かぶせ工法とは?屋上防水で選ばれる理由と撤去工法との違いを徹底解説

建物の屋上は、日常的に紫外線や風雨の影響を強く受ける部分です。そのため、屋上の防水性能は建物全体の寿命や快適性に大きく影響します。近年では、改修工事の中でも「かぶせ工法」が注目されており、多くのマンションやビル、公共施設などで採用されています。

かぶせ工法とは、既存の防水層をすべて撤去せず、その上から新たな防水層を重ねて施工する工法です。工期の短縮やコスト削減といったメリットがありつつも、建物の状況によっては適用できないケースもあるため、適切な判断が求められます。

この記事では、かぶせ工法の仕組みやメリット・デメリット、従来の撤去工法との比較、選び方、活用できる補助制度まで詳しく解説します。防水工事を検討されている方や管理組合の皆さまにとって、最適な工法を選ぶための参考にしてください。

目次

かぶせ工法とは?屋上防水で注目される理由

かぶせ工法(かぶせ防水)は、既存の防水層の上に新しい防水層を設ける方法です。正式には「絶縁工法」「二重防水工法」「重ね張り工法」とも呼ばれ、既存の下地にダメージが少ない場合に採用されるケースが多くなっています。

この工法は、従来の防水層をすべて撤去しないため、作業が簡略化される点が最大の特長です。その結果、工期が短縮され、同時に騒音や粉塵の発生も抑えられ、周辺環境への負担が少ない施工が可能になります。

かぶせ工法が活用される代表的なケース

  • 築10年前後で、現防水層が著しく劣化していない建物
  • 屋上設備が多く、撤去作業が難しい・非効率な建物
  • 騒音や振動を避けたい医療施設・学校・集合住宅
  • 工期に制限があるオフィスビル・商業施設
  • コスト面を重視した中規模〜大規模な建物改修

防水材は、塩ビシートやゴムシート、ウレタン防水、改質アスファルトシートなどが用いられ、建物の構造や既存防水材の状態に応じて選定されます。

かぶせ工法と撤去工法の違いとは?

屋上防水の改修には、「かぶせ工法」と「撤去工法」の2つの主要な手法があります。両者には明確な違いがあり、建物の状態や予算、求める防水性能によって最適な選択肢は異なります。

主な違いを表で比較

項目かぶせ工法撤去工法
工期短い(1〜3日)長い(1〜2週間)
費用比較的安価高額になる傾向
騒音・振動少ない大きい(重機使用)
防水層の重量増加軽くなる
下地処理原則不要必須(補修あり)
排水性勾配確保に注意適正確保しやすい
防水性の確実性既存層に依存高い(新設)
廃材の発生少ない多い(処分費も必要)

それぞれの工法が向いているケース

  • かぶせ工法:現防水層の状態が比較的良好で、短期間・低コストでの施工を求める場合
  • 撤去工法:既存防水層の劣化が激しい、または長期的な防水性能を優先したい場合

選択を誤ると、施工後の不具合や追加工事につながるリスクがあるため、事前の劣化診断が重要です。

かぶせ工法のメリット|コスト・工期・騒音の抑制

かぶせ工法は、多くの利点を持つ施工方法です。従来の撤去工法と比べて以下のような点で優れており、工事によるストレスを軽減することができます。

工期が短いため住民負担が少ない

かぶせ工法は、防水層の撤去工程が不要なため、施工日数を大幅に短縮できます。例えば通常1週間以上かかる撤去工法の工事も、かぶせ工法では3日以内で完了することも可能です。施工時間の短縮は、住民やテナントへの影響を最小限に抑えるという点で非常に効果的です。

費用が安価で経済的

撤去工法では、既存防水層の解体・搬出・処分といった工程が加わるため、人件費や廃棄費用がかさみます。一方、かぶせ工法はそうした工程が不要なため、全体の施工費が30〜50%安くなるケースもあります。

また、作業内容が簡素化されることで、工事中の人員配置や仮設設置コストも低減され、全体予算に大きく貢献します。

騒音や振動が少なく近隣への配慮が可能

かぶせ工法は騒音・振動の発生源となる重機の使用をほとんど必要としません。撤去作業がないため、特に高齢者施設・教育施設・医療機関などではその静音性が大きなメリットになります。

近隣住民や入居者とのトラブルリスクを軽減したい場合に最適です。

下地処理が不要で施工がスムーズ

既存の防水層を撤去しないため、下地の露出や補修といった手間が発生しません。これにより、施工者の作業効率が向上し、工事全体のリスクやコストが軽減されます。

特に、下地の構造が複雑で処理が煩雑になる建物においては、施工の簡易性が際立つ選択肢となります。

かぶせ工法のデメリット|適用条件に注意が必要

かぶせ工法には多くのメリットがある一方で、施工の可否や仕上がりに影響を与える要素もあります。施工前には以下の注意点を把握し、専門業者による判断を仰ぐことが推奨されます。

防水層が二重になり重量増加

既存の防水層の上に新たな層を重ねるため、屋上の構造に対する負荷が増加します。築年数が古い建物では、構造的な強度を事前に確認する必要があり、構造調査の実施が必須になるケースもあります。

また、重量増加が懸念される場合には、軽量な防水材を選ぶ、部分的なかぶせ工事にとどめるといった対策が検討されます。

既存防水層の状態が悪いと効果が出にくい

既存の防水層がすでに剥離・膨れ・亀裂・穴あきなどの劣化を起こしている場合、その上から施工しても防水性能が発揮されない場合があります。

このような場合はかぶせ工法ではなく、全面撤去を前提とした撤去工法が適しています。事前の防水層診断によって適切な判断が求められます。

排水性が悪化するリスク

かぶせ工法によって屋上の勾配が変化し、排水経路に不備が生じると、雨水の滞留や水たまりの原因になります。適切な排水勾配の確保や排水口の設計を怠ると、後に雨漏りなどのトラブルが発生する恐れも。

施工前の現地調査で既存の排水計画を見直し、必要に応じて排水部材の再配置を検討することが重要です。

かぶせ工法が向いている建物とは?工法の選び方

屋上防水の工法選定において、「かぶせ工法」または「撤去工法」のどちらが建物に適しているかを判断することは、工事の成功に直結する非常に重要なステップです。それぞれの工法には適した条件があり、誤った選定は施工後のトラブルや再修繕コスト増加を招くこともあります。

ここでは、建物の状態や管理条件、築年数や使用状況ごとに、どのような場合にかぶせ工法が適しているのか、また撤去工法が必要なケースとは何かを、より具体的かつ実用的に解説していきます。

かぶせ工法が適している主な条件

かぶせ工法が有効に機能する条件は、以下のようなポイントに該当する建物です。

  • 築年数が10〜20年程度で、定期的なメンテナンスが行われている
  • 既存防水層に大きな膨れや剥離が見られず、表面の劣化が軽度
  • 予算が限られているが、防水性能を一定レベル維持したい
  • 工事中の住民への影響(騒音・振動)を最小限にしたい
  • 10〜15年程度の中期的な耐久性を想定している
  • 建物の構造が防水層の重量増加に耐えられることが確認できている

撤去工法を選ぶべきケース

一方で、以下のような状況の建物では、かぶせ工法ではなく、既存防水層をすべて撤去してから新設する撤去工法を検討すべきです。

  • 既存の防水層に多数の穴あき・浮き・破断などの劣化が進行している
  • コンクリート下地に著しいひび割れや含水、中性化などが見られる
  • 過去20年以上、防水メンテナンスが行われていない
  • 排水口の詰まりや勾配不足により、常時水たまりができている
  • 一度も防水改修を行っていない(新築時のまま)
  • 30年以上経過したマンションや商業ビルで全面的な見直しが必要

判断には現地調査が必須

どちらの工法が最適かを判断するには、実際の屋上状態をプロが現場で確認し、数値的・視覚的に把握することが欠かせません。診断では以下のポイントがチェックされます。

調査項目確認内容
既存防水層の種類アスファルト防水、シート防水、ウレタンなど
劣化状況亀裂・浮き・膨れ・剥離・穴などの有無
下地の状態コンクリートの強度、含水率、中性化試験など
勾配と排水性雨水の流れ、ドレン位置・数、排水経路の詰まり
設備配置配管・ダクト・架台などの有無と密集度
屋上利用状況太陽光パネル、空調室外機、避難経路などの使用状況

調査結果をもとに、防水工法を選定し、必要であれば構造補強や排水設備の見直しも行うことが成功のカギです。

かぶせ工法に使える?補助金・助成金制度の活用方法(2025年版)

屋上防水などの外装リフォーム工事には、国・自治体による補助制度が数多く存在しています。これらをうまく活用すれば、数十万円〜100万円超の経済的メリットを得られる可能性があります。

2025年現在、特に注目すべき制度を中心にご紹介し、申請時の注意点についても詳しく解説します。

全国対象|住宅省エネ2025キャンペーン(国交省・経産省ほか)

  • 制度概要:国交省と経産省が主導する住宅省エネ化推進事業
  • 対象工事:断熱性・遮熱性を高める屋上防水、外壁防水、屋根改修など
  • 補助額(上限):戸建住宅 最大120万円/集合住宅 15万円/戸あたり
  • 条件
    • 登録された認定施工業者による工事
    • 断熱・遮熱機能がある建材の使用
    • 施工前の事前申請必須
    • 工事内容を証明する写真・仕様書などの提出が必要

地域別の助成制度(一例)

地域名補助内容上限金額主な条件
東京都足立区防水・外壁補修など住宅リフォーム補助最大5万円区民であり、登録施工業者による施工が条件
福岡市雨漏り・劣化対策の防水工事支援最大20万円市内居住・所有者、30万円以上の工事が対象
横浜市住宅リフォーム資金助成制度最大10万円所得制限・施工内容の条件あり

※各自治体によって制度名・条件・補助額は異なるため、必ず最新情報を公式サイトで確認してください。

補助金申請時の注意点

補助金を活用する際は、以下のような注意点を押さえておくことが重要です。

  • 必ず工事着工前に申請すること(多くの制度で着工後は対象外)
  • 必要書類が多いため、施工業者と連携して早めに準備を始める
  • 所得制限や年齢条件、建物の用途(居住用・非住宅)などにより対象外となる場合も
  • 予算上限に達した時点で受付終了する自治体も多いため、毎年春〜夏の早期申請がおすすめです

かぶせ工法や防水工事に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、防水工事やかぶせ工法に関して、よく寄せられる質問とその回答を紹介します。初めて防水リフォームを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

Q:防水工事の時期はいつがベスト?

A: 春(4〜6月)や秋(9〜11月)など、気候が安定して晴天日が続きやすい時期が理想的です。梅雨や台風の影響がある季節は避けましょう。

Q:工事中に在宅していても問題ありませんか?

A: 基本的には問題ありません。ただし屋上での作業音や振動、におい(溶剤系材料使用時)などが発生するため、在宅時間帯と工事時間が重なる場合は注意が必要です。

Q:工法選定は自分で決められますか?

A: 最終的な判断は専門業者と相談して行うことが重要です。建物の状態を正確に診断したうえで、かぶせ工法・撤去工法どちらが望ましいかを提案してもらいましょう。

Q:かぶせ工法は再施工できますか?

A: 原則として、かぶせ工法を何度も繰り返すことは推奨されません。ただし、適切な材料を使い、状態が良好であれば再度かぶせ施工が可能な場合もあります。

Q:工事後の保証制度はありますか?

A: 多くの施工業者では、防水工事に対して5年〜10年程度の保証が設けられています。契約前に保証書の有無と内容(対象範囲・期間)を確認しておきましょう。


まとめ|かぶせ工法で効率的かつ経済的な防水改修を

かぶせ工法は、既存の防水層を活かしつつ、比較的低コスト・短工期で施工ができることから、多くの建物で支持されている防水改修方法です。特に、まだ使用できる防水層が残っている建物にとっては、費用対効果の高い選択肢となります。

一方で、既存防水層の劣化状態が激しい場合や、長期的な耐久性を求める場合には、撤去工法の方が適している可能性があります。施工後のトラブルを避けるためにも、必ず専門業者による現地調査を行い、建物に最も適した工法を選定しましょう。

さらに、2025年現在、国や自治体が提供する補助金制度を活用すれば、工事費用の負担を抑えることも可能です。制度には申請条件や申請時期の制約があるため、早めの情報収集と手続きをおすすめします。

最後に、防水工事は10年以上にわたり建物を守る重要な投資です。施工業者選び、工法選定、補助金活用の3つを正しく判断し、後悔のない防水リフォームを実現しましょう。