【賃貸経営】「とりあえず返済は回っているから大丈夫」が危ない理由

賃貸経営を続けていると、「毎月のローン返済は滞りなくできているし、口座残高も減っていないから、このままで大丈夫だろう」と感じる時期があります。
購入直後のバタバタを過ぎ、入居も安定してくると、「返済が回っていること」自体が大きな安心材料になり、「大きな判断はもう少し先でいい」と考えたくなるのは自然です。​

ただ、「返済さえ回っていれば大丈夫」という感覚に頼りすぎると、じわじわ進んでいる変化に気づくのが遅れます。
いざ売却・大規模修繕・建て替えなどを検討するときに、「もっと早い段階で気付いていれば選べた選択肢があったのに」と感じるケースも少なくありません。

この記事では、「返済が回っている=順調」と思い込むことで見落としやすいポイントを整理し、今のうちに確認しておきたい視点をお伝えします。​

「返済が回ること」と「経営がうまくいっていること」は別物

毎月の返済ができているかどうかは、もちろん重要なチェックポイントです。
ただし、「返済が回っているから=経営も問題ない」と考えてしまうと、次のような点を見落としやすくなります。

  • 修繕費や設備更新をほとんど見込んでいない前提で収支を見てしまっている。
  • 自分の生活資金からの“ちょっとした持ち出し”を、意識せずに許容してしまっている。
  • 将来の大きな支出(大規模修繕や空室増加)を織り込んでいない。

例えば、家賃収入からローン返済・管理委託料・共用部光熱費・固定資産税などを引いたあと、毎月数万円でもプラスが残っていると、「黒字だし問題ない」と感じがちです。
しかし、その「黒字」が、次のような前提抜きで計算されていないかを確認する必要があります。

  • 外壁や屋上防水、共用部など大きめの修繕のための取り置きは含めていない。
  • 室内の原状回復費や設備交換費用は、発生したときにその都度“別枠”扱いにしている。
  • 突発的な空室が数室続いた場合を想定した予備費はほぼ考えていない。

この状態で「返済は回っているから大丈夫」と判断していると、

  • ある年に大きな修繕が重なった。
  • 退去が集中して一時的に空室率が跳ね上がった。

といったタイミングで、一気にキャッシュフローが崩れ、「売るしかない」「自己資金の持ち出しが続いてしんどい」という局面に追い込まれるリスクが高まります。​
表面上のキャッシュフローだけを見て「順調」と判断することが、「見えない赤字」に気づくのを遅らせてしまうのです。

「見えない持ち出し」が積み上がっていないかを確認する


「返済は回っているが、毎月なんとなく自分のお金から補填している」というケースも、実務ではよくあります。
例えば、次のようなパターンです。

  • ある月は複数戸で原状回復費がかさみ、物件用口座がマイナスになりそうだったので、自分の生活口座から10万円移した。
  • 翌月はプラスだったので、「トータルではまあ大丈夫だろう」と深く考えずに済ませた。
  • これを年に何度か繰り返しているが、全体としていくら補填しているかは把握していない。

このように、「その場その場で何となく埋めている」うちは、オーナー自身も“持ち出しの総額”を認識しづらくなります。
結果として、年間で見れば数十万円単位で自分のお金を入れていた、ということも珍しくありません。

一度、次のような整理をしてみる価値があります。

  • 過去1〜3年分の通帳(物件用口座と個人口座)を見直し、「物件側から個人へ」「個人から物件へ」の入出金を洗い出す。
  • そのうえで、「本当に物件単体で見てプラスだったのか」「オーナー個人の資金で支えていた部分がどれくらいあるのか」をざっくり計算してみる。

この作業をすると、

  • 「毎月のキャッシュフローはプラスだと思っていたが、実際には1年間でかなりの持ち出しになっていた」。
  • 逆に、「気持ち的にはきついと感じていたが、トータルではそこまで悪くなかった」。

といった、感覚と現実のズレが見えてきます。​
「返済は回っている」が、「実は自分のお金で“回していた”」のであれば、その前提に立って今後の修繕・返済・出口を考え直す必要があります。

「返済に余裕があるとき」こそ数字とリスクを見直す

意外に思えるかもしれませんが、「返済が苦しい」と感じている時期よりも、「返済に余裕がある」と感じている時期の方が、冷静に数字とリスクを見直すチャンスです。
心理的に追い込まれていないタイミングであれば、次のような点を落ち着いてチェックできます。

  • 直近1〜3年分の「年間キャッシュフロー」をまとめてみる(年ごとのざっくり損益)。​
  • 修繕・原状回復・設備交換に実際にいくら使ったかを合計し、年間平均を出してみる。​
  • 「今の賃料・入居率・修繕ペースが続く場合」と、「少し悪化した場合」の2パターンで、5年くらい先までの簡単なシミュレーションをしてみる。​

具体的には、

  • ベースケース:現在の賃料水準と入居率、過去の修繕ペースを前提にした5年分の収支。
  • 悪化ケース:賃料が5%下がる、入居率が5〜10%悪化する、修繕が想定より1回多く入る、という前提での収支。

この2つを並べてみるだけでも、「この物件は多少悪化しても耐えられるのか」「少し悪化しただけで一気に赤字に振れるのか」といった“耐性”のイメージが掴めます。
その結果、

  • 悪化ケースでもまだ余裕がある → 修繕積立や繰上げ返済、次の投資の検討に進みやすい。
  • 悪化ケースではすぐ危険水域に入る → 今のうちから費用見直し・家賃戦略・出口戦略を意識しておく必要がある。

など、具体的な打ち手を検討しやすくなります。

「返済が回っているうちに」出口もテーブルに載せておく

「返済が回らなくなってから」出口を考え始めると、どうしても選択肢が限られます。
買い手から見た物件の印象、金融機関の融資姿勢、自分自身の資金状況──いずれも、余裕があるうちの方が有利です。

だからこそ、「返済が回っているうちに」、少なくとも次のようなことは考えておきたいところです。

  • この物件を、あと何年くらい持つ前提なのか(ざっくりで良いので期限感を持つ)。​
  • その期間中に想定される大きな支出(外壁・屋上防水・設備更新など)の規模感と時期。​
  • 「ここまで悪化したら、売却や入れ替えも視野に入れる」という、自分なりのライン。​

出口戦略と言うと大げさに聞こえますが、

  • 「この物件はローン完済までは持ち、その後5年くらい様子を見てから売却も検討する」。
  • 「築30年を迎える前後で、一度“売るか持つか”を再点検する」。

といった“目安”を持っておくだけでも、判断はかなり楽になります。​
あとは、その目安に近づいてきたタイミングで、

  • 売却査定を取ってみる。​
  • 修繕の見積もりや、今後の修繕計画を一度整理してみる。​
  • 他の投資先や資金の使い道の候補を並べてみる。​

といった具体的なアクションに落とし込めます。

「返済が回っているからこそ」、出口も含めた全体の設計図を一度描いてみる。
そうしておくことで、「急に返済が重くなったから慌てて売る」という状況を避けやすくなります。

まとめ|「返済が回っている=安全」ではない

「とりあえず返済は回っているから大丈夫」という感覚は、賃貸経営の現場では非常によく見かけます。
しかし、その裏側で実際に起きているのは、

  • 修繕や空室リスクを十分に織り込んでいない、ギリギリの運転。
  • 物件の老朽化や競合物件の増加により、少しずつ賃料と入居率が削られている状況。
  • 「返済が回っている」という安心感ゆえに、出口戦略の検討が後回しになっている状態。

であることも少なくありません。

大切なのは、「返済が回っている=安全」と単純化せずに、

  • 修繕費や将来のリスクも含めたうえで、本当にプラスが残っているのか。
  • いまの物件を、何年先まで持つ前提なのか。
  • その前提で、いつ・どのタイミングで出口まで含めた見直しをするのか。

を、自分の言葉で整理しておくことです。

「なんとなく回っているから大丈夫」という状態から一歩抜け出し、
「数字もリスクも把握したうえで、自分で続け方と終わり方を選んでいる」という状態に近づけるかどうか。
その違いが、数年後・十数年後の賃貸経営の安定度合いと、オーナー自身の心理的な余裕を大きく分けていきます。