【マンション経営】最初は「修繕してでも持つつもりだった」一棟マンションを、途中から「売却前提」に切り替えたオーナーの話
2026/02/03
目次
数字と現実を前に“気持ちが変わる”までに何が起きたのか
一棟マンションを持っているオーナーの多くは、購入したときにはこう思っていたはずです。
「ローンをきちんと返して、修繕しながら長く持っていけばいい」
「大規模修繕は必要でも、やりながら賃貸経営を続けていけばいい」
ところが、築20年・30年と年数を重ねる中で、
- 想定していた以上の修繕費の大きさ
- 空室の増加や賃料下落
- 自分の年齢や家族・仕事の変化
などが重なり、「当初は修繕してでも持つつもりだったのに、今は売却前提で考えるべきかもしれない」と気持ちが変わっていくオーナーも少なくありません。
この記事では、一棟RCマンションを持つあるオーナーをモデルに、「修繕して持つつもり」から「売却前提に切り替える」までの思考の流れをストーリー形式で辿りながら、
- どこで何につまずきやすいのか
- どんな数字と現実が、考え方を変えさせたのか
- 同じ状況になりかけているオーナーは、何を先に整理すべきか
を整理していきます。
1.購入時:「修繕しながら長く持つ」前提でスタートした一棟マンション
1-1 購入時の前提:ローン完済まで持つつもりだった
Aさん(50代・会社員+不動産オーナー)は、築12年・RC造の一棟マンションを初めて購入しました。
駅徒歩10分・地方中核都市のファミリータイプ20戸程度の物件で、
- 当時の空室は1〜2戸程度
- 管理会社の評価も「人気は安定している」
- 表面利回りもまずまず
という条件でした。
購入時のAさんの前提は、非常にシンプルです。
- 「ローン完済まで持ち続ける」
- 「築20年・30年のタイミングで大規模修繕を入れながら、賃貸経営を続ける」
つまり、「修繕してでも持つ」が大前提で、売却はほとんど意識していませんでした。
1-2 当時の試算:「大規模修繕も何とかなる」と考えていた
購入時、仲介会社や管理会社から、
- 「築20年前後で外壁・防水の大規模修繕が必要になります」
- 「その時に向けて、毎年○○万円ずつは修繕積立をしておきましょう」
といった話は聞いていました。
Aさんは、それを踏まえて、
- 年間キャッシュフローの一部を修繕積立に回す
- ボーナスなどからも少しずつ積み立てる
という計画を立て、「大規模修繕も何とかなるだろう」と考えていました。
この時点では、
- 空室も少なく
- 管理会社との関係も良好で
- 金利も低く
「特に問題のない、優等生の一棟マンション」という認識だったのです。
2.築20年前後:「修繕して持つ」前提が初めて揺らぎ始めた
2-1 想定以上に膨らんだ大規模修繕の見積り
築18年を過ぎた頃、管理会社から正式に「そろそろ大規模修繕を検討しましょう」という話が出ました。
- 外壁のひび割れ・シーリングの劣化
- 屋上防水の寿命
- バルコニー・共用廊下・階段の防水・手摺の塗装
といった項目に加え、共用部の長尺シートや照明も含めたプランで見積りを取った結果、
- Aさんの想定+周囲から聞いていた相場の感覚よりも、2〜3割高い見積額
が提示されました。
ちょうどその頃、建設費・人件費の高騰もニュースで取り沙汰されており、「10年前に聞いていた相場」では通用しない状況になっていたのです。
2-2 修繕積立と内部留保が「思ったより足りていない」ことが判明
Aさんは、購入時から修繕積立を続けていたつもりでしたが、実際に見積りと照らしてみると、
- 積立+内部留保を合わせても、見積額の半分〜6割程度しか賄えない
という現実が見えてきました。
- 残りは借入か、一括の自己資金投入が必要
- 借入にすると、今後の返済負担が増え、キャッシュフローは薄くなる
という数字を目の前にしたとき、Aさんの中で初めて、
「ここまでして、この一棟を持ち続けるべきなのか?」
という疑問が浮かびます。
2-3 空室と賃料にも変化が出始めていた
同じタイミングで、エリアにも変化が出ていました。
- 駅前に新しい分譲マンション+新築賃貸が建ち始めた
- 周辺に競合する築浅物件が増え、希望賃料では少し決まりにくくなっていた
- 管理会社からも「このままの外観・共用部だと、今後は苦戦するかもしれませんね」というコメントがちらほら出てきた
空室は依然として「2〜3戸」程度で済んでいましたが、
- 賃料を1割下げないと決まりにくい部屋が出てきた
- 入居までの期間も、以前より少し長くなっていた
という肌感覚がありました。
3.「修繕して持つ」前提で一度はシミュレーションしてみたが…
3-1 「修繕して持ち続ける」シナリオの試算
Aさんは、「当初の前提通り、まずは修繕して持ち続ける」という前提でシミュレーションしてみます。
- 大規模修繕費:例として7,000万円
- 修繕後の家賃:現状維持〜一部で微増が期待できる
- 空室率:改善して満室に近い状態を維持できる
- 借入を追加で行い、返済は家賃から賄う
この前提で、ざっくりと回収を考えてみると、
- 修繕後の年間キャッシュフローの改善分は、数百万円レベル
- 元を取り返すには10年以上かかる見込み
という結果になりました。
もちろん、建物寿命はまだまだあり、10年以上使える前提ではあります。
しかし、「投資として見たときに、この一棟にここまで資金を固定していいのか」という問いが浮かびます。
3-2 自分の年齢・仕事・家族の状況と重ねてみたとき
さらにAさんは、自分の状況も重ねて考えました。
- 自分はすでに50代後半
- 本業の仕事も、数年以内に役職定年や引退の話が現実味を帯びてきている
- 子どもたちはそれぞれ独立しており、このマンションを「自分たちで引き継いで運営したい」とは言っていない
「10年かけて修繕費を回収する」といっても、その10年の間、
- 管理の手間やリスクも続く
- 金利や税制、エリアの需給がどう変わるかも分からない
という不確実性があります。
この時点でAさんは、初めて「売却」という選択肢を、本気で考えるようになりました。
4.「売却前提」に切り替える決め手になった3つのポイント
4-1 金融機関の見方:「修繕費借入」と「売却後の次の一手」
Aさんは、取引のある金融機関にも相談しました。
- 修繕費借入をした場合の条件(金利・期間・返済額)
- 売却した場合のローン残債と手残りのイメージ
- その手残りを元手に、次の物件や別の投資に動けるかどうか
金融機関の担当者からは、
- 「この一棟に追加で借入をしても、不可能ではない」
- 「ただ、築年数がさらに進む中で、これ以上の借入余地はあまりない」
- 「売却して残債を返し、残った資金と本業の信用で、別の若い物件に組み替えるのも一つの考え方」
という話が出てきました。
この時点でAさんは、「この一棟にさらに負債とリスクを積み上げる」のか、「一度リセットしてポートフォリオを組み替える」のか、という視点を持つようになります。
4-2 管理ストレス・時間コストの増加
同時期に、
- 入居者の属性変化(若年層から高齢者・外国籍など、多様化)
- 生活トラブル・小さなクレーム対応の増加
- 管理会社とのやり取りの頻度・調整の手間
も徐々に増えていました。
若い頃は「多少手間でも、賃貸経営の一部」と割り切れていたことが、年齢とともに負担に感じられる場面も増えてきます。
Aさんはここで、
「この一棟に、これからも自分の時間と気力をどれだけ割けるのか?」
という、ある意味もっとも根源的な問いに直面しました。
4-3 売却査定で見えた「今ならまだ動けるライン」
最後に、実際に売却査定を複数社に依頼したところ、
- 現状のままでも、それなりに需要はある
- ただし、大規模修繕が近いことを理由に、価格交渉は入る見込み
- 外壁・共用部の最低限の修繕を行えば、買い手の層が広がり、価格も多少は上振れが期待できる
という結果が返ってきました。
この査定結果からAさんは、
- 「大規模修繕をフルでやる前の今なら、まだ選択肢が複数ある」
- 「大規模修繕をして数年運営してから売るルートもあるが、自分の年齢を考えると、今のうちに一度整理するのも悪くない」
と感じるようになります。
こうして、「修繕して持つ」が大前提だったAさんの頭の中で、「売却前提」が現実的な選択肢として立ち上がってきました。
5.Aさんが最終的に取った選択と、その理由
5-1 最低限の修繕+売却、という折衷案
最終的にAさんは、
- 危険・不安要素が強い部分(外壁の危険部位・防水の不具合など)だけを最低限修繕
- 外観とエントランス周りの印象を改善
- そのうえで、売却に出す
という「ミニ修繕→売却」のルートを選びました。
フルセットの大規模修繕は行わず、
- 買い手が「ここはさすがに直しておいてほしい」と感じる箇所
- 媒介図面・WEB掲載の写真で見たときの第一印象
を中心に絞り込んだのです。
5-2 「修繕して持つ」を手放した代わりに得たもの
この選択により、
- 当初予定していた大規模修繕費の半分以下の投資で済んだ
- 修繕後の見た目と安心感で、買い手の検討母数が増えた
- 現状売却の査定レンジよりも、手残りがいくらか上振れするラインで成約できた
という結果になりました。
もちろん、「フル修繕→長期保有→高値売却」といった最大値のシナリオと比べれば、数字としては控えめです。
しかし、
- 自分の年齢
- 本業の状況
- 家族との話し合い
を総合的に踏まえて、
「このタイミングで、この一棟への依存度を下げ、リスクを整理したこと自体に意味があった」
と、Aさんは感じるようになりました。
6.同じような状況の一棟マンションオーナーが、先に整理しておくべき3つのこと
Aさんのケースは一例に過ぎませんが、「修繕してでも持つ」前提だったオーナーが「売却前提」に気持ちを切り替えるときには、共通するポイントがあります。
- 修繕費と回収期間を、一度冷静に数字で見てみること
- 自分の年齢・本業・家族の意向など、「人生の時間軸」と重ねて考えること
- 金融機関や仲介会社など、外部の視点も取り入れてみること
これらを整理したうえで、
- 「この一棟に、これ以上どこまでリスクと資金を積み上げるか」
- 「どのタイミングで、どの状態のときに売るのが、自分にとって納得できるか」
という、自分なりの基準を持てるかどうかが鍵になります。
大切なのは、「当初の前提を守り切ること」ではなく、「今の自分と物件の状態に合った前提に、柔軟にアップデートすること」です。
もし今、あなたの一棟マンションでも同じような揺らぎが出始めているなら、Aさんのように、
- 一度きちんと数字でシミュレーションし
- 自分の時間軸と重ねてみて
- 「修繕して持つ」と「売却前提」の両方をテーブルに並べてから選ぶ
というプロセスを踏んでみてください。
「修繕してでも持つ」から「売却前提」に切り替えることは、逃げでも失敗でもありません。
むしろ、数字と現実を正面から見たうえで、自分の人生とマンション経営のバランスを取りにいく、一つの合理的な選択肢です。