【賃貸物件】賃貸物件を“増やす”より“整理する”タイミングとは?

いまのポートフォリオを見直すべきサイン

賃貸経営の“引き算”を考えるべきタイミングには、いくつかのサインがあります。

ひとつは、築年数が30年、40年を超えた物件が増え、外壁や屋上、防水、配管など「大きな修繕」の話がよく出るようになってきたときです。
昔は小さな修理で済んでいたのに、最近は見積書の桁がひとつ増えている……そんな感覚があれば、「このまま全部抱えて良いのか」を考えるサインです。

もうひとつは、家賃を下げないと決まりにくい物件が、手持ちの中にいくつも出てきたときです。
周りの新築やリノベ物件と比べて、どうしても見劣りするアパート・マンションは、「家賃を守るために修繕で攻めるか」「無理をせず、今のうちに出口を探すか」を検討する時期に差しかかっています。

そして、年齢や体力の面で「この規模をあと10年、20年自分で見ていけるか」と不安がよぎるようになったときも、大事なサインです。
自分や配偶者の健康、子ども世代の状況、仕事の引退時期などを考えると、「そろそろシンプルにしておきたい」という本音が顔を出してきます。

さらに、「子どもが継ぎたがっていない」「誰がどの物件を引き継ぐか話し合えていない」状態も、放っておくと相続のときに重たい問題になりやすい部分です。
こうしたサインが2~3個以上当てはまるようなら、物件を増やすよりも「持ち方を整える」ことに意識を向けてみる価値があります。

まずは「持ち物の棚卸し」から始める

どれを残して、どれを手放すかを考える前に、やっておきたいのが「棚卸し」です。難しいことではなく、手持ちの物件を一度、紙の上に全部並べてみる作業です。

物件ごとに、次のようなことを書き出してみてください。

  • どこにある、いつ建った、どんな間取りか(所在地・築年数・戸数・間取り)。
  • いま一年間で、家賃がいくら入っているか(満室ではなく実績ベース)。
  • ローン、管理費、修繕費、固定資産税、保険など、一年間でどのくらいお金が出て行っているか。
  • 差し引きで、一年間にいくら手元に残っているか(実質のキャッシュフロー)。
  • ローンの残高と、完済予定の年。
  • 近いうちに予定されている大きな修繕(外壁、屋上防水、エレベーター、受水槽、設備入れ替えなど)。

ここまで出したら、ネット査定や付き合いのある不動産会社に簡易査定を依頼し、「もし今売ったらだいたいいくらで売れそうか」も横にメモしておきます。
そこからローン残高を引けば、「売った場合にいくらぐらい残るか」という、ざっくりした目安も見えてきます。

この棚卸しをすると、「何となく不安だった物件」と「意外としっかり稼いでくれている物件」が分かれ始めます。
つまり、「ポートフォリオの中で、元気な物件」と「息切れし始めている物件」が、数字の上で見えてくるようになります。

「残す物件」と「整理候補」を仮で分けてみる

棚卸しができたら、いきなり売却を決める必要はありません。まずは「残す軸」と「整理候補の軸」を、仮で決めてみるところから始めます。

残す側に近い物件は、たとえばこんな特徴があります。

  • 入居率が高く、空室が出ても比較的早く埋まる。
  • 周辺の人口や交通、商業施設などを見ても、今後すぐにエリア全体が弱りそうには見えない。
  • 共用部や外観の管理が良く、修繕を続ければまだ十分戦えそうな状態にある。
  • ローン返済や修繕費を考えても、実質のキャッシュフローがしっかりプラスで、多少の空室や修繕にも耐えられる余裕がある。

一方で、「整理候補」に近い物件は、次のような特徴を持ちやすいです。

  • 空室や家賃の下落が続き、広告費やリフォームにお金をかけても戻りが小さい。
  • 周辺に新築や競合物件が増え、見比べられるとどうしても選ばれにくい。
  • 近い将来、高額な大規模修繕が予定されているのに、それをまかなうキャッシュフローや積立がぎりぎり、または足りていない。
  • 今売却しても大きなマイナスにならない、もしくはむしろ一定のプラスが出そうな状況にある。

ここで大事なのは、「A:基本的に残したい物件」「B:前向きに整理を検討する物件」「C:しばらく様子を見てから決める物件」という三つに分けることです。
最初から「売るか残すか」の二択にすると、自分を追い詰めてしまい、決断が怖くなります。

売るだけでなく「組み替える」という選択肢

物件を整理する=賃貸経営をやめる、という意味ではありません。
「古くて手がかかる物件」を売って、「今の自分たちに合った物件」に組み替えるという発想もあります。

たとえば、こんな組み替え方が考えられます。

  • 郊外の築古アパートを売却し、管理しやすい規模の区分マンションや、自宅に近い物件に集約する。
  • エレベーターのある古い中型ビルを手放し、エレベーターのない小ぶりなアパートや、新しめの物件に入れ替えることで、将来の修繕負担を軽くする。
  • 手間のかかる遠方の物件を整理し、「目が届きやすいエリア+管理会社との連携を取りやすい規模」に絞る。

組み替えを検討するときは、「キャッシュフローが良くなるかどうか」だけでなく、「管理の手間と精神的な負担が小さくなるかどうか」も同じくらい大切です。
年齢を重ねるほど、「多少利回りが下がっても、手間とリスクが下がる方が良い」という判断になることも珍しくありません。

相続と老後資金から“逆算する”という考え方

ポートフォリオ見直しを考えるとき、「今の収益」だけを見ると迷ってしまいがちです。
そこで役に立つのが、「老後資金と相続」から逆算する考え方です。

まず、自分と配偶者の老後生活に、毎年どのくらいのお金が必要になりそうかをざっくり出してみます。
公的年金やその他の収入と、生活費・医療・介護の見込みを足し引きして、「賃貸から毎年どのくらい安定して入ってきてほしいか」の目安を作ります。

次に、子ども世代の本音を、可能な範囲で聞いてみます。
「自分たちは賃貸経営を続けたいのか」「むしろシンプルに現金で残してほしいのか」など、ざっくりした方向性だけでも共有できると、残すべき物件・整理すべき物件の考え方が変わります。

そのうえで、税金の視点も重ねていきます。
相続税・固定資産税・将来の売却時の税金などを踏まえたとき、「どの物件は残しても負担になりにくいか」「どの物件は相続前に売っておいた方がいいか」を、税理士などと一緒にシミュレーションしてみると良いでしょう。

ここで注意したいのは、「節税だけを優先すると、キャッシュフローや家族の負担がかえって重くなることがある」という点です。
税金・老後・相続・修繕・キャッシュフローを、同じテーブルの上でバランスさせることが、ポートフォリオ見直しの本当の目的になります。

一人でポートフォリオをいじるのが危険な理由

ここまで読んで、「やっぱりいくつか整理した方が良さそうだ」と感じたとしても、一人で全部決めて動くのはおすすめできません。

理由のひとつは、売却の順番とタイミングを間違えると、「税金だけが大きく出て、手元にほとんど残らない」ということが起こり得るからです。
もうひとつは、一社の不動産会社の意見だけを頼りにすると、「売りやすい物件から先に手放してしまい、本当に残すべき物件を失ってしまう」リスクがあるからです。

また、家族と何も話し合わないまま物件を動かすと、「なぜ勝手に売ったのか」「どういう考えで整理したのか」が伝わらず、相続のときにわだかまりを残すことにもつながります。

だからこそ、「数字と現場」と「家族と将来」の双方を意識しながら、物件全体を俯瞰して一緒に整理してくれる相手を持つことが、とても大切になります。

物件を増やすことより、「今の自分たちにちょうどいい持ち方に整える」ことの方が難しくなってくるのが、中高年オーナーのステージです。
どこを手放し、どこを残し、何を家族に託すか。その答えは、人それぞれ違います。

物件を増やす時期から「整える」時期に変わってきたオーナーにとって、一番のリスクは「何となく不安なまま、はっきり決めない状態が長く続くこと」です。
売る・残す・組み替えるの選択肢は、一度きちんと数字と家族の状況を並べてみれば、思っているより整理できます。

自分ひとりで完璧な答えを出そうと背負い込まず、「今ある物件と収支、家族の希望を一度テーブルに並べるところ」から、人の手を借りてみてください。
それだけで、今のポートフォリオをどう整えていくかの道筋は、ぐっと見えやすくなります。