区分所有法に基づく小規模修繕工事と手続きのポイントを押さえてマンション管理を最適化!
2025/07/31
マンションの修繕工事には「大規模修繕」と「小規模修繕」がありますが、軽微な補修であっても共用部分が対象となる場合、区分所有法に基づく総会決議が必要になるケースも少なくありません。
この記事では、マンション管理組合やオーナーが知っておくべき、小規模修繕工事の定義や法的な位置づけ、決議手続き・注意点・業者選定までを詳しく解説します。
目次
区分所有法とは?マンション管理のルールを定めた法律
区分所有法は、マンションなどの集合住宅において、複数の所有者が1棟の建物を共有しながら居住するという特殊な形態を円滑に運営するために制定された法律です。
正式名称は「建物の区分所有等に関する法律」で、1962年に施行されました。
この法律の目的は「専有部分」と「共用部分」を明確に区分し、所有者間の権利関係や管理ルールを定め、円滑かつ公平な建物管理を実現することです。
専有部分とは?
専有部分とは、マンションにおいて各区分所有者が単独で所有・管理・使用することが認められている部分を指します。
主に各住戸の内部、つまり部屋の壁や床・天井などの内装や設備が含まれ、具体的には、壁紙(クロス)・フローリング・室内の照明器具・エアコン・キッチン設備・浴室・トイレなどの設備などが該当します。
専有部分は、各所有者が自由にリフォームや修繕を行うことができ、費用も自己負担となります。
ただし、窓のサッシや玄関扉の外側部分・バルコニーの手すりなど、一部は共用部分に含まれるケースもあるため、管理規約で確認が必要です。
共用部分とは?
共用部分は、マンション全体の区分所有者が共同で所有し、利用・管理することが法律上定められている部分です。
主に建物の外部や共用施設・設備が含まれ、具体的にはエントランスホール・階段・廊下・エレベーター・屋根や外壁などが該当します。
共用部分の維持管理や修繕は管理組合が主体となって行い、その費用は区分所有者全員で負担します。
共用部分のルールや使用方法は管理規約で定められ、居住者全員が守るべき事項となっています。
共用部分はマンションの安全性や資産価値に直結するため、定期的な点検や適切な修繕が不可欠です。
区分所有法の主なポイント
以下に、区分所有法の主なポイントをまとめました。
| 主なポイント | 内容説明 |
| 管理規約の制定 | 各マンションごとに独自の管理規約を作成し、管理運営ルールや権利義務関係を明確化する。 |
| 管理組合の設置 | 区分所有者全員で構成される管理組合が、建物全体の維持・管理・運営を担当する組織として機能する。 |
| 修繕積立金の徴収 | 将来的な修繕や補修に備え、計画的に資金を積み立てるために区分所有者から徴収する費用。 |
| 総会の開催と決議ルール | 管理組合の最高意思決定機関として総会を開催し、重要事項は原則として総会での決議を経て決定される。 |
| 紛争予防・調整 | 共用部分の使用制限や管理規約違反時の対応など、区分所有者間のトラブルを予防し調整するルールを設ける。 |
区分所有法における小規模修繕工事とは?
小規模修繕工事とは、マンションの建物全体に関わる大規模改修工事とは異なり、特定の部位や設備などに限定して行う軽微な補修・改修工事を指します。
築年数の経過により日常的に発生する劣化や不具合に対して、必要最小限の手当てを行うことで、建物の機能や安全性、美観を維持することが目的です。
小規模修繕工事の具体例
小規模修繕工事における、具体的な例としては以下のケースが挙げられます。
- 外壁のひび割れやタイルの一部補修
- バルコニーや共用廊下の防水工事
- 手すりや共用照明の交換
- 排水管の一部修理
- エントランス扉の補修や調整
これらの工事は、いずれも比較的短期間で施工が可能で、予算規模も抑えられる点が特徴です。
しかし、共用部分に関わる修繕である場合、工事の可否や範囲の決定には管理組合の議論と承認が必要不可欠です。
特に、理事会や総会での議決を経る必要がある場合もあり、「軽微だから即対応できる」とは限らない点に注意が必要です。
計画的に修繕を行うためには、日頃から不具合の把握と住民間での情報共有を行い、管理組合と連携してスムーズな意思決定を図ることが大切です。
専有部分と共用部分の違いで異なる対応
区分所有法では、修繕対象が「専有部分」か「共用部分」かによって、工事の責任者と手続きが大きく異なります。
専有部分の修繕
以下のような修繕であれば、所有者の判断と費用負担で実施可能です。
管理組合の許可は、原則不要な場合が多いでしょう。
- クロスや床材の張り替え
- 室内の給排水管や照明の交換
- 自宅内のエアコン設置・更新
ただし、窓や玄関ドアの外側、バルコニーの仕切り板などは「共用部分」に含まれる可能性があるため注意が必要です。
共用部分の修繕
管理組合が主体となり、修繕積立金で賄う場合は、必要に応じて総会での決議が必要です。
- 外壁や廊下の補修
- 給排水設備(共用部)の改修
- 駐車場・エレベーターの整備
上記のように、工事費用が高額になる場合や居住者に影響がある場合は、理事会承認や総会決議を経ることが一般的です。
区分所有法における小規模修繕工事の決議方法と業者選定のポイント
マンションの小規模修繕工事においても、共用部分に関わる工事は管理組合の意思決定が不可欠です。
修繕の規模や費用によって、どのような決議が必要になるかは異なり、それに応じて適切な手続きを踏むことがトラブル防止や円滑な工事実施のポイントとなります。
総会での決議が必要なケース
共用部分の修繕工事は、費用の規模や工事内容により以下のように段階的な手続きが求められます。
- 小さなひび割れの補修や共用灯の電球交換など
- 防水工事の部分的な補修や手すりの交換など
- 外壁全面改修・大規模な設備更新など
なお、具体的な決議方法や割合はマンションごとの管理規約や理事会の規則によって異なるため、事前に必ず確認しましょう。
書面決議や理事会承認の活用とは?
工事の緊急性や規模に応じて、総会を待たずに迅速に意思決定を行う方法として、書面決議や理事会承認が活用されます。
これらの手続きはスムーズな工事進行を可能にしつつ、法令や管理規約に則った適正な運営を維持するための重要な仕組みです。
具体的な活用方法や注意点を理解し、適切に取り入れることが円滑な修繕工事の実現につながります。
緊急性の高い修繕が必要な場合
例えば、漏水が起こり住民の安全や建物の劣化が急速に進む恐れがある場合、総会の開催を待つことが難しいケースもあります。
その際は、理事会の臨時承認や書面による決議(書面決議)を活用して迅速に対応する方法が一般的です。
書面決議は、居住者全員に決議内容を文書で通知し、一定期間内に賛否の回答を得る方法で、スピーディーに意思決定を行えます。
理事会の役割強化
管理組合の運営効率化やトラブル回避のため、理事会に一定の修繕決定権限を委譲しているケースもあります。
理事会での合意形成が整っていれば、総会にかける前にある程度の準備や説明ができ、居住者の理解を得やすくなります。
区分所有法における小規模修繕工事前に確認すべきポイント
マンションの修繕工事は、居住者の生活に直接影響を及ぼすため、実施にあたっては事前の十分な準備と確認が欠かせません。工事を円滑に進め、トラブルを防ぐために、以下の4つのポイントをしっかり押さえましょう。
工事内容と対象範囲の明確化
まずは、修繕の対象部位や工事の具体的な内容を正確に把握し、目的と必要性を整理することが重要です。どの箇所をどのように修繕するのか、工事の規模や方法、使用する材料についても詳細に確認します。特に、対象範囲が曖昧なままだと、施工後の不具合や追加費用の発生につながる恐れがあります。また、必要に応じて専門業者や設計士による現地調査を行い、劣化状況や構造への影響を見極めることもおすすめです。
費用の確認と資金の確保
修繕工事には費用が伴うため、予算計画と資金確保の確認は欠かせません。管理組合が保有する修繕積立金の残高や、予定している予算内で工事が実施可能かどうかを事前に把握しましょう。また、工事費用が予算を超過する場合は、追加の資金調達方法(臨時徴収や借入など)を検討し、区分所有者への説明を行う必要があります。費用の透明性を確保するために、複数の業者からの見積もりを比較し、適正価格を見極めることも大切です。
区分所有者への周知と合意形成
修繕工事をスムーズに進めるためには、居住者(区分所有者)への丁寧な情報提供と合意形成が不可欠です。具体的には、説明会の開催や掲示板、回覧板、メールなどを活用し、工事内容・期間・費用・住民生活への影響などについて十分に周知しましょう。住民からの質問や不安を受け止め、適切に対応することで、理解と協力を得やすくなります。また、必要に応じて意見集約やアンケートを実施し、住民の声を反映した運営を心がけることも信頼関係構築に役立ちます。
住民生活への影響への配慮
修繕工事はどうしても騒音や埃の発生、通行の制限、安全面でのリスクを伴います。工事期間中の住民生活に与える影響を最小限に抑えるために、騒音対策や埃の飛散防止、安全柵の設置、工事時間帯の調整などを事前に計画・周知することが重要です。特に小さなお子様や高齢者がいる世帯には注意喚起を行い、緊急時の連絡体制を整備しておくと安心です。また、工事車両の駐車場所や資材搬入ルートも事前に検討し、住民の通行や駐車の妨げにならないよう配慮しましょう。
区分所有法における小規模修繕工事の業者選定ポイント
マンションの小規模修繕工事を成功させるためには、信頼できる施工業者の選定が欠かせません。費用だけでなく、品質や対応力も含めた総合的な判断が重要です。以下のポイントを踏まえて業者選びを行いましょう。
実績のある業者か? 過去の施工例や評判の確認
まずは、業者の施工実績や評判をしっかり調査することが基本です。過去に同様の規模や内容の修繕工事を手掛けた経験があるか、施工事例を提示してもらいましょう。また、口コミや第三者の評価、管理会社からの推薦も参考になります。実績豊富な業者は、工事品質やトラブル対応力が高い傾向にあります。
見積もり内容が明確か? 工事項目・単価・工期の透明性
見積書の内容が詳細でわかりやすいかどうかも重要です。
- 工事項目ごとに単価や数量が明示されているか
- 工期や作業工程が具体的に記載されているか
これにより、複数の業者の見積もりを公平に比較しやすくなります。曖昧な見積もりは追加費用や手戻りの原因になるため注意しましょう。
対応力・説明力があるか? 住民対応や質問への反応
工事は住民の生活に影響を与えるため、業者のコミュニケーション能力や誠実な対応姿勢も重視すべきポイントです。質問に対して丁寧かつ迅速に回答してくれるか、工事の進捗報告やトラブル時の連絡体制が整っているかを確認しましょう。信頼関係を築ける業者なら、工事期間中も安心して任せられます。
保証やアフターフォローがあるか? 工事後のサポート体制
工事完了後に不具合が発生した場合に備え、保証内容やアフターフォローの有無を必ず確認しましょう。保証期間の長さや対象範囲、補修対応の速さなど、具体的なサポート体制が整っている業者は安心感があります。また、定期点検サービスを提供しているかどうかも選択の参考になります。
複数社からの相見積もりを活用する
価格だけでなく、品質や信頼性、対応力を総合的に判断するために、必ず複数の業者から見積もりを取得しましょう。相見積もりを取ることで、価格の相場感を掴めるだけでなく、業者ごとの提案内容や対応姿勢の違いも比較可能です。最終的には、価格競争に陥らず、安心して任せられるパートナーを選ぶことが重要です。
区分所有法における小規模修繕に関するよくある質問(FAQ)
よくある質問では、修繕工事や管理組合の運営に関して多く寄せられる疑問や不安に対して、わかりやすく丁寧に回答しています。
Q1. 小規模修繕工事でも総会の決議は本当に必要ですか?
A. 工事対象が共用部分であれば、たとえ軽微な工事でも理事会の承認または総会での報告・決議が必要になることがあります。管理規約や理事会の運営規則を確認しましょう。
Q2. 専有部分と共用部分の区別がつきにくいのですが、どう判断すればいいですか?
A. 原則として、窓・玄関扉・バルコニーの隔て板などは共用部分とされる場合が多いです。判断に迷う場合は、管理規約や図面を確認し、管理会社や専門家に相談しましょう。
Q3. 修繕積立金が不足している場合はどうなりますか?
A. 積立金が足りない場合、区分所有者からの一時金徴収や工事内容の見直し、分割実施などの方法を検討する必要があります。総会での合意形成が不可欠です。
Q4. 小規模修繕でも住民の了承は必要ですか?
A. はい。特に騒音や臭気、通行制限が発生する工事では、事前に丁寧な説明を行い、住民の理解を得ることが望ましいです。
Q5. 見積もりは何社くらい取るべきですか?
A. 一般的には2~3社の相見積もりを取り、内容と金額、対応力を比較するのが望ましいです。価格だけでなく信頼性や施工実績も重視しましょう。
Q6. 修繕工事に対して反対する住民がいる場合はどうすべきですか?
A. 工事の必要性や安全性、費用の妥当性を説明会や資料配布を通じて丁寧に説明しましょう。合意形成には時間をかけることが重要です。
Q7. 管理会社に全て任せても大丈夫ですか?
A. 管理会社は提案・業者選定補助などの役割を果たしますが、最終的な判断や責任は管理組合にあります。理事会として主体的に関与しましょう。
まとめ
小規模修繕工事は規模が小さくても、共用部分が対象となる場合は区分所有法に基づく適切な手続きが欠かせません。修繕の範囲や費用に応じて、理事会や総会での決議が求められ、住民との合意形成が重要となります。
また、施工業者の選定も工事の品質や安全性を左右するため、実績や対応力・保証内容を慎重に見極める必要があります。これらの手続きを丁寧に行うことで、トラブルの発生を防ぎ、マンション全体の快適な居住環境を維持するとともに、資産価値の向上にもつながります。管理者・理事・区分所有者がそれぞれの役割を理解し、協力して法的に適正な修繕を進めることが、長期的なマンション管理の成功と安心を支えるカギです。
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