【賃貸経営】一棟賃貸を「売却するか修繕して続けるか」で迷ったときに整理すべき3つの視点

一棟の賃貸物件を持っているオーナーであれば、いずれ必ず直面するのが「この物件を売却するか、修繕して賃貸経営を続けるか」という悩みです。

外壁や屋上防水、共用部、設備の老朽化が目に見えて進み、管理会社からも「そろそろ大規模修繕を検討した方がいい」と言われ始める。同時に、「このタイミングで一棟売却して、別の資産に切り替えた方が良いのではないか」という考えも浮かんでくる。まさに「売却か修繕か」で頭が止まる瞬間です。

この記事では、一棟の賃貸物件(アパート・マンション・小規模ビルなど)を所有している個人オーナーが、「売却するか、修繕して賃貸経営を続けるか」で迷ったときに、最初に整理しておくべき3つの視点をお伝えします。結論を急ぐことよりも、「いつでも冷静に決断できる状態をつくること」をゴールにしています。

なぜ「売却か修繕か」が決められなくなるのか

一棟賃貸オーナーが「売却か修繕か」の判断で止まってしまうとき、多くの人が「自分は優柔不断だから決められないのではないか」と感じがちです。

しかし、実際にはそうとは限りません。決断力の問題ではなく、「判断に必要な材料が整理されていないだけ」というケースがほとんどです。

頭の中には、次のような要素が同時に、しかもぼんやりと混ざったまま存在しています。

・今後どれくらい修繕費がかかりそうなのか

・このまま賃貸経営を続けた場合、収支はどう変化していきそうか

・今、一棟売却したらどのくらいの手取りが残りそうなのか

・自分の年齢や健康状態、家族構成、相続を考えると、いつまで現役オーナーとして判断を続けたいのか

これらを具体的な数字や事実として整理する前に、感覚だけで「売るべきか、続けるべきか」「修繕すべきか、様子を見るべきか」を一気に決めようとするため、必ず行き詰まります。

判断が止まっているのは、「決断力がないから」ではなく、「判断できる状態になっていないから」です。

ここを理解しておけば、必要以上に自分を責めたり、焦って結論を出そうとしたりするプレッシャーを減らすことができます。

売却と修繕を同時に決めようとすると思考が固まる

一棟の賃貸経営が難しくなる理由の一つは、「売却」と「修繕」という二つの大きな判断が、同じタイミングで浮かびやすい構造にあります。

・修繕が必要なら、売った方が楽なのではないか

・とはいえ、この状態のまま売ってしまって良いのか

・修繕費をかけてまで賃貸経営を続ける意味があるのか

こうして、「売却」と「修繕」を同時に決めようとすることで、思考が止まってしまいます。

本来は、次のように分けて考える必要があります。

今の建物の状態が、「売却」「継続」「修繕」の判断にどのような影響を与えるかを整理する

売却した場合・修繕して継続した場合・最低限だけ整えて様子を見る場合の、おおまかな数字(キャッシュフロー・手取り)を比べる

自分と家族のライフプランを踏まえ、どの選択肢が「一番納得感が高いか」を決める

この順番を飛ばして、いきなり「売却するか、修繕するか」だけを決めようとするからこそ、判断が一気に重くなります。

最初に整理すべき3つの視点

では、一棟賃貸オーナーが「売却か修繕か」で迷ったとき、最初に整理すべき3つの視点とは何でしょうか。

それは、次の3つです。

① 建物の状態が「判断に影響する状態」かどうか
② キャッシュフローと修繕費・売却益のバランス
③ 自分と家族のライフプラン・相続との関係

順番に見ていきます。

視点1:建物の状態が「判断に影響する状態」かどうか

多くのオーナーは、修繕の話が出た瞬間に「やるか、やらないか」という決断に意識が向きます。

しかし、本当に最初に整理すべきなのは「やるかどうか」ではありません。一歩手前の、「今の建物の状態が、今後の判断にどう影響するか」です。

具体的には、次のようなポイントを一度紙に書き出してみると整理しやすくなります。

・このまま売却した場合、買主から必ず指摘されそうな劣化や不具合はどこか

(例:外壁のひび割れが目立つ、屋上防水に膨れや亀裂が多い、鉄部のサビが進行している など)

・将来の大きなトラブルやクレームにつながりやすい部分はどこか

(例:雨漏り跡が繰り返し発生している箇所、階段や手すりのぐらつき など)

・放置すると「説明が難しくなる」箇所はないか

(例:過去の応急工事だけで済ませてしまった部分、図面と現況が違う部分 など)

ここで大事なのは、「すべての劣化を完璧に洗い出すこと」ではありません。

・売却価格や条件交渉に強く影響しそうなところ

・将来の修繕費を大きく左右しそうなところ

・放置すると、のちのち説明しづらくなりそうなところ

この「判断に影響するポイント」がどこかを、ざっくりでいいので把握しておくことが重要です。

この整理ができていれば、

・そのまま売っても良い部分

・最低限だけは手を入れてから売るべき部分

・売却に関係なく、オーナーとして責任を持って直しておきたい部分

といった区別がつきやすくなり、「修繕する/しない」をゼロイチで悩まずに済みます。

視点2:キャッシュフローと修繕費・売却益のバランス

二つ目の視点は、数字の面から見たバランスです。一棟賃貸オーナーが「感覚だけ」で判断してしまうと、

・今は黒字だし、ローンも払えているから大丈夫だろう

・このくらいの修繕なら、なんとかなるだろう

という結論に引っ張られがちです。

しかし、売却か修繕かを考えるときには、少なくとも次の数字は一度整理しておきたいところです。

・現在の年間家賃収入(満室ベースと実績ベース)

・年間の支出(ローン返済、固定資産税、管理委託料、保険料など)

・今後5~10年以内に発生しそうな大きめの修繕費の目安

・今、一棟売却した場合の「おおよその手取り」

(想定売却価格 − ローン残債 − 諸経費・税金)

細かいシミュレーションを組む必要はありません。Excel や手書きでも構いませんので、

・このまま5年保有した場合の累計手取り

・今、修繕をしてから5年保有した場合の累計手取り

・今、売却した場合の手取り+その資金を別の用途に回した場合のイメージ

といったレベルで「ざっくりとした比較」ができれば十分です。

ここでのポイントは、「どの選択肢が一番お金が残るか」を完璧に当てることではありません。

・修繕して保有を続けた場合

・修繕は最低限にして、数年後の売却を見込む場合

・今のタイミングで売却してしまう場合

これらの「差の大きさ」を把握し、「自分がどれくらいのリスクと手間を受け入れられるのか」を考えやすくすることが目的です。

数字を並べてみると、

・思っていたよりも、今の賃貸経営で手元に残っているお金が少ない

・修繕費をかけても、家賃水準や今後の空室リスクを考えると回収に時間がかかりそう

・売却益を使ってローンを返し、老後資金や別の投資に回した方が自分には合っているかもしれない

など、感覚の段階では見えていなかった事実が浮かび上がってきます。

視点3:自分と家族のライフプラン・相続との関係

三つ目の視点は、お金や建物だけでは語れない部分です。一棟賃貸の経営は、オーナー自身と家族のライフプランと密接に結びついています。

例えば、次のような問いを一度書き出してみると、自分の中の前提が見えやすくなります。

・自分は何歳くらいまで、賃貸経営の細かい判断に関わり続けるつもりなのか

・体力・気力・判断力が落ち始める前に、「出口」をある程度決めておきたい年齢はいつ頃か

・配偶者や子どもは、この一棟物件を「引き継ぎたい」と考えているのか、「むしろ手放してほしい」と考えているのか

・相続や贈与について、どのような方向性をイメージしているのか

この部分は、誰かが正解を教えてくれるものではありません。ですが、まったく整理しないまま時間だけが過ぎてしまうと、

・自分が高齢になってから急に修繕と売却の判断を迫られる

・家族が物件の状況を理解しないまま、相続で困る

・売りたくても、建物の状態や市場環境が悪化していて条件が厳しくなる

という形で「選べるはずだった選択肢」がどんどん減っていきます。

「今は売らない」という判断が本当の意味で正解になるのは、

・将来の判断に備えて、建物とお金とライフプランの情報が整理されている

・いつでも「売る」「修繕する」「続ける」の選択肢を比較できる状態を保てている

という条件が整っている場合だけです。

「今は売らない」と決めたあとにやってはいけないこと

3つの視点を整理したうえで、結果として「今のところは売却せず、賃貸経営を続ける」という結論に落ち着くこともあります。

その判断自体は、決して悪いものではありません。

ただし、このあとにやってはいけないことがあります。

それは、「今は売らないと決めたから、しばらく何も考えなくていい」という状態に入ってしまうことです。

・建物の状態を改めて見に行かなくなる

・修繕の話題を意識的に避けるようになる

・将来の「売却タイミング」について家族と話す機会を持たない

こうした状態が続くと、次に売却や大きな修繕を検討するときに、

・以前よりも建物の状態が悪化していて、選択肢が狭まっている

・まとまった修繕が急に必要になり、慌てて決断せざるを得ない

・事前に準備していれば乗れたはずの良い売却条件を逃してしまう

といった事態になりやすくなります。

「今は売らない」という判断が、先延ばしになるのか、戦略的な準備期間になるのかは、その後の行動で決まります。

実務としての進め方

ここまでの話を、実務レベルのステップに落としてみます。

ステップ1:建物の状態をラフに棚卸しする

・自分の目で、外壁・屋上・共用廊下・階段・設備周りを一通り見て、気になる箇所をメモする

・過去の修繕履歴(いつ・どこを・いくらで工事したか)を一覧にする

・「このまま売るときに、説明が必要になりそうだな」と感じる箇所に印をつけておく

ステップ2:キャッシュフローと修繕・売却の数字を並べる

・年間の収支(家賃−経費−ローン返済)をA4一枚でまとめる

・今後5~10年のあいだに想定される大きめの修繕項目と、その概算費用を書き出す

・想定売却価格とローン残債から、「今売ったら手元にどのくらい残りそうか」のざっくり数字を出す

ステップ3:ライフプランと出口戦略を仮決めする

・「何歳くらいまで自分で賃貸経営の判断を続けるか」の目安を書いてみる

・家族と「この物件をどうしたいか」を一度話してみる(引き継ぐのか、売って資金に変えたいのか)

・「いつでも売れる状態をキープしながら当面は保有」「○年後を目安に売却も視野に入れる」など、ざっくりした出口方針を言葉にしておく

ここまで整理できていれば、

・今は修繕を優先しながら賃貸経営を続ける

・最低限の整備だけして、数年以内の売却を軸に考える

・市場が良いうちに売却し、別の投資やライフプランに切り替える

といった選択肢を、「感情」ではなく「材料」をもとに比較できるようになります。

まとめ|結論は最後でいいが、整理だけは先に進める

一棟賃貸のオーナーが「売却するか、修繕して賃貸経営を続けるか」で迷うのは、ごく自然なことです。無理に今すぐ結論を出す必要はありません。

ただし、結論を出さないまま、建物の状態もお金の数字もライフプランも整理しない状態で時間だけが過ぎてしまうと、「本当は選べたはずの選択肢」が、知らないうちに減っていきます。

・建物の状態が判断にどう影響するのか

・修繕費・売却益・キャッシュフローのバランスがどうなっているのか

・自分と家族の人生設計にとって、どの選択が一番納得感があるのか

この3つの視点を一度整理しておけば、「売却するか修繕するか」で迷い続ける状態から、「いつでも決められる状態」に変えていくことができます。