アパート経営で欠かせない大規模修繕工事とは?費用相場から期間目安・トラブル内容まで解説
2024/04/08
アパート経営において、大規模修繕は避けて通れない重要な経営課題です。
「いつ実施すればいいのか」「費用はどのくらいかかるのか」「入居者への対応はどうすれば」といった疑問や不安を抱えているオーナー様も多いのではないでしょうか。
大規模修繕を適切なタイミングで計画的に実施することで、建物の資産価値を維持し、入居率の向上や家賃水準の安定につながります。
一方で、修繕を先送りにすると劣化が進行し、結果的に修繕費用が膨らむだけでなく、入居者の退去や空室リスクの増大を招く恐れがあります。
本記事では、アパート経営における大規模修繕の費用相場、最適な実施時期、トラブル回避のポイントまで、オーナー様が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
木造アパートやRC造の費用目安、入居者への告知義務など、実務に即した内容をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
アパート経営における大規模修繕とは?
アパート経営を長期的に成功させるためには、大規模修繕の基本を正しく理解することが不可欠です。
ここでは、大規模修繕の定義や必要性、得られるメリットについて解説します。
大規模修繕の定義と小規模修繕・原状回復との違い
大規模修繕とは、建物全体の劣化を防ぎ、資産価値を維持するために計画的に行う工事のことです。
築10年前後を目安に、外壁や屋根の塗装、防水工事、給排水管の交換など、長期修繕計画に基づいて実施されます。工事費が高額で、工期も数週間から数ヶ月にわたる点が特徴です。
一方、小規模修繕は設備の不具合が生じた際の修理や、共用部分の電球交換、水漏れ補修など、必要に応じて適宜行う比較的小規模な工事を指します。
また、原状回復は入居者の退去時に室内をきれいな状態に戻す工事で、クロスやフローリングの張り替え、ハウスクリーニングなどが含まれます。
これら3つの修繕は目的や規模が異なるため、それぞれを適切なタイミングで実施することが、アパート経営の安定につながります。
なぜアパート経営に大規模修繕が必要なのか
建物は時間の経過とともに必ず劣化します。外壁のひび割れ、屋根の防水層の劣化、鉄部のさび、給排水管の老朽化など、放置すれば建物の安全性や居住性に重大な影響を及ぼす問題が次々と発生します。
大規模修繕を適切に実施することで、これらの劣化を未然に防ぎ、建物の寿命を延ばすことができます。
国土交通省が公表する「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」でも、計画的な修繕の重要性が強調されており、多くの賃貸住宅オーナーが実践しています。
また、定期的なメンテナンスは入居者の満足度向上にもつながります。
外観が美しく保たれ、設備が快適に使用できる物件は、入居希望者からの評価が高く、安定した賃貸経営を実現できます。
民法第606条では、賃貸人(オーナー)には賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務があると定められており、法的な観点からも修繕は重要な責務です。
大規模修繕がもたらす5つのメリット
大規模修繕を計画的に実施することで、アパート経営には以下のような具体的なメリットがもたらされます。
- 内見時の第一印象が向上し、入居率の改善につながる
- 外壁材の剥離や階段・手すりの破損を防ぎ、入居者の安全性向上
- 定期的な修繕により建物の耐久性が高まり、資産価値の維持
- 快適な居住環境を維持することで、長期入居につながる
- 計画的なメンテナンスにより、建物寿命の延長
国土交通省の調査によると、大規模修繕を実施したオーナーの約4割が入居率の改善を実感しており、家賃水準の維持にも成功しています。
長期的な収益性を確保するためにも、大規模修繕は欠かせない投資といえるでしょう。
アパート大規模修繕の費用相場
大規模修繕にかかる費用は、建物の構造や規模によって大きく異なります。
ここでは、木造とRC造それぞれの費用目安を国土交通省のデータをもとに詳しく解説します。
木造アパートの大規模修繕費用(10戸・30年間の目安)
木造アパート10戸の場合、国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」によると、30年間で必要となる大規模修繕費用は間取りによって異なります。
1Kタイプで約1,740万円、1LDK~2DKタイプで約2,160万円が目安とされています。
築年数別の費用内訳は以下の通りです。
| 築年数 | 主な工事内容 | 1戸あたり費用 | 10戸の総額 |
|---|---|---|---|
| 5~10年目 | ・ベランダ・階段・廊下の塗装 ・給排水管の高圧洗浄 | 約9万円 | 約90万円 |
| 11~15年目 | ・屋根・外壁の塗装 ・給湯器交換 ・防水工事 | 約64万円 | 約640万円 |
| 16~20年目 | ・ベランダ塗装 ・給排水管の高圧洗浄・交換 | 約23万円 | 約230万円 |
| 21~25年目 | ・屋根・外壁の再塗装 ・設備の更新 | 約64万円 | 約640万円 |
| 26~30年目 | ・共用部分の塗装 ・給排水管の交換 | 約23万円 | 約230万円 |
特に築11~15年目と21~25年目は足場を組んで行う本格的な外壁・屋根工事が必要となるため、費用が大きくなります。
木造アパートは比較的修繕費用を抑えられますが、それでも30年間で1棟あたり1,000万円以上の資金が必要になることを認識しておきましょう。
▶木造アパート大規模修繕工事の費用相場は?最適な時期・期間からトラブルを防ぐ方法まで解説
RC造アパートの大規模修繕費用(10~20戸・30年間の目安)
RC造(鉄筋コンクリート造)のアパートは、木造に比べて建物規模が大きく、設備も充実しているため、修繕費用も高額になります。
10戸1Kタイプで約1,770万円、20戸1LDK~2DKタイプでは約4,490万円が30年間の費用目安です。
RC造の特徴として、陸屋根の防水工事費用が木造より高額になる点が挙げられます。
また、エレベーターや貯水槽など大型設備を備えている場合は、築30年以降にこれらの更新費用として数百万円の追加支出が発生する可能性があります。
| 築年数 | 主な工事内容 | 1戸あたり費用 (20戸想定) | 20戸の総額 |
|---|---|---|---|
| 5~10年目 | ・鉄部塗装 ・給排水管の高圧洗浄 | 約6万円 | 約120万円 |
| 11~15年目 | ・外壁塗装 ・屋上防水 ・設備交換 | 約55万円 | 約1,100万円 |
| 16~20年目 | ・共用部分の塗装 ・給排水管の交換 | 約20万円 | 約400万円 |
| 21~25年目 | ・外壁・屋上防水の再施工 ・大型設備更新 | 約55万円 | 約1,100万円 |
| 26~30年目 | ・共用部分の補修 ・給排水管の更新 | 約20万円 | 約400万円 |
RC造の場合、戸数に比例して総額が増加するため、大規模物件ほど計画的な資金準備が重要になります。
月々の家賃収入から修繕費用を積み立てておくことをおすすめします。
大規模修繕の主な工事内容と部位別費用の内訳
大規模修繕では、建物の様々な箇所を総合的にメンテナンスします。
主な工事内容と費用の目安を部位別に見ていきましょう。
| 工事項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 外壁塗装 | 平米あたり 2,000~3,000円 |
| 屋根塗装 | 平米あたり 2,000~3,000円 |
| 陸屋根の防水工事 | 平米あたり 8,000~10,000円 |
| コーキング補修(打ち替え) | 平米あたり 約1,000円 |
| 項目 | 費用・周期の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 給湯器交換 | 1台あたり10~20万円 | 10~15年周期 |
| 給排水管の高圧洗浄 | 5~10年ごとに実施 | 1戸あたり数千円 |
| 給排水管の交換 | 25~30年周期 | 大規模な工事が必要 |
| エアコン交換 | 1台あたり10~15万円 | 10~15年周期 |
これらの工事は、まとめて実施することで足場費用などの共通コストを削減できます。
例えば、外壁塗装と屋根塗装を同時に行えば、足場の設置は1回で済むため、結果的にコストを抑えることが可能です。
アパートの大規模修繕工事を行う最適な時期と周期
大規模修繕を成功させるには、適切なタイミングでの実施が重要です。
ここでは一般的な修繕周期と、時期を判断するポイントについて解説します。
一般的な大規模修繕の実施周期(5年・10年・15年)
アパートの大規模修繕は、一般的に10~15年を目安に実施されます。
これは、窯業系サイディングやスレート屋根など、一般的な外装材の塗装寿命が約10年であることが根拠となっています。
ただし、全ての工事を10年ごとに行うわけではありません。
修繕箇所によって周期が異なるため、以下のような計画を立てることが一般的です。
| 周期 | 主な修繕内容 |
|---|---|
| 5年ごと | ・ベランダ、廊下、手すりの鉄部塗装 ・給排水管の高圧洗浄 |
| 10年ごと | ・外壁の塗装 ・屋根の塗装、防水処理 ・給水ポンプの交換 |
| 11~15年 | ・給湯器 ・エアコン ・浴室設備 ・キッチンの交換 |
| 30年以上 | ・給排水管 ・貯水槽 ・エレベーターの交換 |
金属系サイディングや瓦屋根など、耐久性の高い建材を使用している場合は、修繕周期を数年延ばすことも可能です。
ただし、コーキングや目地の補修は、どのような建材を使用していても10年程度で必要になることを覚えておきましょう。
築年数別の修繕内容と優先順位
築年数によって必要な修繕内容は変化します。限られた予算の中で効果的に修繕を行うためには、優先順位をつけることが重要です。
築5~10年目の時期は、比較的軽度なメンテナンスが中心です。
鉄部の塗装や給排水管の洗浄など、予防的な修繕を行うことで、将来的な大きな劣化を防ぐことができます。
この時期の修繕は比較的費用を抑えられるため、確実に実施しておくことをおすすめします。
築11~15年目になると、最初の本格的な大規模修繕が必要になります。
外壁や屋根の塗装、防水工事など、足場を組んで行う工事が中心となり、費用も大きくなります。
この時期の修繕を怠ると、建物の劣化が加速し、競争力が低下する恐れがあります。
築20年以降は、設備機器の交換時期を迎えます。
給湯器やエアコンなどの寿命は10~15年程度のため、2回目の交換を検討する必要があります。
また、給排水管の劣化も進行するため、状況に応じて交換工事を計画しましょう。
修繕時期を判断するための劣化診断の重要性
長期修繕計画で定めた時期はあくまでも目安です。
建物の劣化状況は、立地条件や使用状況、気候などによって異なるため、実際の修繕時期は劣化診断によって判断することが重要です。
劣化診断では、専門の検査会社が建物の外観から設備まで総合的にチェックし、現在の状態と今後必要な修繕内容を報告します。
10~20室程度の小規模アパートであれば、診断費用は6~10万円程度で済みます。
診断結果に基づいて優先順位をつけることで、本当に必要な工事に予算を集中させることができます。
場合によっては修繕を数年先延ばしにできる箇所もあるため、結果的にコスト削減につながります。
築10年を迎える前に、一度劣化診断を受けることをおすすめします。
アパートの大規模修繕工事で起こりうるトラブルと対策
大規模修繕を円滑に進めるには、入居者や近隣住民、施工業者とのトラブルを未然に防ぐことが重要です。
ここでは、起こりやすいトラブルとその対策について解説します。
入居者への告知義務と適切な通知方法
賃貸物件で大規模修繕を実施する際、入居者への告知は法的な義務ではありませんが、信義則上の義務として裁判例でも認められています。
工事が入居者の生活に影響を及ぼす可能性があるため、適切な事前通知を行うことがトラブル回避の第一歩です。
通知は工事開始の1~2ヶ月前を目安に行いましょう。通知内容には以下の情報を明記します。
- 工事の目的と必要性
- 工事期間と作業時間帯
- 想定される騒音や振動の程度
- ベランダ使用制限などの生活上の制約
- 緊急連絡先(オーナー、管理会社、施工業者)
書面での通知に加えて、可能であれば住民説明会を開催することをおすすめします。
直接顔を合わせて説明することで入居者の不安を和らげ、工事への理解と協力を得やすくなります。
質問や要望を直接聞ける機会でもあり、円滑な工事進行につながります。
工事期間中の騒音・プライバシー配慮
大規模修繕工事では、足場の組み立てや外壁の高圧洗浄、塗装作業などで騒音が発生します。
また、足場に作業員が上がることで、入居者のプライバシーが侵される懸念もあります。
騒音対策としては、作業時間を平日の9時~17時に限定し、早朝や夜間、休日の作業は原則行わないよう施工業者に徹底させることが基本です。
特に騒音の大きい作業については、事前に日時を通知し、可能であれば在宅を避けられるよう配慮しましょう。
プライバシー保護については、窓ガラスへの養生シートの設置や、作業員への教育を徹底することが重要です。
以下のような対策を講じることで、入居者の不安を軽減できます。
- 洗濯物の室内干しを推奨し、ベランダ使用の制限を明確に伝える
- 窓を開ける際のカーテン使用を促す
- 作業員に対して、室内を覗き込まないなどのマナー教育を実施する
- 防犯カメラの設置など、セキュリティ面での配慮を行う
これらの配慮を怠ると、入居者の不満が高まり、最悪の場合は退去につながる恐れがあります。
工事期間中も快適に過ごせるよう、細やかな気配りを心がけましょう。
施工業者とのトラブルを防ぐポイント
施工業者との間で起こりやすいトラブルとして、工事途中での追加費用の請求や、工期の遅延、仕上がりの品質不良などが挙げられます。
これらを防ぐためには、契約段階での明確な取り決めが重要です。
見積書の内容は細部まで確認し、工事範囲、使用材料、施工方法、工期、支払い条件などを明文化しておきましょう。
「一式」という曖昧な表記ではなく、具体的な数量と単価が記載されているかをチェックします。
また、契約書には以下の事項を盛り込むことをおすすめします。
- 追加工事が発生する場合の承認プロセス
- 工期遅延時のペナルティ規定
- 仕上がりに不備があった場合のやり直し条件
- アフター保証の内容と期間
工事中は定期的に現場を確認し、進捗状況や施工品質をチェックすることも大切です。
問題があれば早期に指摘し、手戻りを防ぐことで、結果的にコストと時間の節約につながります。
アパートの大規模修繕工事費用を抑える実践的な方法
大規模修繕には多額の費用がかかりますが、工夫次第でコストを抑えることは可能です。
ここでは、実践的な費用削減方法をご紹介します。
複数社への相見積もりで適正価格を見極める
大規模修繕の費用は、施工業者によって数十万円から、場合によっては百万円単位で差が出ることがあります。
適正価格を把握するためには、最低でも3社以上から見積もりを取得することをおすすめします。
見積もりを比較する際は、単純に総額だけを見るのではなく、工事内容や使用材料の質、保証期間なども含めて総合的に判断しましょう。
極端に安い見積もりは、後から追加費用を請求されたり、手抜き工事につながる可能性があるため注意が必要です。
相見積もりを取ることで、各業者は他社との競争を意識し、価格面でも努力してくれる傾向があります。
ただし、価格だけで業者を選ぶのではなく、実績や信頼性も重視することが、長期的には賢明な判断といえます。
工事をまとめて実施し足場費用を削減する
大規模修繕でコストの大きな割合を占めるのが、足場の設置費用です。
外壁塗装と屋根塗装を別々に実施すると、足場費用が二重にかかってしまいます。
可能な限り、足場が必要な工事は同じタイミングでまとめて実施しましょう。
例えば以下のような工事は、同時施工によるコストメリットが大きくなります。
- 外壁塗装 + 屋根塗装
- 外壁塗装 + ベランダ防水工事
- 外壁塗装 + 鉄部塗装
- 外壁塗装 + コーキング補修
「今年は外壁だけ、来年は屋根」と分けて実施すると、トータルのコストは確実に高くなります。
一度にまとまった費用が必要になりますが、長期的な視点で考えると、まとめて実施する方が経済的です。
修繕計画を立てる際は、このような工事の組み合わせも意識しましょう。
修繕費用の積立計画と資金調達方法
大規模修繕を計画的に実施するためには、日頃からの資金準備が不可欠です。
国土交通省の調査によると、修繕を実施しているオーナーの約8割が何らかの形で修繕費用を積み立てていることがわかっています。
積立の目安としては、家賃収入の5~10%程度を修繕費として確保することが推奨されています。
例えば、月額家賃5万円の部屋が10戸あれば、月々25,000~50,000円を積み立てる計算になります。
これを10年続ければ、300万円~600万円の修繕資金が準備できます。
積立金は、以下のような方法で管理するとよいでしょう。
- 専用口座での自主管理 – オーナー自身が管理し、必要に応じて柔軟に使用できる
- 管理会社への委託 – 管理会社に積立を依頼し、計画的な修繕をサポートしてもらう
- 賃貸住宅修繕共済の活用 – 積立金を経費計上できる仕組みを利用し、税制面でも有利に資金準備ができる
十分な積立ができていない場合は、アパートローンのリフォーム融資や、日本政策金融公庫の融資制度などを活用する方法もあります。
ただし、借入には利息負担が発生するため、できる限り自己資金での準備を心がけることが賢明です。
アパートの大規模修繕工事を成功させる業者選びのポイント
大規模修繕の成否は、施工業者選びで大きく左右されます。
ここでは、信頼できる業者を見極めるポイントをお伝えします。
信頼できる施工業者の見極め方
施工業者を選ぶ際は、価格だけでなく、技術力や実績、アフターフォローの充実度などを総合的に判断することが重要です。
- 同規模のアパート修繕実績が豊富にあるか
- 建設業許可や塗装技能士などの資格を保有しているか
- 保証期間と保証内容が明確に提示されているか
- 過去の施工事例を写真や現場で確認できるか
- 担当者の説明が丁寧で、質問に的確に答えてくれるか
特に、同じ規模・構造のアパート修繕実績が多い業者は、起こり得るトラブルを予測して対策できるため、安心して任せることができます。
また、地域密着型の業者は、アフターフォローにも迅速に対応してくれる傾向があります。
口コミや評判も参考になりますが、実際に過去の施工現場を見学させてもらったり、以前依頼したオーナーの声を聞くことができれば、より確実な判断材料になります。
見積書のチェックポイントと注意すべき項目
見積書の内容を正しく理解することは、後々のトラブルを防ぐために非常に重要です。
専門用語が多く難しく感じるかもしれませんが、以下のポイントに注目して確認しましょう。
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 工事範囲 | どの部分をどこまで施工するのか明確に記載されているか |
| 使用材料 | メーカー名、商品名、グレードが具体的に書かれているか |
| 数量と単価 | 「一式」ではなく、具体的な面積や個数が記載されているか |
| 工期 | 着工日と完工日が明記されているか |
| 保証内容 | 保証期間と保証範囲が具体的に示されているか |
「諸経費一式」「雑費」など、曖昧な項目が多い見積書は要注意です。何にいくらかかっているのかが不明瞭だと、追加費用を請求される可能性が高くなります。
不明点があれば、契約前に必ず質問し、納得できるまで説明を求めましょう。
また、極端に安い見積もりには理由があると考えるべきです。
安価な塗料を使用していたり、下地処理などの重要な工程を省略していたりする可能性があります。
適正価格の範囲内で、最も信頼できる業者を選ぶことが賢明です。
管理会社との連携で円滑な修繕を実現
賃貸管理を管理会社に委託している場合、大規模修繕の計画段階から密に連携することで、よりスムーズな工事進行が可能になります。
管理会社は日常的に物件の状態を把握しており、劣化箇所の早期発見や入居者対応においても重要な役割を果たします。
管理会社を活用するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 入居者への通知や説明会の開催を代行してもらえる
- 工事期間中の入居者からの問い合わせ対応を一元化できる
- 日常管理で気づいた劣化箇所を修繕計画に反映できる
- 信頼できる施工業者を紹介してもらえる場合がある
ただし、管理会社に全てを任せきりにするのではなく、オーナー自身も修繕の必要性や内容を理解し、最終的な判断は自らが行うことが重要です。
管理会社が提案する施工業者が必ずしも最適とは限らないため、セカンドオピニオンとして他の業者からも見積もりを取得することをおすすめします。
アパートの大規模修繕工事に関するよくある質問【FAQ】
アパートの大規模修繕について、オーナー様からよくいただく質問とその回答をまとめました。
疑問や不安の解消にお役立てください。
Q
大規模修繕は法律で義務付けられていますか?
A
アパートの大規模修繕について、法律で具体的な実施時期や周期が義務付けられているわけではありません。
ただし、民法第606条では、賃貸人(オーナー)は「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務」を負うと定められています。
これは、建物が安全に使用できる状態を維持する責任がオーナーにあることを意味します。
大規模修繕を怠り、建物の劣化によって入居者の生活に支障をきたしたり、事故が発生した場合は、オーナーが損害賠償責任を問われる可能性があります。
法的な義務というよりも、建物所有者としての社会的責任として、適切な時期に必要な修繕を行うことが求められていると理解するとよいでしょう。
Q
修繕費用は経費として計上できますか?
A
大規模修繕にかかった費用は、原則として経費に計上することが可能です。
ただし、修繕の内容によって「修繕費」として一度に経費計上できる場合と、「資本的支出」として減価償却が必要な場合に分かれます。
修繕費として一度に経費計上できるケースは、建物を元の状態に回復させる工事です。外壁の塗り替え、防水工事の補修、設備の修理などが該当します。
一方、資本的支出として減価償却が必要なケースは、建物の価値を高めたり、耐用年数を延ばす工事です。例えば、屋根の全面葺き替え、外壁材の全面張り替え、高機能な設備への交換などが該当します。
判断が難しい場合は、税理士に相談することをおすすめします。
なお、修繕費用を事前に積み立てている場合、その積立金自体は費用として計上できませんが、2023年に開始された「賃貸住宅修繕共済」を利用すれば、積立金を経費計上できるメリットがあります。
Q
大規模修繕中に入居者が退去した場合の対応は?
A
大規模修繕工事中は騒音や生活制限があるため、入居者が退去を申し出る可能性もあります。
この場合、通常の退去として扱われ、オーナーから違約金や慰謝料を支払う義務は基本的にありません。
ただし、工事について事前に十分な説明を行わなかったり、過度な騒音や生活制限が発生した場合は、トラブルに発展する可能性があります。
このようなリスクを避けるため、以下の対策を講じることをおすすめします。
- 工事の1~2ヶ月前に詳細な通知を行う
- 住民説明会を開催し、工事内容や期間について丁寧に説明する
- 工事期間中の騒音を最小限に抑える努力をする
- やむを得ず大きな制限が発生する場合は、一時的な家賃減額を検討する
誠実な対応を心がけることで、多くの入居者は工事に理解を示してくれます。むしろ、修繕によって建物が美しくなることを歓迎する入居者も少なくありません。
Q
修繕積立金は何%程度を目安にすればよいですか?
A
修繕積立金の目安は、家賃収入の5~10%程度が一般的です。ただし、建物の構造や築年数、設備の状況によって必要額は変動します。
例えば、月額家賃5万円の部屋が10戸あるアパートの場合、月の家賃収入は50万円です。
この5~10%にあたる25,000~50,000円を毎月積み立てると、10年間で300万円~600万円の修繕資金が準備できます。
木造10戸のアパートでは、築11~15年目の大規模修繕で約640万円が必要になるため、この積立ペースでおおむね対応可能です。
ただし、RC造や大規模物件の場合は、より多くの資金が必要になるため、建物の規模に応じて積立比率を調整しましょう。
積立を始める時期は、アパート経営開始時からが理想的です。築年数が浅いうちから計画的に積み立てることで、必要な時期に十分な資金を確保できます。
まとめ
アパート経営における大規模修繕は、建物の資産価値を維持し、長期的な収益を確保するために欠かせない重要な取り組みです。
本記事でお伝えした内容を、最後にまとめます。
- 木造10戸のアパートで30年間に約1,740万円~2,160万円の費用が必要
- 一般的な実施周期は10~15年だが、劣化診断で適切な時期を判断する
- 入居者への事前通知は信義則上の義務として必ず行う
- 複数社への相見積もりと工事のまとめ実施でコストを削減できる
- 家賃収入の5~10%を修繕費として計画的に積み立てる
大規模修繕を先送りにすると、建物の劣化が加速し、結果的に修繕費用が膨らむだけでなく、空室率の上昇や家賃の下落といった収益面での悪循環に陥る恐れがあります。
適切なタイミングで計画的に実施することで、入居率の向上や家賃水準の維持につながり、長期的に安定したアパート経営を実現できます。
国土交通省の調査でも、大規模修繕を実施したオーナーの多くが、入居率の改善や資産価値の維持といった効果を実感しています。
修繕は単なるコストではなく、将来の収益を守るための投資と捉えることが大切です。