2024.01.25
大規模修繕業者を選定する3つの方法|発注方法や選定までの流れも解説
マンションの大規模修繕工事を行うことが決まったら、業者を探す必要があります。
しかし、マンションを大規模修繕するのが初めての場合、どのように業者を探せば良いのかわからない方も多いでしょう。
施工業者によって工事の質に差があり、できるだけ良い業者を見つけることが大切です。
質の悪い業者を利用してしまい、工事完了後すぐにトラブルが発生するケースは少なくありません。
そこで今回は、マンション大規模修繕における業者の選定方法や、優良業者を探す際のポイントについて紹介します。
大規模修繕工事業者を選定する3つの方式
大規模修繕業者の選定には、3つの方式があります。
それぞれメリットとデメリットを確認し、マンションに適した方式を選びましょう。
見積合わせ方式
見積合わせ方式とは、大規模修繕工事の依頼を検討している複数の業者に見積もりを提出してもらい、金額や工事内容を比較する選定方法です。
メリット
管理組合が選定した業者のみに見積もりを依頼できるため、入札のように実績や実績が不明な業者の見積もりや工事仕様書を精査する必要がありません。
また、現地説明会の回数が減るため、説明会にかかるはずだった時間を他の大規模修繕工事の準備に充てられます。
デメリット
管理組合が指定した条件で入札を行う入札方式と異なり、業者によって見積もりや工事内容、工事範囲などが異なる可能性があります。
また、見積もり金額が安いからといって必ずしも優良業者とは限りません。
工事範囲が十分に把握されていなかったり、不要な追加工事が発生したり、品質管理が行き届かなかったりする場合もあります。
結果、住民とのトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
さらに、入札と同じかそれ以上の時間を見積もり比較に費やす必要があることにも注意が必要です。
特命随意契約方式
特定随意契約方式とは、複数の業者を比較検討するのではなく、最初から特定の業者に大規模修繕工事を依頼し、見積書を作成してもらう方式です。
一定の信頼と実績のある工事会社に見積書の作成を依頼し、管理組合が用意した予算や条件に合致すれば、該当の会社に依頼するという流れです。
特に、過去に大規模修繕工事を行ったマンションでは、当時依頼した施工業者が設計図書の内容を把握していることが多く、特約で再利用される傾向があります。
メリット
特別一任契約方式は、3つの選定方式のなかで最も業者選定がスムーズに行える方式です。
例えば、入札方式を選択した場合、実績のない業者や条件に合わない見積もりを提出する業者もいます。
また、追加工事や品質管理不足を避けるために複数社の見積もりを比較検討しなければなりません。
しかし、特別一任契約方式であれば最初から1社に絞られるため、他社比較の時間を見積もりチェックに充てることが可能です。
デメリット
特別一任契約方式のデメリットは、競争がないことです。
いくら信頼できる老舗の大手施工業者であっても、管理組合が望む適正価格の見積もりを提示してくれるとは限りません。
また、大手だからと信用しすぎると、妥当性に欠け、管理組合の要望を反映しない見積もりをしてしまうこともあります。
入札方式
入札方式は、道路や学校などの公共施設の修繕で採用されることが多いです。
入札公告を見た施工業者は、マンション管理組合から提示された条件に対して見積書を提出します。
工事仕様書に基づいた現場説明会を実施、最低提示価格の施工業者を選定する方式です。
メリット
入札に参加する施工業者は、必然的に他社よりも安い工事費を提示したいと考えます。
結果、大規模修繕工事費の縮減率を競う効果が期待できるでしょう。
デメリット
入札参加工事会社間で談合が発生すれば、競争原理が働かなくなります。
管理組合が希望する条件を満たせなくなったり、工事品質管理が悪化したりする可能性が高いです。
また、複数の業者の見積もりを1度に比較し、都度現地説明会を開催しなければなりません。
工事の専門的な知識を持たない管理組合や修繕委員会のメンバーでは、見積もり内容や工事仕様書の見極めに時間がかかるでしょう。
そのため、入札方式を採用する場合はコンサルタントを活用するか、マンション管理士のサポートを受けなければ、メリットを生かすことができません。
大規模修繕工事業者の発注方式
大規模修繕工事は、責任施工方式、管理会社施工方式、設計監理方式で行われます。
いずれの発注方式を選ぶかによって、業者選定方法だけではなく、現場施工管理者も異なるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
責任施工方式
責任施工方式とは、外部コンサルタントは利用せず、設計も施工も同じ業者に任せる発注方式です。
また、施工業者の選定もマンション管理会社に任せられます。
しかし、住民や理事会の意見をより反映させ、設計図書に沿った工事を行うことが重要です。
そのため、業者の選定を管理会社だけに任せるのではなく、修繕委員会を設置する必要があります。
管理会社施工方式
管理会社施工方式とは、測量・施工などをマンション管理会社に委託する方式です。
マンションの状態を熟知している管理会社に依頼できるため安心感があり、アフターフォローも手厚いというメリットがあります。
デメリットは、マンション管理会社が適切な工事業者を選定しにくく、工事価格が適正かどうか判断しにくいことです。
設計監理方式
設計監理方式は、大規模修繕工事の支援業務を設計事務所やマンション管理士などのコンサルタントに発注する方式です。
大規模修繕工事において、コンサルタントは修繕箇所の特定や修繕計画のチェックを行います。
ほかに行う業務として、以下が挙げられます。
- 工事仕様書や設計図書の確認
- 工事費用や工事範囲の想定
- 工事業者の選定
- 工事管理者としての業務
管理会社に任せきりにしたり、管理組合の独断で進めるよりも、積立金不足や追加工事などのトラブルを防ぎやすい方式です。
さらに、専門家の監修のもとで工事計画を作成できるため、理事会や区分所有者の承認も得やすくなります。
マンションの大規模修繕工事業者の種類
マンション大規模修繕を依頼する業者は、主に3種類あります。
それぞれの特徴、メリットやデメリットを確認していきましょう。
総合建設業者
総合建設業者(ゼネコン)は、営業から設計、施工まですべて自社で行っています。
技術力や施工ノウハウに優れた大手施工業者も多く、安心して工事を任せられるでしょう。
ただし、工事をすべて任せるため、工事内容や費用などに関する不明点や疑問点を第三者に確認することが難しいというデメリットがあります。
管理会社
管理会社はマンションの状況を深く理解しているため、安心して修繕工事を任せることができます。
ただし、小規模な管理会社では、大規模修繕を依頼できないこともあるため注意しましょう。
大規模修繕工事専門業者
専門業者とは、大規模修繕工事を得意とする業者を指します。
防水工事や塗装工事を専門にしていた業者が、大規模修繕工事も行うようになるケースが多いです。
専門業者は大規模修繕工事に関する高い知識と技術力を持っているため、施工不良を防ぎやすいでしょう。
ただし、地域密着型の業者が多く施工エリアや規模に制約がある場合もあります。
マンション大規模修繕業者を選定する流れ
マンションの大規模修繕を実施する際は、1年以上前から準備が必要です。
建物・劣化診断後、修繕計画・概算資金計画を作成し、工事開始の約半年前には施工業者を選ばなければなりません。
主に、以下の流れで施工業者を選定します。
施工業者を募集する
住民から施工業者の推薦をしてもらうほか、修繕計画をもとに規模、施工実績、保証内容を定め、新聞やインターネットを通じて入札業者の公募を実施します。
現在はインターネットでの募集が主流であり、マンションの修繕専門の募集サイトの利用も有効です。
また、コンサルタントに依頼する場合は十分に相談し、安心して募集できるサイトを利用しましょう。
見積もり参加業者を選定
応募があった業者の書類選考を実施し、数社に絞ります。
10社以上の応募があった場合、すべてに対応するのは時間と手間がかかるため、5社程度に絞りましょう。
一般的な建設業許可や資本金のチェックに加え、特にマンション大規模修繕工事の実績が豊富かどうかが大切です。
また、コンサルタントにマネジメントレビューを依頼し、ISO取得の有無などを確認することで、どのような会社なのかを把握し、見積りに参加する企業を選定します。
現地説明会
書類選考で施工業者候補を数社に絞ったら、候補会社を現地に集めて見積り依頼のための現地説明会を行います。
現地説明会は、修繕工事の発注者が実施することが一般的です。
見積もり依頼
見積り指示書、特記仕様書、平面図、立面図、見積り項目一覧表を候補業者に渡し、正式に見積りを依頼します。
見積もり依頼をする際には、比較・検討しやすいように条件を統一しましょう。
見積もり内容の比較
定められた提出期限までに提出された見積書を比較・検討します。
主な比較ポイントは次のとおりです。
- 会社概要
- 施工実績
- 工事単価
- 使用予定材料
- 配属予定の担当者の履歴書
使用予定材料は、材料名、メーカー、耐用年数などを確認します。
いくつかのポイントに限定すると、比較をしやすいでしょう。
プレゼンテーションの実施
見積もり比較等の結果を踏まえ、2~3社を選定し、プレゼンテーションを実施します。
工事の進め方について、どのように工程管理をするのか、品質管理や安全管理などについてヒアリングを行うことが重要です。
最も重要なことは会社の考え方や取り組み方ですが、アサインする現場代理人のコミュニケーション能力もチェックします。
簡単なプレゼンテーションをしてもらうのも効果的です。
また、支払い条件、保証期間などマンション側からの要望をあらかじめ決めておき、受け入れられるかどうかも確認しましょう。
理事会総会の決議
見積もりやヒアリングの結果を検討し、どの施工業者に依頼するかを理事会総会で協議します。
最終的に業者を1社に絞り、通知書を作成します。
施工業者に内定通知書を送付
最終的な決議が得られたら、施工業者に内定通知書を送付します。
ただし、あくまでも「内定」通知書であり、最終的には契約内容の合意がまとまり総会で承認されてから決定します。
大規模修繕工事業者を選定する際のポイント
大規模修繕工事を依頼する業者は複数あり、選定に迷うこともあるでしょう。
ここでは、選定時に注意したいこと、業者を絞り込む際のポイントを紹介します。
マンションを建築した業者ではなくても良い
外装改修工事や防水関連工事など大規模修繕工事にはいくつかの選択肢がありますが、工法は一般的に確立されています。
そのため、マンションを建てた会社しかできない工事はありません。
マンションを建てた会社は、あくまで選択肢のひとつと捉え、フラットな視点で複数の選択肢を検討した方が良いでしょう。
選択肢を増やすことで、工事の内容も費用も適正になる可能性が高まります。
区分所有者や理事と関係がある業者は避ける
大規模修繕の計画を立て始めると、管理組合内から「業者を紹介したい、もしくは面談したい」という連絡が入ることがあります。
注意したい点は、区分所有者、特に理事との関係が深い業者を選ぶのは避けた方が良いということです。
理事長の紹介で選ばれた業者が「ローコストで質の高い工事をしてくれた」と評価されるケースはほとんどありません。
工事内容や工事価格などを決定するプロセスとして適切ではなく、区分所有者に疑惑を持たれるだけと考えた方が良いでしょう。
業者の規模や施工実績をチェック
大規模修繕工事で万が一事故が発生した場合、重大な傷害や死亡に至る危険性があります。
補償や事故後の工事継続を考えると、大規模修繕工事は規模の大きな業者を利用した方が無難です。
また、マンションの大規模修繕工事は、入居中に行われます。
工事の進め方や入居者との接し方などのノウハウや経験がないと、トラブルやクレームが続出するリスクが高いです。
近年、マンションの大規模修繕をどの程度手掛けているかを確認し、大規模修繕に関する運営能力を判断する材料としましょう。
現場監督のスキルや人柄を見極める
施工業者のプレゼンテーションを行う際には、施工業者の営業担当者だけではなく、実際に工事を受注する現場責任者(予定者)にも同席してもらいましょう。
慎重に工事を進めても、最新鋭の設備を使っても、工事中の騒音や振動、悪臭などの問題は避けて通れません。
実際に工事が始まれば、現場管理者のコミュニケーション能力、テナントとの意思疎通能力が求められます。
さらに、管理会社への適切かつ的確な報告・支援要請能力・センスが重要です。
大規模修繕を成功させるためには、工事担当者(現場責任者など)の人柄や能力がポイントになります。
保証やアフターサービスが充実している
業者からのプレゼンテーションの際には、工事後の保証やアフターサービスの内容や期間について、どのような契約内容になっているのかを十分に確認することが重要です。
防水工事などの場合、「○年ごとにトップコートを塗り替えることを条件に1年間保証する」などの条件が設けられている場合もあります。
保証やアフターサービスは、工事後のメンテナンスコストを考えるうえで重要なポイントです。
大規模修繕工事業者の選定は慎重に行おう
大規模修繕工事の施工業者の選定にはいくつかの種類があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
しかし、どのような方式でも、焦らず慎重に選定を行うことが大切です。
選定方式を理解したうえで、管理組合と円滑なコミュニケーションがとれる施工業者に依頼しましょう。