大規模修繕工事におけるコンサルタントの役割と選び方

コンサルを入れれば安心? その常識が変わり始めている

マンションの大規模修繕工事と聞くと、多くの管理組合や理事会が最初に思い浮かべるのが「設計コンサルタントを入れる」という選択です。
建築士や専門家に任せておけば、技術的にも中立的にも安心、スムーズに工事も進む。
かつてはそう信じられてきました。

しかし近年、現場からはこんな声が相次いでいます。

「コンサルに任せたのに、見積がどの会社も似たような金額だった」
「途中から理事会が口を出せない雰囲気になった」

これらは一部の特殊な例ではありません。
いま、大規模修繕工事の世界では“コンサル任せの限界”が全国各地で顕在化しているのです。

この記事では、まずコンサルタントの本来の役割と注意すべき点を整理し、
最後に、いま注目される「ファシリテーション型」という新しい修繕方式について詳しく解説します。


■1. コンサルタントの役割とは?「第三者の専門家」という立ち位置

大規模修繕工事におけるコンサルタント(設計事務所・建築士など)は、
管理組合に代わって工事の計画・設計・監理を行う“第三者”です。
主な役割は以下の3つです。

  1. 劣化診断と設計 – 建物の状態を調査し、補修範囲や工法を決める
  2. 業者選定サポート – 見積作成依頼や入札の進行を代行する
  3. 工事監理 – 施工会社が図面通りに適切に工事を行っているかを確認する

本来、この仕組みはとても合理的です。
専門知識のない理事会や住民が、技術的な判断を委ねられることで安心感が得られます。

しかし問題は、「そのコンサルが本当に中立なのか」という点にあります。


■2. コンサルが“中立”とは限らない ― よくある裏側の構造

コンサルタントの多くは「中立の立場です」と説明しますが、
実際の現場では、次のような構図が存在しています。

  • 特定の施工業者と長年の取引関係がある
  • 理事長や修繕委員に“謝礼”を渡して業者を通しやすくする
  • 入札形式を取っていても、事前に「この業者で行く」と話がついている
  • 「登録制」を理由に外部の優良業者を排除している
  • 相見積の内容がほとんど同じ

こうした出来レース構造が発生する背景には、“情報の非対称性”があります。
管理組合側は建築の知識が乏しく、
「コンサルが言うならそうなんだろう」と信じてしまう。
その隙をついて、談合的な仕組みが温存されるのです。

さらに、工事費用の内訳が不透明になりやすいのも大きな問題。
住民が「高い」と感じても、その根拠を検証する手段がない。
コンサル自身が監理を行うため、チェック機能が働かない構造になってしまいます。


■3. “お任せの構造”が生むリスク ― 住民が蚊帳の外になる瞬間

コンサル任せの修繕で最も深刻なのは、住民が意思決定から外れてしまうことです。

理事会や修繕委員が「自分たちは素人だから」と判断を委ねてしまうと、
会議は形式的になり、コンサルが提示する仕様や業者が“既定路線”として通ってしまいます。

ときには、疑問を持ってもこう言われます。

「では、コンサルを入れずに進めて失敗したら責任を取れますか?」

この一言で、理事会は一斉に沈黙します。
結果として、管理組合全体がコンサルの判断に従うしかなくなる――。
これが、現在多くの修繕現場で起きている“無自覚な支配構造”です。

一見、順調に見えるプロジェクトも、
完成後に「説明が不十分だった」「納得していない」という不信感を残すケースは少なくありません。
実際に、国土交通省や自治体にも「コンサルを入れたのにトラブルになった」という相談が年々増加しています。


■4. 信頼できるコンサルを見極める5つのポイント

では、すべてのコンサルが悪いのか?
――もちろん、そんなことはありません。

中には、管理組合や住民の立場に立って、誠実にサポートしてくれる専門家も確かに存在します。
大切なのは「見極め方」を知ることです。以下の5つのポイントを意識してチェックすれば、信頼できるコンサルかどうか、ある程度判断することができます。


① 見積の違いをきちんと説明できるか
「なぜこの業者の見積が高いのか・安いのか」を、材料や工法、作業内容の違いから具体的に説明できるかどうかを確認しましょう。曖昧な答えしか返ってこない場合は注意が必要です。

② 登録業者だけでなく、外部の業者も参加できるか
特定の“登録業者”だけで入札を行う仕組みは、公平な競争を妨げることがあります。外部からの応募も受け付けているかを確認しましょう。

③ コンサル料が安すぎないか(無料・格安は危険)
「無料コンサル」「設計費込み」など、一見お得に見える提案には要注意です。
その裏で“別の形で利益を取る仕組み”が用意されているケースが多くあります。たとえば、施工業者からのキックバックや、割高な仕様書で利益を確保するなどです。

④ 理事会との打ち合わせ内容を契約前に明示しているか
契約前に「どのくらいの頻度で、どんな内容を理事会と話し合うのか」が明確になっているか確認しましょう。ここが曖昧だと、進行中にコミュニケーション不足が起きやすくなります。

⑤ 施工業者選定のプロセスが透明か
選定の手順や評価基準を住民にも公開しているかどうかが大切です。「どんな理由で業者を決めたのか」が説明できるコンサルは信頼できます。

コンサルを選ぶときに大切なのは「資格」よりも「姿勢」です。
“住民の味方として行動できるかどうか”――ここが、誠実なコンサルとそうでないコンサルを分ける最大のポイントです。


■5. ファシリテーション型という新しい選択肢

こうした“お任せ構造”の限界を打破する方法として、
新東亜工業が提唱しているのが「ファシリテーション型」修繕方式です。

ファシリテーションとは、住民と施工会社の間に中立的に立ち、
意思決定をサポートする第三者として機能する仕組みです。

従来のコンサルが“決める人”であるのに対し、
ファシリテーターは“決められるように支える人”。

住民が自分の意思で「選び」「理解し」「納得する」ことを目的に、
見積比較、仕様検討、業者選定のすべてを透明化します。


●ファシリテーション型の特徴

ファシリテーション型の最大の特徴は、“公正さと理解の共有”を重視して進める点にあります。

まず、業者選定の段階では、あらかじめ候補を数社に絞るのではなく、できるだけ多くの施工会社を公平に比較します。偏りのない条件下で比較検討を行うことで、本当に信頼できる業者を選ぶことができます。

次に、各社から提出された見積は、単なる金額比較では終わりません。原価レベルまで丁寧に精査し、その差額がどこから生まれているのかを住民にわかりやすく説明します。こうした透明性のある情報共有によって、理事会や住民が納得した上で判断できる環境を整えます。

また、工法や塗料の違いといった専門的な内容についても、難しい専門用語のまま伝えるのではなく、「生活者の視点」で噛み砕いて説明し、実際の暮らしへの影響をイメージしやすくするのが特徴です。

会議の場では、担当者からの一方的な報告ではなく、住民と専門家が双方向で意見を交わす対話型の進行を重視します。意見のすれ違いや不信感を防ぎ、全員が納得できる合意形成を目指します。

さらに、こうした議論や決定のプロセスはすべて記録に残し、誰でも確認できる形で共有します。
これにより、修繕工事の過程が“ブラックボックス化”することなく、全員が同じ情報を持ちながら安心して進めることができます。

つまり、ファシリテーション型とは、「任せる修繕」ではなく「共に考える修繕」。
住民が主体となり、透明で公正なプロセスの中で一歩ずつ進めていく――それがこの仕組みの本質です。


■(株)新東亜工業におけるファシリテーション業務

■6. 「建築士=安心」という思い込みを超えて

多くのコンサルは「一級建築士が監理に入るから安心です」と説明します。
確かに建築士は設計のプロですが、
大規模修繕の現場で必要なのは“理論”ではなく“実務力”です。

なぜなら、修繕工事は新築と違い、劣化した建物の現場対応が中心だからです。
図面どおりに進まない現場で、判断を誤れば即トラブルになります。

この現場を動かす実務の専門家が「施工管理技士」です。
工程・品質・安全・コストを総合的にマネジメントできる存在であり、
修繕現場では建築士よりも重要な役割を担うことが多いのです。

新東亜工業のファシリテーションでは、
現場経験豊富な一級建築施工管理技士が中心となり、
住民が理解しやすい形で判断を支援します。


■まとめ:コンサルを“入れる前に”知ってほしいこと

大規模修繕工事を検討する際、多くの管理組合が「専門家に任せれば安心」と考え、コンサルタントの導入を検討します。
しかし、注意すべきは“肩書き”や“資格”そのものではありません。どれほど立派な資格を持っていても、コンサルが管理組合の味方でなければ意味がないのです。

本当に大切なのは、そのコンサルが中立的な立場を保ち、透明性のあるプロセスを実現できるかどうか
業者との関係が不透明だったり、見積の比較理由をきちんと説明できなかったりする場合、その「専門性」はむしろ危険な方向に働くこともあります。

また、最近増えている「無料コンサル」「格安コンサル」といった提案にも気をつけなければなりません。
一見お得に見えますが、裏では施工会社からのキックバックや高額な仕様設計など、別の形で利益を得る仕組みが隠れているケースが少なくありません。
安さだけで選んでしまうと、結果的に管理組合が損をしてしまうこともあるのです。

修繕工事を成功させるためには、住民自身が内容を理解し、納得して進められる仕組みをつくることが何より大切です。
「プロに任せておけばいい」ではなく、「自分たちの建物のことを自分たちで判断できる環境」を整えることが、トラブルを防ぐ最大のポイントになります。

そのための新しい選択肢として注目されているのが、ファシリテーション型の仕組みです。
これは、従来のようにコンサルから一方的に説明を受けるのではなく、管理組合・施工会社・専門家が同じテーブルで考え、比較し、決定していくという形。
つまり、“説明を受ける修繕”から、“共に進める修繕”へと発想を転換する方法です。

工事の成否を決めるのは「誰に任せたか」ではなく、「どんな姿勢で関わったか」。
中立性と透明性、そして住民が主体となる仕組みこそが、これからの大規模修繕の新しい常識です。

修繕を任せる時代は終わり。

これからは、住民と専門家が同じテーブルで考える時代へ。

監修:石川繁雄(一級建築士・一級建築施工管理技士)