【賃貸経営】大規模修繕を「やるだけ赤字」にしないための考え方(RC・木造アパート両方)
2026/01/26
一棟のRCマンションや木造アパートを持っているオーナーにとって、「大規模修繕」は避けて通れないテーマです。
ところが、いざ見積もりを取ってみると数百万円〜数千万円という金額が並び、「これ、本当にやった分だけ回収できるのか?」という不安を持つオーナーも少なくありません。
この記事では、一棟オーナーが「大規模修繕=やらないといけない“コスト”」ではなく、「投資として回収するための一手」として考えるための視点と、RC・木造それぞれのざっくりシミュレーションを整理します。
目次
なぜ「やるだけ赤字」に感じるのか
大規模修繕の相談の場面では、多くのオーナーが次のようなモヤモヤを抱えています。
- 工事費用の見積もりは出てきたが、「やった後に何がどれだけ良くなるのか」が見えにくい。
- 売却や出口のタイミングを決めていないので、「回収期間」のイメージが持てない。
- 管理会社や施工会社からは「必要性」はよく説明されるが、「リターン」の話が薄い。
結果として、
- 「やらないと建物が傷むのは分かるけれど、“投資の目”で見ると踏ん切りがつかない」
- 「結局、キャッシュフローが悪化するだけでは?」
という感覚になり、「先送り」が常態化しがちです。
本来、大規模修繕は、
- 入居率や家賃水準を維持・改善するための施策
- 売却や再評価のときに、物件価値を下支えする要素
- 将来の突発的な大きなトラブル(雨漏り・外壁落下など)リスクを減らす「保険」
という複数の顔を持っています。
この「リターン」と「回収のイメージ」を言語化しておかないと、どうしても「やるだけ赤字」に見えてしまいます。
大規模修繕で期待できる“3つのリターン”
まず、「大規模修繕をやることで何が変わるのか」を整理します。
1. 入居率・家賃の維持・改善
- 外壁・共用部がきれいになり、印象が良くなることで、募集時の反響や成約率が上がりやすくなります。
- 築古でも「きちんと手入れされている物件」は、家賃の下落ペースを緩やかにできる、あるいは小幅な賃料アップが狙えるケースもあります。
例として、
- 入居率が90%→95%に改善
- 一部の部屋で2,000円〜3,000円の家賃アップが実現
といった変化でも、年間ベースでは無視できないインパクトになります。
2. 将来の売却価格・出口条件の下支え
- 大規模修繕の実施履歴や、外観の状態は、収益物件の売却時にもチェックされるポイントです。
- 「直近でしっかり修繕している物件」は、買い手にとっても安心材料となり、価格交渉で不利になりにくくなります。
逆に、
- 「大規模修繕未実施」「外壁クラック多い」「屋上防水の劣化が進行」
といった状態だと、
- 価格交渉で大きく叩かれる
- 「修繕費を見越したディスカウント」を要求される
可能性が高まります。
3. 突発トラブル・訴訟リスクの軽減
- 外壁の落下や雨漏りなど、放置すれば「事故」や「クレーム」「損害賠償」につながり得るリスクを、前倒しでコントロールできます。
- 結果として、「いつか必ず払うことになる費用」を計画的に分散しつつ、余計なコストやストレスを避けられます。
これら3つを「数字」と「期間」に落とし込んでいくと、大規模修繕は単なる支出ではなく、「どのくらいの期間でどれだけ回収を狙う投資か」という視点で捉えやすくなります。
RCと木造で違う“ざっくり費用感”
次に、RCマンションと木造アパートでの大規模修繕のざっくり目安を押さえます。
RC一棟マンションの目安
- 規模:3〜5階建て・20〜30戸クラス
- 外壁・屋上防水・共用部改修などを含む大規模修繕
費用のイメージ:
- 1戸あたり50万〜100万円前後
- 20戸だと、総額1,000万〜2,000万円程度が一つの目安とされています。
もちろん、
- タイルか塗装か
- 足場条件
- 仕様(防水の種類、塗料のグレードなど)
によって大きく変わりますが、「数百万円では済まず、1,000〜2,000万円レンジが現実的」という感覚は持っておいた方が安全です。
木造アパートの目安
- 2階建て・8〜12戸前後の木造アパート
費用のイメージ:
- 外壁塗装・屋根塗装・共用部の補修などをまとめて行う場合、300万〜800万円前後が多いレンジとされています。
- 延床や劣化具合によっては1,000万円近くになるケースもありますが、多くは「RCより少し小さめ」の規模感です。
いずれにしても、
- 「●●万円」レベルではなく、「●●●万円〜●●●●万円」レベル
- 1年分の家賃収入のかなりの割合(あるいはそれ以上)を投じる
という決断になるため、「投資として回収するイメージ」を持たずに決めるのは危険です。
ケース別シミュレーション①:RC一棟マンション(入居率と家賃で回収を狙う)
ここから具体的な数字に落としてみます。
【前提】RC一棟マンション
- 戸数:24戸
- 現在の平均家賃:月8万円
- 満室想定家賃:24戸×8万円=月192万円(年2,304万円)
- 現状入居率:90%(空室2〜3戸)
- 現在の実際賃料収入:2,304万円×0.9=約2,074万円/年
【大規模修繕の内容と費用】
- 外壁塗装・タイル補修
- 屋上防水
- 共用部の照明・サイン・一部配管補修
→ 見積り総額:1,800万円(足場込み)
修繕後にどれくらい改善すると“投資”と言えるか
シナリオA:入居率改善+家賃微増
- 入居率が90%→97%に改善(空室がほぼ埋まる状態)
- 平均家賃を1,000円だけアップ(8.0万円→8.1万円)
この場合、
- 満室想定家賃:24戸×8.1万円=月194.4万円(年2,333万円)
- 入居率97%とすると実収入は約年2,263万円
修繕前の実収入約2,074万円との差:
- 年間の増加額:約189万円
このペースが続くと仮定すると、
- 1,800万円÷189万円≒約9.5年
で「キャッシュフロー上は回収した」とも言えるイメージになります。
もちろん、
- 実際には家賃や入居率は一定ではない
- 管理費や固定資産税等の変動もある
ため、あくまで概算ですが、「10年前後で回収できそうかどうか」という目線は持ちやすくなります。
シナリオB:入居率は改善するが、家賃は据え置き
- 入居率90%→97%
- 家賃据え置き
この場合、
- 満室想定2,304万円×0.97=約2,235万円
- 差額:2,235万−2,074万=約161万円/年
1,800万円÷161万円≒約11.2年で、「目安として10年強」で回収というイメージになります。
ここで重要なのは、
- 「修繕費1,800万円は高い/安い」ではなく
- 「どの程度の入居率・家賃改善を狙い、その結果、何年で回収する設計なのか」
を、最初の段階でイメージしておくことです。
ケース別シミュレーション②:木造アパート(小さな投資で“劣化感”を消す)
次に、木造アパートのケースを見ます。
【前提】木造2階建てアパート
- 戸数:8戸
- 平均家賃:月6万円
- 満室想定家賃:8戸×6万円=月48万円(年576万円)
- 現状入居率:87.5%(1戸空き)
- 実収入:576万×0.875=約504万円/年
【大規模修繕の内容と費用】
- 外壁塗装
- 屋根塗装
- 共用階段・廊下の防滑シート・手すり補修
→ 見積り総額:450万円とします。
修繕後に狙いたい変化
シナリオC:空室解消+募集力アップ
- 入居率87.5%→100%(満室)
- うち数戸で家賃+2,000円の上積み
この場合、
- 満室で年576万円に回復
- さらに4戸で+2,000円/月×12ヶ月=年96,000円アップ
合計すると、
- 年間の増収:
- 入居率改善分:576万−504万=72万円
- 家賃アップ分:9.6万円
- 合計:約81.6万円
450万円÷81.6万円≒約5.5年
となり、「約5〜6年で投資回収」というイメージになります。
木造アパートのように総額が比較的コンパクトなケースでは、
- 「外観の劣化感を消す」
- 「競合物件に見劣りしないようにする」
という意味での投資効果が出やすく、回収期間もRCより短くなるケースが多いです。
「修繕する・しない」を決める前に確認したい3つのポイント
実際に工事のGo/No-Goを判断する前に、最低限押さえておきたいポイントを整理します。
1. 現状の“損している額”を見える化する
- 現在の入居率・家賃の水準を、「満室時」と比較してどれくらい機会損失が出ているかを把握します。
- すでに毎年100万〜200万円単位で取り逃しているなら、「修繕でどこまで戻せるか」は重要な検討材料になります。
2. 修繕後に「どこまで改善する想定か」を仮決めする
- 入居率何%を狙うのか
- 家賃を据え置きとするか、どれくらいアップを試みるのか
といった“目標値”をざっくりでも決めて、
- 「何年間で回収を目指す投資か」
という感覚を持っておくことが大切です。
3. 出口戦略との整合を確認する
- この物件をあと何年持つつもりか
- 売却や建て替えをいつ頃イメージしているか
によって、「投資回収に使える期間」が変わります。
持ち期間が短いのに、大規模な投資をしても回収が難しいことがあるため、「No33で決めた出口イメージ」と必ずすり合わせておく必要があります。
オーナーが今すぐ取れる5つのステップ
最後に、「大規模修繕を検討するかどうか」を具体的に前に進めるためのステップをまとめます。
- 現在の入居率・家賃・満室想定収入を整理する
- 直近1〜2年の入居率の推移と、平均家賃を表にしてみる。
- 満室とのギャップ(金額ベース)を把握して、「今いくら取りこぼしているか」を見える化する。
- RC・木造それぞれの「ざっくり費用レンジ」を把握する
- 自分の物件規模に近い事例の費用感を参考に、1回の工事でどのレンジになりそうかをイメージする。
- 見積もりを取る際も、そのレンジから大きく外れていないかをチェックする。
- 「修繕後にどこまで改善させたいか」の仮シナリオを作る
- 入居率改善と家賃アップの“現実的なライン”を設定し、ざっくり回収期間を計算する。
- 「10年で回収」「5〜6年で回収」など、自分が許容できる回収イメージを言語化する。
- 出口戦略との整合性をチェックする
- 長期保有するのか、10年以内に売却・建て替えを視野に入れるのかを再確認する。
- 持ち期間と回収期間が釣り合っているかどうかを見て、投資の規模感やタイミングを調整する。
- 信頼できる施工会社・管理会社に「投資目線」で相談する
- 「いくらかかるか」だけでなく、「どんな工事をすれば、どれくらい募集力が上がりそうか」という視点で話を聞く。
- 複数社の提案を比較し、「費用」だけでなく「入居者目線での見栄え」「将来のメンテナンス性」も含めて総合判断する。
大規模修繕を「出口までのキャッシュフロー設計」の一部として捉える
大規模修繕は、「やるか・やらないか」ではなく、「いつ・どの規模で・どんな意図を持ってやるか」で結果が大きく変わるテーマです。
入居率・家賃・売却価格・突発トラブルのリスクといった要素に数字で向き合うことで、「やるだけ赤字」という感覚から、「出口までを含めたキャッシュフロー設計の一部」という見方に変えていけます。
RCマンションでも木造アパートでも、「いくらかかるか」だけで判断せず、「どのくらいの期間で、どこまで回収を狙う投資なのか」を一度整理してみることが、賃貸経営の舵取りを楽にする近道です。