【賃貸経営】「相場より少し安くしておけば埋まる」という発想が危うくなる場面とは

賃貸経営を続けていると、「周りの相場より家賃を少し安くしておけば、ひとまず空室は埋まるだろう」という発想になりがちです。
実際、競合物件より家賃を下げることで入居申込が入りやすくなる場面は多く、「困ったときは家賃を下げればいい」という“最後の切り札”のように感じているオーナーも少なくありません。​

しかし、「相場より少し安くしておけば埋まる」という発想に頼り続けていると、気づかないうちに収益性と物件力の両方を削ってしまうことがあります。
ここでは、この発想が通用しなくなってくる場面と、その背景にあるリスクを整理しながら、「家賃を下げる」以外の打ち手も含めて考えるための視点をお伝えします。

「少し安くすれば決まる」が効きにくくなるタイミングとは

家賃を少し下げることで空室が埋まるのは、「入居希望者から見て、他の選択肢と比べて十分に魅力的に見える」範囲にある場合です。
ところが、築年数が進み、周辺に新築やリノベ済み物件が増えてくると、「少し安い」だけでは選ばれにくくなっていきます。

例えば、次のような状況をイメージしてみてください。

  • 築25年のアパート。周辺には築5〜10年のアパートや、最近フルリノベされた物件が増えてきた。
  • 設備は、独立洗面台なし・TVモニターホンなし・ネット無料なし。
  • 間取りや広さは平均的だが、内装は数年前の原状回復以降特に手を入れていない。

この状態で、周辺の同等間取りの相場が7万円だとします。
そこで、「うちは6.8万円にすれば決まるだろう」と考えるのは自然ですが、入居希望者の目線で見ると、

  • 新しい物件:7万円〜7.2万円、設備が充実、見た目もきれい。
  • 自分の物件:6.8万円、設備は一昔前、共用部の古さも目立つ。

という比較になります。
このとき、2,000円の差額だけで「古い物件」を選んでもらえるかどうかは微妙なラインです。

つまり、「少し安くすれば埋まる」は、

  • そもそも物件としての“最低限の期待値”を満たしていること。
  • 競合との見た目や設備の差が、それほど大きくないこと。

が前提になっているということです。​
その前提が崩れているのに、「とりあえず相場より安く」という発想だけを続けていると、

  • 家賃は下げているのに、思ったほど決まらない。
  • さらに下げてようやく決まるが、収益性はどんどん薄くなる。

という悪循環に陥りやすくなります。

家賃を下げる前に確認したい「選ばれない理由」

空室が続いたとき、「とりあえず家賃を下げてみよう」という判断をしたくなります。
ただ、その前に一度、「今の条件でなぜ選ばれていないのか」を可能な範囲で言語化してみることが重要です。

確認しておきたいポイントとして、例えば次のようなものがあります。

  • 内見数はどの程度あるのか(内見自体が少ないのか、内見はあるのに決まらないのか)。
  • 内見に来た人から、どんな断り理由が出ているのか(家賃なのか、設備なのか、日当たりなのか、共用部の印象なのか)。
  • ポータルサイト上の写真や物件紹介文は、競合と比べて見劣りしていないか。

もし、

  • そもそも内見がほとんど入っていない → 掲載の露出・写真・間取り図・コメントが弱い可能性。
  • 内見はそれなりにあるが、「古さ」「暗さ」「狭さ」など設備・仕様に対する言及が多い → 印象面でのテコ入れが必要。
  • 「家賃が高い」という声が一定数ある → エリアの需給と、自物件の位置付けを再確認する必要。

というように、「どこで落とされているのか」を仮説ベースでもいいので整理してみると、

  • “本当に”家賃が原因なのか。
  • 家賃以外に、比較的少ない投資で改善できるポイントがないか。

が見えてきます。

このステップを飛ばして、「決まらない=家賃」という短絡的な判断に走ると、家賃を2,000円・3,000円と下げても、根本原因が解消されていないために状況があまり変わらない、ということが起きやすくなります。
逆に言えば、「家賃の前にできること」を一通り試したうえで、それでも難しい部分を家賃調整で埋める、という順番にした方が、長期的な収益性を守りやすくなります。​

「家賃を下げる」の本当のコストを把握しておく

家賃を2,000円・3,000円下げる判断は、一見すると「たいしたことがない」ように見えます。
しかし、賃貸経営は年単位・十年単位で続くため、その影響は積み重なります。

例えば、

  • 月額家賃を3,000円下げた場合。
  • 年間では3,000円×12ヶ月=3万6,000円の収入減。
  • 10年続けば、単純計算で36万円の差。

になります。
もちろん、家賃を下げたことで空室期間が短くなれば、その分の機会損失を減らせるという側面もあります。
ただ、「少し下げる」ことを何度も繰り返していると、気づけば1万円以上下がっていた、ということも起きかねません。

さらに、一度下げた家賃は、次のような理由で「元に戻す」のが難しくなります。

  • 既存入居者に対しては、借地借家法上の制約もあり、家賃の値上げには高いハードルがある。​
  • 周辺の募集相場が、「下げた後の家賃」を基準に形成されてしまう。
  • 売却時の査定でも、「現行家賃水準」に引きずられて評価される。

つまり、家賃を下げるというのは、「一時的に少し我慢する」のではなく、「将来の収益と資産価値を一定程度削る決断」でもあります。
だからこそ、「相場より少し安くしておけば埋まる」という軽い感覚のまま、習慣的に家賃調整を続けてしまうのは危ういのです。

「少し安くする」より先に試したい打ち手

家賃調整は有効な手段の一つですが、「少し安くする」前に検討できる打ち手も多くあります。
ポイントは、「家賃という“本体価格”をいじる前に、条件・見せ方・魅力づけでどこまで戦えるか」を試してみることです。

例えば、次のようなものです。

  • 募集条件の微調整
    • フリーレントを1ヶ月付ける(家賃そのものは維持しつつ、初期負担を軽くする)。
    • 礼金や更新料を見直し、「入居時・更新時の心理的ハードル」を下げる。
    • 単身向けなら、Wi-Fi無料や小さな設備グレードアップをセットで打ち出す。
  • 見せ方の改善
    • 写真を撮り直し、明るさ・画角・小物の使い方で印象を変える。
    • 間取り図を見やすいものに差し替える。
    • ポータルのコメントに、「この部屋での暮らし方がイメージできる」文章を追加する。
  • 小規模な印象改善
    • 室内の一部だけでもアクセントクロスや照明を変えて、“古さ”の印象を和らげる。
    • 共用部の清掃・照明・掲示物の整理など、見学時の第一印象を整える。
    • 小さな設備(温水洗浄便座・TVモニターホン・室内物干しなど)を追加し、「この家賃なら十分」と感じてもらえるラインを上げる。

これらは、「家賃を恒常的に下げる」のとは違い、一度の投資で長期間効果が続くものも多くあります。
また、将来売却する際にも、「この家賃でこの設備・この見た目なら納得」と評価してもらいやすくなるため、家賃を下げるよりも資産価値へのダメージが小さく済む傾向があります。

もちろん、エリアの需要自体が落ちている、近隣に強い競合が一気に増えたなど、「家賃レベルを調整せざるを得ない局面」もあります。​
その場合でも、「家賃以外の打ち手をやれるだけやったうえで、それでも埋まらないから家賃を調整する」という順番にしておくことが、「じわじわと家賃を削り続ける」状態を防ぐために重要です。

まとめ|「少し安くすれば埋まる」を“最後の一手”に戻す

「相場より少し安くしておけば埋まる」という発想は、賃貸経営の現場で長く使われてきた感覚的なセオリーです。
しかし、物件の築年数が進み、競合が増え、入居者の“当たり前”の水準が上がっている今、その一手だけに頼り続けることは、次のようなリスクを伴います。

  • 本当の原因が家賃ではないのに、収益性だけが先に削られていく。
  • 「安いけれど古い物件」というポジションに固定され、新しい打ち手が取りにくくなる。
  • 将来売却を考えたとき、家賃水準が低く止まっていることで評価が伸びにくくなる。

大事なのは、「家賃を少し下げる」というカードを最初から切るのではなく、

  • なぜ今決まっていないのかを、自分なりに言葉にしてみる。
  • 条件・見せ方・小さな改善など、他に打てる手がないかを一度洗い出す。
  • それでも家賃調整が必要なら、「どこまで・どの期間」で限定的に行うかを決める。

という順番に戻すことです。

「少し安くすれば埋まる」を“最初の一手”ではなく、“最後の一手”に戻せるかどうか。
その意識の差が、長期的な賃貸経営の収益性と、物件のポジションづくりに、大きな違いを生んでいきます。