【アパート経営】「とりあえず返済は回っているから大丈夫」が危ない理由

キャッシュフローだけ見ていると“やめどき”を誤る3つの落とし穴

一棟アパートを持っているオーナーの中には、

  • 「ローン返済は滞りなく払えているから、まだ大丈夫」
  • 「毎月少しでも黒字なら、とりあえずこのまま続けていけばいい」

と考えている人も多いと思います。​

たしかに、「返済が回っているかどうか」は賃貸経営の大前提です。
しかし、「返済が回っている=この先も安全」ではありません。​
空室・賃料下落・修繕費・自分の年齢や相続の問題が少しずつ積み上がると、「気づいたときには動きにくくなっていた」という状態に陥りやすくなります。

この記事では、一棟アパート経営で「とりあえず返済は回っているから大丈夫」と考えてしまうことの危うさを、

  1. キャッシュフローの錯覚
  2. 修繕費・大規模修繕の見落とし
  3. 出口戦略(売り時・やめどき)の先送り

という3つの落とし穴から整理していきます。

1.「返済が回っている」だけでは見えないキャッシュフローの落とし穴

1-1 「今のキャッシュフロー」と「将来のキャッシュフロー」は別物

多くのオーナーが見るのは、

  • 毎月の家賃入金
  • ローン返済と諸経費の支払い
  • その結果としての月ベースの手残り

です。​

たとえば、

  • 毎月の家賃収入:80万円
  • 管理費・光熱費・固定資産税など:20万円(平均)
  • ローン返済:50万円
  • 手残り:10万円

こういう状態が続いていると、「毎月10万円の黒字だから順調」と感じがちです。

しかし、ここには、

  • 将来の大規模修繕に備えるべき積立
  • 突発的な設備トラブル(給湯器・ポンプ・配管など)
  • 空室増加に伴う家賃下落のリスク

といった「これから確実に来る支出」が織り込まれていないことが多いです。

1-2 「修繕積立」をキャッシュフローから引いてみると

さきほどの例で、

  • 今後10年以内に1,500万円の大規模修繕が必要
  • 10年で割ると、年間150万円=月12.5万円を積み立てるべき

だとすると、

  • 表面上の月10万円の黒字
  • 実質的には「修繕積立まで考えると月2.5万円の赤字」

という計算にもなり得ます。

この「見えないマイナス」を見ないまま、「とりあえず返済は回っているから大丈夫」と考えていると、

  • 修繕のタイミングで資金ショート
  • 慌てて借入や売却を検討せざるを得ない
  • 条件の悪い状態でしか動けない

という事態になりかねません。

2.修繕費・大規模修繕を未来の自分に丸投げしてしまう危険性

2-1 「そのとき考えればいい」が積もると

築年数が浅い頃は、

  • 外壁や屋根の汚れはそこまで気にならない
  • 設備トラブルも少なく、修繕費は軽微で済む

ため、「大規模修繕はまだ先の話」に感じられます。

しかし、築20年・25年と進むにつれて、

  • 外壁・シーリングの劣化
  • 屋根やバルコニー防水の寿命
  • 共用廊下・階段のサビ・腐食
  • 給排水・ポンプ・設備の不具合

が一気に増え、「ある年を境に、修繕が“イベント”化」してきます。

「そのとき考えればいい」と先送りしてきたものが、一度にまとまって自分に返ってくるイメージです。​

2-2 大規模修繕費は後ろに行くほど重くなる

さらに厄介なのは、

  • 建設費・人件費の上昇
  • 資材価格の高騰

などで、大規模修繕費の相場自体が上がってきていることです。​

  • 「10年前に聞いた相場感」
  • 「ネットで見た古い情報」

を前提にしていると、実際に見積を取ったときに、

  • 想定していた金額より2〜3割高い
  • 積立と内部留保ではとても足りない

という状況になりがちです。

このとき、「とりあえず返済は回っているから大丈夫」と安心してしまっていたツケが、一気に露呈します。​

3.「売り時・やめどき」を返済ベースだけで考えると判断がぶれる

3-1 「返済が終わるまで持つ」が危うくなる場面

一棟アパートを買ったときに、

  • 「ローン完済まで持ち続ける」
  • 「完済してから売るかどうか考えればいい」

と決めているオーナーも多いと思います。​

しかし、築25年・30年と年数が進む中で、

  • エリア需要の変化(新築供給・人口動態など)
  • 建物の老朽化による空室・賃料下落
  • 修繕費の増加

が重なってくると、「完済まで持つ」が必ずしも正解ではなくなってきます。

ローン完済をゴールにする考え方の危うさについては、
→ 【賃貸経営】「ローン完済まで待てば安心」と決めつけると判断を誤りやすい理由​
こういった視点も一度押さえておくと、頭の整理がしやすくなります。

3-2 「いつ売るか」をタイミング探しだけで考えると迷子になる

売り時を考えるときに、

  • 「市況が良くなったら」
  • 「相場が上がったら」

と、“外部のタイミング探し”だけで考えてしまうと、決断がどんどん先送りになります。

本来は、

  • 自分のキャッシュフロー(修繕込み)
  • 建物の状態(これからどんな修繕が控えているか)
  • 自分の時間軸(年齢・本業・相続)

の3つをベースに、「このラインを割ったら売る」と決めておくべきです。

「いつ売るか」の考え方を整理したい方は、
→ 【賃貸経営】「売るか続けるか」を決めきれない状態が長引く理由​
こうしたコラムも合わせて読んでおくと、判断基準が作りやすくなります。

4.「とりあえず返済は回っている」から一歩進めるためにやること

4-1 まずは修繕込みの実質キャッシュフローを出してみる

  • 直近3〜5年の平均空室率
  • 毎年の小修繕費
  • 今後10年程度で見込まれる大規模修繕の金額

をざっくりでいいので書き出し、

  • 家賃収入
  • − ランニングコスト
  • − ローン返済
  • − 年間修繕予算(小修繕+大規模修繕の積立相当)

で見た「実質キャッシュフロー」を一度出してみてください。

これで初めて、

  • 本当に黒字なのか
  • ギリギリか、実は既に赤字なのか

が見えてきます。​

4-2 「続ける・立て直す・売却する」を切り分けて考える

実質キャッシュフローが見えたら、

  • 修繕して立て直す前提で、何年で元が取れそうか
  • 売却した場合に、残債を返して手元にいくら残るか
  • 自分の年齢・本業・家族の状況を踏まえて、どちらのルートに納得感があるか

を切り分けて考えます。

「修繕を前提に考えるか売却を前提に考えるか」の整理については、
→ 【賃貸経営】修繕を前提に考えるか売却を前提に考えるか​
こういった記事も、前提整理の助けになります。

5.まとめ:「返済が回っている=大丈夫」ではなく、「修繕込みで見てどうか」が本質

一棟アパート経営において、

  • 「とりあえず返済は回っているから大丈夫」

という発想は、スタート地点としては自然です。
ただ、築年数が進むほど、

  • 修繕費の山
  • 空室と賃料の下り坂
  • 自分の時間軸とストレス

が重なってきます。

だからこそ、

  • 修繕込みの実質キャッシュフローで見る
  • 修繕の規模と回収年数でラインを引く
  • 自分の年齢・家族・本業と重ねて「やめどき」を考える

という一歩先の視点が必要になります。

関連コラム

  • 修繕と売却の前提整理をしたい方はこちら:
    → 【賃貸経営】修繕を前提に考えるか売却を前提に考えるか
    (URL:https://shintoakogyo.co.jp/column/posts/175001/)​
  • 売り時・撤退ラインを数字と時間軸で考えたい方はこちら:
    → 【賃貸経営】「売るか続けるか」を決めきれない状態が長引く理由
    (URL:https://shintoakogyo.co.jp/column/posts/174704/)​
  • 「完済まで待てば安心」と思っている方はこちら:
    → 【賃貸経営】「ローン完済まで待てば安心」と決めつけると判断を誤りやすい理由
    (URL:https://shintoakogyo.co.jp/column/posts/176749/)​