【賃貸経営】大規模修繕を「やるだけ赤字」にしないための考え方(RC・木造アパート両方)

一棟のRCマンションや木造アパートを持っているオーナーにとって、「大規模修繕」は避けて通れないテーマです。
ところが、いざ見積もりを取ってみると数百万円〜数千万円という金額が並び、「これ、本当にやった分だけ回収できるのか?」という不安を持つオーナーも少なくありません。

この記事では、一棟オーナーが「大規模修繕=やらないといけない“コスト”」ではなく、「投資として回収するための一手」として考えるための視点と、RC・木造それぞれのざっくりシミュレーションを整理します。


なぜ「やるだけ赤字」に感じるのか

大規模修繕の相談の場面では、多くのオーナーが次のようなモヤモヤを抱えています。

  • 工事費用の見積もりは出てきたが、「やった後に何がどれだけ良くなるのか」が見えにくい。
  • 売却や出口のタイミングを決めていないので、「回収期間」のイメージが持てない。
  • 管理会社や施工会社からは「必要性」はよく説明されるが、「リターン」の話が薄い。

結果として、

  • 「やらないと建物が傷むのは分かるけれど、“投資の目”で見ると踏ん切りがつかない」
  • 「結局、キャッシュフローが悪化するだけでは?」

という感覚になり、「先送り」が常態化しがちです。

本来、大規模修繕は、

  • 入居率や家賃水準を維持・改善するための施策
  • 売却や再評価のときに、物件価値を下支えする要素
  • 将来の突発的な大きなトラブル(雨漏り・外壁落下など)リスクを減らす「保険」

という複数の顔を持っています。
この「リターン」と「回収のイメージ」を言語化しておかないと、どうしても「やるだけ赤字」に見えてしまいます。


大規模修繕で期待できる“3つのリターン”

まず、「大規模修繕をやることで何が変わるのか」を整理します。

1. 入居率・家賃の維持・改善

  • 外壁・共用部がきれいになり、印象が良くなることで、募集時の反響や成約率が上がりやすくなります。
  • 築古でも「きちんと手入れされている物件」は、家賃の下落ペースを緩やかにできる、あるいは小幅な賃料アップが狙えるケースもあります。

例として、

  • 入居率が90%→95%に改善
  • 一部の部屋で2,000円〜3,000円の家賃アップが実現

といった変化でも、年間ベースでは無視できないインパクトになります。

2. 将来の売却価格・出口条件の下支え

  • 大規模修繕の実施履歴や、外観の状態は、収益物件の売却時にもチェックされるポイントです。
  • 「直近でしっかり修繕している物件」は、買い手にとっても安心材料となり、価格交渉で不利になりにくくなります。

逆に、

  • 「大規模修繕未実施」「外壁クラック多い」「屋上防水の劣化が進行」

といった状態だと、

  • 価格交渉で大きく叩かれる
  • 「修繕費を見越したディスカウント」を要求される

可能性が高まります。

3. 突発トラブル・訴訟リスクの軽減

  • 外壁の落下や雨漏りなど、放置すれば「事故」や「クレーム」「損害賠償」につながり得るリスクを、前倒しでコントロールできます。
  • 結果として、「いつか必ず払うことになる費用」を計画的に分散しつつ、余計なコストやストレスを避けられます。

これら3つを「数字」と「期間」に落とし込んでいくと、大規模修繕は単なる支出ではなく、「どのくらいの期間でどれだけ回収を狙う投資か」という視点で捉えやすくなります。


RCと木造で違う“ざっくり費用感”

次に、RCマンションと木造アパートでの大規模修繕のざっくり目安を押さえます。

RC一棟マンションの目安

  • 規模:3〜5階建て・20〜30戸クラス
  • 外壁・屋上防水・共用部改修などを含む大規模修繕

費用のイメージ:

  • 1戸あたり50万〜100万円前後
  • 20戸だと、総額1,000万〜2,000万円程度が一つの目安とされています。

もちろん、

  • タイルか塗装か
  • 足場条件
  • 仕様(防水の種類、塗料のグレードなど)

によって大きく変わりますが、「数百万円では済まず、1,000〜2,000万円レンジが現実的」という感覚は持っておいた方が安全です。

木造アパートの目安

  • 2階建て・8〜12戸前後の木造アパート

費用のイメージ:

  • 外壁塗装・屋根塗装・共用部の補修などをまとめて行う場合、300万〜800万円前後が多いレンジとされています。
  • 延床や劣化具合によっては1,000万円近くになるケースもありますが、多くは「RCより少し小さめ」の規模感です。

いずれにしても、

  • 「●●万円」レベルではなく、「●●●万円〜●●●●万円」レベル
  • 1年分の家賃収入のかなりの割合(あるいはそれ以上)を投じる

という決断になるため、「投資として回収するイメージ」を持たずに決めるのは危険です。


ケース別シミュレーション①:RC一棟マンション(入居率と家賃で回収を狙う)

ここから具体的な数字に落としてみます。

【前提】RC一棟マンション

  • 戸数:24戸
  • 現在の平均家賃:月8万円
  • 満室想定家賃:24戸×8万円=月192万円(年2,304万円)
  • 現状入居率:90%(空室2〜3戸)
  • 現在の実際賃料収入:2,304万円×0.9=約2,074万円/年

【大規模修繕の内容と費用】

  • 外壁塗装・タイル補修
  • 屋上防水
  • 共用部の照明・サイン・一部配管補修

→ 見積り総額:1,800万円(足場込み)

修繕後にどれくらい改善すると“投資”と言えるか

シナリオA:入居率改善+家賃微増

  • 入居率が90%→97%に改善(空室がほぼ埋まる状態)
  • 平均家賃を1,000円だけアップ(8.0万円→8.1万円)

この場合、

  • 満室想定家賃:24戸×8.1万円=月194.4万円(年2,333万円)
  • 入居率97%とすると実収入は約年2,263万円

修繕前の実収入約2,074万円との差:

  • 年間の増加額:約189万円

このペースが続くと仮定すると、

  • 1,800万円÷189万円≒約9.5年

で「キャッシュフロー上は回収した」とも言えるイメージになります。

もちろん、

  • 実際には家賃や入居率は一定ではない
  • 管理費や固定資産税等の変動もある

ため、あくまで概算ですが、「10年前後で回収できそうかどうか」という目線は持ちやすくなります。

シナリオB:入居率は改善するが、家賃は据え置き

  • 入居率90%→97%
  • 家賃据え置き

この場合、

  • 満室想定2,304万円×0.97=約2,235万円
  • 差額:2,235万−2,074万=約161万円/年

1,800万円÷161万円≒約11.2年で、「目安として10年強」で回収というイメージになります。

ここで重要なのは、

  • 「修繕費1,800万円は高い/安い」ではなく
  • 「どの程度の入居率・家賃改善を狙い、その結果、何年で回収する設計なのか」

を、最初の段階でイメージしておくことです。


ケース別シミュレーション②:木造アパート(小さな投資で“劣化感”を消す)

次に、木造アパートのケースを見ます。

【前提】木造2階建てアパート

  • 戸数:8戸
  • 平均家賃:月6万円
  • 満室想定家賃:8戸×6万円=月48万円(年576万円)
  • 現状入居率:87.5%(1戸空き)
  • 実収入:576万×0.875=約504万円/年

【大規模修繕の内容と費用】

  • 外壁塗装
  • 屋根塗装
  • 共用階段・廊下の防滑シート・手すり補修

→ 見積り総額:450万円とします。

修繕後に狙いたい変化

シナリオC:空室解消+募集力アップ

  • 入居率87.5%→100%(満室)
  • うち数戸で家賃+2,000円の上積み

この場合、

  • 満室で年576万円に回復
  • さらに4戸で+2,000円/月×12ヶ月=年96,000円アップ

合計すると、

  • 年間の増収:
    • 入居率改善分:576万−504万=72万円
    • 家賃アップ分:9.6万円
    • 合計:約81.6万円

450万円÷81.6万円≒約5.5年

となり、「約5〜6年で投資回収」というイメージになります。

木造アパートのように総額が比較的コンパクトなケースでは、

  • 「外観の劣化感を消す」
  • 「競合物件に見劣りしないようにする」

という意味での投資効果が出やすく、回収期間もRCより短くなるケースが多いです。


「修繕する・しない」を決める前に確認したい3つのポイント

実際に工事のGo/No-Goを判断する前に、最低限押さえておきたいポイントを整理します。

1. 現状の“損している額”を見える化する

  • 現在の入居率・家賃の水準を、「満室時」と比較してどれくらい機会損失が出ているかを把握します。
  • すでに毎年100万〜200万円単位で取り逃しているなら、「修繕でどこまで戻せるか」は重要な検討材料になります。

2. 修繕後に「どこまで改善する想定か」を仮決めする

  • 入居率何%を狙うのか
  • 家賃を据え置きとするか、どれくらいアップを試みるのか

といった“目標値”をざっくりでも決めて、

  • 「何年間で回収を目指す投資か」

という感覚を持っておくことが大切です。

3. 出口戦略との整合を確認する

  • この物件をあと何年持つつもりか
  • 売却や建て替えをいつ頃イメージしているか

によって、「投資回収に使える期間」が変わります。
持ち期間が短いのに、大規模な投資をしても回収が難しいことがあるため、「No33で決めた出口イメージ」と必ずすり合わせておく必要があります。


オーナーが今すぐ取れる5つのステップ

最後に、「大規模修繕を検討するかどうか」を具体的に前に進めるためのステップをまとめます。

  1. 現在の入居率・家賃・満室想定収入を整理する
    • 直近1〜2年の入居率の推移と、平均家賃を表にしてみる。
    • 満室とのギャップ(金額ベース)を把握して、「今いくら取りこぼしているか」を見える化する。
  2. RC・木造それぞれの「ざっくり費用レンジ」を把握する
    • 自分の物件規模に近い事例の費用感を参考に、1回の工事でどのレンジになりそうかをイメージする。
    • 見積もりを取る際も、そのレンジから大きく外れていないかをチェックする。
  3. 「修繕後にどこまで改善させたいか」の仮シナリオを作る
    • 入居率改善と家賃アップの“現実的なライン”を設定し、ざっくり回収期間を計算する。
    • 「10年で回収」「5〜6年で回収」など、自分が許容できる回収イメージを言語化する。
  4. 出口戦略との整合性をチェックする
    • 長期保有するのか、10年以内に売却・建て替えを視野に入れるのかを再確認する。
    • 持ち期間と回収期間が釣り合っているかどうかを見て、投資の規模感やタイミングを調整する。
  5. 信頼できる施工会社・管理会社に「投資目線」で相談する
    • 「いくらかかるか」だけでなく、「どんな工事をすれば、どれくらい募集力が上がりそうか」という視点で話を聞く。
    • 複数社の提案を比較し、「費用」だけでなく「入居者目線での見栄え」「将来のメンテナンス性」も含めて総合判断する。

大規模修繕を「出口までのキャッシュフロー設計」の一部として捉える

大規模修繕は、「やるか・やらないか」ではなく、「いつ・どの規模で・どんな意図を持ってやるか」で結果が大きく変わるテーマです。
入居率・家賃・売却価格・突発トラブルのリスクといった要素に数字で向き合うことで、「やるだけ赤字」という感覚から、「出口までを含めたキャッシュフロー設計の一部」という見方に変えていけます。

RCマンションでも木造アパートでも、「いくらかかるか」だけで判断せず、「どのくらいの期間で、どこまで回収を狙う投資なのか」を一度整理してみることが、賃貸経営の舵取りを楽にする近道です。