マンション大規模修繕の費用は誰が負担する?修繕積立金や払えないときの対処法を解説

マンションの安全性や美観を保ち、資産価値を維持するためには、定期的な大規模修繕が不可欠です。

そのために重要な「大規模修繕工事」ですが、多額の費用がかかるため「誰がどのように費用を負担するのか」「積み立てている修繕積立金で足りるのか」「もし足りなかったらどうなるのか」といった疑問や不安を抱える住民の方も、多いのではないでしょうか?

この記事では、マンションの大規模修繕にかかる費用の内訳・住民の費用負担の仕組み・修繕積立金が不足した場合の具体的な対処方法、そして大規模修繕を巡って発生しやすいトラブルとその回避策までを詳しく解説します。

大規模修繕を「他人事」ではなく「自分事」として捉え、マンションでの安心した暮らしを続けるために、ぜひ最後までご覧ください。

そもそもマンション大規模修繕工事とは?なぜ必要なのか?

大規模修繕工事とは、マンションの共用部分(外壁・屋上・廊下・階段など)を対象に、計画的かつ大がかりに行われるメンテナンスのことです。

建物の主要な部分や設備の経年劣化に対応し、機能回復や性能向上を図る目的で行われます。

大規模修繕の目的

・建物の安全性と耐久性の維持と向上

大規模修繕の最も重要な目的は、建物の安全性と耐久性の維持・向上です。

外壁のひび割れやコンクリートの浮き・屋上やバルコニーの防水層の劣化などを放置すると、雨漏りや躯体の損傷につながり、建物の寿命を著しく縮める原因にもなりかねません。

・美観の維持

外壁の汚れや塗装の剥がれは、マンション全体の印象を悪くし、住環境の質を低下させます。

マンションの見た目が悪くなると「管理が行き届いていない」と、住民だけではなく周辺住民からの不満につながることもあるでしょう。

・マンションの資産価値の維持と向上

大規模修繕によって外観を整えることは、美観の維持だけでなく、資産価値の保全にもつながります。

適切にメンテナンスされたマンションは、購入希望者にとって魅力的であり、売却時にも有利に働く可能性が高まるでしょう。

大規模修繕の周期

国土交通省のガイドラインによると、おおよそ12〜15年ごとに行われるのが一般的とされています。

これはあくまで目安であり、建物の構造・立地・気候条件・日頃のメンテナンス状況などによって適切な周期は異なります。

主な修繕工事の内容

・外壁の補修や塗装

外壁のひび割れや、欠損部分の補修・汚れの洗浄・新しい塗料での塗り替えを行います。

これにより、建物の保護機能と美観を回復させます。

・屋上やバルコニーの防水処理

雨水が建物内部に浸入するのを防ぐため、劣化した防水層を補修または更新します。

雨漏りは建物の躯体を劣化させる原因となるため、非常に重要な工事です。

・鉄部の塗装

階段の手すりや非常階段・バルコニーの手すりなど、鉄部の錆び止めや塗り替えを行います。

錆びは鉄部の強度を低下させるため、これも建物の安全に関わる工事と言えます。

・給排水管や電気設備の交換

長年使用された給排水管や、電気配線・照明設備なども劣化します。

これらを交換することで、設備の機能を維持し、安全性を確保します。

とくに給排水管の劣化は、漏水事故を引き起こす可能性があるため重要です。

・エレベーターの更新

エレベーターは住民の生活に不可欠な設備ですが、主要部品には寿命があります。

安全性確保のため、制御盤やモーターなどの更新が必要になります。

・共用灯・照明設備の交換

廊下やエントランス、外構などの共用部分の照明も劣化します。

省エネ性能の高い設備に交換することで、管理費の削減にもつながる場合があります。

・その他

玄関ドアやサッシの補修・共用部の床や壁の補修・植栽の手入れなど、細かい部分もメンテナンスも、大規模修繕の一環として行われることがあります。

マンション大規模修繕にかかる費用の目安と内訳

大規模修繕には、一般的に数千万円単位の多額の費用がかかります。

マンションの規模や築年数・建物の構造・劣化状況・工事内容・依頼する施工会社などによって費用は大きく変動しますが、1戸あたりで見ると数十万円以上の負担となる場合も多いです。

代表的な費用の内訳

・仮設工事費

工事を行うために、設置される設備の費用です。

最も代表的なのが、外壁などの作業に不可欠な足場の設置・解体費用です。

その他、作業員の安全を確保するための安全設備・飛散防止ネット・仮設事務所の設置なども含まれます。

仮設工事費は、工事費全体の20~30%程度を占めることが多く、工事の規模や建物の形状に大きく影響されます。

・下地補修費

主に、外壁やコンクリート部分の劣化に対する補修費用です。

コンクリートのひび割れや浮き・欠損などを修復します。

この下地補修を丁寧に行わないと、上からいくら良い塗料を塗ってもすぐに劣化が再発してしまうため、非常に重要な工程です。

劣化が激しいマンションほど、下地補修費の割合が高くなる傾向にあります。

・塗装工事費

外壁・鉄部・手すりなどの塗り替えにかかる費用です。

使用する塗料の種類(耐久性・遮熱性など)によって、費用は大きく変わります。

また、塗る面積によっても費用は変動します。

・防水工事費

屋上やバルコニー・廊下などの防水層の補修、または更新にかかる費用です。

アスファルト防水・シート防水・塗膜防水など、さまざまな工法があり、マンションの構造や既存の防水層の種類によって適切な工法が選ばれます。

雨漏りを防ぐために欠かせない、重要な工事の一つです。

・設備更新費

給排水設備・電気設備・照明設備・エレベーターなどの交換にかかる費用です。

これらの設備の寿命は建物本体よりも短い場合が多く、大規模修繕のタイミングに合わせて更新されることがほとんどです。

とくにエレベーターの更新費用は、高額になる傾向があります。

・設計や監理費

工事の計画策定・設計・施工会社の選定・工事中の監理を、専門家に依頼した場合の報酬です。

専門家を活用することで、工事の品質確保や適正な費用での実施が期待できます。

・その他費用

工事期間中の共用部分の清掃費用・交通整理のための警備員の費用・工事に関する住民説明会の費用・各種申請費用などが、含まれます。

費用の算出方法

大規模修繕にかかる費用の算出は、通常以下のプロセスで行われます。

①建物の劣化診断…専門家が建物全体の劣化状況を詳細に調査・診断

②修繕設計…劣化診断の結果に基づき、必要な修繕工事の内容・工法・使用材料などを具体的に設計

③概算工事費用の算出…設計内容に基づき、概算の工事費用を算出

④施工会社の選定と見積もり…複数の施工会社から見積もりを取り比較検討

⑤最終的な工事費用の決定…見積もりや交渉を経て最終的な工事費用が決定

設計事務所やコンサルタントといった第三者の専門家が入ることで、適正な費用算出や施工会社の選定に役立つでしょう。

大規模修繕の費用負担は誰が、どのように行うのか?

大規模修繕にかかる費用は、基本的にマンションの区分所有者全員で負担します。

これは、大規模修繕の対象が「共用部分」であり、その共用部分は区分所有者全体の共有財産であるという考え方に基づいています。

修繕積立金による積み立てが基本

大規模修繕のための費用は、月々の管理費とは別に、区分所有者が将来の修繕に備えて毎月積み立てている「修繕積立金」から支出されるのが基本です。

この修繕積立金は、マンションの新築時に将来の修繕計画を基に設定されており、マンションを購入する際には、この修繕積立金の負担も前提として契約が締結されています。

また修繕積立金は、管理組合によって適切に管理・運用されることが求められます。

多くのマンションでは、長期修繕計画に基づいて、将来必要となる修繕費用を賄えるように積立金の額が設定されています。

負担割合の決め方

修繕費用の負担割合は、一般的に「専有部分の面積(持ち分)」に応じて決められます。

つまり、居室部分の面積が広い部屋の所有者ほど、より多くの修繕費用を負担することになります。

区分所有法や各マンションの管理規約によって定められているルールであり、区分所有者間の公平性を図るための仕組みです。

この計算方法は、広く採用されていますが「共用施設(エントランス・廊下など)の利用頻度に関わらず面積で決まるのは不公平ではないか」といった意見が出ることもあり、トラブルの原因となる可能性も指摘されています。

しかし、現行の法制度や一般的な管理規約では、この面積按分が原則となっています。

実録!7階建てマンションの大規模修繕工事の流れと費用・施工事例

東京都墨田区にある7階建てマンションにて、ワンオーナー物件の大規模修繕工事を新東亜工業が対応しました。外壁の塗装やシーリングの補修、防水工事の必要性、見積比較の不安など、オーナー様の悩みに対しどのような提案と判断を行ったのか——その一連の流れを、実際の会話を交えながらご紹介します。

お問い合わせ〜現地調査|過去施工の確認と細部の劣化診断

工事のきっかけは「前回の色選びに失敗した」「屋上防水は5年前に済ませたが今回も必要か不安」といったメール相談でした。

お客様とのやり取り
お客様:「屋上の防水は5年前にやってるんですけど、それでもやるべきですか?」
新東亜工業:「一度状態を拝見してから判断しましょう。無理にやる必要がなければ省く判断もできます」

現地では図面をもとにバルコニーや外壁、庇などを細かく確認。シーリングの劣化が目立ったため、全撤去と打ち替えの提案を行いました。

お客様とのやり取り
新東亜工業:「ここのシーリング、かなりひび割れてます。全て打ち替えですね」
お客様:「これ全部やるとなると…かなりの距離ですよね?」
新東亜工業:「ざっと見ても1000mは超えてきます」

見積り提示|屋上防水の有無で2プラン提案+実数精算の説明

調査後は「屋上防水あり・なし」2パターンの見積を作成。各項目の違いと予算の幅をわかりやすく提示しました。

お客様とのやり取り
新東亜工業:「下地補修は“実数精算”になります。今見えてない部分も足場を組んでから補修範囲を確定します」
お客様:「100万円とか一気に増えることもありますか?」
新東亜工業:「状態は悪くないので10〜20万円程度の上下です。むしろ減る可能性もありますよ」

他社と比較されることも想定し、工事項目の説明や「新規打設」のリスクも正直に伝えました。

契約成立|「新規打設」との違いを丁寧に解説し信頼獲得

価格では他社より若干高めだったものの、工法や保証内容の丁寧な説明でご納得いただきました。

お客様とのやり取り
お客様:「他社には“新規打設”って書いてあります」
新東亜工業:「それは既存シールを撤去せず上からかぶせる方法で、密着不良やひび割れの原因になります。当社では必ず撤去・打ち替えを行います」

結果、「屋上防水なしプラン(852万円)」でご契約いただきました。

着工前の打ち合わせ|色決め・足場・近隣への配慮も徹底

工事前の打ち合わせでは、オーナー様が特に重視されたのが「色の選定」。過去2回の失敗を経て、今回は慎重に。

お客様とのやり取り
新東亜工業:「今回は色のイメージをどうされたいですか?」
お客様:「前の2回、どちらもイメージと違って…。今回は絶対に失敗したくない!」

色見本板を用意し、納得のいく色を選定。中学校敷地への足場越境や1階テナントのバイク駐輪スペース確保など、周辺環境への配慮も抜かりなく実施しました。

工事中の対応|トラブルの早期発見と柔軟な対応で信頼感

施工中には、前回業者が「増し打ち」を行っていた痕跡を確認。

お客様とのやり取り
新東亜工業:「やはり前回は増し打ちでしたね。しっかり撤去してから打ち換えますのでご安心ください」
お客様:「やっぱり!最初に“それはダメ”って言ってもらえて良かったです」

さらにバルコニー防水ではガス配管の位置により仕上げ調整を行うなど、現場での判断力も発揮。仕上がりにはご満足いただけました。

お客様とのやり取り
お客様:「本当にイメージ通りの外壁色で嬉しいです。母も喜んでました!」

引き渡しと今後の対応|最終確認と事務手続きまで丁寧に対応

完工後は外回りも含めた最終チェックを実施。仕上がりの満足度は非常に高く、保証書や請求書もスムーズに手配されました。

お客様とのやり取り
新東亜工業:「この庇も塗装・防水完了済みです」
お客様:「本当にきれいになってよかった。ありがとうございました!」

工事概要まとめ

  • 契約金額:852万円(屋上防水なしプラン)
  • 施工期間:約50日間

本事例を通じて、オーナー様の不安や悩みに寄り添いながら、適切な判断と施工を提供することの重要性が見えてきます。

「前回の修繕に不満がある」「見積内容が適正か判断できない」とお感じの方は、ぜひ一度ご相談ください。

大規模修繕の積立金が足りない場合の対処方法

近年、多くのマンションで問題となっているのが修繕積立金の不足です。

当初の長期修繕計画で見込んでいたよりも修繕費用が高額になったり、そもそも積立金の設定額が適切でなかったりすることが原因として挙げられます。

とくに、物価の上昇や資材費・人件費の高騰は、計画時よりも実際の工事費用が膨らむ大きな要因となっています。

積立金が不足した場合、そのままでは必要な大規模修繕工事を実施できません。

不足分を賄うために、いくつかの対処方法が考えられます。

不足が生じた場合の対処方法

・一時金の徴収

不足している金額を、区分所有者から追加で集める方法です。

一般的には、積立金と同様に専有面積に応じて負担割合を決め一括で徴収します。

この方法は、手っ取り早く資金を確保できる反面、住民の負担感が非常に大きいため「なぜ急にこんな大金を払わなければならないのか」「話を聞いていなかった」といった不満や反発を招き、トラブルに発展しやすいです。

・長期修繕計画の見直し

計画している工事内容や実施時期を見直すことで、コストを削減する方法です。

例えば、工事のグレードを下げたり、一部の工事項目を先送りしたり、省略したりすることが考えられます。

しかし、工事内容を削減しすぎると、建物の維持管理が行き届かず、かえって将来的な劣化を早めたり、結果的にさらなる高額な費用が必要になったりするリスクも伴います。

必要なメンテナンスを削ることは、建物の寿命や資産価値に悪影響を与える可能性があるため、慎重な検討が必要です。

・借入(修繕ローン)

管理組合名義で、金融機関から不足分を借り入れる方法です。

借り入れた資金は、毎月の修繕積立金から返済していきます。

この方法は、住民の一時的な負担を軽減できるというメリットがありますが、金融機関による審査が必要であり、利息の負担が発生します。

また、将来にわたって返済を続ける必要があるため、その間の積立金設定や財政計画にも影響を与えます。

・区分所有者による借入

管理組合としてではなく、各区分所有者が個別に金融機関から資金を借り入れるという方法も理論上は考えられます。

しかし、これは現実的にはあまり一般的ではありません。

なぜなら、個人の信用力によって借り入れの可否や条件が異なり、住民間で不公平が生じる可能性が高いからです。

また手続きも煩雑なため、大規模工事の資金を管理しにくくなるデメリットが発生します。

管理組合は、対処法のメリット・デメリットだけではなく、マンションの実情や住民の意向を踏まえて、最も適切な方法を選択する必要があります。

大規模修繕の費用負担に関するよくあるトラブル事例

大規模修繕は全住民に関わる一大イベントであるため、意見の対立や不満からさまざまなトラブルが発生しやすい側面があります。

とくに費用負担に関連するトラブルは深刻化しやすく、管理組合の運営に支障をきたすこともあります。

代表的なトラブル事例とその背景

・住民間の合意形成が難航

大規模修繕の必要性・工事内容・そして最も重要な「費用」について、住民間で意見がまとまらないケースです。

「なぜ今やるのか」「もっと安くできないのか」といった、工事そのものや費用に対する疑問の声が上がります。

とくに、建物の劣化を実感していない住民や、費用を抑えたいという意識が強い住民からこうした意見が出やすいです。

また「費用が高すぎる」「本当にこの工事が必要なのか」といった費用負担への抵抗感も挙げられます。

とくに、高齢者や近い将来にマンションを売却して転居する予定がある住民は、自身が工事の恩恵を受ける期間が短い、あるいは受けない可能性があるため、高額な費用負担に対する抵抗感が強い傾向にあります。

こうした層を中心に、費用削減や工事延期を求める声が上がることがあります。

さらに、長期修繕計画や積立金の状況が住民に十分に周知されていない場合、突然高額な費用負担の話が出たように感じられ、不信感や反発につながりやすくなりやすいです。

・一時金徴収への強い反発

修繕積立金が不足しており、一時金の徴収案が出た場合に発生しやすいトラブルです。

「急にこんな金額を払えない」「資金の準備ができていない」という経済的な理由から反発の声が上がります。

とくに、年金生活者や非正規雇用者など、収入が限られている住民にとっては、数十万円、あるいは数百万円といった一時金は大きな負担となります。

そのため「今まで積立金は足りていると聞いていた」「なぜ不足したのか説明がない」などの管理組合への不信感が強まる傾向にあります。

積立金が不足している現状や、その原因・一時金が必要になった経緯などが住民に丁寧に説明されていない場合は、このような不満が噴出しやすくなるでしょう。

結果として、管理組合と住民との間に溝が生まれ、総会での決議が困難になったり、なかには支払いを拒否したりする住民が現れることもあります。

・負担割合に関する不公平感

専有面積による費用負担割合に対して、不満の声が上がるケースです。

「広い部屋だからといって負担が多すぎる。家族が少ないのに。」という、面積と居住人数が一致しない場合の不満が多いです。

また「共用施設をほとんど利用していないのに、その維持管理費まで面積に応じて負担するのは納得できない」という、共用施設利用頻度と費用負担の乖離に関する不満も挙げられます。

法的に面積按分が定められているとはいえ、住民の感情として「公平ではない」と感じる人がいることから生じる摩擦です。

管理規約を変更しない限り負担割合を変えることは困難ですが、不公平感を抱く住民の存在自体が合意形成を妨げる要因となり得ます。

これらのトラブルは、住民間のコミュニケーション不足や、管理組合による情報開示の不徹底が原因になっていることも多いです。

大規模修繕の費用負担でもめないためのポイント

大規模修繕は、すべての住民が協力して取り組むべき「共同責任」です。

トラブルを未然に防ぎ、工事を成功させるためには、管理組合と住民双方が意識すべき重要なポイントがあります。

管理組合が主導すべきポイント

・長期修繕計画の「見える化」と定期的な見直し

「将来、どの時期にどのような工事がどれくらいの費用で発生するのか」を具体的に示し、住民全体が把握できるように「見える化」することが極めて重要です。

計画書を総会資料に添付したり、説明会で丁寧に解説したりするなど、住民がいつでも確認できる状態にする必要があります。

また長期修繕計画は一度作成したら終わりではなく、物価や資材費の変動・建物の実際の劣化状況などを考慮して、定期的に見直すことが大切です。

これにより、将来の費用感をより正確に把握でき、計画と現実の乖離を最小限に抑えられます。

計画の見直しに合わせて、必要であれば修繕積立金の額の変更(値上げ)についても議論を行う必要があります。

・修繕積立金の「定期的な見直し」と適切な設定

前述の計画見直しと連動して「修繕積立金の額が長期修繕計画で予測される費用に対して十分であるか」を定期的に検証する必要があります。

とくに、建築費の上昇が続く昨今の状況では、積立金が不足しないように、計画的な値上げを検討することも現実的な対策となります。

積立金の値上げは住民にとって負担増となるため、十分な説明と合意形成が不可欠です。

なぜ値上げが必要なのか、値上げしないとどのようなリスクがあるのか(一時金徴収の可能性、工事内容の縮小など)を具体的に伝えることが重要です。

・情報共有の徹底と透明性の確保

大規模修繕に関するあらゆる情報を、住民説明会・掲示板・管理組合通信・文書配布など、さまざまな方法を組み合わせて、可能な限り丁寧かつ頻繁に伝えることが大切です。

また、質問を受け付ける機会を設けたり、個別の相談に応じたりするなど、双方向のコミュニケーションを心がけることも忘れてはいけません。

住民が「自分たちのこと」として捉え、理解と納得を得ることが、工事成功のための鍵となります。

透明性の高い情報開示は、管理組合への信頼感を高めるでしょう。

・第三者の専門家の活用

大規模修繕工事には、専門的な知識が不可欠です。

建築士や大規模修繕コンサルタントといった、管理組合や施工会社とは直接的な利害関係のない第三者の専門家に協力を依頼することで、技術的な判断や工事費用・施工会社の選定について客観的なアドバイスを得られます。

専門家の知見は、適切な工事内容の決定や施工費用の妥当性の判断に役立ち、不正や手抜き工事を防ぐことにもつながります。

また「専門家が関わっているなら安心だ」という、住民からの信頼感も得られるでしょう。

住民が備えるべきこと

大規模修繕をスムーズに進めるためには、管理組合の努力だけでなく、住民一人ひとりの意識と行動も重要です。

・毎月の修繕積立金を適正に支払う

定められた修繕積立金を期日通りに支払うことは、大規模修繕の資金計画の根幹を支える最も基本的な義務です。

滞納者が増えると、積立金が計画通りに貯まらず、工事資金が不足する大きな原因となります。

・修繕計画に関心を持ち総会や説明会に参加する

大規模修繕に関する情報提供の場である総会や説明会には、積極的に参加することが推奨されます。

説明をよく聞き、疑問点があれば質問し、自身の意見を表明することで、計画への理解が深まり、合意形成にも貢献できます。

参加できない場合でも、配布資料に目を通すなど、情報を把握する努力が大切です。

・修繕積立金の残高や今後の工事計画を把握しておく

将来的に住戸を売却する可能性がある場合、買主は修繕積立金の状況や今後の大規模修繕の計画について必ず確認します。

積立金が不足しており、近い将来一時金徴収の可能性がある場合などは、売却価格や買い手の判断に影響を与えます。

自身の資産に関わることとして、計画を把握しておく必要があります。

大規模修繕に対する意識を「誰かがやってくれるもの」という「他人事」ではなく「自分たちのマンションを維持するために、自分たちで協力して行うもの」という「自分事」として捉えることが、安心して快適なマンション生活を続けるためには不可欠です。

まとめ

マンションの大規模修繕は、建物の機能や美観を保ち、安全・快適な居住環境を維持し、さらには資産価値を守るために極めて重要な工事です。

大規模修繕には、外壁補修や防水工事・設備更新など多岐にわたる工事が含まれ、数千万円単位、1戸あたりでも数十万円以上の多額な費用がかかります。

その費用は、基本的に区分所有者が毎月積み立てている「修繕積立金」から賄われます。

なお負担割合は、専有部分の面積に応じて決められるのが一般的です。

物価高騰などの影響で修繕積立金が不足した場合は、一時金徴収・長期修繕計画の見直し・管理組合による借入といった方法で対応することになります。

しかし、一時金徴収は住民の負担感が大きく、トラブルにつながりやすいため注意が必要です。

大規模修繕を巡る費用負担のトラブルを防ぎ、スムーズに実施するためには、長期修繕計画の「見える化」・修繕積立金の「定期的な見直し」・住民への「情報共有の徹底」・「第三者の専門家活用」が重要なポイントです。

また住民自身も、積立金を適切に支払い・計画に関心を持ち・総会などに参加するなど、「自分事」として主体的に関わることが求められます。

大規模修繕は、単なる工事ではなく、マンションという共同資産を維持管理していくための共同作業です。

管理組合と住民が一体となり、将来を見据えた計画的な準備と、互いの理解と協力に基づいて進めていくことが、安心・安全なマンションライフを送るうえで何よりも大切と言えるでしょう。