【賃貸経営】急な修繕と「予備費」――計画修繕だけでは対応できない現実
2026/01/26
賃貸経営で欠かせない存在が「修繕積立」です。
築15年を超えたRC造や、築20年を迎えた木造アパートであれば、外壁塗装や屋上防水といった大規模修繕が視野に入ってきます。
その一方で、多くのオーナーが見落としやすいのが「計画的な修繕では間に合わない、突発的な修繕」の存在です。
給湯器が壊れた。ポンプが故障した。台風後、外壁の一部が剥がれ落ちた。こうした予期しない修繕は、年1回程度であれば対応できます。しかし複数の物件を抱えていたり、築年数が進んでいたりすると、「ある年に修繕が集中する」というリスクが一気に高まります。
その結果、
・長期修繕計画のための積立を、つい使ってしまう。
・「修繕費がいくらかかるか読めない」という不安感が拭えない。
・売却時に「修繕資金をあらかた使ってしまった」という後悔につながる。
このような状態を避けるために、この記事では「計画的な大規模修繕」と「突発的な修繕に備える予備費」をどう切り分けるか、その考え方を整理していきます。
目次
「修繕積立」という一つの枠では足りない理由
賃貸経営で「修繕費」という言葉を使うとき、実は複数の異なる内容が混在していることが多いです。
・12〜15年サイクルで行う外壁塗装や屋上防水(大規模修繕)。
・給湯器やポンプなど、10〜15年の寿命で交換が必要になる設備。
・突然のトラブル対応――雨漏り、漏水、コンクリート剥離など。
・共用部の軽微な補修――階段の手すり修理、駐輪場の補修など。
この4層を「修繕積立」という一つの枠で考えると、
・「今年は給湯器が3台壊れた。そのため大規模修繕の積立ができなかった」
・「予想外の漏水修理で50万円かかった。来年の資金計画が狂った」
といった状況になりやすくなります。
実際、オーナーが感じる「修繕費が読みにくい」という不安の原因は、多くの場合「これらを混在させて管理している」という点にあります。
具体的には、
長期修繕(大規模修繕・中規模修繕):12〜20年スパンで計画的に進める工事。
→ 金額が大きい(100万〜数千万円)だからこそ、計画を立てて積み立てる必要がある。
設備交換:給湯器、ポンプ、インターホン、共用照明など。
→ 個別の寿命があり、「いつ来るか」は部分的に予測可能だが「正確なタイミング」は読みにくい。
突発修繕・予備費:不測の故障・事故への対応。
→ 「いつ来るか」は読めないが、「多くの物件では何年かに一度は発生する」という統計的現実がある。
この3層を明確に分けることで、初めて「修繕費をいくら確保すればよいか」が見えてきます。
過去の修繕履歴から「予備費の目安」を割り出す
自分の物件で「予備費がどれくらい必要か」を知るための最初のステップは、過去の修繕履歴を整理することです。
【例1:RC一棟マンション(24戸・築15年)】
過去5年間の修繕費内訳:
・1年目:給湯器3台交換(計60万円)
・2年目:共用部階段補修(15万円)
・3年目:ポンプ交換(45万円)+ 屋上防水補修(80万円)
・4年目:インターホン更新(25万円)
・5年目:漏水修理(35万円)+ 給湯器2台交換(40万円)
5年間の合計:約300万円
年平均:約60万円
このうち「計画的・周期的な修繕」(防水補修など)を除くと、
「突発的・補修的な修繕」は約5年で185万円 ≈ 年平均37万円です。
この物件の年間家賃収入が2,000万円だとすれば、
突発修繕予備費の目安:年間家賃の2〜2.5% ≈ 40〜50万円
という数字が「その物件にとって現実的な目安」になります。
【例2:木造アパート(8戸・築20年)】
築年数が進むにつれ、突発修繕の頻度と金額は増える傾向があります。
過去5年間の修繕費:
・1年目:雨樋補修(18万円)
・2年目:給湯器2台交換(30万円)
・3年目:漏水修理(50万円)
・4年目:雨漏り補修(40万円)+ 階段手すり修理(8万円)
・5年目:給湯器1台交換(15万円)+ 外壁一部補修(25万円)
5年間の合計:約186万円
年平均:約37万円
年間家賃収入が600万円の場合、
突発修繕予備費の目安:年間家賃の3〜4% ≈ 18〜24万円/年
となります。
ここで注目すべき点:木造8戸と大規模RC24戸でも、「家賃比率」で考えるとほぼ同じレンジになります。
つまり、物件規模よりも「築年数」と「設備の更新周期」の方が、予備費の必要額を左右する要因になるということです。
ケース分析:予備費がない場合に起きること
では、「予備費を分けずに管理していた場合、どんなことが起きるのか」を見てみましょう。
【ケース①:年間50万円の大規模修繕積立をしていた24戸RC】
想定シナリオ:ある1年に、給湯器故障4台(80万円)+ 雨漏り修理(60万円)= 合計140万円の突発修繕が発生。
もし「予備費を別途持っていない」場合:
・その年の修繕予算50万円で対応できず、不足額90万円を「別途捻出」する必要が生じる。
・オーナー個人の貯蓄から補填するか、ローンを増やすか、日々の家賃収入を修繕に充てる。
・結果、他の投資や生活費の計画に支障が出る。
・大規模修繕のための積立は、その年から計画が狂い始める。
さらに悪いシナリオとしては:
・「修繕費がいくら必要か読めない」という不安が強まり、売却を検討する場合、「修繕積立が不足している」という判断になりかねない。
・買い手視点では「この物件は修繕資金が十分でない=リスクがある」と評価され、売却価格が下がる可能性。
【ケース②:予備費を意識的に確保していた同じ物件の場合】
同じ24戸RCで:
・大規模修繕積立:年50万円
・突発修繕予備費:年40万円
・合計:年90万円の修繕関連予算
を確保しているとします。
給湯器故障4台 + 雨漏り修理(合計140万円)が発生しても:
・その年の予備費40万円だけでは足りないが、「予備費口座」に数年分の残高(例:150万円)があれば対応できる。
・緊急対応後も「大規模修繕積立50万円分」は別枠で継続でき、計画が狂わない。
・「修繕は計画的に対応できている」という印象が、売却時の評価にもプラスに働く。
この「数年分の予備費を持っているか持っていないか」で、
・心理的な安定度
・他の経営判断の自由度
・将来の売却時の評価
が大きく変わります。
予備費の「目安額」を決める三つのステップ
では、自分の物件にとって「どのくらいの予備費が必要か」を具体的に決める方法を整理します。
ステップ1:過去5年間の突発修繕を集計する
給湯器交換、雨漏り補修、漏水修理など、「計画されていなかった修繕」をすべて拾い出す。
年間家賃収入に対する「突発修繕の実績比率」を計算する。
目安:多くの物件では「年間家賃の2〜4%」が目安とされています。
ステップ2:物件の築年数・設備の老朽度に応じて調整する
・築15年以内:比較的低め(2%程度)で足りることが多い。
・築20〜25年:中程度(3〜3.5%)
・築25年以上:より厚めに(3.5〜4%以上)を想定した方が安全。
ステップ3:予備費の「貯蓄目標額」を設定する
・「通常時に突発修繕が発生したときの対応」なら、年間予備費 × 2〜3年分。
・「修繕が集中した年にも対応」するなら、年間予備費 × 4〜5年分。
例:年間家賃60万円の木造8戸で、年間予備費20万円を積み立てるとすれば、
目標貯蓄額 = 20万円 × 3年分 = 60万円。
この60万円を別口座に積み上げるまでは「生活費や他の投資に充てない」というルール。
60万円に到達したら、その後は「予備費で対応した分」をまた積み立てる、という循環になります。
予備費と大規模修繕、二つの積立を並行させるコツ
「大規模修繕のための積立」と「突発修繕のための予備費」を同時に用意するのは、一見すると家計負担が重く感じられるかもしれません。
ただし、発想を変えると「二つ分ける方が結果的に楽になる」という側面があります。
・明確に分けておくと「今年の急な修繕費は予備費から」「大規模修繕のための積立は継続」という判断が簡単になる。
・心理的に「予備費が枯渇しても、大規模修繕用は別にある」という安心感がある。
・複数物件がある場合、物件ごとに「どこまで予備費が貯まっているか」を見える化できる。
実務的には:
金額配分のイメージ(年間家賃1,500万円の大規模RCの場合)
・長期修繕積立:家賃の5% = 年75万円(10年後の大規模修繕2,000万円に向けて)
・突発修繕予備費:家賃の2.5% = 年37万円(数年の蓄積で突発対応用)
・合計:年間家賃の7.5% = 年112万円
この「年112万円」を仕組み化して確保すると、
・修繕で慌てることがない
・売却時に「修繕資金が十分整備されている物件」と評価されやすい
・オーナー個人の生活資金と「事業用の修繕資金」が明確に分離される
というメリットが生まれます。
まとめ|「予備費を見える化する」ことが修繕を読める第一歩
賃貸経営では「修繕は必ず来る」という前提が大切です。
その中でも「計画的な大規模修繕」と「突発的な小修繕」は、全く性質が異なります。
二つを混在させたまま管理していると:
・修繕費がいくら必要か読めず、経営判断が揺らぐ
・年によっては修繕で現金が急激に減り、心理的な不安が高まる
・売却を考えたときに「修繕資金不足」という評価になりかねない
という悪循環に陥りやすくなります。
しかし、
・過去の修繕履歴から「自分の物件では年何%の突発修繕が起きているか」を把握し
・大規模修繕積立と突発修繕予備費を別枠で管理し
・物件ごとに「予備費の目標残高」を決めておく
という3つのステップを踏むだけで、修繕への見通しが劇的に変わります。
「突発修繕をゼロにする」のではなく、「予備費があることで対応できる」という状態を作ること――それが、長く安心して賃貸経営を続けるための土台になるのです。