
比較的軽量で、狭小地や入り組んだ場所でも設置できる柔軟性があります。
作業現場によっては、枠組足場よりも効率的に運用できるケースも多くあります。
設置と解体が迅速なため、短工期の現場や仮設期間の短縮にも向いています。
ただし、施工中の打音が大きく、騒音対策が求められる現場では注意が必要です。
また、枠組足場と比べると強度面では若干劣る場合があるため、高層建物や風の強い立地では慎重な判断が必要です。
単管足場
単管足場は、直径48.6mmの鋼管(単管パイプ)をクランプで接合し組み立てる足場で、形状の自由度が高く、複雑な構造物や限られたスペースに対応しやすい特徴があります。
例えば、階段部分や出隅・入隅が多い建物、設備が多く並ぶ外構部などに適しています。
ただし、部材の接合に多くの手間がかかるため、施工に時間がかかり、人件費が増加する傾向があります。
また、強度の面では枠組やくさび式よりも劣る場合があるため、使用時には細やかな安全管理が求められます。
吊り足場
吊り足場は、屋上や上階の梁などから足場材をワイヤーなどで吊り下げて構成する工法で、地上に足場を設置できない場所や、水上・斜面・崖地などに適しています。
作業床を下から支えるのではなく、上から吊る構造となるため、足場下に空間を確保したまま施工できる点が特徴です。
例えば、庇の裏側やピロティ構造の下部など、従来の足場では対応が難しい場所でも有効です。
ただし、設置には高度な計算と設計が必要で、使用時にも振動や風の影響を受けやすいため、専門性の高い施工業者の管理が不可欠です。
ゴンドラ足場
ゴンドラ足場は、ビルやマンションの屋上に設置されたウィンチから吊り下げられた足場台(作業箱)を昇降させながら作業するタイプの仮設設備です。
主に高層建築物の外壁補修や点検などに使用されます。
最大の特徴は、設置時の工期が短く、建物全体に足場を組む必要がないため、居住者や周辺環境への影響が少ないことです。
また景観を保ちやすく、工事中の閉塞感を与えにくいというメリットもあります。
一方で、作業範囲が限定されるため、全面補修などの大規模作業には不向きです。
さらに、悪天候時の作業ができないことや、転落リスクへの十分な対策が求められます。
移動昇降式足場
移動昇降式足場は、レールや車輪などを備えた足場ユニットを上下・左右に可動させながら使用する工法で、外壁改修やサッシ周りの作業などに用いられます。
現場の作業進捗に応じて足場を必要な位置に素早く移動できるため、作業効率の向上と住民への影響軽減が期待できます。
例えば、連棟式の建物や、工期短縮が求められる現場で有効です。
ただし、専用の操作装置や搬送経路の確保が必要であり、仮設機器としてのコストはやや高めになります。
また、安全面では落下防止措置と、操作ミス防止のための教育が不可欠です。
大規模修繕の共通仮設工事とは?具体的な内容とその重要性
共通仮設工事は、工事現場全体のインフラや作業環境を整えるために設けられる仮設物の設置工事です。
直接的な施工に関わらないものの、職人や住民の安全・快適な生活環境を守るうえで不可欠な存在です。
仮設トイレ・仮設倉庫・仮囲いなどの設置目的
共通仮設工事で設置される代表的な仮設物には、以下のようなものがあります。
| 設置物 | 目的 |
|---|---|
| 仮設トイレ | 作業員の衛生環境確保 |
| 仮設倉庫 | 資材・機材の一時保管 |
| 仮囲い | 現場と外部を明確に区切り、安全確保 |
| 仮設通路・階段 | 作業導線や避難経路の確保 |
| 仮設電気・水道設備 | 作業時の電力・水源供給 |
これらの設備が整うことで、現場全体の安全性が高まり、工事の進行にも支障がなくなります。
共通仮設工事における住民・周辺環境への配慮
共通仮設工事では、仮設物の設置によって住民や近隣へのストレスを軽減することも重要な目的です。
例えば仮囲いや防音パネルを設置することで、工事音や粉じんの飛散を最小限に抑えます。
また、掲示板や案内看板の設置によって工事期間や作業予定を周知し、住民の不安や混乱を減らす配慮が求められます。
特にマンションでは高齢者や小さな子どもを抱える家庭も多いため、安全導線の確保や作業時間の調整、資材の搬出入ルートへの配慮など、きめ細やかな対応が大切です。
共通仮設工事の施工期間と施工体制のポイント
共通仮設工事は、通常工事着工と同時に開始され、修繕工事と並行して進行します。
仮設トイレや倉庫は工事の初期段階で設置され、工事終了後には撤去されるのが一般的です。
工期の目安は、以下の通りです。
- 仮設トイレ・倉庫の設置:約1〜2日
- 仮囲い・通路整備:約3〜5日
- 電気・水道の仮設工事:約3〜7日
ただし、建物の規模や立地条件によって大きく変動するため、施工業者との事前協議が重要です。
加えて、定期的な安全点検や環境確認、周辺住民へのフィードバック体制も施工体制の一部として構築される必要があります。
大規模修繕の仮設工事にかかる期間とスケジュール
仮設工事は大規模修繕の開始前から段階的に行われる作業であり、全体工期の長短にも影響を与えます。
工事内容や規模に応じて適切なスケジュールを立てることが、トラブルを避ける鍵となります。
足場設置・解体にかかる日数の目安
一般的に、マンション1棟あたりの足場設置には5〜10日程度、解体には3〜5日程度が目安となります。
建物の階数が多い場合や複雑な形状の建物では、さらに日数が延びる可能性があります。
足場設置は修繕工事の前提条件となるため、余裕をもった工程を確保することが重要です。
共通仮設の期間とタイミング管理
共通仮設(仮設トイレ・倉庫・電気設備など)は、工事開始直後から使用されるため、着工前に一通り設置を完了させる必要があります。
また、撤去は最終清掃後に行われるため、工期全体を通じて維持されるケースが一般的です。
天候・現場状況による影響と調整方法
仮設工事は、天候の影響を強く受けます。
特に足場の設置・解体は、雨天や強風の日には作業が中断されることが多く、予定がずれる可能性があります。
そのため、スケジュールには予備日を設けるほか、工程変更時の調整ルールを明確にしておくことが求められます。
大規模修繕の仮設足場費用と工事費用への影響
仮設足場にかかる費用は、建物の規模や構造、足場の種類によって大きく異なります。
工事費用全体に占める割合も高く、適切な選定と計画が求められます。
足場の種類別のコスト目安
足場の種類ごとの単価は以下の通りです。
| 足場の種類 | 単価目安(1㎡あたり) | 特徴 |
|---|---|---|
| 枠組足場 | 800〜1,200円 | 高強度・安定性が高い |
| くさび式足場 | 600〜1,000円 | コストと組立効率のバランスが良い |
| 単管足場 | 700〜1,200円 | 形状対応力が高いが手間がかかる |
| ゴンドラ足場 | 一式20万〜50万円 | 高層部に向いている |
| 移動昇降式足場 | 一式30万〜60万円 | 工期短縮・可動性あり |
大規模修繕費用で仮設工事が占める割合
大規模修繕工事全体の費用のうち、仮設工事は約20〜25%前後を占めることが一般的です。
たとえば、工事総額が8,000万円であれば、仮設工事には1,600万〜2,000万円程度が充てられることになります。
この割合を踏まえて、費用配分や見積書の確認を行うことが重要です。
コストダウンを図るための工夫やポイント
- 足場の再利用や共有化を検討する
- 現場状況に合った足場選定で過剰スペックを避ける
- 工期を圧縮し仮設期間を短縮する
- 地元業者との連携で運搬・設置費を最適化する
これらの工夫により、無駄な仮設費用を抑えることが可能になります。
ただし、コストだけでなく「安全性」とのバランスも十分考慮する必要があります。
大規模修繕の仮設工事における安全管理と注意点
仮設工事は、作業員の命を守る安全設備の整備であると同時に、住民や通行人の安心にも関わる要素です。
法令や基準を遵守したうえで、十分な安全対策を講じることが求められます。
定期的な点検と作業員への安全教育
足場や仮設設備は、設置後に定期的な安全点検を行い、劣化やズレの有無を確認する必要があります。
また、作業員に対しては朝礼時の注意喚起や、安全帯の正しい使い方・災害時の避難方法などの教育を徹底します。
居住者への配慮と情報共有の重要性
足場設置中は、住戸のベランダや窓が一時的に使えなくなるほか、騒音や振動のストレスも発生します。
そのため、事前に工事案内を配布し、スケジュールや影響範囲を明示することが大切です。
作業内容に応じて、居住者の在宅協力をお願いする場合もあります。
近隣対応とトラブル回避のための対策
仮囲いや案内看板を設置することで、現場の安全性と分かりやすさを確保します。
近隣住民への挨拶回り・定期的な掲示板更新・連絡先の明示といったソフト面の対応も、クレーム防止や良好な関係構築に効果的です。
大規模修繕の仮設工事でよくある質問
大規模修繕における仮設工事に関して、居住者や管理組合から寄せられる代表的な疑問とその回答を紹介します。
Q1:仮設足場の費用はどれくらいかかる?
A: 足場の種類や建物の規模によって異なりますが、1㎡あたり800〜1,200円が目安です。全体工事費の2〜3割が仮設工事に充てられるケースもあります。
Q2:工事中でもエアコンは使えますか?
A: 基本的には使用可能ですが、室外機の位置によっては一時的に使用制限がかかることがあります。事前に業者からの指示に従いましょう。
Q3:洗濯物やベランダの荷物はどうすればいい?
A: 足場設置や外壁塗装中は、洗濯物の室内干しが推奨されます。また、ベランダの荷物は事前に屋内へ移動し、工事に支障がないように準備してください。
まとめ|仮設工事を正しく理解し、安心・安全な大規模修繕を
大規模修繕工事における仮設工事は、単なる「準備作業」ではなく、工事の品質・安全・スムーズな進行に密接に関わる極めて重要な工程です。
直接仮設と共通仮設の役割を理解し、現場の条件に応じた適切な工法・設備を選定することで、工事期間中のトラブルを減らし、居住者の負担も最小限に抑えることができます。
また、仮設工事には多くのコストがかかるため、見積もりの精査や業者との事前調整が不可欠です。
安全対策や住民・近隣への配慮も含め、仮設工事の質はそのまま大規模修繕全体の満足度に直結します。
管理組合や施工業者が連携し、仮設工事をしっかりと計画・実行することこそが、マンション全体の資産価値を守る第一歩です。
安心・安全な大規模修繕を実現するためにも、仮設工事の基礎知識を押さえたうえで、信頼できるパートナーと協力して進めていきましょう。