ケレンとは?塗装工事に不可欠な理由から種類ごとの特徴・使い分けの方法を紹介
2025/07/31
外壁塗装を検討している方にとって、見落としがちでありながら非常に重要な工程が「ケレン作業」です。ケレンは、塗装前に行われる“下地処理”のひとつで、塗料の密着性を高めたり、仕上がりを美しく保つために欠かせません。
しかし「ケレンって何?」「自分の家にも必要?」「費用はどのくらいかかるの?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。この記事では、ケレンの定義から目的・効果・種類・費用までを体系的に解説し、外壁や屋根の塗装工事で失敗しないための知識をお届けします。正しい知識を身につけることで、業者選びの判断基準や施工内容の見極めにも役立ちます。
目次
ケレンとは?外壁塗装における下地処理の基本
ケレンとは、建物の塗装前に古くなった塗膜やサビなどを取り除き、塗装面を整える作業のことを指します。正式には「素地調整」や「下地処理」と呼ばれることもあり、塗装工事の品質と耐久性に直結する重要な工程です。
ちなみに、「ケレン」の語源は英語の「クリーン(clean)」が転じたともいわれており、清掃・磨きの意味が含まれています。ケレン作業は、見えない部分でありながら、塗装の完成度に大きな影響を及ぼします。
ケレン作業には以下のような作業が含まれます。
- サビ取り・サンダーがけ
- 旧塗膜の除去
- 塗装面の目粗し(細かな傷をつける)
- 汚れや油分の除去
- 素地の研磨や清掃
これらの作業は、ただの「掃除」ではなく、塗装の成功を左右する“仕上げ前の土台作り”です。これを適切に行うことで、塗料の性能を最大限に発揮させることが可能になります。
ケレンで行う具体的な作業内容とは?
ケレンは施工箇所の状態や素材によって方法が異なります。例えば、軽度な劣化であれば紙やすりによる手作業で対応できる場合もありますが、広範囲にサビが発生している場合は電動工具を使った研磨など、より専門的な対応が必要となります。
ケレン作業で使われる主な道具:
- サンドペーパー
- ワイヤーブラシ
- ディスクサンダー(電動工具)
- ケレン棒やスクレーパー
- 研磨スポンジ
- 電動ブラシやパワーツール
これらの道具を使い分けながら、塗装面に付着した不要物を取り除き、均一で清潔な塗装面を形成していきます。下地がきれいに整えられることで、次に塗る塗料がしっかりと密着し、長期的に性能を維持することができるのです。
なぜケレンが塗装工事に不可欠なのか
一見目立たない工程であるケレンですが、これを怠ると仕上がりにムラが出たり、塗料がすぐに剥がれてしまうといった問題が起きやすくなります。特に、サビや旧塗膜の上からそのまま塗装してしまうと、新しい塗料が密着せず、施工不良の原因となってしまいます。
さらに、ケレンの精度は工事後の耐用年数や補修頻度にも大きく関わります。見た目だけでなく、長期的なコストパフォーマンスや建物の保護性能の面からも、非常に重要な工程といえるでしょう。
塗装の「見た目」だけでなく「耐久性」にも大きく影響するため、ケレンは専門業者が丁寧に行うべき、非常に重要な前処理なのです。
ケレンの目的と効果|塗装を長持ちさせる理由
ケレンの目的と効果について紹介します
施工面を整え、美しい仕上がりを実現
ケレンの第一の目的は、塗装面を平滑で整った状態に仕上げることです。塗料の厚みは通常わずか0.3〜0.5mm程度と非常に薄く、下地に凹凸やゴミ、旧塗膜のカスが残っていると、そこだけ厚みが変わり、仕上がりにムラやひび割れが発生する原因となります。
そのため、事前にケレンをしっかりと行い、下地をなめらかに整えることで、塗料が均一に密着し、見た目にも美しい仕上がりが実現できます。結果として、建物の外観が引き締まり、資産価値の維持にもつながります。
塗料の密着性・付着性を高める
ケレンは「ただの清掃作業」ではありません。下地と塗料の“接着力”を高めるための処理でもあります。
塗装面がツルツルで平坦すぎる場合、あえて表面に細かい傷を付ける「目荒らし」を行うこともあります。これにより、塗料が表面に引っかかりやすくなり、剥がれや浮きが防止されるのです。
また、付着性を高めることにより、外的要因(風雨、紫外線、温度差など)への耐性が高まり、施工後のメンテナンス頻度を抑えることができます。施工面に対する塗料の密着度は、仕上がりの持続性を左右する極めて重要な要素なのです。
塗膜の耐久性を確保し、劣化を防ぐ
塗装工事を行った後の塗料が「どのくらい持つか」は、実は使用する塗料の種類だけで決まるわけではありません。実際には、塗膜の寿命の約5割が下地処理の出来によって左右されるともいわれています。
ケレンが不十分だと、施工後数年でサビが再発したり、塗料が剥がれてしまい、再施工の手間と費用が発生するリスクも高まります。つまり、ケレンは塗装工事の「長持ち」に直結する重要なステップです。
住宅のメンテナンスコストを抑えたい方にとっても、初期投資としてのケレン作業は有効な判断といえるでしょう。品質の高いケレンによって、塗装の耐久性は飛躍的に向上します。
ケレンを怠るとどうなるか(施工不良例)
- 数年以内に塗膜が剥がれてしまう
- サビが塗膜の下で再発する
- 下地の凹凸がそのまま残り、美観を損ねる
- 水の侵入や浮きが起こり、防水性が失われる
- 補修工事の頻度が増し、トータルコストが上がる
このような不具合を避けるためにも、ケレンの重要性は決して軽視できません。塗装前の準備段階として、最も技術と経験が問われる工程の一つであり、しっかりとした業者に依頼することが、結果として住まいの寿命を延ばすことにつながります。
ケレン作業の種類と使い分け|建物の状態に応じた4つの手法
ケレン作業には明確な「種類」が存在し、建物の劣化状態や部材の素材に応じて最適な方法が選ばれます。一般的には「1種〜4種」の分類が用いられ、それぞれ作業の強度や使用する道具、費用にも違いがあります。
この章では、ケレンの種類ごとの特徴や、どのような場面で使われるのかについて、より具体的に、より深く掘り下げて解説していきます。適切なケレンの選定は、塗装工事の成否を分ける大きな要素となります。
1種ケレン|重度の腐食に対応する本格的処理
1種ケレンは、サビの進行が非常に激しい場合や、長期間にわたって高い防食性能を求められる構造物に対して実施される最も強力なケレンです。極めて専門性の高い工法であり、以下のような環境で多く採用されます:
- 橋梁、鉄塔、高架などの公共インフラ
- 海岸部に位置する港湾施設や船舶の外板
- 酸性・塩分の影響を受けやすい化学プラント
特徴と作業内容
- ブラスト処理(研磨材を高圧噴射し塗膜とサビを除去)
- 剥離剤や酸洗浄による徹底したクリーニング
- 作業後は錆止め下地が必要不可欠
メリット・デメリット
- ◎ 極めて高い除去率と塗料密着性
- ◎ 高耐久塗装との併用で20年を超える耐用年数も可能
- △ 専用設備や作業環境が必要で、一般住宅では非現実的
- △ 高コストかつ工程管理が難しい
住宅において採用されるケースは非常に稀ですが、特殊塗料や重防食用途の参考として知っておきたいケレンです。
2種ケレン|電動工具を使った広範囲処理
2種ケレンは、塗装面の大部分にサビや旧塗膜の劣化が広がっている際に選ばれる中程度〜重度のケレン作業です。一般住宅でも鉄部の劣化が著しい場合に採用されることがあります。
主な使用対象
- 鉄骨造の倉庫や屋外階段の鉄骨部
- 海沿いにある金属外装材やバルコニー手すり
- 集合住宅の外階段、鉄製ひさし、鉄扉など
特徴と作業内容
- 電動サンダーやパワーブラシによる効率的な塗膜除去
- サビの深さに応じてワイヤーカップやディスクパッドを選定
- 手作業との併用で細部の仕上げも対応
メリット・デメリット
- ◎ サビや劣化が進行している箇所も適切に対応可能
- ◎ 密着性の高い塗膜を形成し、再発防止に貢献
- △ 電動工具の使用で粉塵・騒音への配慮が必要
- △ 工数がかかるため単価が高め(1,500〜2,000円/㎡)
防食性能とコストのバランスをとる必要がある場合に選ばれる、実用性の高いケレン手法です。
3種ケレン|一般住宅に最も多い標準的な処理
3種ケレンは、部分的なサビや旧塗膜の浮きなどがあるケースで採用される、住宅・低層集合住宅で最も頻繁に行われるケレンです。
主な使用対象
- 外壁の鉄部(換気フード、手すり、雨戸など)
- 屋外階段、ベランダ、ひさしなどの塗り替え時
- 外構の鉄柵や物置など、屋外露出部
特徴と作業内容
- 劣化部のみ除去し、残せる塗膜は再利用する工法
- 電動工具と手作業のバランスが重要
- スクレーパーで浮き部を除去し、サンダーで整面
メリット・デメリット
- ◎ 作業効率が良く、コストも比較的低廉(600〜1,000円/㎡)
- ◎ 施工時間が短く、家庭への負担が少ない
- △ 下地全体のサビ処理が必要な場合には不十分になることも
多くの塗装業者が標準対応しており、建物の規模や予算に応じた柔軟な施工が可能です。
4種ケレン|軽度な素地処理や目荒らしに対応
4種ケレンは、明らかなサビや劣化がほとんど見られず、比較的きれいな表面に対して、塗料の密着性を高める目的で行われる処理です。
主な使用対象
- 新築後初の再塗装でまだ劣化が軽微な箇所
- 前回の塗装から5〜7年程度の中期塗り替え物件
- 室内の鉄部や樹脂部など、サビが起こりにくい素材
特徴と作業内容
- 研磨スポンジ、サンドペーパーによる目荒らし
- 塗装面に微細な傷をつけて付着性を高める
- 油膜・ホコリ・カビ等の除去も含む軽作業
メリット・デメリット
- ◎ 作業時間が短く、施工負担が少ない(200〜400円/㎡)
- ◎ 騒音や粉塵がほぼ出ず、住環境への影響が少ない
- △ 劣化が進行している箇所には不向きで再発の恐れも
環境に優しく、工期短縮にもつながるため、再塗装時の定期メンテナンスとして非常に適しています。
ケレン種類別の早見比較表(費用・用途)
| 種類 | 処理内容 | 費用相場 | 主な対象 | 使用道具 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1種ケレン | ブラスト・酸洗浄等 | 3,000〜4,000円/㎡ | 橋梁・特殊構造物 | 研磨材・剥離剤等 | 高性能・高コスト |
| 2種ケレン | 電動工具で全面除去 | 1,500〜2,000円/㎡ | 鉄部全般 | 電動ブラシ・サンダー等 | 広範囲の重度劣化対応 |
| 3種ケレン | 部分除去 | 600〜1,000円/㎡ | 一般住宅・鉄部 | 手工具+電動工具 | 汎用性・コスパ良好 |
| 4種ケレン | 表面処理のみ | 200〜400円/㎡ | 軽度劣化・屋内外部材 | やすり・スポンジ等 | 簡易施工向け |
次の第3部では、「ケレンの費用詳細・施工判断のポイント」「業者選びのコツ」「よくある質問と回答」などを、さらに具体的にご紹介していきます。
続けて執筆に進めてもよろしいでしょうか?
ケレンの費用相場と判断のポイント
ケレンの費用相場と判断のポイントを紹介します
ケレン費用は何によって決まるのか?
ケレン作業にかかる費用は、単に作業面積だけで決まるものではありません。実際には、下地の状態、使用する道具、作業の難易度、作業環境などさまざまな要因が絡み合って決まります。
以下に、費用を左右する主な要因を詳しく整理します:
- ケレンの種類:1種〜4種のどのケレンを行うかで費用は大きく変動します。
- 対象の面積:施工面積が広いほど人件費・材料費が増加。
- 劣化の程度:サビや旧塗膜の剥がれが深刻なほど、作業量が増えます。
- 使用道具・技術:電動工具やブラスト設備など専門的機材を使う場合は高額に。
- 高所作業の有無:2階以上や屋根・外階段などでは足場設置費用が加算。
- 作業環境の制約:密集地・狭小地では手作業や工数が増加する傾向あり。
- 塗装との同時実施か:ケレン単体か、再塗装を含む一括施工かでも費用は変動します。
たとえば、3階建ての鉄骨住宅で外階段と鉄柵のケレンを行う場合、足場代に10万円以上かかるケースもあります。事前に見積書で内訳を確認し、不明点は必ず質問しましょう。
一般住宅での施工費用目安(㎡単価別)
以下は、各ケレンの種類ごとに想定される施工単価と、30㎡あたりの参考費用です。
| 種類 | 単価(目安) | 30㎡の費用目安 | 作業レベル |
|---|---|---|---|
| 1種ケレン | 3,000〜4,000円 | 90,000〜120,000円 | ブラスト・特殊洗浄等の重作業 |
| 2種ケレン | 1,500〜2,000円 | 45,000〜60,000円 | 電動工具での全面除去 |
| 3種ケレン | 600〜1,000円 | 18,000〜30,000円 | 手工具+電動による部分処理 |
| 4種ケレン | 200〜400円 | 6,000〜12,000円 | 手作業による表面処理のみ |
※注意点:これらはケレン単体の費用です。実際には塗装工事とセットで行うことが多く、その場合は「下地処理費」として含まれることもあります。
ケレンに強い業者の選び方
ケレンは見えにくい部分の作業であるため、業者の質が仕上がりに直結します。以下の3つの観点で、信頼できる業者を見極めましょう。
ポイント1:現地調査と劣化診断の丁寧さ
良い業者は、現地調査時に表面だけでなく細部のサビ・膨れ・剥がれなどを確認し、適切なケレン種別を提案してくれます。テスト剥離や打診検査など、目視に加えた技術的な診断を行う業者ほど信頼度が高い傾向にあります。
ポイント2:施工説明と見積の透明性
「一式」ではなく、ケレン作業の内容・方法・単価がしっかり記載された見積書を提示してくれるかも重要な判断材料です。「とりあえず削る」といった曖昧な説明ではなく、使用工具や手法まできちんと伝えてくれる業者を選びましょう。
ポイント3:実績・写真・保証の提示があるか
過去の施工実績(ビフォーアフター)、使用材料の詳細、保証期間などを開示している業者は、品質への自信と責任意識の表れです。とくにケレンは結果が見えづらいため、事後の不具合に備えた保証内容は確認必須です。
ケレンに関するよくある質問(FAQ)
Q. ケレンはDIYでもできますか?
A. 軽度の4種ケレン(サンドペーパーなどによる表面処理)であればDIY可能ですが、2種・3種以上になると電動工具や高所作業が必要となるため、専門業者への依頼が無難です。DIYで不十分なケレンを行うと、せっかくの塗料が数年で剥がれてしまう恐れもあります。
Q. ケレン後はすぐ塗装しなければなりませんか?
A. はい。ケレン後の下地はサビや汚れが再付着しやすくなるため、可能な限り早く(当日〜翌日)に塗装を行うのが望ましいです。施工工程が空く場合は養生や防錆処理が必要になることもあります。
Q. 高圧洗浄とケレンの違いは?
A. 高圧洗浄は表面の汚れ・藻・カビを水で落とす工程で、ケレンは旧塗膜やサビを削る工程です。高圧洗浄では落としきれない“物理的な劣化”に対応するのがケレンです。多くの場合、両方を組み合わせて施工します。
Q. ケレンは省略しても問題ない?
A. ケレンは塗装の「下地作り」であり、省略すれば密着不良や塗装剥離の原因になります。短期的には費用が抑えられても、すぐに再塗装が必要になるケースが多く、結果として高くつくリスクがあるため絶対に省略すべきではありません。
ケレンは見えない品質を決める大切な工程|まとめ
ケレン作業は、外壁や鉄部の塗装工事において仕上がりの美しさと耐久性を左右する要となる工程です。施工後の塗膜がどれだけ長持ちするか、塗料本来の性能が発揮されるかは、下地処理にかかっているといっても過言ではありません。
この記事で紹介したポイントを改めて振り返ると
- ケレンの種類によって費用・手間・対応範囲が異なる
- 建物の状態を的確に診断し、適切な処理を選ぶことが重要
- ケレンは塗料の耐久性や仕上がりに大きな影響を与える
- 信頼できる業者選びが、長持ちする塗装工事の鍵になる
塗装工事において、最も時間をかけるべきなのは実は「下準備」であり、その代表がケレン作業です。目に見える派手さはありませんが、その分、結果として10年後、15年後の状態に大きな差が出ます。
「どうせ見えないから」ではなく、「見えないからこそ」丁寧に行う価値がある。そう考えれば、ケレンの重要性は明白です。信頼できる業者とともに、後悔のない塗装工事を実現しましょう。