修繕・補修・改修の違いを解説|建物管理で迷わない選び方ガイド

建物の管理やメンテナンスを考える際、「修繕」「補修」「改修」という言葉を耳にすることが多いのではないでしょうか。どれも建物に関する工事を指す言葉ですが、実はそれぞれ目的も内容も大きく異なります。

「外壁の劣化が気になるけれど、修繕と改修、どちらを選べばいいの?」「補修で済むのか、それともしっかり修繕すべきか判断に迷う…」こうした疑問や不安を抱えている方は少なくありません。

適切な工事を選ばなければ、無駄なコストがかかったり、建物の劣化を十分に食い止められなかったりする可能性があります。逆に、それぞれの違いを正しく理解しておけば、状況に応じた最適な判断ができ、建物の資産価値を守りながら長く快適に利用し続けることができます。

本記事では、建物管理の実務経験を持つ専門家の視点から、修繕・補修・改修の違いを国土交通省の公式定義も交えながら分かりやすく解説します。

工事の具体例や選び方のポイント、費用の目安まで、あなたの建物管理に役立つ実践的な情報をお届けします。

修繕・補修・改修の基本的な違いとは

建物のメンテナンス工事には、主に「修繕」「補修」「改修」の3つの種類があります。一見似ている言葉ですが、それぞれ目的や工事の規模、内容が明確に異なります。

まずは全体像を把握するために、3つの工事の基本的な違いを比較表で確認しましょう。

工事の種類主な目的工事の規模実施のタイミング
修繕建物を新築時の状態に戻す(原状回復)中~大規模定期的・計画的
補修劣化箇所を実用上支障のない程度に補う(応急処置)小規模不具合発生の都度
改修性能や機能を新築時以上に向上させる(グレードアップ)中~大規模計画的・戦略的

それぞれの工事には明確な役割があり、建物の状態や目的に応じて使い分けることが重要です。次の見出しから、各工事の詳細な内容を見ていきましょう。

修繕とは?建物を新築時の状態に戻す工事

修繕とは、建物の劣化や損傷を新築時の状態に近づけるために行う計画的な工事です。

定期的に実施され、資産価値の維持に役立ちます。

国土交通省による修繕の定義

国土交通省の公式資料では、修繕を次のように定義しています。

「劣化した部位・部材又は機器の性能・機能を原状(初期の水準)又は実用上支障のない状態まで回復させること。ただし、保守の範囲に含まれる定期的な小部品の取替え等は除く。」

参考元:国土交通省「用語の定義」

つまり、修繕は単なる一時的な処置ではなく、建物の機能を本来あるべき姿に戻すための本格的な工事といえます。

修繕工事の具体例

修繕工事には、以下のような内容が含まれます。

修繕工事の具体例
  • 外壁塗装工事▶︎ 色褪せや剥がれが生じた外壁を、新築時と同程度の塗料で塗り直す
  • 屋上防水工事▶︎ 劣化した防水層を全面的に張り替え、漏水を防ぐ
  • 鉄部塗装工事▶︎ 錆びた階段やメーターボックスなどを補修し、塗装し直す
  • 給排水管の更生・取替え工事▶︎ 老朽化した配管を新しいものに交換する
  • タイルの補修・張替え工事▶︎ 剥落の危険があるタイルを補修または張り替える

これらの工事は、建物の安全性や耐久性を維持するために欠かせないものです。特にマンションなどの集合住宅では、長期修繕計画に基づいて計画的に実施されることが一般的です。

修繕工事の中でも、建物外周に足場を組んで行う大がかりな工事を「大規模修繕工事」と呼びます。マンションの場合、一般的に12~15年の周期で実施されます。

大規模修繕工事では、外壁塗装や防水工事など複数の修繕項目をまとめて行うため、足場の設置費用を効率化できるメリットがあります。

修繕工事は、建物の資産価値を維持し、安全で快適な居住環境を保つための「守りの工事」といえるでしょう。

補修とは?劣化箇所を応急的に補う工事

補修は、ひび割れや漏水などの不具合が発生した箇所に対し、応急的・部分的に対応する小規模工事です。

都度対応型のメンテナンスです。

国土交通省による補修の定義

国土交通省の公式資料に基づく「補修」の定義は、以下の通りです。

「耐久性能や機能を回復させること。」

参考元:国土交通省「修補等の基本方針(案)」

この定義から、補修は「破損や劣化した箇所を、最低限、安全かつ使用可能な状態に戻すこと」が目的であり、「建物全体の性能を新設時水準に戻す修繕」や「性能向上を目的とした改修」とは区別されることがわかります。

補修工事の具体例

補修工事の代表的な例には、以下のようなものがあります。

補修工事の具体例
  • シーリングの打ち換え▶︎ 外壁の継ぎ目やひび割れ部分に充填材を注入して雨水の浸入を防ぐ
  • 漏水箇所の緊急処置▶︎ 住戸への漏水が発生した際の応急的な止水作業
  • 破損した設備の部分修理▶︎ 故障した照明器具や配管の一部のみを交換する
  • 剥がれた塗装の部分塗り直し▶︎ 目立つ劣化箇所のみを限定的に補修する

補修工事は、次の大規模修繕までの「つなぎ」として、あるいは緊急時の「応急処置」として実施されることが多いです。

補修から修繕への切り替え判断

補修工事を行う際は、施工業者との打ち合わせの中で「この程度の補修で本当に大丈夫なのか」を確認することが大切です。

劣化の状況によっては、補修では対処しきれず、本格的な修繕が必要になるケースもあります。建物の安全性や寿命を考えると、専門家の診断を受けて適切な工事を選択することが賢明です。

改修とは?性能や機能を向上させる工事

改修は、耐震性や省エネ性など、建物の性能を新築時以上に高める工事です。

資産価値を向上させる「攻めの工事」として注目されています。

国土交通省による改修の定義

国土交通省の公式資料では、改修を次のように定義しています。

「劣化した建物等の性能・機能を原状(初期の水準)を超えて改善すること。」

参考元:国土交通省「用語の定義」

改修工事は、単に建物を元の状態に戻すだけでなく、時代のニーズや居住者のライフスタイルに合わせて建物をアップデートすることを目指します。

改修工事の具体例

改修工事には、以下のような内容が含まれます。

改修工事の具体例
  • 耐震補強工事▶︎ 建物の耐震性能を向上させ、地震への備えを強化する
  • バリアフリー化工事▶︎ スロープや手すりの設置、段差の解消などを行う
  • 断熱性能の向上▶︎ 高性能な断熱材や複層ガラスを導入し、省エネ性を高める
  • セキュリティ強化▶︎ 防犯カメラやオートロック、テレビドアホンなどを新設する
  • 共用部の照明LED化▶︎ 廊下や階段の照明をLEDに交換し、電気代を削減する
  • インターネット環境の整備▶︎ 光回線を導入し、高速通信に対応する
  • エントランスのリニューアル▶︎ デザインや仕上げ材をグレードアップし、高級感を演出する

改修工事は、建物の快適性や利便性を高めるだけでなく、入居者の満足度向上や空室対策、資産価値の維持・向上にも大きく貢献します。

修繕と改修の組み合わせ

実際の大規模修繕工事では、修繕工事と改修工事を同時に実施するケースが多く見られます。

例えば、外壁の塗り替え(修繕)を行う際に、より高性能な塗料を使用したり(改修)、エントランス周辺の修繕と同時にバリアフリー工事を行ったり(改修)といった形です。

足場を組むタイミングで改修工事もまとめて実施することで、工事費用の削減や居住者の負担軽減につながります。

改修工事は、建物の魅力を高め、時代に合わせた価値を生み出す「攻めの工事」といえるでしょう。

修繕・補修・改修を選ぶ際の判断基準

建物に不具合や劣化が見られた場合、どの工事を選ぶべきか迷うことがあるかもしれません。

ここでは、状況に応じた適切な判断基準をご紹介します。

修繕・補修・改修を選ぶ判断基準1.建物の状態から判断する

まず、建物の劣化状況や不具合の程度を正確に把握することが重要です。

  • 緊急性が高く、部分的な不具合▶︎補修工事で対応
  • 広範囲に劣化が進行している▶︎修繕工事が必要
  • 機能面で陳腐化が目立つ▶︎改修工事を検討

専門業者による建物診断(劣化診断)を受けることで、客観的な状況把握と適切な工事の提案を受けることができます。

修繕・補修・改修を選ぶ判断基準2.目的から判断する

工事の目的を明確にすることも重要な判断基準です。

  • 建物の安全性・機能性を維持したい▶︎修繕工事
  • 当面の使用に支障がない程度に対処したい▶︎補修工事
  • 建物の価値を高めたい、競争力を向上させたい▶︎改修工事

修繕・補修・改修を選ぶ判断基準3.予算とタイミングから判断する

工事の規模や費用も判断材料の一つです。

  • 予算が限られている場合▶︎優先度の高い箇所のみ補修で対応し、次回の大規模修繕で本格的な修繕を計画する
  • 長期修繕計画に基づいた実施時期が近い場合▶︎修繕工事を計画的に実施
  • 修繕積立金に余裕がある場合▶︎修繕と同時に改修工事も検討する

マンションの場合、修繕積立金の状況や長期修繕計画との整合性を考慮することが大切です。

修繕・補修・改修を選ぶ判断基準4.専門家のアドバイスを活用する

適切な工事を選ぶためには、建築士や施工業者などの専門家の意見を聞くことが非常に有効です。

特に、「補修で済むと思っていたが、実は修繕が必要だった」「修繕だけでなく改修も行うことで費用対効果が高まる」といったケースは少なくありません。

複数の業者から見積もりや提案を取り、比較検討することで、より適切な判断ができるようになります。

建築基準法における「大規模修繕」と「大規模模様替」の意味

一般的に使われる修繕・補修・改修という言葉とは異なり、建築基準法では「大規模修繕」「大規模模様替」という特有の区分が用いられています。

工事の内容によっては建築確認が必要となるケースもあるため、法的な定義を理解することは建物管理において重要です。

ここでは、法令上の扱いと一般用語との違いをわかりやすく解説します。

法令用語一般的な工事用語意味の違い
大規模修繕修繕法令では主要構造部が対象。規模が大きい場合は確認申請が必要
大規模模様替改修内装だけでなく構造変更も含む点が異なる

大規模修繕とは?

大規模修繕とは、マンションやビルなどの建物全体を対象に、経年劣化した部分を計画的に修復・更新する工事です。

外壁塗装、屋上防水、鉄部塗装、給排水管の補修などが主な対象で、一般的には築12年〜15年ごとに行われます。
目的は、建物の安全性や美観、機能性を新築時の水準に近づけることで、資産価値を維持・回復させることにあります。

長期修繕計画に基づいて実施されるため、事前の点検・診断と資金準備が不可欠です。

大規模模様替とは?

大規模模様替(おおがたもようがえ)とは、建築基準法上の用語で、建物の主要構造部に対して過半の「模様替え(変更)」を行う工事を指します。

たとえば、柱・梁・床・壁・屋根など構造に関わる部分の配置や仕様を大きく変更する場合が該当します。
外壁の全面改修や間取り変更を伴うリノベーションなどもこれにあたるケースがあります。

大規模模様替は、用途地域や耐火構造などの制限に関わるため、確認申請が必要になることがあり、通常のリフォームや改修工事よりも慎重な計画と手続きが求められます。

模様替えというと内装の変更をイメージしがちですが、建築基準法では構造に影響する改造も含みます。工事会社の見積書では「改修工事」として扱われる場合が多いため、一般用語との違いに注意が必要です。

大規模修繕工事の費用相場と積立金の目安

建物の維持管理において、費用は大きな関心事です。

ここでは、特にマンションで重要となる大規模修繕工事の費用相場と修繕積立金の目安についてご紹介します。

大規模修繕工事の費用相場

国土交通省『令和3年度マンションの大規模修繕工事に関する実態調査』によると、1戸あたりの修繕費用相場は約75万~125万円とあります。

大規模修繕工事の主な項目別費用相場一覧(目安)

工事項目内容の例単価の目安(税込)備考
足場仮設工事外壁・屋上工事用の仮設足場設置900~1,800円/㎡建物全体の外周面積×高さで算出
共通仮設工事仮設トイレ、現場事務所、仮囲いなど50万~200万円前後工期や規模によって大きく変動
外壁補修・塗装工事クラック補修、下地調整、塗装3回塗りなど2,000~4,000円/㎡使用塗料によっても単価に差が出る
屋上防水工事ウレタン・シート・アスファルトなど3,500~6,500円/㎡工法・既存防水層の状態で異なる
バルコニー床防水長尺シート、塗布防水など3,000~6,000円/㎡使用材料により単価変動
鉄部塗装(共用部)手すり・階段・扉枠などの塗装1,500~2,500円/m錆びの進行具合で下地処理が異なる
シーリング打替えサッシ周り・外壁目地の防水シール更新700~1,500円/m高層階や狭小箇所は高くなりがち
給排水管の更新工事配管の取替・更生(ライニング)など5,000~15,000円/戸専有部含むか否かで大きく異なる
電気設備更新共用部照明(LED化)、非常灯、分電盤など3,000~10,000円/灯器具グレードや数量で変動
エレベーター更新部品交換〜全取替300万~1,200万円/基全交換の場合は高額

建物全体としての費用イメージ(戸数別)

規模(戸数)想定費用相場(税抜)備考
20戸前後約2,000万〜3,500万円小規模マンション
50戸前後約4,000万〜7,000万円一般的な分譲マンション規模
100戸前後約8,000万〜1.5億円中〜大規模マンション
200戸以上2億円以上も想定大型団地型物件など

工事費は以下の要因で大きく変動します。

費用変動の要因
  • マンションの戸数・階数・構造・形状
  • 所在地域の建設物価(都市部 vs 地方)
  • 外壁や屋上の仕上げ材・設備のグレード
  • 劣化の進行度合い(前回からの年数)
  • 改修工事や機能追加の有無

修繕積立金の目安(月額)

国交省『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』では、以下の金額が平均値とあります。

  • 専有面積1㎡あたり:170~430円
  • 平均値の目安:252~338円/㎡

【例】専有面積70㎡の住戸の場合

単価(円/㎡)月額積立金年額積立金
170円(最低目安)11,900円142,800円
338円(平均上限)23,660円283,920円

築年数や建物仕様によって必要額は大きく異なります。長期修繕計画を定期的に見直すことが重要です。

公的支援制度の活用

以下のような場合には、公的助成制度の対象となることがあります。

  • バリアフリー改修
  • 省エネ・断熱改修(窓、外壁、設備など)
  • 子育て支援・多世代共生型住宅改修
チェックポイント
  • 自治体独自の補助制度も多いため、まずはお住まいの市区町村に問い合わせましょう。
  • 「住宅省エネ2025キャンペーン」など国主導の施策も注目。

修繕・補修・改修の違いに関するよくある質問(Q&A)

建物の維持管理に関する用語として頻繁に使われる「修繕」「補修」「改修」ですが、それぞれの違いがあいまいなままでは、誤った工事選定につながる恐れがあります。

ここでは、管理組合やオーナーの方から寄せられる疑問の中から、特に多い質問をピックアップし、専門的な視点でわかりやすく解説します。工事の発注や見積もりを検討する前に、ぜひチェックしておきましょう。

Q

修繕と補修、どちらを選ぶべきか迷っています

A

劣化の範囲と緊急性、そして予算を総合的に判断してください。

部分的な不具合で緊急性が高い場合は補修で対応し、広範囲に劣化が進んでいる場合や根本的な解決が必要な場合は修繕を選ぶべきです。ただし、補修はあくまで一時的な処置であることを理解しておきましょう。

Q

改修工事は必ず行わなければならないのですか?

A

改修工事は必須ではありませんが、建物の価値向上や競争力維持のために有効です。

修繕工事が建物の安全性や機能性を維持するための「必要な工事」であるのに対し、改修工事は建物の魅力を高めるための「付加価値を生む工事」です。特に賃貸物件では、入居率向上や賃料維持のために戦略的に検討する価値があります。

Q

大規模修繕と改修工事を同時に行うメリットは?

A

足場費用の削減や工事期間の短縮、居住者の負担軽減につながります。

大規模修繕で足場を組む際に、改修工事も同時に実施することで、別々に工事を行うよりもトータルコストを抑えられるケースが多いです。また、工事による騒音や臭いといった居住者の負担も一度で済みます。

Q

修繕積立金が不足している場合はどうすればいいですか?

A

長期修繕計画の見直しや一時金の徴収、金融機関からの借り入れなどの方法があります。

まずは建物診断を実施し、優先度の高い工事を見極めることが重要です。全ての工事を一度に行うのではなく、優先順位をつけて段階的に実施することで、修繕積立金の負担を軽減できます。

Q

工事業者はどのように選べばいいですか?

A

複数の業者から見積もりを取り、実績や提案内容を比較検討してください。

価格だけでなく、施工実績、アフターフォロー体制、提案の質などを総合的に評価することが大切です。特に大規模修繕工事では、管理組合や居住者とのコミュニケーション能力も重要な選定基準となります。

修繕・補修・改修の違いを正しく理解し、建物を守る判断を|まとめ

建物の維持管理を考える上で、「修繕」「補修」「改修」の違いを正しく理解することは極めて重要です。

目的や工事の内容によって選ぶべき方法が異なり、判断を誤ると余計な費用や資産価値の低下を招く恐れもあります。長期的な視点で、計画的な工事を行うことが建物の寿命と快適性を高めるカギです。

この記事のポイントは以下のとおりです。

  • 修繕は建物を新築時の状態に戻す工事
     長期修繕計画に基づいて行う、定期的かつ本格的なメンテナンス。
  • 補修は小規模で応急的な工事
     劣化や不具合にその都度対応する短期的な処置。
  • 改修は性能や機能をグレードアップする工事
     省エネ化、バリアフリー化、耐震補強など、資産価値向上が目的。
  • 工事の目的と建物の劣化状況を正確に把握することが重要
     状況に応じて「守る工事(修繕・補修)」と「攻めの工事(改修)」を使い分ける。
  • 専門家の建物診断と資金計画をセットで行うのがベスト
     誤った判断を防ぎ、無駄な費用や手戻りを避けるためにも専門的知見が不可欠。

「修繕・補修・改修の違い」があいまいなままでは、適切な対応ができず、結果的に建物の劣化を早めてしまうリスクもあります。

最初の一歩は、専門家による現状診断と、長期視点での工事選定。建物を守る最適な方法を選び、資産価値を維持・向上させていきましょう。