【賃貸物件】アパート・マンションオーナーのための大規模修繕完全ガイド|タイミング・費用感・やるか迷ったときの考え方
2026/01/29
目次
はじめに:大規模修繕は「工事の話」ではなく「経営判断」
築10年を過ぎたあたりから、「そろそろ大規模修繕を考えた方がいいのか?」と不安になるオーナーは多いと思います。
ただ、「外壁を塗りましょう」「防水が必要です」と言われても、それが賃貸経営として本当に正しい判断なのか、ピンと来ないことも多いはずです。
大規模修繕は、工務店や管理会社のための工事ではなく、オーナーにとっては「物件をこの先どう経営していくか」を決める大きな分岐点です。
この記事では、専門用語や工事の細かい話ではなく、不動産経営者の目線で「いつ・どれくらい・やるべきか/やらないべきか」を判断するための考え方を整理します。
そもそも大規模修繕は、賃貸経営にどう影響するのか
大規模修繕で得られる3つの経営メリット
オーナー目線で見ると、大規模修繕の目的は次の3つに集約できます。
- 入居付けを良くして空室リスクを下げる
- 長く住んでもらい、入退去コストを減らす
- 建物価値を維持・向上させ、売却時の価格・融資評価を落とさない
外壁が汚く、共用部が暗くてボロボロな物件は、ネット掲載の写真や内見での印象が明らかに悪くなり、結果として「賃料を下げないと決まらない物件」になっていきます。
逆に、外観や共用部がきれいな物件は、同じ賃料でも選ばれやすく、長く住んでもらえる傾向があります。
「やらない場合」のコストも見ておく
大規模修繕を先送りすると、表面上はお金を使わずに済んでいるように見えます。
ただ実際には、次のような「見えないコスト」がじわじわ効いてきます。
- 賃料下落(例えば月5,000円下げると、年間6万円、10年で60万円)
- 空室期間の長期化(決まるまで1〜2ヶ月余計にかかる)
- 退去増(印象が悪い物件は入居期間が短くなる)
こうした目に見えにくい損失を合計すると、「修繕費をケチったつもりが、10年単位ではかえって損をしていた」ということもよくあります。
大規模修繕の「時期」をどう考えるか(オーナー用チェック)
築年数だけで決めると失敗しやすい
よく「築○年で1回目」といった話がありますが、オーナーが見るべきは築年数+経営状況です。
次のような観点でチェックしてみてください。
- 最近、空室が埋まるまでの期間が長くなってきていないか
- 同じエリア・賃料帯の競合と比べて、見た目で明らかに見劣りしていないか
- 内見はあるのに、決まらず他に流れているケースが増えていないか(内見数に対する申込み率)
- 「建物が古くて…」「外観が…」という入居者・仲介会社からの声が増えていないか
築10〜15年以降で、こうした症状が出てきているなら、「そろそろ経営的な意味での大規模修繕を検討する」タイミングに来ていると考えられます。
こんな状態なら「急ぎ検討」サイン
- 外壁の浮き・ひび割れが目立つ(安全性・雨漏りリスク)
- 共用廊下・階段のサビ・腐食が進んでいる
- 雨漏り・漏水が何度か発生している
- クレーム・事故につながりかねない劣化がある
ここまで来てしまっている場合は、「賃貸経営のため」というより物件を守るための最低限の修繕なので、タイミングどうこうより「早く打つ」フェーズです。
大規模修繕の「費用」を賃貸経営の数字で捉える
ざっくりどのくらいかかるのか(イメージ)
ここでは細かい工事単価ではなく、オーナーが経営計画を立てるための“ざっくり感”に絞ります。
- 木造アパート(1棟8〜10戸)
- 1回あたり:おおよそ200〜400万円程度
- 小規模RC・鉄骨マンション(1棟10〜20戸)
- 1回あたり:300〜800万円前後
実際には、外壁の状態や仕様、地域、業者によって前後しますが、
「木造なら1回300万円前後、RCなら1回500万円前後」くらいのレンジを、長期計画の目安として持っておくと現実的です。
家賃収入とのバランスで見る(×%の感覚)
費用を「年間家賃収入との割合」で見ておくとイメージしやすくなります。
- 年間家賃収入 600万円のアパート
- 大規模修繕 300万円 → 年間収入の約半分
- 12年に1回やるとして
- 300万円 ÷ 12年 ≒ 年25万円
- 年間家賃収入の約4%強を「将来の大規模修繕原資」と見込むイメージ
現実的には、家賃収入の5〜10%を「修繕積立」のつもりで毎年取り分けておくと、「いざ大規模修繕」というタイミングで資金ショックが少なくて済みます。
「やる・やらない」を決めるための3つの判断軸
単に「古くなったからやる」ではなく、不動産経営として以下の3つの軸で考えると、判断がぶれにくくなります。
1. その物件をあと何年持つつもりか
- あと10年以上は保有する前提なら
→ 大規模修繕は「必要な投資」と考える価値が高い - あと5年以内に売却もありえるなら
→ 「どのタイミングで売るか」をセットで考える必要がある
保有期間が長いほど、修繕にかけた費用を賃料や空室改善で回収しやすくなります。
逆に、近いうちに売る可能性が高いなら、「修繕してから売る」「現状のまま売る」の比較が重要になります。
2. 修繕でどれくらい収支が良くなるか
大規模修繕を「経営的に」見るには、改善するキャッシュフローをざっくりでも数字にしてみるのが有効です。
例:
- 現状:月1室空室(本来5万円)× 年間12ヶ月 → 年60万円の機会損失
- 修繕後:空室が半分に改善(想定) → 機会損失 年60万 → 年30万に減る
→ 「年間30万円の改善が見込める」なら、
- 修繕費300万円 → 10年で回収
- 修繕費200万円 → 約7年で回収
「7〜10年で回収できるか」が、1つの目安になります。
10年以上かかるようなら、修繕以外の選択肢(売却・規模縮小)も視野に入れて良いラインです。
3. 修繕以外の選択肢と比べてどうか
- 修繕して保有継続
- 修繕は最低限にして、数年以内に売却
- 思い切って今売却し、別の物件(または他の投資)に振り替える
「この物件にもう一度お金を入れる」のか、「ここで一度区切りを付ける」のかは、物件単体ではなく、オーナーのポートフォリオ全体で決めるのがポイントです。
別で良い案件や他の運用先が見込めるなら、「この物件に300万円かけるより、売って次を買う方が合理的」という判断も十分ありえます。
「やった方がいい大規模修繕」と「やらなくていい大規模修繕」
やった方がいいケース(経営的にプラスになりやすい)
- 立地が良く、修繕すればまだまだ戦える物件
- すでに築15年前後で、劣化が目立ち始めている
- 周辺に競合は多いが、大規模修繕+ちょっとした設備追加で差別化できそう
- 売却しても大きな利益は望めないが、保有継続ならキャッシュフローが安定する
こうした物件は、「大規模修繕=経営の延命・強化」として意味があるケースが多いです。
やらなくていい(または慎重に検討すべき)ケース
- エリアの需要が明らかに弱くなっている(人口減・空室だらけ)
- すでに築30年以上で、これからも修繕が続くのが見えている
- 大規模修繕をしても、賃料アップや空室改善があまり見込めない
- ローン残高と売却価格を比べると、今売った方がトータルリターンが高そう
このような場合、修繕にお金を入れすぎる前に「売却・組み換え」を検討した方が良い可能性が高いです。
オーナーが今やっておきたい「大規模修繕の準備」
1. 「修繕積立」を収支表に組み込む
毎月のキャッシュフローから、家賃収入の5〜10%を修繕積立として別口座に分けておくだけでも、数年後の安心感がまったく違います。
これは「儲けを減らす」のではなく、将来の大きな出費をならしているイメージです。
2. 物件ごとの「修繕カレンダー」を作る
- 築年数
- これまで実施した修繕内容・時期
- 次に大きなお金がかかりそうなタイミング
これを物件ごとにざっくり一覧にしておくと、「いつ・どのくらい必要か」のイメージが持てます。
これがあるだけで、金融機関との相談や、売却・組み換えの検討もしやすくなります。
3. いざというときに相談できる「経営目線の相談先」を持つ
大規模修繕の話になると、
- 工務店:工事ありき
- 管理会社:管理業務の延長としての工事提案
に寄りがちです。
不動産経営者としては、「そもそもこの物件に今お金をかけるべきか?」から一緒に考えてくれる相談先を確保しておくことが大切です。
まとめ:大規模修繕は「建物のため」だけでなく「自分のため」
大規模修繕は、「建物がかわいそうだからやる」のでも、「業者に言われたからやる」のでもありません。
本質的には、オーナー自身の賃貸経営を、この先も安定させるための投資判断です。
- いつやるか(築年数+経営状況で決める)
- いくらなら出してもいいか(回収年数で考える)
- そもそも、この物件にお金を入れるべきか(他の選択肢と比較する)
この3つの軸で考えれば、「言われるがままに工事する」状態から抜け出し、自分で納得して決められるようになります。
次のタイミングで
- 築10〜15年前後
- 外観や共用部の古さが空室に効いてきた
- しばらくは売らずに持つつもり
という条件が揃っているなら、一度腰を据えて「大規模修繕をするか・しないか」を検討してみてください。
その判断が、今後の賃貸経営の安定度を大きく左右します。