【賃貸経営】サラリーマンの賃貸経営

「もう限界」になる典型パターン

「節税になる」「年金代わりの不労所得になる」――そんな甘い言葉に背中を押されて、アパートやマンション、ビルの賃貸経営を始めたサラリーマン大家は少なくありません。​
しかし現実には、ローン返済と修繕費に追われ、手元にお金がほとんど残らないどころか、「このままでは破綻するかもしれない」と感じている方も多いのではないでしょうか。​

典型的なパターンはこうです。

  • 築20〜30年超のアパートやマンションを「高利回り」「節税になる」と勧められて購入する。​
  • 当初は満室前提のシミュレーション通りに見えていたが、数年で空室が増え、家賃も想定より下落していく。​
  • そこへ外壁や防水、設備更新などの大規模修繕が重なり、キャッシュフローが急激に悪化する。​

帳簿上は減価償却で赤字でも、実際の資金繰りは「毎月の持ち出しが続く」という状態になりやすく、気づいた時には「売るべきか、続けるべきか」の判断さえつかなくなってしまいます。​


賃貸経営は本当に節税になるのか

まず押さえておきたいのは、「賃貸経営=節税になる」というフレーズは、条件付きの話だということです。​
不動産所得が赤字になれば、給与所得と損益通算して所得税・住民税を減らせる仕組み自体は事実ですが、それがすべての人に有利とは限りません。​

賃貸経営で節税が期待できるのは、主に以下のポイントがあるからです。

  • 建物価格部分を減価償却費として毎年経費計上できる。
  • ローン金利、管理費、修繕費、固定資産税なども経費として落ちる。
  • 青色申告を選択すれば、最大65万円の特別控除や家族への給与支払いなども活用できる。​

一方で、節税だけを目的に赤字を出し続けると、次のようなリスクがあります。

  • 手残りのキャッシュフローがマイナスで、生活費や他の資産を食いつぶしてしまう。
  • 減価償却が終わると一気に黒字化し、税負担が逆に重くなる。
  • 赤字幅が大きすぎたり、実態に合わない経費計上を続けると、税務調査の対象になりやすい。​

特に年収がそれほど高くない層が、「節税できる」と聞いて無理な借入で築古物件に飛びつくと、節税額以上にキャッシュアウトが増え、トータルでは大きな損失になりかねません。​


アパート・マンション・ビル経営の違いと「限界」が来るサイン

同じ賃貸経営でも、アパート・マンション・ビルでは構造も市場も異なり、メリット・デメリットが変わります。​

  • アパート経営
    • 木造・軽量鉄骨が多く、初期費用は比較的少なく利回りは高めになりやすい。​
    • その一方で、耐用年数が短く老朽化も早いため、空室リスクと修繕負担が重くなりがちです。​
  • マンション経営
    • RC造で耐久性が高く、家賃単価も比較的高い一方、建築費・修繕費ともに大きいのが特徴です。​
    • エレベーターや共用設備を維持するためのランニングコストも無視できません。​
  • ビル経営
    • 事務所・店舗などへの賃貸で、住宅よりも高収益を見込めるケースがあります。​
    • ただし景気やテナント入れ替えの影響を受けやすく、空室期間が長期化すると一気に資金繰りが悪化するリスクが高いです。​

いずれのタイプでも、「そろそろ限界かもしれない」と考えるべきサインがあります。

  • 空室が続き、1年以上満室になったことがない。
  • 家賃を下げても入居が決まりにくいエリア・築年数になっている。
  • 雨漏りや配管トラブルなどが増え、修繕費が毎年膨らんでいる。​
  • ローン返済と修繕費・税金を払うと、自分の給与から補填しないと回らない状態が続いている。​

この段階で手を打たないと、「気づいた頃には売却してもローンが残る」という、最も避けたいパターンに陥りやすくなります。​


赤字・資金繰りが苦しいときにまずやるべき3つのチェック

「もう限界かもしれない」と感じたら、すぐに売却のことを考える前に、現状の数字を冷静に整理することが重要です。​

1. キャッシュフローの実態を把握する

毎月・毎年のキャッシュフローを、次の式でシンプルに計算します。

  • 家賃収入(共益費・駐車場含む)
  • ー ローン元利返済
  • ー 管理委託料・共用部電気代・清掃費などのランニングコスト
  • ー 修繕費(直近3〜5年平均)
  • ー 固定資産税・都市計画税

この合計がプラスなら、まだ「立て直す余地」がある可能性が高く、マイナス幅が大きいほど「早期の見直し・出口検討」が必要になります。​

2. 修繕計画と築年数を確認する

築20年を超えると、外壁・屋上防水・配管などの大規模修繕が本格的に必要になり、戸数にもよりますが数百万円〜数千万円単位の費用が発生するのが一般的です。​
これを「なんとなく先送り」にしたまま運営していると、雨漏り・クラック・共用部の劣化で入居者から選ばれなくなり、家賃下落と空室増加を加速させてしまいます。​

3. エリア需要と出口価格の目安を押さえる

同じエリア・築年数・規模のアパートやマンションが、いくらで売り出され、どのくらいの期間で成約しているかをチェックします。​
「今売ればこれくらいの価格、ローン残高との差額は○○万円」というイメージを持っておくことで、感情ではなく数字で続行か撤退かを判断しやすくなります。​


「続けるか、やめて売却するか」の判断軸

続ける・再生する・売却する――どの選択肢にもメリットとデメリットがあるため、次の5つの視点で整理すると判断しやすくなります。​

  1. 築年数と構造
    • 木造で築30年以上、RCで築40年以上なら、大規模修繕と賃料下落を織り込んだシミュレーションが必須です。​
  2. 現在の空室率
    • 常に半分近く空いているような状態なら、立地か物件スペックのどちらかに根本的な問題がある可能性が高いです。​
  3. 今後10年の修繕予定
    • 外壁・屋上・設備(給排水・エレベーター・受変電など)の更新時期が集中している場合、今後の持ち出しは相当覚悟する必要があります。​
  4. ローン残高と金利
    • 売却価格の目安より残債が大きければ、「売っても借金が残る」ため、任意売却や借り換えも含めた専門家への相談が欠かせません。​
  5. 自分のライフプラン・相続
    • 転勤や独立、定年、子どもの進学など、今後10〜20年のライフイベントと、賃貸経営に割ける時間・リスク許容度を照らし合わせます。​

これらを総合して、「修繕してでも保有したいのか」「多少の損は出ても今のうちに売るのか」を決めていきます。​


売却・撤退を選ぶ場合の出口戦略

「もう賃貸経営から撤退したい」「アパート経営をやめて売却したい」と決めたら、出口戦略次第で手元に残るお金が大きく変わります。​

代表的なパターンは次の4つです。​

  1. 収益物件としてそのまま売却
    • 満室に近い状態で利回りも悪くなければ、投資家向けに収益物件として売却するのが一般的です。​
    • 家賃水準や入居率をできるだけ整えてから売り出すことで、価格を上げやすくなります。​
  2. 更地にして土地として売却
    • 建物が老朽化しすぎている、違法建築の可能性があるなど、収益物件としての評価が低い場合に選ばれます。​
    • 解体費用や入居者の退去交渉が必要になる一方、土地として評価されれば、収益物件として売るより有利になるケースもあります。​
  3. 自己居住用として売却
    • 区分マンションや戸建てに近い物件では、「自宅として住みたい人」に売った方が高値になることがあります。​
    • ただし空室にしておく必要があるなど、タイミング調整が難しい側面もあります。​
  4. 売却せず賃貸継続
    • 売却すると大きな損失が確定してしまう場合、あえて持ち続けてローン完済まで粘る選択肢もあります。​
    • その場合でも、空室対策・修繕計画・資金繰りの改善は必須です。​

いずれの方法を取るにしても、「どのタイミングで売るのが最も損が少ないか」「税金(譲渡所得税・住民税)がどれくらいかかるか」を事前にシミュレーションしておくことが重要です。​


それでも続けるなら、どこを直せば“逆ざや”から抜け出せるか

「今は苦しいが、できれば売らずに立て直したい」という場合は、次の3点に優先順位をつけて取り組みます。​

  1. 空室対策と家賃戦略の見直し
    • エリア相場より高い家賃で放置していないか、入居者が求める設備(ネット無料・宅配ボックスなど)が不足していないかをチェックします。​
    • 「ただ値下げする」のではなく、外観や共用部の印象を改善しながら、ターゲットに合った賃料と募集条件に調整することが重要です。​
  2. 管理会社とランニングコストの見直し
    • 管理委託料・広告料・原状回復費用などが相場と比べて割高でないかを確認し、見直しできる項目がないか精査します。​
    • 管理会社を変えても変化がないケースでは、募集戦略や物件自体の魅力が根本原因である可能性も高いため、原因の切り分けが必要です。​
  3. 計画的な修繕と資金調達
    • 雨漏りや給排水トラブルを放置すると、入居者離れとクレームでさらに経営が悪化します。​
    • 大規模修繕については、工事内容・見積もり・工法を比較しながら、投資対効果の高い部分から優先順位を付けて実行することがポイントです。​

まとめ:節税・不労所得より「出口」と「キャッシュフロー」を優先する

サラリーマン大家としてアパート・マンション・ビル経営を続けるか、撤退するかを判断するうえで最も大切なのは、「節税になるかどうか」ではなく、「キャッシュフローが健全か」「出口でどれだけ回収できるか」という視点です。​
たとえ今赤字でも、将来の売却で大きなキャピタルゲインが見込めるなら戦略的な赤字になり得ますし、逆に目先の節税のために無理な投資を続ければ、最終的なトータル損失は想像以上に大きくなります。​

この記事で紹介したチェックポイントと判断軸を使って、自分の賃貸経営が「続けるべきか」「売るべきか」を一度冷静に棚卸ししてみてください。
そのうえで、「数字の整理」や「売却か再生かのシミュレーション」を専門家と一緒に行えば、感情ではなく合理的な根拠をもった決断ができるはずです。​